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福留 千晴の「ローカル見聞録」

地域に彩りを生み出す人びと(福井県小浜市)

福留 千晴 │ 2022.04.28

こんにちは、福留です。
地域の素晴らしすぎるヒト・モノ・コトと出会う「ローカル見聞録」、記念すべき初回記事は、書きたい場所がありすぎるものの、直近で現地訪問させていただいた福井県小浜市で素晴らしい活動をされるUMIHICOのおふたりにフォーカスしたいと思います!

全くゆかりのない土地へ

おふたりの住む福井県小浜市へ訪問させていただいたのは3月下旬。
小浜市は、なんと20年以上前の2001年に「食のまちづくり条例」なるものを制定されており、その土地に伝わる伝統的な食や風景を、歴史風土とともに継承していこうという取り組みをされている素晴らしい土地です。今回「食のまちづくり」を推進するプロジェクトに有識者として参加させていただくことになったのですが、それに向けた現地訪問でした。

小浜市は、訪問前から「福留さん、本当に小浜すごいんよ〜」「絶対好きになるから!」とおふたりから言われていて、もちろん信じてはいたものの、実際に訪問してみて本気で度肝を抜かれる土地でした。

UMIHICOのおふたり(撮影はなんと娘さん!すでに写真の才能が溢れてる)

<プロフィール>UMIHICO

フォトグラファーの堀越一孝さん、画家のほりこしみきさんからなるユニット。
2018年より福井県小浜市へ移住し、”おばまに巣まうを楽しむウェブマガジン「NEST INN OBAMA」の運営をはじめ、情報発信やブランディングだけではなく、地域の方々と協働した観光や地域産品の掘り起こしをおこなっている。

改めまして、UMIHICOのおふたりです。
フォトグラファーの堀越一孝さん(以下、ほりこしさん)と、画家のほりこしみきさん(以下、みきさん)です。

実は、ほりこしさんに実際にお会いするのはなんとまだ2回目。コロナ禍が始まる前に初めてお会いして、オンラインで一度お話し、初回視察で再会という状況だったのですが、全くそんな気がしない(のが私の悪い癖)、会った瞬間からグルーヴ感共鳴するおふたりでした。

そんな状況だったので、視察初日お迎えに来ていただいた車中で初めて知ることも多かったのですが、なんとほりこしさんご夫妻はそれぞれ神奈川と埼玉のご出身で、全く小浜市にゆかりはないとのこと。ユーたちは一体、何しに小浜へ??

ほりこしさん
「もともと自分は原発エンジニアとして働いていて。でも3.11を機に、大きなハードを作り続ける自分の仕事に疑問を持つようになりました。そして、対局にあるコミュニティデザインという仕事が気になって勉強を始め、サラリーマンをしながら事務所にインターンもしました。ただ、都市部で頭でっかちになってても現地で経験しなきゃ分からないと思い、兵庫県西宮市から地域おこし協力隊として長崎県東彼杵(ひがしそのぎ)町へ移住。寂しい雰囲気だった無人駅を人の集まるデザイン事務所兼カフェに改修したり、リノベーションまちづくりの建築設計事務所も経て、最終的にここ福井県小浜市に辿り着きました。実はいま小浜に家も建てていて、ちょうど来週引き渡しなんですよ(笑)」

え、この前移住してきたのにもう家建ててるの、定住率すごくない??
そして原発エンジニアというお仕事について聞くのも初めてで、私はそこだけで30分ほど色々質問してしまって、詳細は割愛しますがこれが本当にすごい。限りなくハード面(インフラ)に携わる仕事から、限りなくソフトの仕事(フォトグラファー)へ、仕事のあり方や働き方まで180度変わる転職。少なくとも私の周りではそんなドラスティックな転職お聞きしたことはないし、著名な方だと書道家の武田双雲さん(NTT系列の会社から書道家に転身されたお話は有名)ぐらいしか存じ上げませんというと、笑ってくれたほりこしさん。ちなみにその時、みきさんはなんと?

