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福留 千晴の「ローカル見聞録」

つむじ風を起こし続けるやわらかな場づくり(山梨県丹波山村)

福留 千晴 │ 2023.03.07

偉大なるBOSSに寄せて

皆さま、こんにちは。ローカル見聞録の福留です。
ここ近年、たびたび通わせていただいている人口500人の山梨県の小さな村・丹波山村(たばやまむら)で、微力ながら各構想のお手伝いをさせていただいておりました。しかし昨年末、村で多様な方々を巻き込み、つむじ風を起こし続けていた“村の偉大なBOSS”・石川庸三さんが亡くなられ、村民の方々とともに悲しみに暮れておりました。私たちにはしばらく時間が必要でしたが、また新たに石川さんの想いやプロジェクトを受け継ぎながら、村民の方々が動き出そうとしており、私もこれまで丹波山村の皆さんからいただいた視点を少しでも残せられればという思いで今これを書いています。

偉大なBOSS(というユニークな呼び名は、移住者の小川晶子さんから)である石川庸三さんは、一時代を築かれたクリエイターの大大先輩でした。私は小さい頃から家族ぐるみで仲良くさせていただき、お正月に石川家で開催されるお餅つきにお呼びいただいたり、楽しそうに週末を過ごす大人たちを眺めたりして育ったので、思えば現在の自分の生き方や職業選択のあり方みたいなものに、とても影響をいただいた方でした。

そんな石川さんとまたFacebookで繋がったのはここ最近の話で、2021年に丹波山村でなんと約30年ぶりの再会を果たしたときには、石川さんはご自身が齢70歳(!)を迎えるタイミングで、村が起業案を募集する「ビジネスアイデアコンテスト」で見事優勝を果たし、東京と丹波山村の2拠点生活を通じて村民の方々と、新たな村のあり方から健康を基軸とした各種企画や、これまでにない関係人口の創出にバリバリと取り組んでおられました。(このバイタリティと情熱、すごくないですか?)

昨年、ひらばる編集長と一緒に企画編集執筆させていただいた山梨県北杜市における地域連携農泊の記事も、石川さんがくれたきっかけであり、ご縁でした。

石川さんには、地域に携わる視点だけではなく、人と人が新たな仕事を生み、育てていくときの大きな視座みたいなものをあらためてお教えいただいたと同時に、石川さん亡き後も残り続ける丹波山村のこれまた素晴らしい方々とのご縁をたくさんいただきました。石川さんからいただいたもの、きちんとこれから携わらせていただく地域や丹波山村に、私なりにお返ししていけると良いなと考えています。石川さん、あらためてありがとうございました。本当におつかれさまでした。

ご自身がプロデュースされた「TABA CAFE」にて、石川庸三さん(2022年6月)

つむじ風を起こし続けるやわらかな場づくり

そんな石川さんと同時期に都内から丹波山村に移住され、石川さんと二人三脚で丹波山村に新たなつむじ風を起こし続けてこられているのが、小川晶子さんです。晶子さんは、2015年にご家族で東京都港区から丹波山村へ移住され、幅広くコミュニティ活動に携わっています。石川さんと晶子さんの会話ではいつも「なんか巻き込んじゃってごめんね」「見事に巻き込まれました〜(笑)」というやり取りがしょっちゅう出てくるぐらい(笑)、「ねぇ今度こういう面白いことできそうだから、やらない?いいね!」という独自のリズムで、あり得ないようなことをあり得ないスピードで実現して来られたお二人です。

小川晶子さんと「TABA CAFE」の素敵なお料理(2022年6月)

そんな丹波山村のメインストリートに去年お二人が中心となってつくられた「TABA CAFE」は、”Connect for well-being”(心地よさと繋がる)というコンセプトで「村民だけでなく、来村者とも食を通して交流できる場所=村内外を繋ぐ場所」を目指し、以下のミッションを掲げています。丹波山村で育まれる豊かな食材(原木舞茸や野菜など)を、とてもおいしく体に優しくいただけるレストランカフェと、1階にはギャラリーコーナーも併設され、素敵な蔵のある中庭が望めるだけではなく、2階にはコワーキングスペースもあり各種イベントやセミナー等も行われています。

<「TABA CAFE」のミッション>
①人口減少に歯止めをかけるための、戦略拠点であること
②村内に雇用を創出する経済的効果のある拠点であること
③時代の変化に敏感に対応した、持続型の拠点であること

私が初めて丹波山村に訪れたのは2021年11月でしたが、そのときにはまだ改修前の古民家だったこの場所が、次に訪れた約半年後(2022年6月)には、立派にリノベーションされ開業されていたので、時間の感覚を失うほどでした。

