English

〈ノウサイドな福祉〉福祉と農業と、それから。

mazecoze研究所 │ 2021.12.08

※この記事は、ノウフクWEBの「ノウフクマガジン」で掲載されたコラムを、mazecoze研究所でも転載するものです。

「???」がいっぱいからの転職、農福連携へ

みなさん、こんにちは!
ノウフク・マガジン編集部の小淵久徳です。
初めての寄稿となりますので、まずは、少し自己紹介をさせてください。

私は現在、群馬県前橋市にある社会福祉法人ゆずりは会が運営する、障害福祉サービス事業所菜の花の管理者を務めております。

実は、私、2度の転職を経ており、福祉の経験も農業の経験もまだまだです。前職は地元の農協職員をしておりました。30代半ばにして自分自身の生き方に「???」がいっぱいになってしまい、転職したのですが、福祉の世界を熱望してこの業界に入ったのかと言われると、そうではありませんでした。
農協にいたから農福連携なんだ!と言われると、これまたそうではありません。農協職員時代は、金融と共済事業しか携わったことがなく、トラクターはおろか草刈機さえ使ったことがない、農協にいながら農業を全く知らない職員でした。

では、どうして福祉の世界に?のご質問には少し長くなります(実はあまりお伝えするような内容でないのかもしれません)ので、またの機会にすることとしますが、いずれにしても、福祉も農業も全く縁がなく過ごしてきたにも関わらず、農福連携にどっぷりの今です。

6年4倍

さて、菜の花は2014年6月に開所となった就労継続支援B型事業所です。

日中活動で毎日農業に勤しんでおり、20数名の利用者(障害のある方)と共に約13ヘクタールの田畑の耕作をしています。13ヘクタールというと東京ドーム2.5個分くらいでしょうか。
今でこそ、このような規模で農業を行えるようになりましたが、職員は私も含めて農業経験者は1人もおりません。開所当初より3ヘクタールほどの耕作をしていましたが、当時は利用者の中で主として農業に携わる方も5名程度だったと記憶しております。

ではなぜ、開所6年にして作付規模4倍、売上も4倍となったのか。
ゆずりは会と菜の花のこれまでの歩みを振り返りながら、紐解いていきたいと思います。

揺るぎなき理念

社会福祉法人ゆずりは会は、農業と障害者就労の親和性に大きな可能性を抱いていた先代の理事長の主導のもと、法人の設立当初から農業を主体とする就労支援で平均工賃5万円を支給するとの目標を掲げて活動を始めました。

「就労支援」「高工賃」
これが当法人の設立当初からの理念です。

法人の進むべき方針や行動指針が、このたった2つの単語なのです。
私も法人に入職して理念を知ったとき、なんてシンプルなんだと驚きました。このたった2つの単語からなる理念に、とてつもない奥深さと決してぶれない固い決意があるのだと思えるようになったのは、最近のことかもしれません。

法人の理念の一つ、「就労支援」は、当法人を一つのステップとして一般企業など、次のステージを求められる人には就職や就労定着の支援を惜しみなく行うこと。つまり、ゆずりは会も選択肢の一つであるが、就職者もどんどん輩出していこうというものです。この理念のもとこれまでに一般企業等へ就職をかなえた方もおよそ40名となりました。

「高工賃」はその言葉通りに一人ひとりに居場所と役割を感じてもらいながら、自立へ向けて少しでも高い工賃を支給すること。今でも、法人内の就労支援事業所では切磋琢磨しながら毎年高工賃に向け活動を続けています。

私も今でこそ、全国各地の事業所を訪問させていただく機会が少なくなりましたが、訪れた各所で理念を目にしてきました。しかしながら、当法人のような単語で示されている理念はほとんど出会ったことがありません。その多くの事業所が、文章化された理念を掲げているようです。文章化された理念を読み込もうと要約すると、人によって僅かな違いや受け取り方、見方の違いが出るかもしれません。

しかし、当法人の最もシンプルなこの理念は、職員の誰が読み込んでも「就労支援」と「高工賃」でしかありません。この支援の方法は「高工賃」に繋がっているのか、この支援で「就労」に繋がるだろうか、と支援をする中で岐路に立たされた時には、自分自身、常に呪文のように心で唱えておりますし、共に働く職員にも問いかけるようにしています。

おかげで、それぞれの職員のベクトルの長さに違いこそあるかもしれませんが、向かうべき方向は確実に同じになってきていると感じています。

農福連携への歩み

法人内では以前から、農業だけの活動になると利用者の工賃を確保するためにリスクヘッジができないからいくつかの事業に取り組むべきだという方針を掲げていましたが、日々安定しない下請け作業などよりは自前で拡大や縮小、計画変更ができる農業は、いつからか目標となる売上を確実に手にするためのより良い手段となり得てきました。

もちろん、すでに農福連携に取り組んでいる皆様が感じているのと同様に、障害のある方たちに農業がとてもフィットしていることは言うまでもありません。そして、農作業の数多ある作業工程の中に彼ら一人ひとりが役割を持ち、日々取り組むことで、個々人ができることが増え、ひいては事業所全体のできること、できる量が増えてきていることも農業を主とする活動へシフトする大きな推進力となっていることは確かです。おかげで今では、事業多角化によるリスクヘッジはどこ吹く風、いかにして一年を通じて農業ができるか(農業のリスクを農業の中で補えないか)に各事業所が注力するようになってきました。

とはいえ、初めからこのような理念の浸透、農業へのシフトができていたわけではありません。様々な紆余曲折があったことも確かです。しかし、これまでの積み重ねてきた経験が今につながっていることも紛れのない事実です。

そして現在、法人全体(3つのB型事業所と1つのA型事業所)で農業を営んでおり、全体での作付面積は30ヘクタールを超えています。昨年(2020年)には、社会福祉法人として認定農業者にもなりました。

農福連携のこれから

全国各地に広がりをみせる農福連携が、衰退の一途をたどる農業分野において重要な役割を持ち、課題を抱えていると思われていた障害のある人たちが耕作放棄地の解消をはじめとするこれらの社会課題を解決していることはとても素晴らしく、痛快です。

いつかは、農福連携による農産物出荷額〇〇%なんて統計が出る時代が来るかも!

私どもはまだまだ道半ば。
まだまだ精進していきます。

そうそう、人生に「???」と感じて、福祉に飛び込んだ私。変化があったのかと問われますと、農業×福祉に携わって、間違いなく充実した毎日を過ごしていると断言できます!

どれだけ充実しているかは、日焼けの具合を見ていただければ一目瞭然!!!

私どもの実際の農福連携の様子については、続編へ。

プロフィール:小淵 久徳

社会福祉法人ゆずりは会理事。ノウフクJAS検査員。自然栽培パーティ関東ブロックリーダー。農福連携技術支援者。農福連携特例子会社連絡会オブザーバー。農業による就労支援を実践。全国の農福連携のリーディングモデルとなることを目指す。



ページトップへ戻る