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石田恵海とひらばるれなの「ぺちゃくちゃ交換日記」石田恵海とひらばるれなの「ぺちゃくちゃ交換日記」

評価は良質なひと振りの塩

石田 恵海 │ 2023.02.21

グルメサイト「食べログ」が主催するレストランアワード「The Tabelog Award 2023」でBRONZE賞をいただきました。まったくノーマークだったので、びっくりと同時にすっごいうれしかった。
でも、なんで弊袋が?と賞をいただいてから、どういう基準で選ばれたものなのか、思わず調べてしまったよ。

このアワードは、過去1年間において食べログの点数が累計1カ月以上4.00を超えたお店がノミネートされ、そのなかから一般ユーザーによる投票によって各賞が選出されるというもの。一般のお客さまからの支持というのが、ミシュランやゴ・エ・ミヨなどの専門家による評価とはちょっと違うところ。
アワードには受賞店を巡ることを趣味にされている方たちを盛り上げる要素もあるので、フーディーたちによる推活の場みたいな感じといったら語弊があるのだろうか? 

YouTube Liveで実施されるアワードの発表を、わたしたちはランチ営業を終え、こたつのなかで見ていました。
コロナ禍で受賞パーティなど受賞者たちが集う場も特にないので、じんわり喜びをかみしめるという感じ。受賞パーティとかで華やかなトップシェフたちを見てキュンとしたり、「俺ら、もっとがんばらんとなー」って触発されたりしたいんだけどな。なんだかシケてるよなーと、GOLDやSILVERを受賞された方々のインタビューを見ながらウトウトしていた。

そんなぼんやりがぶっ飛んでしまう人が画面に登場した。ハードコア系バンドのギターみたいな金髪姿の「蒼」の峯村シェフがそう。見た目のパンチとは裏腹に朴訥(ぼくとつ)とした話し方。だけど、生産者の方を呼び捨てにしていたりと、かなり本音ベースで話している様子に心をつかまれた。
「誰にも見つけてもらえなくて、もうこのまま街の洋食屋さんのひとりのコックで終わっていくんだろうなって、自分では思っていました」。多くのシェフという生物たちの本音を代弁するかのような言葉に、自分たちのこれまでの道程を重ね合わせて、わたしは涙が止まらなくなってしまった。

ビストロを10年されて、そこからえい!ととことんこだわったお店を開業するに至った峯村シェフの背中のスイッチは、一体何だったのだろう? わたしがまだ編集者をしていたらきっと、彼を取材したいがために特集の企画を考えそうだなと思った。
食べログの「蒼」のページを拝見すると、さっそく受賞を祝福する常連のお客さまたちのレビューにあふれていて、お料理への賞賛はもちろん、お客さまにとっても愛されていることが伝わってきて、GOLD獲得に本当にふさわしいお店だなと納得したあたりで、はっとした。わたし、完全に峯村シェフの推活しはじめてる! 恐るべし、食べログ(笑)。

翻って、わたしたち。お店に温かい評価をくださるお客さまがたくさんいて、そのお客さまたちに届く前段階を支えてくださっている生産者や作家さんなどのサポーターのみなさんがいてくださったことが賞につながったわけで、受賞そのものよりも、わたしたちに自身の時間を使ってくださっているお客さまとサポーターの方々への感謝の気持ちがぶわっとせり上がってきて、またしても涙。シケてんなーなんて思った自分が恥ずかしくなってしまった。

だけど、とまた立ち止まる。わたしたちは評価を得るためにレストランをしているわけではもちろんない。「restaurant」の語源は「回復させる」であるように、まさにわたしたちはお食事を含めた八ヶ岳時間をゆったり楽しんでいただいて、心身ともに癒やされてほしいと願い、そこに心と技術と時間を費やし、わたしたち自身もそれを楽しんでいる。
成長や品質維持に「評価」という緊張感は、ひと振りの良質な塩のように生きる。だが、求めすぎるとすべてが崩れる。さらに高い評価ではなく、わたしは長く愛されることを目指して努めたい。

ポンコツなハハに「ママ、大好き!」と、ときにはキス付き、ハグ付き、ダンスと歌付きで、我が家の三男は糖分たっぷりな言葉を、1日に何度も何度もわたしに贈ってくれる。
先日の40代最後の誕生日は、大好き!大好き!おめでとう!おめでとう!とキスの雨。やっぱ賞賛の塩分よりも、わたしはこのスイーツの糖質だよなー!と彼の甘い愛の言葉を享受しながら思うのでした。

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-都会と田舎でそれぞれ子育てしながら暮らす、ふたりのワーキングマザーの七転八倒な日常を綴る日記-

研究員プロフィール:石田 恵海

つくるめぐみ代表
得意なテーマは自ら実践する「田舎暮らし」「女性の起業」「自由教育」。八ヶ岳ガストロノミーレストラン「Terroir愛と胃袋」女将であり、「自分らしい生き方」などをテーマとした編集・ライターでもあり、三兄弟の母でもあり、こどもたちをオルタナティブスクールに通わせている。「誰もが、オシャレしてメシ食って恋して仕事して、最期まで自分を生きられる、自立した社会づくりに貢献すること」を理念に活動。2020年より古民家一棟貸しの宿、棚田を愛でながらコーヒーを楽しむカフェ・ギャラリーも開業する。
Terroir 愛と胃袋

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