今回の日記はグリグリと悩んでいるうちに、多忙なクリスマスシーズンに入ってしまい、ずいぶんと締め切りが過ぎてしまいました。ごめんなさい。
Terroir愛と胃袋は12月から1日ランチ1組、ディナー1組にして、ソファでアペリティフを召し上がっていただいたり、お料理に合わせて少量で数種類のワインを中心としたお酒を出すアルコールペアリングや、創作ドリンクを出すノンアルコールペアリングなど、飲みものも含めてよりお料理を楽しむスタイルを提案。プライベートな空間と特別な時間と余韻を楽しめるかたちに切り替えたばかりで、まだまだこの営業スタイルに慣れない自分がいる。
営業スタイルやコース変更をしたことで、サービスも含めて価格もアップしているし、お客さまに理解してもらえるだろうか?というのが一番の不安だったのだけど、そんなわたしたちの不安を見透かしたように、最初にダダダッとご予約をくださったのはソワニエの方たち。応援してくださっている感じが伝わって、ソワニエのお客さまからご予約があるたびに、泣きそうになったのでした。
今日は「素晴らしいお客さんとは!?」という話を書きたいと思います。
ソワニエ(soigner)とはフランス語では「ていねいに仕事をする」「細部に気を配る」「世話をする」なんていうときに用いる言葉で、レストラン業界では「上客」なんて表現されたりする。ただ常連というだけでなく「わたしたちのお店を大切に思ってくださり、わたしたちもまた大切に思っているお客さま」というような表現がわたしにはしっくりくるかな。
レストラン業で素敵なお客さまとたくさん接しているので、わたし自身も消費者として素敵なお客さまでありたいと常々思っているのだけど、特にソワニエの方から学ぶことは本当に多い。
飲食業界は労働時間やジェンダーなど課題も多いけれど、人のいのちや人生の物語をつくる素晴らしい業界だと思っている。
だけど、コロナ禍で政府にずいぶんいじめられたこともあって、ホールスタッフは働き手が減っている。この働き手だだ下がり傾向は、飲食業だけではなく接客業全般ではないかと推測する。すかいらーくチェーンの猫ちゃんロボットなどのようにテクノロジーの発展で代替できることももちろんあるが、ソワニエ対応はさすがに人間じゃないとね(と思いたい)。
消費者のひとりとして接客業の働き手ダダ下がりを食い止める方法は何か。もうね、これは働いている人に仕事に誇りを感じてもらう声かけ。これしかない。
消費者がちゃんと感想をアウトプットしていくことでしかないように思う。そういう言葉かけのいい循環を大切にした外食文化をつくっていくことだと。一緒にごはんを食べている人に「美味しいね」って小声で言うのやめて! 言ってもいいけど、お店の人に聞こえるように言ってあげてー! 簡単に言うと、そういうこと(笑)。そうしないと、わたしたちの外食の世界は、もう猫ちゃんロボットだけの世界になる。
弊袋でバイトしてくれているOくんは「洗いものが大好きで」と大学時代に洗い場専門で入ってきた奇特なヤツなんだけど、繁忙期の今夏にホールスタッフが不足して急遽ホールの仕事に入ってもらったら、接客の楽しさをそこに見出して、将来ホールの仕事に就きたいとなっちゃった。
彼の人生の方向性を変えたのは、お客さまなんだよね。弊袋の「お客力」、すごい!と思った。美味しい、楽しい、面白い、などとお客さまに言われて、それに自分が携わっていることで喜ぶ。料理や食材、調理法、器、建物のことなど聞かれて、ときに答えられなかったりしてくやしい思いをする。そういうことのくりかえしによって、Oくんはホールの仕事への情熱がぶち上がった。
ひと夏で人が変わる人生模様を目の当たりで見ているので、自分が他のお店にお客さんとして伺ったときに、もっと伝わるアウトプットをすることで、サービス業界を少しでも盛り上げる力にならなくてはとせつに思うようになった。
さらに、ソワニエのお客さまを見ていると、素晴らしいのは何と言っても帰り際。ソワニエの方はついさっきまで過ごした時間をおさらいするかのように、印象に残ったこと(お料理だけではなく、設えやお話した話題など多岐にわたる)を伝えてくださる。それだけいろいろ見ている、味わっているということの証でもあるのだけど、帰り際にアウトプットが素敵にできる方ってなかなか玄人。心に余裕がないとできないので、めちゃくちゃおとなとして憧れてしまうのだ。
お食事している間に感じたことを帰り際に「ごちそうさま」「美味しかった」以外の自分の言葉でお店の人に伝える訓練をしていくというのは、日本の経済成長戦略のひとつであり、ソワニエ訓練のひとつでもあり、モテ訓練のひとつでもあるように思う。 いいサービス、いい時間を過ごすためには、お客力を磨くこと。その大切さをこどもたちにも知ってほしいし、おとなは日々鍛錬じゃな! そんなお客力について考えせられた12月でした。
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-都会と田舎でそれぞれ子育てしながら暮らす、ふたりのワーキングマザーの七転八倒な日常を綴る日記-
つくるめぐみ代表
得意なテーマは自ら実践する「田舎暮らし」「女性の起業」「自由教育」。八ヶ岳ガストロノミーレストラン「Terroir愛と胃袋」女将であり、「自分らしい生き方」などをテーマとした編集・ライターでもあり、三兄弟の母でもあり、こどもたちをオルタナティブスクールに通わせている。「誰もが、オシャレしてメシ食って恋して仕事して、最期まで自分を生きられる、自立した社会づくりに貢献すること」を理念に活動。2020年より古民家一棟貸しの宿、棚田を愛でながらコーヒーを楽しむカフェ・ギャラリーも開業する。
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