English

第10回:自立と成長のこどもたちの夏

石田 恵海 │ 2016.09.10

第9回

01

夏のはじめのころは、こんな感じに庭のキウイ棚のポールにつかむのも精一杯だったのに、最近ではスルスルと棚の上まで登って「ママ、ヤッホー!」などと涼しい顔をしている。福祉施設のお祭りで「さをり織り」を体験。長男、見事にハマった!

前回のコラム「土と水と植物と身体と」はとっても多くの方に読んでいただいたとMAZE研担当者さんから聞きました。ありがとうございます。
「子宮規模」のお話なので、やはり女性の読者さんが多かったようですが、Facebookに記事をシェアした際にもたくさんのコメントをいただいたのですが、それもやはり女性が多く、「妊娠」の沿線上にあるのは必ずしも「うむ」だけではない。「うまない」「うまれない」「うめない」といったケースも多いのだということを多くの女性からのコメントで、あらためて考える機会となりました。
その後、子宮収縮薬の副作用が私にはあまりにもきつくて、少しうつ状態になりましたが、起業家の先輩から送っていただいたオーガニックのアロマオイルと家族の笑顔に支えられて、ほどなく復活することができました。ご心配くださった皆さま、本当にありがとうございました。おかげさまで元気です!

02

廃校での体験型イベント「森のスコーラ」は校舎や校庭ではさまざまなワークショップ、プールでは魚のつかみ捕り、裏山ではツリークライミングと、長男はいつもより自立的に、次男はいつもより野性的に、一日学校で楽しんだ

「森のスコーラ」の暑くアツい1日

さて、そんなわけで、今年は思いっきりこどもたちと遊びまくる夏にしようと思い、ホントに遊びまくりました。近くに素晴らしい自然があるので、今夏は近場で自然を満喫する日々を過ごしました。

川遊び、ニジマス釣り、かぶとむし狩り(「狩り」といえるほど捕獲できてしまうローカルエリアを教えていただいたのでした)、花火、ウォークラリー、ブルーベリー狩り、BBQ、キャンプ……。

そして、相模原市の廃校を会場に、自然栽培の農家さんをはじめ、水や木など自然にかかわる仕事をされる方が出店される体験型イベント「森のスコーラ」に家族で参加できたことが、私はとっても感慨深いです。

次男の穂作は好奇心のかたまりで、はじめて会った人ともすぐ打ち解けるタイプですが、長男の和作は場所見知りや人見知りもあって、まずは引いて冷静に見るタイプ。こういったイベントなんて、以前の和作ならイベントの内容を話しただけで「やだ!」、現場で人がたくさんいるのを見ただけで「絶対にやだ!!」と敬遠していたのですが、今回ワークショップの内容を事前に教えたら「よし! オレ全部やる!」とスゴいやる気満々。山梨の自然のなかで、彼の精神も鍛えられたのでしょうか? 

実際に、100年杉を使った輪ゴム鉄砲づくりからはじまって、スプーンの絵付けに、ツリークライミング、糸紡ぎと積極的にチャレンジ。これまで何度か経験してきた川魚のつかみ捕りはもはや手慣れたもので、ふちっこのほうに魚は隠れていると知っているので、いい位置を攻めていました。

そして、私が友人と話し込んでいたら、ひとりでツリークライミングに再度挑戦しに行くなど、いつもなら「ママ、一緒に来て~」と手を引っ張ってくるのに、この日の和作は違って積極的。「わっくん、ひとりで行っちゃったよ」と次男も驚いて心配するくらいで、そんな長男の様子に、ハハ、胸アツになった暑い1日だったのでした。

明野的はじめてのおつかい

近頃、こどもたちはお金への興味関心がとっても高くなってきました。しかし、その価値はあまりわかっていない様子。時々、映画館に行った帰りに寄るゲームコーナーでは、戦隊キャラのカードゲームが1回100円。それがやりたくてお金をねだるのですが、「いくらまで」といってもごねがち。そこで、これはいいチャンスだと思い、お手伝い表をつくって、これからお金を稼いだ分、お小遣いをあげることにしました。 「夕食の後片付け10円」「お風呂掃除20円」といったお手伝いのなかに、「おつかい100円」と高額バイトも用意。カードゲームで1回100円の100円は、こどもたちのなかでひとつの基準の値。そこで、100円の価値の高さをわかってもらおうと、ごはんの後片付けを10回すると、お風呂掃除を5回すると、100円になることを教えました。

最初こそ、お金を手にしたいとお手伝いをしましたが、時には金額ではなくノリだったり、金額を確認してお手伝いする内容を選んだり、こちらからお手伝いをお願いして稼いでもらったり、パターンはいろいろ。そして先日ついに、なんとなくノリでそう思ったようです。「おつかい行ってくるよ!」と自分で言い出しました。

東京にいた頃、テレビ番組の『はじめてのおつかい』を見て、「わっくんもおつかい行ってみる?」と誘ったのですが、「できないよ。だって、おれ、まだ小さいから入り口のボタン、押せないじゃん」と冷静な返答が帰ってきて、私たちおとなを唸らせました。当時、私たちはオートロックのマンションに住んでいて、入り口で自動ドアを開けるために押すボタンの位置は、こどもたちには高すぎたのでした。物理的におつかいに行って帰ってくるのは無理なのだと。なるほど、ギャフン!

