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石田恵海とひらばるれなの「ぺちゃくちゃ交換日記」石田恵海とひらばるれなの「ぺちゃくちゃ交換日記」

コミュ力なんてほどほどでいい

石田 恵海 │ 2023.05.23

先日、子どもたちの学校で、それぞれのプロジェクトの活動を発表したり、美味しいものなどを販売したりする「春まつり」が開催されました。
演劇のプロジェクトのクラスに入っている次男は、泥棒の役で劇に登場。だいぶ演技をするのも板についてきたなーという印象だった。
長男のクラスは飼っているにわとりのたまごを使ってつくったプリンやアイスクリン、パウンドケーキを販売。それが人気で長蛇の列! 並ぶのはいやだと三男が言うので断念し、なんとか残ったアイスクリンをいただいた。他にも、たまごを時間内にタテに立てるゲームや畑の電柵を触る体験など面白い。
また、飼っているにわとりを走らせて、どの子が一番早いかを賭けるチキンレースをしようという話になったらしいのだけど、ちょっとそれ、法に触れるから!という理由でなくなったとか(笑)。

今回、春まつりの最後に、学校のおとなと保護者たちとが交流する懇親会が実施された。以前は保護者が学校の寮に泊まって、学校のおとなたちと一緒に学校でお酒を飲みながら夜通しで語り合う、そんな懇親会も開催されていたが、コロナで自粛に。今回は実に3年ぶりの開催になる。
わたしはとっても人見知りなので、こういった懇親会はとっても苦手なのだけど、久しぶりの開催だし、長男は中学に入ったばかりだし、いっちょ勇気を出してみるか!と参加することにした。いくつも輪をつくって車座になりながら、隣にいる人と話したり、輪のみなさんとテーマに沿って話したり……。

そのなかで、前々回この交換日記でも書いた卒業時のスピーチの話になり、輪のなかの保護者のひとりから「中3のスピーチで、あれだけみんな自分の意見が言えるようになったというのだから、小学校の頃から自分の意見を言う場を増やせば、小学校時代から中学生のように自分の意見が言えるようになるんじゃないか」というような意見が出た。わたしはそれをドキッとしながら聞いていた。
そうしたら、学校のおとなが即座に「それはなりません。しません」と応えた。

そして、こんな話をしてくれた。
「中学2年の◯◯くんは、みんなの前で聞かれても自分の意見を言えないのだけど、絵がとーっても上手で、話し合いの後にひとり一人に自分が描いた絵を渡していたりするんです。……この学校を出たからと言って特別な子になるわけじゃないんですよね。卒業するほんの数日前に急に自分の意見が言える子もいえるし、高校に行って言える子もいる。大学生になってからの子も、大学を卒業してからの子も……。みんなそれぞれで、特別になるんじゃなくて、ふつうになるんです」
すごくホッとした。だいたいわたしは、こういう場で自分の言いたいことの半分も言えなかったなーと思いながらトボトボしていつも帰るタチ。でも、わたしという人とつきあって、わたしは50年近くになるので、もうそれでいいかーとどこかで思っている。
近年、会話によるコミュニケーション主体の仕事が多くなったことで、言葉によるコミュニケーションが上手であることが生きやすい社会になっている。そんなに内容がなくても、声が大きかったり、言葉が巧みな人が得をするのは都会が顕著で、そういうのがバカらしく思えて東京を離れたというのもわたしはあるし、コミュニケーション偏重時代じゃないかとも思っている。
たとえば技術職の人はどちらかというと、言葉よりも技や行動でコミュニケーションをするみたいなところがあるし、自分の意見を言葉で伝えられることは大切ではあるけれど、うまく言葉として伝えられなくても、それもいいじゃんと思うのだ。音楽やアート、技術の発展ってそういうことじゃない?と。

わたしは自分のこどもたちがどんな成長をするのだろうという楽しみもある一方で、変わらないでいいから、という思いもある。コミュニケーションモンスターを目指さなくていいよ、と。

やんちゃで森に還そうかと思うくらい野生児だった次男は、高学年に入って急におとなしくなったが、いまだに中1になった兄に「おまえ、説明、クソ下手すぎる」と言われるくらい何が言いたいのかよくわからない説明をしょっちゅうしている。
だけど近頃、全校生徒で集まるミーティングで、低学年の子を膝のうえに乗せているそうだ。上手な説明よりも、幼い子に慕われる膝がある次男をハハは誇りに思う。

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-都会と田舎でそれぞれ子育てしながら暮らす、ふたりのワーキングマザーの七転八倒な日常を綴る日記-

研究員プロフィール:石田 恵海

つくるめぐみ代表
得意なテーマは自ら実践する「田舎暮らし」「女性の起業」「自由教育」。八ヶ岳ガストロノミーレストラン「Terroir愛と胃袋」女将であり、「自分らしい生き方」などをテーマとした編集・ライターでもあり、三兄弟の母でもあり、こどもたちをオルタナティブスクールに通わせている。「誰もが、オシャレしてメシ食って恋して仕事して、最期まで自分を生きられる、自立した社会づくりに貢献すること」を理念に活動。2020年より古民家一棟貸しの宿、棚田を愛でながらコーヒーを楽しむカフェ・ギャラリーも開業する。
Terroir 愛と胃袋

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