地域連携の農泊で、北杜市小淵沢を舞台に居心地の良い拠点づくりに挑戦する“こぶちさわ新・暮らしの拠点協議会”が発足。現地レポート!
※この記事は、こぶちさわ新・暮らしの拠点協議会さんのご依頼で取材・撮影・執筆し掲載するものです。
目次
山梨県北杜市小淵沢で生まれたコンソーシアムを現地レポート!
こんにちは。mazecoze研究所の平原です。
日本の様々な地域でソーシャル&ローカルデザインのプランニングをしている福留さんが、山梨で“農泊”を軸にしたコンソーシアムを立ち上げようとする方々とmaze研をつないでくれたのが昨年のこと。
その後、コロナの感染急拡大で、みなさんが予定していた農泊のイベントが中止になりながらも、粘り強く地域連携を育み、この度「こぶちさわ新・暮らしの拠点協議会」をスタートされたとのご連絡をいただきました。
maze研ではこれまでも、農や地域を軸としたコミュニティについて、ノウフク(農福連携)やワーケーションといった切り口から探究してきました。その中で“農泊”という言葉もちょこちょこ聞いていたのですが、そこからどんな価値が創出されるのかというところまでは深掘りできておらず。
そんな中、こぶちさわ新・暮らしの拠点協議会(以降協議会と表記)さんにお誘いいただき、設立の目的や活動拠点をご案内いただけることになったので、福留&平原で山梨県北杜市の小淵沢を訪ねてきました!
小淵沢は、美しい山々に囲まれ涼風が吹き抜ける別世界でした
2022年8月3日。私たちが出発した東京は36度以上の猛暑日だったのですが、小淵沢に降り立つと涼しい風が吹き抜け、なんとも爽やかー。
それもそのはず、山梨県北西部、長野県との県境に位置する小淵沢は、標高が1,000メートルもあるのだそうです。
駅を出てぐるりと周辺を見渡すと、南アルプス、八ヶ岳、富士山と壮大な山々に囲まれていて、一気に開放的な気分に。
自然豊か=空気がおいしい=水もおいしい=土壌も豊か=おいしい食=おいしい地酒=え、今日、日帰りもったいない……。という思いが脳裏をよぎりました。たぶん福留さんも同じ気持ちだったと思います。
その後、協議会の事務局で、アルソア慧央グループ女神の森事業部の目黒敏朗さんと駅で合流。アルソア慧央グループは小淵沢に本社があり、女神の森事業部が協議会の中核法人として活動の中心的な役割を担っています。目黒さんが私たちを1日アテンドしてくださいました。
この日はOCA国際交流事業が女神の森事業部の協力のもと開催されているということで、まずは会場となっている研修施設“女神の森ウエルネスガーデン”へ。道中、協議会の設立目的について改めてうかがいました。
暮らしの拠点協議会が目指すのは、居心地の良い拠点づくり
目黒さんは協議会の設立目的について「居心地の良い拠点をつくりたいんです」とひと言。
「新しい暮らし方が求められる時代に、小淵沢の環境を活用して、職場でも家庭でもない、ここを訪ねる人にとっての居心地のよい拠点づくりがしたい」というのが、協議会のみなさんが企画当初から大切にしているイメージなのだそう。
協議会の軸となるのは「農泊」事業ですが、農水省の定義によると、
「農泊」とは、 農山漁村地域に宿泊し、滞在中に豊かな地域資源を活用した食事や体験等を楽しむ「農山漁村滞在型旅行」 のことです。地域資源を観光コンテンツとして活用し、インバウンドを含む国内外の観光客を農山漁村に呼び込み、地域の所得向上と活性化を図ります。(農水省HPより引用)
とあります。
では、こぶちさわ新・暮らしの拠点協議会が提案する農泊とは、どのようなものなのでしょうか?
