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恵海さんが歴史ある野外バレエについて教えてくれたので、私はできたてピチピチの、とあるエンタメ体験について書きたいと思います。

「囚われのキミは、」というリアル対話ゲームに参加してきました。しかも2回。
maze研でもプロデューサーの大橋弘枝さんにインタビューした動画を公開しているので、知っている人もいるかも? 「世界最短で卒業する学校」を舞台に、目を使わない美術や、耳を使わない音楽といった科目を体験していくというプログラムです。
ダイアログ・イン・ザ・ダークや、ダイアログ・イン・サイレンスなどを展開し、出会いと対話から多様性を体感するミュージアムであるダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」で、2023年のひと夏限定企画として開催されました。

「囚われのキミは、」では、1グループ8名ほどの参加者=同級生と、キャスト=日直と一緒に95分間の学校生活を過ごします。キャストは色々な特性をもっていて、私が娘と一緒に行った日は、“ゲイ〜魔法の国出身の薔薇族”と紹介があったちーちゃんと、“目を瞑っても開けても同じ世界が見える人”のバリ・ジョニーが迎えてくれました。二人とも明るくて面白くてソーキュート!
体育と社会の授業を受けながら、ダイバーシティがーとか難しく考える暇もなく、身体感覚とコミュニケーションを軸にした鮮やかな時間が流れました。みんなとたくさん話して、娘とも個として出会い直せた感じ。娘も楽しかったそうです。

ハマった私は、次は校長クラスに参加。校長=大橋弘枝さんで、「R18&場の共通言語が手話」というこれまたディープな設定です。同級生の中には、偶然来ていた友人も、初めて会う人もいて、でもとにかく入学の瞬間からぺちゃくちゃおしゃべりに花が咲く。これは見つめあって話す手話ならではのものだと思いました。

校長クラスの授業は、提示されたテーマについてみんなで対話するというもの。まず、「障害者に優しくしなくていい社会になったらどうなる?」というのがどかんと出されました。そもそもなんで優しくするべきなの? とか、その価値観をどうやったら変えていけると思う? というようなことを話し合って、気づきを模造紙に殴り書きしていく。そこで答えが出るわけではないんだけど、どんどん白熱して没頭してその部屋での時間が過ぎても手話べりし続ける人たちに、とうとうお掃除の人(に扮した演出助手さん。これぞエンタメ!)が入ってきて、次の部屋へと追い出される。

続く2時間目のテーマは「自分の中のタブー」でした。広く社会のあり方みたいな話をしていたところから、自分の内面にぐっと潜っていかなくちゃとなり、焦ったー。私は「迎合」と書きました。「分かったフリはなぜダメなのか?」とか、「筆談」とかそれぞれのタブーが出てきて、それについてまた話し合います。

同級生の中には生まれた時から聞こえない人、途中で聞こえなくなった人、親や周りが聞こえる中で、自分のアイデンティティに悩んでいるという人もいました。手話という共通言語で話し合える私たちだけど、聞こえる世界しか知らない私の想像力がはるか及ばないそれぞれの経験があって、みんながいまも日々直面している課題には、多様性の推進という言葉では片付けられないものがたくさんあると感じました。もちろん多かれ少なかれ、私の中にも自分だけの多様性や経験はある。とにかく、ただ私であることがこんなにも難しい世界にいるのだと実感してしまった。

囚キミのサイトには「それぞれが出会うときお互いの固定観念が崩れ、その間にある境界線は曖昧になります」と書かれています。私は体験を通じて、お互いの固定観念が崩れると「私の輪郭がよりはっきりと表れてくる」ようにも感じたのですよね。それは関わり合うことから育まれていくとも。

ダイバーシティに対していろんな予算がついて取り組む人も増えて、この言葉がそこここに溢れているけれど、心の豊かさがある世界をイメージしながら安心して自分を吐き出し合えるこんな場があるってすごいことだなぁ。しばらく頭はぐるぐるカオスになるんだけれども。囚キミ、終わっちゃった。来年もまたやってほしいです!

ぺちゃくちゃ交換日記これまでの記事
-都会と田舎でそれぞれ子育てしながら暮らす、ふたりのワーキングマザーの七転八倒な日常を綴る日記-

研究員プロフィール:平原 礼奈

mazecoze研究所代表
手話通訳士
「ダイバーシティから生まれる価値」をテーマに企画立案からプロジェクト運営、ファシリテーション、コーディネートまで行う。
人材教育の会社で障害者雇用促進、ユニバーサルデザインなどの研修企画・講師・書籍編集に携わった後に独立。現在多様性×芸術文化・食・情報・人材開発・テクノロジーなど様々なプロジェクトに参画&推進中。

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