みきさん
「その時、ほりこし君は仕事に集中できなくなったり、「そば職人になる!」とか、未来に迷走していたので(笑)、「もう思い切って好きな場所で、好きな写真をやるとか、挑戦してみたら?」と背中を押しました。」

薄々気づき始めてはいたけれど、みきさんは完全に監督タイプですね??
世で言われるような「嫁ストップ(夫の転職に反対する妻)」とは正反対の「嫁ゴー」精神、素晴らしいです。

UMIHICOとして無人駅を活性化させ、次の地に旅立つ

そして各地で写真と絵&デザインの力で情報発信だけではなく、地域のさまざまな需要掘り起こしまで行っているおふたりは、穏やかな小浜市へ移住してきたのだそう。

ほりこしさん
「最初は関西エリアから通って小浜市の仕事を続けていたんですが、とにかく小浜の人と環境が素晴らしい。美味しいものもたくさんあって、もっと深く携わっていきたいと思い、移住しました。」

写真と絵の力で地域の可能性を掘り起こす

おふたりのこれまでのお仕事をお聞きしていて、特に感銘を受けたのが、表層的な発信等に終始せず、地域の方々と協働した需要の掘り起こしまで行っているというところでもあります。
以前、おふたりが移住して携わっていた長崎県東彼杵(ひがしそのぎ)町では、絶景だけれど、地元の人はおろか観光客が誰一人おらず素通りされている海岸沿いの駅を、寄り道し滞在したくなる駅に変身させました。規格外の野菜を積んだ農家さんが週末にトラックで集まる市を企画したり、写真教室などのワークショップをしたり。少しずつ地元の人たちも外の人たちも楽しめるような仕掛けをすることで、現在は観光客で賑わうほどの場所になったとか。

私はこのお話を聞いて、とても感銘を受けました。
いまいますぐの経済的価値に還元できなくても(いやたぶんちゃんと還元や換算もできるんだけど)、こういう重要な働きかけや変化っていまあらゆる地域に求められていると思うし、それをできる人たちって本当に少ないと思うのです。

UMIHICOが息吹をあたえた、絶景の千綿(ちわた)駅(東彼杵町)

そしてこれは自分も日々痛感していることでもありますが「自己が介在することの意味」と「俯瞰的な課題解決視点」って右脳と左脳ぐらいかけ離れた作業で、それを自分ひとりでやるところが本当に難しいと。
著名な方で言えば(また著名人!笑)、宇多田ヒカルさんは全体のプロデュースとソングライティングをしつつ、自己表現(歌や作詞まで)をひとりでしているからこそ天才と呼ばれる所以だったりすると思うんです。

自己表現だけだとアーティストになっちゃうし、課題解決だけでも、なぜ自分が介在するのかという意味合いが薄くなってしまう。みきさんは普段、より自己表現をされる画家から、より課題解決的なイラストレーター&デザイナーまで幅広く活動されていると思うんですが、その辺りはどうですか?

みきさん
「最初、他の地域に携わっていたときは、自分の中でも、何か地域の課題に応えられていないような実感があった時があって。私はもともとデザイナーではなく画家なんですが、画家として絵を描いている時と、地域のためのイラストなりデザインをするときっていうのは全く取り組み方が違うので。そこは自分なりにも試行錯誤してきたし、かなりできるようになってきたかなっていうのはあるんですけど、やっぱりいま地域の現場で暮らしてるので、日々色々な人と意見交換や議論をしながら手を動かせる環境っていうことも、大きい気がしています。でも本当に、目に見えないものを形にするって、大変なんですよね(笑)」

地域の方々と対話を重ねて表現を追求するみきさん

なるほど〜。たしかに自分の中で完結しようとするんじゃなくて、体を動かして、色々な人と会ったり話しながら、それこそ地域の場合は自治体の職員さんから農家さん・漁師さんまでさまざまな方々に一堂に会せる、一緒にものづくりをできる環境は地域ならではですよね。

ちなみに私は、年々ほりこしさんの撮る写真がますますキラキラ輝いているのが素敵で、ついこの前「良い写真、撮るよね〜ッ!!」とほりこしさんの肩強めに叩いちゃったんですが、何かご自身の中で、小浜に来て変わったこととか、変化はありましたか??