「TABA CAFE」のプレオープンにて、スタッフ皆さんの集合写真(2022年6月)

その場所や目指すコンセプトが素晴らしいのはいうまでもないことですが、私自身がより惹きつけられたのは、その“つむじ風を起こし続ける”場のあり方。これは石川さんや晶子さん、その他村民の方々が無意識にされていることだと思うのですが(そして急速に移住者が増えている丹波山村のオープンな風土も含め)、「ねぇこれ面白そうだから今度やらない?いいね!」で、どんどん多様な方々が巻き込まれていく。それには、その土地が持つ歴史風土とか、良い意味での敷居の低さとか間口の広さとか、さまざまな要因があると思うのですが、とにかく多様な方々を巻き込んで、その場所自体が自走していく。そして時が経って、プレイヤーが変わっていってもそこに残り続ける場づくり。これってすごいことだし、いまあらゆる地域で求められている形でもある。

そして、気づけば私もすでに「TABA CAFE」のプレオープンにはいるし、丹波山倶楽部さんの原木舞茸オーナーとなり村民の方々と一緒に畑を耕しているし、家ではオオカミ印の里山ごはんの味噌でお味噌汁を作っていて、週末には家族でオクトーバーフェストイベントに参加している。もう充分、丹波山村に巻き込まれちゃってますね。余談ですが、移住者にDJなどアーティストが多いのもすごい。

とある日の村民イベントby DJ SAHARA(2021年11月)

若者の眼差しから見た丹波山村の未来

そして昨年には、新たな試みとして私が講師をしている日本デザイナー学院の3年生の学生たちと実際に丹波山村を訪問し、渋谷の若者視点から、丹波山村の未来に向けた企画提案を行いました。「TABA CAFE」の石川さんと晶子さんが中心となり、丹波山村の各所のご担当者とお繋ぎいただきご相談しながら、以下3つの課題に対して、3ヶ月かけて準備した学生の視点からの企画プレゼンを行いました。

<企画テーマ>
①「TABA CAFE」をもっと若者向けに知ってもらい・来てもらえるための企画提案
②「七ツ石オオカミ伝承」をもっと若者向けに知ってもらい・興味を持ってもらうためのPV企画提案
③丹波山村のキャラクター「タバスキー」をもっと若者向けに知ってもらい・来てもらえるための企画提案

学生たちからは、私も驚くような新しい視点からのアイディアが出てきたのですが、「TABA CAFE」に関しては、その物理的ハードル(渋谷から片道3時間)を越えるため、まずはデジタル上で事前に丹波山村を好きになってもらうためのVR企画が提案され、実際にそれを検討していたデジタル系村民の方々と一緒に実現に向けて検討され始めています。

渋谷からリモートで丹波山村の方々へ提案する学生たち(2023年1月)

そして学生たちが丹波山村を訪れて何よりも驚いていたのは、村独自の”距離感”でした。

「まさか村役場の方が直々に送迎してくださるなんて」
「この前雑談していた内容を、今度の村のお祭りで本当に実現するらしい!」
「こんな美味しい野菜、初めて食べた」

など、丹波山村独自の距離感に、コロナ禍におけるリモート環境が長く続く学生たちもとても嬉しく驚きながら、刺激をいただいたようです。その刺激は企画提案には不可欠なものでした。講師視点としては、また彼らが何かふとしたときに丹波山村を思い出して訪れてくれたら嬉しく思います。

このような動きや急速に生まれる価値も「TABA CAFE」がレストランカフェとしてだけではなく、「村民だけでなく、来村者とも食を通して交流できる場所=村内外を繋ぐ場所」を標榜しているからこそ。まだオープンから1年足らずで、早くも「TABA CAFE」のあり方や新たな価値は県境を超えて、また新たなつむじ風を起こし続けているようです。

私もまた、6月には原木舞茸の畑を耕しに行き(ほだぎを埋め)、オクトーバーフェストにキャンプにと、丹波山村を訪れたいと思います。

研究員プロフィール:福留 千晴

「地域と食のしごと」NORTHERN LIGHTS代表/mazecoze研究所企画・編集・広報・新規事業開発
鹿児島県出身、実家は大隅半島で芋焼酎の芋を育てる農家。カナダ・モントリオールでの映画学専攻や10カ国以上へのバックパッカー経験、広告会社勤務を経て、現在は中小企業や自治体においてソーシャル&ローカルデザインのプランニングからプロデュース、クリエイティブ、PRまで一貫して行う。2017年、経産省「BrandLand Japan」にて全国12商材の海外展開プロデューサーに就任。焼酎唎酒師、日本デザイナー学院ソーシャルデザイン科講師。
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