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第4回:「もっともっとしたい!」を耕す

石田 恵海 │ 2016.03.28

第3回

棚

手前はホームセンターで木材を買ってきて、タッカーと木工用ボンドでこどもたちといっしょにつくったおもちゃ棚。
奥に見えるローテーブルもソーホースブラケットの台にカットした板を置いただけのかんたんな手づくり

「ほしい」を選べる東京・「ほしい」をつくれる山梨

いつの間にかTHE BLUE HEARTSの大ファンになっている、我が家のこどもたち。次男が『リンダリンダ』の歌詞を間違えて「♪ハリネーズミ、みたいに~♪」と歌い出せば、長男が「違うよ! ドブネズミだよ。やさしいドブネズミなんだよ」ともれなく訂正を入れるというコントが、毎日のように繰り広げられています(笑)。
先日、そんなこどもたちを私のジムニーに乗せて、いつものようにブルーハーツのベスト盤をかけていたら、『夢』という曲が流れました。「♪あれもほしい、これもほしい、もっとほしい、もっともっとほしい~♪」という出だし。それを聞いて私が「あれ? これは、ほっしゃん(次男の愛称)みたいな歌だね」と言うと、次男はそう言われたのがとっても気に入った様子。私としては、何でもかんでもほしがったり、食べたがったりして、床に寝転んで泣いてバタバタする次男を軽く揶揄したつもりだったんですけどね(笑)。以来、次男が口ずさむブルーハーツの歌にこの「夢」が加わり、「ほっしゃんはね、あれも、これも、もっともっとぜーーーんぶほしいんだよ!」と開き直るようになりました(涙)。
でも、あらためてこの歌を聞くと、シンプルでとってもいい歌詞(ブルーハーツの歌はほとんどシンプルでいい歌詞だけど)。歌詞に出てくる「本物の夢」って私にとって何なのだろうか?と考えさせられ、駄々をこねる次男を揶揄したけれど、「♪あれもしたい これもしたい もっとしたい もっともっとしたい♪」のは私も同じじゃん!なーんて思ったのでした。

コンポスト

ゴミは有料の指定ゴミ袋で出すルールであることから、生ゴミの量を減らして堆肥になるコンポストを我が家に導入。
コンポストの購入費の半額を市が助成してくれる仕組み

私は「東京でできることと山梨でできること」を意識して考えるようにしているのですが、モノが圧倒的に多い東京に対して、山梨は自然が圧倒的に多いので、実現したいやりたいことがどうしたって自然寄りになります。

「IKEA」は遠くなったけれど、ホームセンターの「くろがねや」と「コメリ」はそこかしこにあるので、家具は自分でつくってみたい!とか、オーガニックの八百屋さんはないし、スーパーにもほとんど置いてないけど、農家さん向けの農作業機器やたね・苗を売っているお店は多いから、自分で安全な野菜を育てたい!とか。東京ではできあがったモノを豊富なバリエーションの中から選んで買うことができたけれど、山梨ではモノを自分でつくることができる環境が整っているので、道具を買って自分でつくるという選択がしやすい。

せっかく今までにはなかった環境に移り住んだのだから、家具もつくりたいし、食物もつくりたいし、自宅もできれば自分でつくりたい(夫は家まではどうか…と反対ぎみなのだけど)。そう思うことはとっても自然な流れのような気がして、こどもたちといっしょに口ずさむ「もっともっとしたい~♪」にもつい力が入ってしまいます。

無肥料無農薬プランター栽培を普及させたい!

プランター講座1

講師の岡本よりたかさん。トマトの苗は横にして植えることをレクチャーしているところ

さて、先日、東京・世田谷で「無肥料無農薬プランター講座」を開催しました。山梨じゃなくて? そうなんです! 古巣、東京の三軒茶屋で開催したのです。三軒茶屋で暮らしていた時、「おやこのおへそ」という子育てサークルでさまざまなワークショップなどを3年ほど開催してきたのですが、その会でやりたかったことのひとつに、この講座があったのです。 ①家庭菜園は防災時や有事で食物輸入が制限された場合の食の備えになる
②東京に暮らして、こどもとまずはベランダでプランター栽培をしてみたいけれど、どうはじめたらいいのかわからない、というご家族は多いはず!
③安心できる食物を手に入れる究極って、自分で育てることだよね?
という3つの発想から、私は庭の持ちにくい東京だからこそプランター栽培を普及させる意味や開催する価値があると考え、この講座をしたい。私自身も無肥料無農薬栽培を学びたい。しかも、岡本よりたかさんという自然栽培で小麦を育てている環境活動家の方に教えていただきたいと考えました。

岡本さんはIT業界から転身して就農されて小麦を育てながら、長く遺伝子組み換え食物や有機栽培の危険性を説いている方なのですが、その流れで個人に向けた野菜の無農薬無肥料プランター栽培を勧められ、各地で講座を開かれていたのです。