「暮らしの基本に戻って、自然環境や健康を意識した生活をご提供しつつ、新しい暮らしに合う様々な体験をしていただく体験創造事業を考えています。具体的には、自然(農)・宿泊・食文化・学び・環境をうまく組み上げたものにしていきます。まずここに来て、自然にふれていただく。そこから健康のあり方や生き方への学びにも波及していけばいいなと思っています。農も食も学びもすべてがつながっていて、そのエコシステム(生態系)ともいえる場がここ小淵沢にはあるんです」と、目黒さん。
アルソア慧央グループは、25年前にこの地に本社を移転してから、このような形で地域連携の取り組みを進めるのは初めてのことで、少しずつみなさんとの関係性を築いているところなのだとか。
余白のある場でまじわることから生まれる価値
小淵沢駅から車で10分ほどで“女神の森ウエルネスガーデン”に到着しました。車を降りると、目の前に広々とした芝生広場が広がり、その先には野外ステージも。
「開放的ー」といいながら抗原検査をする私たち。
ここでは8月1日から4日まで、一般社団法人MRAハウス※のOCA国際交流事業※として「サマーキャンプ」が開催されており、アルソア慧央グループ女神の森事業部が場所や食事、送迎の提供など全面的な協力(協賛)をしていました。
※一般財団法人MRAハウス:「日本とアジアの未来」に貢献するため1952年に設立。「国際相互理解の増進」、「国際リーダー・人材の育成」、「公正かつ自由で創造的な民間公益活動の振興」等の事業の実施、支援、助成活動を行う団体
※OCA国際交流事業:アジアとの国際交流、学生交流事業を目的に活動
タイの学生と日本の学生約50名が農業体験や自然散策、対話の時間をもちながら小淵沢の自然の中で寝食を共にしているそうで、まさに農泊とも言えるプログラム。私たちが行った時には、ちょうど国際交流についてのプレゼンテーションが行われているところでした。
サマーキャンプも3日目とあって、両国の学生さんたちは和やかな雰囲気。英語を共通言語に、それぞれの意見が飛び交っていました。
プレゼンの時間が終わり自由時間になると、みなさん外に出て庭でお散歩したり、歩いて数分のところにある宿泊棟に戻ったりしながらゆったり過ごしていましたよ。
館内にはキッチンスタジオもあり、学生さんたちは前日一緒に料理もしたのだそう。写真に写っているのは管理栄養士の女神の森事業部の社員さんです。
せっかくの機会なので、OCA国際交流事業の奥村康治さんと、タイの学生に同行しているチュラーロンコーン大学のPiti先生にもお話をうかがいました。
奥村さん
「これまでは5月にタイの学生が日本を訪問、10 月には日本の学生がタイを訪問し学生交流を続けてきました。それもコロナ禍で2年ほど開催できなくなり、こうした状況の中で、これまでとは違うやり方で開催したのが今回のサマーキャンプです。
いまは3日目ですが、同じ場所で4日間じっくり共に過ごせることで、お互いの国のことや生活を知り、その違いについてお互いが話し合い理解していく体験から、参加した学生間に強い関係性が育まれていると感じています。
私自身、まず自然があって、農や共生といったことすべてを体感できるこの場所のコンセプトに共感しています。アルソア慧央グループ女神の森事業部にこの場を提供してもらえたからこそ実現できたイベントなので、とても感謝しています」
Piti先生
「都市の外にある、このような自然豊かな場所で滞在できることは、タイの学生にとってもよい気づきにつながっていると思います。従来のアカデミックな部分だけでなく、食べること、学ぶこともすべてがつながったこのエコシステムとも言える場所で、学生同士がより深くコミュニケーションをとれているように見えます。学生時代のこうしたつながりは、今後長く続いていくんじゃないかと思いますし、私自身刺激になっています。この気づきを今後も拡大していけたらいいですね」
健康と幸せを見つめる多様なロケーション