ほりこしさん
「僕が撮るのは、アーティストや芸能人のような人たちと違って、普段撮られる機会が多くない地域の人たちなので、常に被写体となる人たちが喜んでくれる写真を撮りたいなと思っています。普段、撮影をされる機会が少ない人たちにとって、撮られることとかメディアに出る経験は大きな責任がつきまとうと思っていて。今後もまたこれを機に頑張りたいなと思えたり、”メディアに出ることは、社会から一定の評価を得ていることなんだ“と思ってもらえるような写真にしたいとは常に考えています。」

なんだか・・グッときました。
これは自分も地域の仕事に携わる上で肝に銘じていることでもあります。

ほりこしさんの写真に写っている人たちは、本当に生き生きとして喜んでいるのが伝わってきますし、写真を撮ることって、撮る人と被写体の関係性とか空気感をも切り取ることだと思うのですが、その辺りは何か意識されていたりしますか?

地域の人たちの、その時しか撮れない一瞬を切り取り続ける

ほりこしさん
「地域の写真を撮り始めたのは震災があった2011年だったんですけど、もともとは奥さんが画家として自己表現をしていることに対する憧れがあったんですよ。そして写真を撮り始めた頃はまだどこか、写真を自己満足で「消費」しているような感覚もあって。(みきさん談:この人最初は全く、人を撮っていなかったんですよ!!風景とか、自転車とかばかり笑)

そのあと、僕の師匠でもある写真家の巨匠・MOTOKOさんと出会い、MOTOKOさんが各地の農家さんや地域の方々を撮影しているところに同行させてもらったりして、自分の中で「写真には人をしあわせにする力がある」と思うようになりました。
自分が撮影するときは、いつも撮影時間よりも話している時間の方が長いのですが、こんな表情やポーズを取ってくださいなどの「過剰な要求はしない」ことと「撮りすぎない」ことは意識しています。相手の時間を長く拘束してしまうことで、相手も撮影に慣れていない方々なので緊張感が出てきてしまうし、不安感を与えかねないなと思っています。とにかく「相手を不安・不幸にさせない」というのは常に考えています。

ちなみに僕たちの屋号「UMIHICO」の由来も、よく自分の名前が「海◯◯彦」さんなんですか?と聞かれるんですが(笑)、立ち上げたのが先ほどの長崎大村線千綿駅(日本で一番海に近い駅)の近くで海に近かったこともあって、日本神話の「海幸彦と山幸彦」から、「海がイメージできて、覚えやすくて、神様のように思いを叶えてくれるような」イメージでつくりました。その時ふたりで話していたのは、「ジョン・レノンみたいな旅人が、米袋持っておにぎりを食べてるみたいなイメージ(!?)」もありました(笑)。

UMIHICOのロゴ。たしかにジョン・レノンみたいな人が米袋持っておにぎり食べてる〜

UMIHICOのおふたりの真髄を教えていただいてとても共感するし、本当にありがとうございます!!

小浜のすごさを実感する48時間

さて、今回は実際に小浜市を視察させていただいた風景などもご紹介していきたいと思いますが、実は視察前日まで、果たしてどんな場所へ行くのか、どんな場所に宿泊するのかを全く知らされていませんでした(笑)

そして前日、忙しいほりこしさんから「遅くなってすみませーん!しおり送りま〜す!」と送られてきたのがこちら。

UMIHICOプレゼンツ「旅のしおり」

うぅ。。小学校の時ぶりの「旅のしおり」に、そしてここまで歓迎してくれているということに涙ちょちょぎれそうになると同時に、朝5時出航に震える。

次回、後編は小浜のすごさを視察拠点とともにご紹介していきたいと思います。
ぜひお楽しみに!

研究員プロフィール:福留 千晴

「地域と食のしごと」NORTHERN LIGHTS代表/mazecoze研究所企画・編集・広報・新規事業開発
鹿児島県出身、実家は大隅半島で芋焼酎の芋を育てる農家。カナダ・モントリオールでの映画学専攻や10カ国以上へのバックパッカー経験、広告会社勤務を経て、現在は中小企業や自治体においてソーシャル&ローカルデザインのプランニングからプロデュース、クリエイティブ、PRまで一貫して行う。2017年、経産省「BrandLand Japan」にて全国12商材の海外展開プロデューサーに就任。焼酎唎酒師、日本デザイナー学院ソーシャルデザイン科講師。
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