ずいぶん時間をいただいてしまいました。10月中旬、こどもたちの秋休みを利用して北海道へ行ってきたのですが、その旅の最中に次男が体調を崩し、山梨に戻ってから長男、三男、そしてわたしと次々と倒れ、こどもたちは早く復帰したものの、わたしはどうも完全復帰とはいえない日々が続いていました。最近になってやっと、ワインもコーヒーも美味しく楽しめるまでに戻ってきてホッとしています。
さて、今回はやっぱりこの北海道の話を書きたいと思います。なにせ、50歳を目前に控え、初めて北海道に訪れたのですから。学生時代はロックバンドのおっかけで、編集者時代は取材旅行で、幾度となく北海道を訪れるチャンスはあったのだけど、そのたびに「わたし、北海道は大切に行きたいですから」とピシャリと断ってきた。そうしたらここまできてしまった。
今回は東京時代からお世話になっている完全放牧自然牛「ジビーフ」の生産者、駒谷牧場の西川奈緒子さんご家族に家族で会いに行くという、まさに初北海道にふさわしい旅。
牧場は北海道南部、様似(さまに)町にあり、その牧場の広さは東京ドーム20個分! 牧場内には山があり、谷があり、林があり、川が流れる。そこでジビーフのほか、山放牧アポイ豚、羊、鶏を育てる。牧舎につながれていたり、輸入された穀物主体の濃厚飼料も食べることなく、牛たちはそこにあるものを食べ、こどもを産み育て、そしてときには自由気ままに柵を越え、道路にたたずんでいたりもする。そんな世界にも稀な自由すぎる牧場。
わたしたちはとかち帯広空港からキャンピングカーを借りて、様似町の牧場まで家族てんやわんやでひた走った。北海道は広いだろうと想像はしていたけれど、本当に広いんだな。ずっと続く同じような景色を見ながら思った。
奈緒子さんとは何度もお会いはしているけれど、現地で会うと感激もひとしおで、夕暮れに牧場に着いてハグして涙。次男は広大な風景に雄叫びをあげ、三男は小動物のように走り回った。思春期の長男は「広いけどさ、空港からここまで来る間に見た牧場と同じでしょ」とクールに言うので、「見てみなよ。見えるところに牛、どこにもいないでしょ? この山全部が牧場なんだよ。だから明日、牛がいるところまで車で移動して見に行くんだよ」というと「えーっ! あ、ホントだ」とナイスリアクション! みんな、段違いの広さに興奮した。
奈緒子さんご家族とジビーフのBBQを楽しみ、農場に停めたキャンピングカーで眠り、翌日、自由すぎる羊やアポイ豚、ジビーフたちに会った。みんな警戒心がなく、好奇心いっぱいで「おまえ、見たことのないヤツだな」という感じに近づいてきてくれて、撫でさせてくれた。
そして、長男リクエストで、夏になるとジビーフたちが1日中涼んでいるという川で釣りをした。そのあたりから次男の体調がかんばしくない様子で、牧場を後にしたら最南端の襟裳岬に行ってから、海沿いを釧路方面へと北上しようと夫と話していたけれど、ゆるやかな旅に変更することに。
まずはガソリンを入れてから次男に薬でもとググったら、向かう予定の方向にはまったくマップにドラッグストアは出てこない。GSで店員さんに聞いてみたら「薬屋さんは、まちに行かないとないですね」。まち! そうだよ、まちだよ!
昔、北海道出身の仕事仲間が「北海道はまちとまちのあいだは何もないのだけど、東京に来たら、まちとまちのあいだもまちだから最初びっくりしたなー」と話していて、その「まちとまちのあいだは何もない」をリアルに感じたい。そう思って北海道に来て、キャンピングカーの助手席でホントだなーと感じてはいたのだけど、GSでアルバイトの女子高生から聞いた「まち!」の響きに生活に直結した切実さを伴うリアリティを感じたのだった。
「広い道だし、走っていたら、そのうちコンビニとかドラッグストア、出てくるでしょ」なんて普段感覚で海沿い走っていたら、おそらく3時間くらい何もなかったはず。危なかったー。わたしたちはまちに向かって車を走らせ、ドラッグストアへ寄り、そこからほど近い温泉のある道の駅でゆっくりと過ごした。
翌日、帰りの飛行機の時間まで、大好きなおやつ「レーズンバターサンド」でおなじみの六花亭の施設「六花の森」でわたしたちはのんびり過ごす。
六花の森は、あの花柄紙袋に描かれている草花いっぱいの森に、あの花柄を描いた画家、坂本直行の美術館などが点在している。坂本の描く北海道の風景、坂本がかつて表紙を描いていた児童詩誌『サイロ』のイラストやこどもたちの詩からは、前日のBBQで大笑いしてのけぞったり、驚いて前のめりになったりしながら聞いた奈緒子さんの牧場での子育て武勇伝に肉付けされるように、まちとまちのあいだにある暮らしのおおらかさ、その半面の過酷さを教えてもらった気がした。
山梨に帰ってきたこどもたちには、奈緒子さんご家族やアポイ豚、ジビーフたちがお友達のような存在になり、当初クールだった長男に至っては、学校で育てている豚たちをどういうわけか寝かせつけられる技術を身につけた(笑)。SNSで成長の様子を見ては「大きくなったね」とみんなで見守っている。
「今度会ったら、めっちゃ大きくなってるかな?」と三男。「おいしく食べられちゃってるよ」と次男。「ああ、そうか(笑)」。ちゃんと現実も受け入れながら、それぞれ、まちとまちのあいだを想うのでした。
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つくるめぐみ代表
得意なテーマは自ら実践する「田舎暮らし」「女性の起業」「自由教育」。八ヶ岳ガストロノミーレストラン「Terroir愛と胃袋」女将であり、「自分らしい生き方」などをテーマとした編集・ライターでもあり、三兄弟の母でもあり、こどもたちをオルタナティブスクールに通わせている。「誰もが、オシャレしてメシ食って恋して仕事して、最期まで自分を生きられる、自立した社会づくりに貢献すること」を理念に活動。2020年より古民家一棟貸しの宿、棚田を愛でながらコーヒーを楽しむカフェ・ギャラリーも開業する。
→ Terroir 愛と胃袋