前回のばるさんの日記にあった「あたりまえの前にあることを意識する」、ホントそうだよなとうなづきながら読みました。わたしも今回は、日本が見逃しがちなことを書こうと思います。
先日、我が家の長男次男が通う、南アルプス子どもの村小中学校の中学生27名がうちのレストランにやってきました。やってくる前のいわゆるアポ取りの電話も中学生自身からかかってきて、聞くと、料理の盛り付けと料理のサーブなどの「おもてなし」について学びたいから、うちに来たいとのこと。
しかも、やって来るのは、食材を自分たちで育てて、それを使って料理をして、自分たちで建てたお店でお客さまに提供する「0から食堂」というプロジェクトをしている中学生たち。そんな子たちに、普段わたしたちがしている料理の盛り付けやサーブをただやって見せ、質問を受けるだけじゃちょっと面白くないよな、と。だったら、せっかくの機会だし、実際に盛り付けやサーブの体験をしてもらおう!ということに。
まず、おとな(この学校では担任の先生を「おとな」と呼ぶ)ふたりにお客さま役をしてもらい、コース料理の一部、アミューズと前菜をどうサーブしているか見てもらいました。さっそく鋭い質問が飛んできたり、いい表情でみんな観察をしていて、さすがな印象。
その後、27名の半分はお客さま役に、半分は厨房に入ってサラダの盛り付けを行った後、そのお皿を持って、カトラリーをセットし、お客さまにお出しして、料理説明をしてもらった。今度は役を交代して繰り返した。みんなが体験を終えた後、感想や質問タイムに。シェフへの「料理へのこだわりや気をつけていることは?」という質問に対する「食材に誠実であること」というシェフの回答には静かなどよめきが広がって、思わず涙ぐみそうになってしまったなぁ。
そして、おもてなしする機会よりも、外食をしておもてなしを受ける側になるケースのほうが多いはずだろうと思い、最後、わたしから「いいお客さまを目指そう」という話をさせてもらいました。
「おもてなし」というものは、おもてなしをするだけではなく、受ける側の受け入れる力も大切で、する側と受ける側が一緒になって盛り上げてはじめて「おもてなし」は成立するものだと思うのだよね。
日本の伝統である茶道の所作にも「客ぶり」という表現があることからも、おもてなしは両者でつくりあげるものという考えが古くからしっかりあったはず。
だけど、いつの間にかおもてなしはする側だけのサービスや奉仕の話になってきているような気がして、山梨県は「おもてなし日本一」を目指して、おもてなしのやまなし観光振興条例というのを制定しているらしいのだけど、何かそれもわたしには一方通行に思えるのでした。
海外などチップの文化が浸透する国では、金銭による評価によって、良きサービスと良きお客ぶりが磨かれるけれど、いま日本には「おもてなしをしたくなる、いいお客さまを目指そう」という受け手側に対しる教育や啓発の場はあるのだろうか?
この日、中学生が体験するなかで、お客さま役の子が食事を終えた時にお店の人役の子の顔を見て「美味しかったです」と笑顔で挨拶をしている子がけっこういて、そうそれ大事!と思ったのでした。おもてなしに対して、どうリアクションして、おもてなしを受け入れたことを示すか。それが客ぶりの作法。
中学生たちが来た翌日は、くしくも素晴らしいお客さまばかりで、「昨日、恵海さんが中学生にいいお客さまになろうという話をしてましたけど、今日のお客さまはみんないいお客さまばかりですよね」とスタッフが嬉しそうにわたしに耳打ちするのを激しくうなずきながら、おもてなしをどう受け入れるかは、自分も人も世界も幸せにする、幸せの循環の作法なんだな。そんなことを思っていたのでした。
ぺちゃくちゃ交換日記
-都会と田舎でそれぞれ子育てしながら暮らす、ふたりのワーキングマザーの七転八倒な日常を綴る日記-
2021.11.17 エミ 幸せの循環の作法
2021.11.05 ばる あたりまえの前に
2021.10.15 エミ 答・べきことべきじゃないこと
2021.10.01 ばる べきことべきじゃないこと
2021.09.15 エミ 過去のわたしは、いまのわたしを
2021.09.01 ばる 娘と戦争とトットちゃん
2021.08.15 エミ 学びと暮らしがつながる瞬間
2021.08.01 ばる 40歳、童心に還る
2021.07.15 エミ 田舎で子育て、驚いたこと3選
2021.07.01 ばる 都会の子育て、驚いたことランキング
2021.06.15 エミ 彼女の記憶の旅
2021.06.01 ばる 体験する自然と日常の中の自然
2021.05.14 エミ 子育て新章
2021.05.01 ばる 好きを耕す
2021.04.14 エミ 「もっと、わたしたち」計画
2021.04.01 ばる ふるさとの挑戦
2021.03.15 エミ ものがたりと知性とユーモアと
2021.03.01 ばる 卒園とハハ友
2021.02.15 エミ 過去にとらわれず、成長を恐れず、歳をとる
2021.01.05 ばる おこだわり!
2021.01.15 エミ ご無沙汰してます! Twitter
2021.01.05 ばる 2021
2020.12.15 エミ わたしたちがレストランで在ること
2020.12.02 ばる 次の人たちに
2020.11.16 エミ 開拓者魂たちの気配
2020.11.03 ばる 紅葉と体験を探しに
2020.11.02 エミ 秋深まり、田んぼにのぼり⁉
交換日記は月のはじめと真ん中頃に往復する予定です。
つくるめぐみ代表
得意なテーマは自ら実践する「田舎暮らし」「女性の起業」「自由教育」。八ヶ岳ガストロノミーレストラン「Terroir愛と胃袋」女将であり、「自分らしい生き方」などをテーマとした編集・ライターでもあり、三兄弟の母でもあり、こどもたちをオルタナティブスクールに通わせている。「誰もが、オシャレしてメシ食って恋して仕事して、最期まで自分を生きられる、自立した社会づくりに貢献すること」を理念に活動。2020年より古民家一棟貸しの宿、棚田を愛でながらコーヒーを楽しむカフェ・ギャラリーも開業する。
→ Terroir 愛と胃袋