ばるさんの日記、もどかしい思いで読んだよ。
わたしが編集・ライターとして独立する時、万が一仕事で傷ついたり、後悔したとしても「この人と仕事をしたかったから」「自分の心が動く仕事だったから」と思える人や仕事を選ぼうと決めて、わりと慎重に人選び、仕事選びをしていた気がする。だからなのか、ばるさんが遭ったような「個人事業だから……」や「何をやっても母ラベル」という目に、編集者時代、ビジネスシーンでわたしは遭った記憶がない。目の前にいる人の能力より、個人事業や母という属性で語る人は、仕事をご一緒する以前の段階でスクリーニングしていたのだと思う。でも、そういう人と会ったことはもちろんあるよ。
個人を前にして属性で表現するのって、実に日本的。ビジネスにおいては個人か法人かという体裁より能力のほうがはるかに大事なことだし、母ラベルなんかしたら外国ではハラスメントもの。履歴書に国籍や年齢、子どもがいるかどうかなんていう個人情報を書いたら、訴訟になったら困るから書かないでください!とアメリカなどではいわれるくらい。外国では属性を判断材料にさせないビジネスシーンでのコミュニケーションのインフラがあるように思う。
と書いたあたりで、友人からタイムリーな内容のメールをもらった。
わたしも彼女も政治や社会課題について考える地域の社会活動に関わっているのだけど、それらの会の中心はいわゆる団塊の世代で、70代の女性が多い。40代のわたしや友人はもれなく珍しがられ、そういった集まりに参加すると、決まって「若いおかあさんが来てくれてうれしい」などと言われる。「若い」も「おかあさん」もモヤモヤしてしまって、どういう顔をしてなんと応えるのが正解なのか、いつまでたってもわからないでいる。
友人からのメールは「このモヤモヤ感が年々大きくなってきているんだけど、あなたはどう思っている?」といった趣旨だった。わたしはそれを見て、この人はホント違和感を見逃さないでちゃんと言語化して考えようとするマジメな人だなーと感動してしまったのだよね。
私たちは確かに70代の方からすれば年齢は若い。だけど、わたしなんか近頃、夜中にじっとりと汗をかいて目が覚めて、「これっていわゆる更年期障害?」とモンモンとして寝られなくなっている40代後半だよ(笑)。なのに、「若い」と表現されてしまう違和感。わたしが「若いおかあさん」からイメージする年頃って20代なんだけどな。
「おかあさん」という表現に目を向けると、ばるさんが言っていた、ビジネスシーンで男性は「主にこんな仕事をしているパパさんです」とは言わないのに、「こんな仕事をしているママさんです」と女性だけ母ラベルで紹介されるんだよ!という違和感と同じで、「活動に参加してくれた若いおかあさん」と言われると、「その、おかあさんって表現、いる?」とも思っちゃうわけだよね。だけど、「若い」も「おかあさん」も、そう言っている本人に悪意はまったくない。
そもそも、そんな70~80代の女性ばかりで社会課題などを考える会になぜ参加しているかというと、異年齢や異文化との交流による発見があるというのがわたしは大きい。属性であえて表現してしまえば「社会課題の解決に積極的なおばあちゃんたちに会えてうれしい」とでもいうのだろうか。
おそらく彼女らが「若いおかあさんが来てくれてうれしい」とわたしを表現するのも、異年齢・異文化との交流による発見というのがあると思っている。
育児現役を退いた彼女らは現在の保育事情などの情報に乏しいが、わたしは現役だから保育の現状を話せる。年金をもらい、介護を受ける人も周囲に多くいる世代なのでそのあたりに彼女らはくわしいが、わたしはどちらもまだ縁遠く情報に乏しい。ご年配は自治体が発行する地域限定の紙モノの商品券にくわしいが、PAYPAYなど電子決済はよく知らないが、わたしはその逆。世代や職業、興味関心事が異なること者同士が交わることで知る社会課題やその解決策があったりする。
似た属性の人たちの集まりに異なる属性の者が混ざると、静かな水面に石を投げたように波紋が広がる。その石の表現がこの場合の「若いおかあさん」なのだと。
「個人事業」も「母ラベル」も「若いおかあさん」も、そう表現する人が日常を過ごすコミュニティにとっての「異」という石。だから、その人そのものよりも、異なる属性のほうにインパクトがあって、属性で表現してしまいがちなのかもしれない。
このMAZECOZE研究所は、言うなれば一人ひとり違うという「異(い)だらけ」を楽しむ世の中づくりに貢献していこうというダイバーシティカルチャーマガジン。記事を通して「異」という石を雨のように降らしていくことで、その人個人を表現できる社会を目指していきたいね。
ぺちゃくちゃ交換日記
-都会と田舎でそれぞれ子育てしながら暮らす、ふたりのワーキングマザーの七転八倒な日常を綴る日記-
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2022.05.18 エミ 未来のヒントを見つける「スタディケーション」
2022.05.09 ばる 人生楽しんでる?
2022.04.18 エミ 成長の喜びと寂しさと感謝と
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2022.02.16 エミ 誕生日、自ら業を狩りにいく
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2022.01.15 エミ 明後日の方向を目指して
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2021.12.15 エミ 美は未来を変える
2021.12.03 ばる 毎日のメシ事情
2021.11.17 エミ 幸せの循環の作法
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2021.10.15 エミ 答・べきことべきじゃないこと
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2021.09.15 エミ 過去のわたしは、いまのわたしを
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2021.07.15 エミ 田舎で子育て、驚いたこと3選
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2021.05.14 エミ 子育て新章
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2020.12.15 エミ わたしたちがレストランで在ること
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交換日記は月のはじめと真ん中頃に往復する予定です。
つくるめぐみ代表
得意なテーマは自ら実践する「田舎暮らし」「女性の起業」「自由教育」。八ヶ岳ガストロノミーレストラン「Terroir愛と胃袋」女将であり、「自分らしい生き方」などをテーマとした編集・ライターでもあり、三兄弟の母でもあり、こどもたちをオルタナティブスクールに通わせている。「誰もが、オシャレしてメシ食って恋して仕事して、最期まで自分を生きられる、自立した社会づくりに貢献すること」を理念に活動。2020年より古民家一棟貸しの宿、棚田を愛でながらコーヒーを楽しむカフェ・ギャラリーも開業する。
→ Terroir 愛と胃袋