長男、和作(わく)が小学校を卒業しました。和作の通う南アルプス子ども村小学校・中学校は、卒業式という「式」ではなく、企画から運営までをこどもたちが行う「卒業を祝う会」という会が開催されます。
卒業を祝う会は、子どもの村の行事のなかでも相当見応えのある会で、卒業生によるスピーチ、特に中学3年生のスピーチは毎回震えるくらい泣かされる。当事者の親として小学6年生の和作のスピーチもそれなりに楽しみではあるものの、昨年まではコロナ禍でYOUTUBE配信にて見ていた中学3年生のスピーチが今回は生で見られる。こんな贅沢はない!というくらい中3スピーチへの期待度は高いのだ。
体育館に入ってまず目の前に現れた写真の「アテンションプリーズ! これよりアルプス卒業便が出発します」を見た瞬間、かあちゃん、さっそく感極まって防波堤が崩壊した。入出場口には「アルプス線出発」と書かれたゲートがつくられている。ゲートに近い天井にはひもを揺すると紙吹雪が舞う手づくり装置。壁には子どもたちによって書かれた本日のプログラム。天井にはいたるところに紙飛行機が飾られ、子ども村の卒業&入学を祝う会恒例のくす玉が宙に釣られている。
早めに席に着いていたら、リハーサルが始まった。うちの5歳の三男とオンラインゲーム上でいつも遊んでくれている中学2年生の男子ふたりがスチュワート&機長役で司会をするようで「アテンションプリーズ! 当機は……」と言った段階で、素晴らしすぎる演出!とリハーサルで泣きすぎたらヤバいと体育館をいったん出たくらいだった。
わたしはいまのところ、我が子のことは3割くらいしか知らないと思っている。こどもがわたしのことを親という立場ではなく、職業人として、ひとりの人としてのわたしをよく知らないように、わたし自身もこどもたちそれぞれのことは、ある一面でしかわたしは理解できていないのだろうと。なので、学校の行事に参加するというのは、我が子の知らない一面を知ることができる絶好の機会ととらえている。
和作が「アルプス線出発」のゲートをくぐって入場したとき、在校生の席から「わくー! わくー!」と声がいくつか飛んで、ほほーっ、この人は何気に人望が熱いのか!? そして、和作はその声に応えるように両手を広げて手を振り、クルッと一周回ってニコニコして着席する様子を見て、ほほーっ、この人、こういうアピールをする人なんだ!?と。わたしの知る和作ではない和作がそこにいて、この人が6年間で積み重ねてきた何かを思った。ハハという視点で、小学生時代をすでに経験したひとりのいまのわたしという視点の両方で。
スピーチでは小学2年で1カ月間行ったイギリスで、橋をつくったことが一番の思い出だと語っていて、だろうなと思った。おそらくこのときの経験は、彼の人生を支える基礎となるのだろう。スピーチの途中、言葉を忘れて考えたりしながらも、恥ずかしそうにすることもなく自分らしく最後まで話すところは、子どもの村の子らしさだなと学校のおとなたちやクラスメイトへの感謝の念が湧いた。
さて、中学生のスピーチである。
子どもの村の小学校の保護者たちによって、子ども村の七不思議のように、はたまた怪奇現象のようによく語られるのが、中学校3年の間に何がこどもたちに起きるのか、である。
小学6年生のこどもたちは、こどもらしいこどもであれるよう伸び伸びととにかく遊ばせてもらった顔をしている。ところが、卒業式で見る中学生の顔は、自分の頭で考えて考えて考えてきた一種哲学者のような顔をしている。そのいい顔で語られるのは、一言でまとめるとしたら「どう自分らしく生きるか」。どう自分の意見が言えるようになったか、自分がこのままでもいいと思えた理由など、葛藤しながら、ときに誰かに支えてもらいながら、いまがあることをそれぞれの言葉で皆、率直に話す。それはまるで、高校を飛び越えて、大学生のスピーチかのようで、その様子を目にした小学生の保護者たちは、中学校3年間で何が起きるんだ!?と驚く。九九の三の段も危ういうちの子も、自分の名前を漢字で書くのも危なっかしいうちの子も中学を卒業するときには、こうなるのか?と。
中学3年間のトンデモない成長スピードや心の葛藤につきあうことを想像すると、思春期ならではの大変さも当然あるだろうが、わくわくしてしまう。
おそらく、どんどんわたしの知らない和作になっていくのだろうな。わたしが知らない面のほうが多い人になっていくとともに、子はおとなになっていく。
紙吹雪が舞い、「アルプス線出発」から、いつの間にか「それぞれ便出発」の看板に変わったゲートに、にこにこと退場していく和作を見ながら、乱気流のなかでケガをしないようシートベルトをしっかり締めて、残り短いフライトを楽しもうと思った。
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つくるめぐみ代表
得意なテーマは自ら実践する「田舎暮らし」「女性の起業」「自由教育」。八ヶ岳ガストロノミーレストラン「Terroir愛と胃袋」女将であり、「自分らしい生き方」などをテーマとした編集・ライターでもあり、三兄弟の母でもあり、こどもたちをオルタナティブスクールに通わせている。「誰もが、オシャレしてメシ食って恋して仕事して、最期まで自分を生きられる、自立した社会づくりに貢献すること」を理念に活動。2020年より古民家一棟貸しの宿、棚田を愛でながらコーヒーを楽しむカフェ・ギャラリーも開業する。
→ Terroir 愛と胃袋