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石田恵海とひらばるれなの「ぺちゃくちゃ交換日記」石田恵海とひらばるれなの「ぺちゃくちゃ交換日記」

情報デザインとみんなの声

平原 礼奈 │ 2023.06.05

先日、日本デザイナー学院で先生をしている福留さんに誘ってもらって、デザインや映像を学ぶ総合デザイン科3年生の「情報デザイン」の授業で話す機会をもらいました。

スタートが12時半というお眠タイムだったので、はじまると同時に学生さんたちに手話(声なし)で話しかける私。目がまんまるになるみなさん。それでもごりごり手話で続けると、驚きの表情はだんだん不安で心許ない感じに変わって、居心地の悪そうな人や、逆に好奇心いっぱいのまっすぐな瞳で私のことを見つめる人も。
少し時間が経ってから福留さんが、「あのー、みんな、手話わからないんじゃないかな?」と仕込みどおり手話で合いの手を入れてくれて、「あーそうですよね!」ってスライドをめくると、そこには“みなさんへの情報保障としてここに字幕を表示します”とあり、話す内容が全て文字でも表示されていく……という流れ。
今回、“これまでの活動を通じて情報デザインを紐解いてほしい”というリクエストだったので、「想像力×多様性」という切り口でお話しすることにしたのですが、その導入に手話の力を借りてみました。

字幕で伝えていった内容は、誰もが異なる立場や環境から情報にアクセスしているという前提や、相手が受け取って初めて伝えるから「伝わる」になること、想像力があればいろんな方法で情報をデザインしていけるし、その源泉は多様性かも……などなど、自分の体験も交えながら。開始からこの間約15分、静寂の中で私はみんなの眼差しのシャワーを浴びて、教室は不思議な連帯感に包まれました。

その後は音声を解禁して、これまで取り組んできた仕事の事例を話したり、教室にいる学生さんそれぞれの多様性を見つめたりつなげたりするワークをして、あっという間の2時間半。疲れたけどなんという充足感!

終了後、数人の学生さんが質問に来てくれて、アンケートでも一人ひとりの声を聞くことができました。
「普段ひとりじゃ絶対に思いつかないことだったり、知らなかったことをグループワークを通じて感じ取ることができて楽しい」という感想だったり、「手話を学びたいです。どうやって勉強したらいいですか?」とか「初めて間近で⼿話を⾒て、学んでみようと思うきっかけになった」というコメントが多くて、勇気を出して手話の導入をやってよかったなーとしみじみ。

中国からの留学生だという学生さんは、「まさにお話にあったような働き方をしていきたい。どういう方法がありますか?」と就職相談をしてくれて、また別の人からは「出産前後のお仕事の仕方を具体的に聞きたい」という声も。私のとっ散らかった生き方を包み隠さず話したことが、みんなの見えていなかった選択肢を少しでも浮かび上がらせることになっていたらうれしいなぁ。

地元のグループホームで知的障害がある人を⽀援するバイトをしているという学生さんからは、「知的障害がある人への理解を社会に浸透させてゆくにはどのようなアクションを起こすのが良いか?」という質問も。なによりもまず、課題意識をもちながら現場で行動している彼のような若い人がいることを心強く感じました。

質問をもらうってうれしいし、それ自体に気づきがぎっしり詰まっているので、私からも自分なりの考えをできる限り実直にお返しさせてもらったのですが、それを福留さんがスライドにまとめて、次の授業のときにみんなに共有する時間をとってくれたらしい。しなやかな授業のあり方、素敵ですよね。

むかし、友人から「どこかの部族ではデザイナーのことを“生活を良くする人”って訳するんだって」って教えてもらって、本当かどうか定かではない情報ながら好きな見方だなと、元々デザイナー贔屓だった私はさらにデザイナーという存在を尊敬した。
そんな私の前提もあって、今回10代-20代のクリエイターの卵たちの感覚に間近に触れられたのは、とても幸せな体験でした。

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研究員プロフィール:平原 礼奈

mazecoze研究所代表
手話通訳士
「ダイバーシティから生まれる価値」をテーマに企画立案からプロジェクト運営、ファシリテーション、コーディネートまで行う。
人材教育の会社で障害者雇用促進、ユニバーサルデザインなどの研修企画・講師・書籍編集に携わった後に独立。現在多様性×芸術文化・食・情報・人材開発・テクノロジーなど様々なプロジェクトに参画&推進中。

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