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石田恵海とひらばるれなの「ぺちゃくちゃ交換日記」石田恵海とひらばるれなの「ぺちゃくちゃ交換日記」

美は未来を変える

石田 恵海 │ 2021.12.15

スタッフとカフェのBGMの話になった際、あるスタッフが「音楽を編集してデータに入れたら、ずっと流しっぱなしにして音楽を途切れさせないようできるので、忙しいときでもCDを変えないで済む」と言うのに対し、わたしともうひとりのスタッフが間髪入れずに「レストランはありだけど、カフェでそれはないな」と言いました。
またあるとき、そのスタッフが「バインダーにはさんだメニューがペラペラしてくるので、バインダーにメニューを貼り付けようかどうしようか悩んでいる」というので、「ペラペラのままでむしろ良くて、メニューをバインダーに貼り付けたり、ラミネート加工するなんてのはもってのほか!」と応えました。

これ、どちらも正解も不正解もないし、なぜそうなのかというダサいと便利の境界線は説明が難しい。お店に合う選択は何が正解かは互いに選択を擦り合わせて近づけていって納得するしかない。
わたしは10代のそのスタッフに、たくさんのお店を見たり、芸術や美しいものをこれからたくさん見て、感じて、ひとつひとつ大切に選択を考えていけるといいと思う、としか言えなかった。「それはそのまま、わたし自身にも言えることなのだけどね」と思いながら。
都会のように美術館やアートに触れられる場や機会は少ないのかもしれない。だけど、ここ八ヶ岳には毎日姿を変える山や森があり、自然のいのちという美を最前線で見ることができる恵まれた環境がある。そういった自然の美から学ぶことは実に多い。

最近、わたしは「ESqUISSE」という銀座にある憧れのフランス料理店のシェフ、リオネル・ベガさんが出された書籍『エスキスの料理 インスピレーションから創造する料理の考え方』を毎日読んではうっとりしたり、心震えてウルウルする日々を過ごしている。
リオネルさんが人や文化、芸術、自然、時間などさまざまなものからインスピレーションを受け取り、蓄積した思いや感情が彼の感性とつながり、お皿のうえに結実していることを彼らしい言葉(翻訳も素晴らしい!)と、リオネルさん自らが撮る写真(彼の心が動き切り取られたそのシーンもまた素晴らしい!)で表現されていて、わたしの2021年ベスト一位。
そのリオネルさんのインスピレーションの受け止め方や感性、表現力は本当に素晴らしいのだけど、その表現の違いこそあれ、誰しも生まれて見聞きしているものにインスパイアされてさまざまな物事を選択しているのは間違いない。心に残った思いや感情をどういうタイミングで思い出し、どう表現するか。希望とか未来とか新しい世界とかってのは、結局そこにかかっているんだなーと急に思ったのでした。

それは、スティーブ・ジョブズさんが大学を退学した後も潜り込んだ授業のひとつが「カリグラフィー」で、その美しさに魅了されたことが、美しいタイポグラフィを内蔵した世界初のコンピュータの着想になり、今やあたりまえのようにPCには多数のフォントが内蔵されているように。美は未来を変える。

我が家の3男児たちはこれから何に心震わせ、感情を揺さぶられ、思いを醸し、どう表現していくのだろうかと思うと、たくさんの美を見せて感じさせてあげたい。
その心象風景の重なりが未来をつくるのだとしたら、毎日の戦場のようなメシづくりも、かあちゃん乗り越えられるぞ!なんてのは詭弁。むしろ、わたしや夫が七転八倒しながらこどもメシつくっている風景、「ごめん、今日コンビニ飯で」にヤッター!と歓喜の声を上げるこどもたちのその感情が、いつか未来のどこかでいい表現に変換してくれることを望むしかない。それがばるさんの日記へのお返事です。

ぺちゃくちゃ交換日記
-都会と田舎でそれぞれ子育てしながら暮らす、ふたりのワーキングマザーの七転八倒な日常を綴る日記-

2021.12.15 エミ 美は未来を変える
2021.12.03 ばる 毎日のメシ事情
2021.11.17 エミ 幸せの循環の作法
2021.11.05 ばる あたりまえの前に
2021.10.15 エミ 答・べきことべきじゃないこと
2021.10.01 ばる べきことべきじゃないこと
2021.09.15 エミ 過去のわたしは、いまのわたしを
2021.09.01 ばる 娘と戦争とトットちゃん
2021.08.15 エミ 学びと暮らしがつながる瞬間
2021.08.01 ばる 40歳、童心に還る
2021.07.15 エミ 田舎で子育て、驚いたこと3選
2021.07.01 ばる 都会の子育て、驚いたことランキング
2021.06.15 エミ 彼女の記憶の旅
2021.06.01 ばる 体験する自然と日常の中の自然
2021.05.14 エミ 子育て新章
2021.05.01 ばる 好きを耕す
2021.04.14 エミ 「もっと、わたしたち」計画
2021.04.01 ばる ふるさとの挑戦
2021.03.15 エミ ものがたりと知性とユーモアと
2021.03.01 ばる 卒園とハハ友
2021.02.15 エミ 過去にとらわれず、成長を恐れず、歳をとる
2021.01.05 ばる おこだわり! 
2021.01.15 エミ ご無沙汰してます! Twitter
2021.01.05 ばる 2021
2020.12.15 エミ わたしたちがレストランで在ること
2020.12.02 ばる 次の人たちに
2020.11.16 エミ 開拓者魂たちの気配
2020.11.03 ばる 紅葉と体験を探しに
2020.11.02 エミ 秋深まり、田んぼにのぼり⁉

交換日記は月のはじめと真ん中頃に往復する予定です。

研究員プロフィール:石田 恵海

つくるめぐみ代表
得意なテーマは自ら実践する「田舎暮らし」「女性の起業」「自由教育」。八ヶ岳ガストロノミーレストラン「Terroir愛と胃袋」女将であり、「自分らしい生き方」などをテーマとした編集・ライターでもあり、三兄弟の母でもあり、こどもたちをオルタナティブスクールに通わせている。「誰もが、オシャレしてメシ食って恋して仕事して、最期まで自分を生きられる、自立した社会づくりに貢献すること」を理念に活動。2020年より古民家一棟貸しの宿、棚田を愛でながらコーヒーを楽しむカフェ・ギャラリーも開業する。
Terroir 愛と胃袋

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