福留さんと「女神の森、広かったですねー」と話していると、「女神の森というのは、今いた女神の森ウエルネスガーデンだけではないんですよ」目黒さん。小淵沢の各所に目的にあわせた施設や農場があり、それらすべてを合わせて「女神の森」と呼んでいるのだそうです。
女神の森は今後、協議会での体験プログラムの中心拠点になっていくそうで、その全体像をつかむべくほかの拠点もご案内いただきました。
●ルラシュウェルネスリトリート
ウエルネスガーデンから車で5分ほどの場所にある「ルラシュウェルネスリトリート」は、エステルーム、スパ、ダイニング、セミナールームなどがある施設。宿泊棟も併設されています。
「ルラシュウェルネスリトリートは、さきほどの洋風なウエルネスガーデンとはまた違って古民家風ですねー」と話していると、どちらも元々は地域の方が所有していた施設が空き家となりいろいろと相談を受けて女神の森事業部で買い取り、いまの使い方をしているのだと教えてくれました。
小淵沢に根ざす企業として、地域で活用の場がなくなった施設を引き受けるというのも一つの地域貢献の形だなぁと、多数の拠点がある女神の森の意味に触れた気がしました。
●女神の森 オーガニックファーム
次に連れてきてもらったのは、広大な畑です。こちらはグループ会社の農園で、農薬に頼らない自然栽培を実践されているのだそう。葉菜、根菜、花菜、キノコやイモ類など多種類が育てられていて、この畑で採れた作物で酵素ドリンクや野菜ジュースなども作っているのだとか。
「豊かな土壌づくりとそこから育まれる植物や微生物が、良い腸内環境を作り健康へとつながっていくと考えるので、こうした畑も作っているんです」。多種多様な農作物と堆肥場を眺めて、土の匂いを嗅ぎながら自然と人の循環のお話を聞かせてもらうと、腹落ち感も増し増しに。
畑仕事をしているのも全て社員さん。農大出身の方もたくさんいらっしゃるそうです。
「無農薬のトマトです。食べてみてください」と言っていただき、頬張りました。旨味が詰まって甘くて美味しい。贅沢ー!
●女神の森 セントラルガーデン
最後は、女神の森の玄関口と位置付けられる、セントラルガーデンへ。これまた大きな施設。
エントランスを入った先にあるコミュニティホール。結婚式の披露宴が行われることもあるのだとか。
コミュニティホールの先に進むと、
カフェ&ダイニング「奏樹」。
さきほど見学した畑で採れた新鮮オーガニックの旬野菜を使ったお料理をいただけるのだそう。この日は貸切のお客様がお食事していました。
お庭に面した素敵な通路。どこもかしこも緑が溢れています。
700名が入るというメインホール。ステージの後ろにはお庭が広がります。
「こんなに多様な場所があったらできること、めちゃくちゃたくさんありそうですね」「使い方、無限大じゃない?」福留さんとぺちゃくちゃ喋っていると、目黒さんも「協議会としても、建物や場があるので、ここに“こと”を起こして、人や場を動かしていく循環ができればいいなと思っています」とおっしゃっていました。
小淵沢のこだわりや魅力を結集し、外の人だけではなく地域の人も巻き込む大小多様な体験プログラムの準備が進められているのだそうで、協議会のこれからの活動がとっても楽しみです。
小淵沢を巡り、壮大なロケーションの魅力と、女神の森の包容力を実感した旅の最後には、福留さんと道の駅で野菜やパンやお菓子をどっさり買い込んで、後ろ髪を引かれながら東京行きのあずさに乗りました。次は泊まりで行きたいです。
こぶちさわ新・暮らしの拠点協議会のみなさま、アルソア慧央グループ女神の森事業部さん、素敵な体験をさせていただきありがとうございました!
●女神の森
(取材・撮影・執筆:mazecoze研究所)
mazecoze研究所代表
手話通訳士
「ダイバーシティから生まれる価値」をテーマに企画立案からプロジェクト運営、ファシリテーション、コーディネートまで行う。
人材教育の会社で障害者雇用促進、ユニバーサルデザインなどの研修企画・講師・書籍編集に携わった後に独立。現在多様性×芸術文化・食・情報・人材開発・テクノロジーなど様々なプロジェクトに参画&推進中。