03

こどもの足で徒歩15分ほどのところにある明野唯一のパン屋さんへ。お店が少なく、臨時休業も多いのが北杜市的。私の姿を見つけて高揚して走ってみたものの、途中から冷静さを取り戻し、近づいてきた時には目標を達成できなかった脱力感が表情ににじみ出ていて、思わず笑ってしまった

今、私たちが住んでいるのは一軒家。こどもがおつかいに行くのに障壁となるオートロックのボタンもない。ところが、今住んでいる場所は、おつかいに行けるお店屋さんそのものがないエリア(笑)。明野唯一のパン屋さんが、唯一歩いて行ける範囲にあるお店屋さんだったので、そこに食パンを買いに行ってもらうことにしました。

首から財布を下げ、手にマイバックを持って駆け出していく長男の背中を胸アツで見送り、そこで帰ってくるのを待ちました。お店の人とも顔見知りなので、お買い物に関しては何ら心配ではないのですが、道中、歩道のない山道はひと気もなく、時折、全速で自動車が走ってくることもあるので、そこだけ心配でした。

和作の勇姿を納めようとiPhoneを手に持って待っていると、長男が帰ってきました。私の姿を見つけると最初駆け出したのですが、途中で何かを言って歩きはじめました。近づいてきた和作が複雑な表情をしています。「パン屋さん、休みだった……」。がくーっ! 

意気揚々とがんばって行ったら、お店が休みだった。こんなせつないこと、ないよね。「ドアに何か漢字と数字が書いてあったんだけど、おれ、漢字まだ読めないから、わかんなかったんだ」。きっと臨時休業のお知らせ。こちらではよくあることなのだけど、まさかでした。

親子で「せっかく行ったのに、がっかりだったね」と言いながらも、「それでも、よくがんばってあそこまで行ったよね!」と讃え、100円を和作に渡しました。おつかいにはなっていないのだけど。100円の価値ってなんだろう?と思いながら。

オートロックの玄関を入るには、背も高くならないといけないし、いつもはやっているお店が休みの理由を知るには漢字と数字も読めないといけない。お店に入っていたら、きっとパンを買う時にお金の計算もしなきゃいけないと気づいただろう。

一人前に成長するって、まだまだいろいろあるんだなぁ。こうやって人は、生活に必要な基本を学んでいくんだなと、和作を見てあらためて思いました。

その後、もう一度、和作は同じパン屋さんにおつかいにチャレンジしたのですが、またしてもその日も臨時休業だったという……。ガクーーーッ! これで、和作のおつかい熱が冷めないといいだけれど。

第11回

石田 恵海(いしだ えみ)

1974年生まれ。ビオフレンチレストランオーナー&編集ライター
「雇われない生き方」などを主なテーマに取材・執筆を続けてきたが、シェフを生業とする人と結婚したおかげで、2011年に東京・三軒茶屋で「Restaurant愛と胃袋」を開業。子連れでも楽しめる珍しいフレンチレストランだと多くの方に愛されるも、家族での働き方・生き方を見直して、2015年9月に閉店し、山梨県北杜市へ移住。2017年4月に八ヶ岳ガストロノミーレストラン「Terroir愛と胃袋」を開業した。7歳と6歳と1歳の3男児のかあちゃんとしても奮闘中!
Restaurant 愛と胃袋


第1回:ハロー!新天地
第2回:熊肉をかみしめながら考えたこと
第3回:エネルギーぐるり
第4回:「もっともっとしたい!」を耕す
第5回:「逃げる」を受容するということ
第6回:生産者巡礼と涅槃(ねはん)修行
第7回:「ファミ農」、はじめました。
第8回:東京から遠い山梨、山梨から近い東京
第9回:土と水と植物と身体と
第10回:自立と成長のこどもたちの夏
第11回:自分らしくあれる大地
第12回(前編):今年は引越・入学・転園・開業・出産!
第12回(後編):今年は引越・入学・転園・開業・出産!
第13回: 素晴らしき八ヶ岳店スタート&出産カウントダウン!
第14回:出産から分断を包み込む
第15回:味噌で、映画で、交わる古民家
第16回:夫、妄想殺人事件!


研究員プロフィール:石田 恵海

つくるめぐみ代表
得意なテーマは自ら実践する「田舎暮らし」「女性の起業」「自由教育」。八ヶ岳ガストロノミーレストラン「Terroir愛と胃袋」女将であり、「自分らしい生き方」などをテーマとした編集・ライターでもあり、三兄弟の母でもあり、こどもたちをオルタナティブスクールに通わせている。「誰もが、オシャレしてメシ食って恋して仕事して、最期まで自分を生きられる、自立した社会づくりに貢献すること」を理念に活動。2020年より古民家一棟貸しの宿、棚田を愛でながらコーヒーを楽しむカフェ・ギャラリーも開業する。
Terroir 愛と胃袋

「石田 恵海」の記事一覧を見る

ページトップへ戻る