ばるさん、新居は落ち着きましたか? 心機一転というけれど、引っ越しほど心も体も一転してくれるものはないよなーと思います。
さて、八ヶ岳はわたしが大好きな時期に入ってきました。梅雨です。田んぼに水が張られ、そこに雨が降っている様子を見ながら、ああ、そういえば人間の体も60%くらいは水でできているんだった、と。わたしたちは水のおかげで生きていることを実感し、水のなかを泳いでいるかのような、本当はわたしたちは水の生物なのではないかと思える不思議な気持ちになるのです。
そして、濃い霧が発生している時に麦畑の近くを通ると、真っ白な世界に黄金に輝く麦の光りの束が登場する。それがなんとも幻想的で、絶好のタイミングにその場所に居合わせた自分を褒めてあげたくなるんだよね。
東京にいる頃の雨というと、子どもを保育園に連れて行くだけでひと苦労だったし、電車の乗り降りの煩わしさなど大変さばかりが思い出されてしまうけれど、子どもたちは傘や長靴や合羽といった雨の道具を楽しんでいて、そんな当時の子どもたちの写真を見ると、これもひとつの東京の雨の景色だったなと懐かしく思うのでした。
今日は三男の話を。長男次男は東京生まれで山育ち歴のほうが少し長くなってきたけれど、三男は生まれも育ちも山の子。もうすぐ5歳で、自分のぐるりだけではない世界があることを知り、興味津々です。
済州島で海女をするおかあさんの絵本『ママとうみのやくそく』が最近のお気に入りで、寝る前に読むと、海への憧れと恐怖について話してくれます。「こないだ行った、わっくんが溺れそうになった、あそこが海?」「あれは四尾連湖っていう湖だよ。海はもっともっと大きいんだよ。終わりが見えないよ」「ベスト着て、足ひれ付けたら、最後まで行ける?」「ベスト来て、足ひれ付けても、端っこから端っこまで行けないのが海なんだよ。すっごい広いんだ」「こーーーんな広い?」「もっともっともっとだね」「へぇー」。
散歩をしている最中、唐突に質問します。「オレはさ、山で暮らしているじゃん? だけど、山じゃないとこに暮らしている人もいるんだよね?」「いるよ。わっくんとほっしゃんはママやパパと東京に暮らしていたこともあるよ。ビルの12階で暮らしていたよ」「こーーーんな高いビル?」「もっともっともっと高いよ」「へぇー」。
海は幼い頃に、東京はちょくちょく行っているけれど、それと暮らしとが結びつかないみたい。普段、森で木と戯れたり、獣の気配を感じる保育園で過ごし、どこに行くにも山が見えるところで暮らす三男が「へぇー」の後に嬉しそうな顔で想像する海や東京ってどういうものなんだろう?
東京時代を覚えているのに長男は「東京に行くと、山が見えないから不安になる」と言う。東京時代をまるで覚えていない次男は「夜でも明るいほうが安心だから、東京に行きたい」と言う。ネイティブ山の子の三男は、いつか東京と山梨を比較して表現することがあるのだろうか?
将来、自分が自分でいられる場所なら、子どもたちはどこで暮らしてもいいけれど、ふと思い出される心象風景として、八ヶ岳の季節の風景が彼らの心に残っていてくれるといいなと思う。だからわたしは、学校や保育園の送迎中も景色についてよく言葉にするようにしている。美しい、きれい、素敵、かっこいい、可憐……。「ねぇ、ねぇ、ちょっとあれ見て!」と。
草木や生き物、気候、暮らしの営みなど、さまざまなことから季節を感じ、心を震わすことができるってとっても贅沢なことだから、この心の感触をいつまでも覚えてほしくって。
ぺちゃくちゃ交換日記
-都会と田舎でそれぞれ子育てしながら暮らす、ふたりのワーキングマザーの七転八倒な日常を綴る日記-
2022.06.15 エミ ネイティブ山の子、ぐるりの外を知る
2022.06.01 ばる ばる家の戸建て体験
2022.05.18 エミ 未来のヒントを見つける「スタディケーション」
2022.05.09 ばる 人生楽しんでる?
2022.04.18 エミ 成長の喜びと寂しさと感謝と
2022.04.01 ばる 季節と世界に反応する
2022.03.15 エミ 「関連死」という言葉から考えた
2022.03.02 ばる 「戦争、はじまったの?」
2022.02.16 エミ 誕生日、自ら業を狩りにいく
2022.02.01 ばる 学ぶしあわせ
2022.01.15 エミ 明後日の方向を目指して
2022.01.03 ばる 2022 思いを受け継ぐ
2021.12.15 エミ 美は未来を変える
2021.12.03 ばる 毎日のメシ事情
2021.11.17 エミ 幸せの循環の作法
2021.11.05 ばる あたりまえの前に
2021.10.15 エミ 答・べきことべきじゃないこと
2021.10.01 ばる べきことべきじゃないこと
2021.09.15 エミ 過去のわたしは、いまのわたしを
2021.09.01 ばる 娘と戦争とトットちゃん
2021.08.15 エミ 学びと暮らしがつながる瞬間
2021.08.01 ばる 40歳、童心に還る
2021.07.15 エミ 田舎で子育て、驚いたこと3選
2021.07.01 ばる 都会の子育て、驚いたことランキング
2021.06.15 エミ 彼女の記憶の旅
2021.06.01 ばる 体験する自然と日常の中の自然
2021.05.14 エミ 子育て新章
2021.05.01 ばる 好きを耕す
2021.04.14 エミ 「もっと、わたしたち」計画
2021.04.01 ばる ふるさとの挑戦
2021.03.15 エミ ものがたりと知性とユーモアと
2021.03.01 ばる 卒園とハハ友
2021.02.15 エミ 過去にとらわれず、成長を恐れず、歳をとる
2021.01.05 ばる おこだわり!
2021.01.15 エミ ご無沙汰してます! Twitter
2021.01.05 ばる 2021
2020.12.15 エミ わたしたちがレストランで在ること
2020.12.02 ばる 次の人たちに
2020.11.16 エミ 開拓者魂たちの気配
2020.11.03 ばる 紅葉と体験を探しに
2020.11.02 エミ 秋深まり、田んぼにのぼり⁉
交換日記は月のはじめと真ん中頃に往復する予定です。
つくるめぐみ代表
得意なテーマは自ら実践する「田舎暮らし」「女性の起業」「自由教育」。八ヶ岳ガストロノミーレストラン「Terroir愛と胃袋」女将であり、「自分らしい生き方」などをテーマとした編集・ライターでもあり、三兄弟の母でもあり、こどもたちをオルタナティブスクールに通わせている。「誰もが、オシャレしてメシ食って恋して仕事して、最期まで自分を生きられる、自立した社会づくりに貢献すること」を理念に活動。2020年より古民家一棟貸しの宿、棚田を愛でながらコーヒーを楽しむカフェ・ギャラリーも開業する。
→ Terroir 愛と胃袋