昨秋、講座の開催をお願いしようと、岡本さんが小麦を卸している代官山のベーカリー「空と麦と」に岡本さんを直接訪ねました。岡本さんから発せられる無肥料無農薬栽培のお話は子育てに通じる話や、また「自分はどう生きたいのか?」を問うような哲学的な話も多く、やっぱり岡本さんのお話を多くの人に聞いてほしい!と強く思いました。

ただ、種まきの時期を考えたら春に開催するのがいいということで、その時は来年の3月なんてまったく自分がどういう状況になっているのか読めなかったのですが、「どうにかなるさ精神」で開催の日取りを3月5日と決めたのでした。

プランター講座2

岡本さんの哲学的で面白すぎる無肥料無農薬栽培の話に、35名の参加者が前のめりで聞き入りました

迎えた開催当日は満員御礼で、無肥料無農薬プランター栽培への関心の高さがよくわかりました。植物を育てること自体、私は超初心者で、私と同じような超初心者でもすぐはじめられるようにしたいと、岡本さんオススメのプランターや土などを紹介していただき、私からは伝統野菜や固定種のタネの専門店「野口のタネ」さんのタネを5種類、参加者のみなさんにプレゼント。「次の満月の日、たね蒔きしましょうね」なんて参加者の方と話をしました。

「ママの畑」と「わっくんの柿のたね」

なのに、なのに、辛抱できない私は満月の日(重力の関係でたね蒔きは満月の夜がいいといわれています)まで待ちきれなくて、種まき時期の目安になっているお彼岸の入りの日に、フライングでたね蒔きをしてしまいました。プランターではなく、山梨の仮住まいには庭があるので、そこに小さな畑を耕してたね蒔きしたのでした。蒔いたのは、講座で参加者のみなさんにもプレゼントした小松菜と春菊、にんじん、イタリアンパセリ、トマトのたね。それと、近くのJAのお店で買った無農薬のレタスの苗。

畑2

じょうろがなかったので、こどもたちとペットボトルとワイン瓶で水やり。
小さくてぶさいくな畑なのだけど、自分で最初からやると愛着もひとしお

こどもたちといっしょに蒔きたい気持ちもあったのですが、私、本気で野菜を育てたいので(笑)、こどもたちが保育園に行っている間に、1メートル×1メートルくらいの小さな畑をつくるくらいなのに内ももを筋肉痛にさせつつ、ひとり畑を耕してたねを蒔きました。

保育園から帰ってきたこどもたちは、小さな畑にもかかわらず、「ママの畑」とさっそく名づけて喜んでくれたので、こどもたちの水やりの量が多すぎる様子をヒヤヒヤして見ながらも、いっしょにたね蒔きをしなかったことを軽く後悔。そうだ!と思い出して、暖かな休日に、こどもたちといっしょに柿のたねをポットに植えました。

種

大切に東京で通った保育園から長男が持ってきた柿のたね。お願い! 芽、出て!

この柿のたねは、東京でこどもたちが過ごした大好きな保育園の園庭にあった柿の木の下で長男が拾ってきたもの。1歳時期の石ブームからはじまり、何かと収集ブームの波がくる長男が、東京の保育園で最後にきていたビッグウェーブ。それが、柿のたね収集だったのです。

お友だちに手伝ってもらって、柿の木をずいぶん拾ったり、あげたり、落としたりして最終的に残った8個の柿のたねを「山梨で植えたいんだ」と大切に持ってきていて、春になったら植えようと話していたのを思い出したのでした。 ググってみると、柿は拾ったたねを植えても芽が出る確率はどうやら低そうなのです。でも、岡本さんも言っていたけれど、物の本を信じてそれ通りにやるよりも、植物や土や光や水などの状況をよく観察してやりくりすれば、もしかしたら芽が出るかもしれない。

長男はとっても観察力や洞察力がある人なので、私は彼にこう伝えました。「芽が出るかもしれないけれど、出ないかもしれないからね。でも、わっくんは目がすっごくいいので、土やお日さまやお水の調子をよく見てたら、芽が出るかもしれないから」。神妙にうなずいていた長男は、登園前に「ちょっと、たね見てくる」と柿のたねが入ったポットと「ママの畑」をチェックするのが日課になりつつあります。

さてはて、はじめての「ママの畑」と「わっくんの柿のたね」はどうなることでしょうか? こちらでも追ってお知らせしたいと思います。

畑

こどもたちは自然の変化を本当によく見ている。その観察力には、はっとさせられることがとっても多い

第5回

石田 恵海(いしだ えみ)

1974年生まれ。ビオフレンチレストランオーナー&編集ライター
「雇われない生き方」などを主なテーマに取材・執筆を続けてきたが、シェフを生業とする人と結婚したおかげで、2011年に東京・三軒茶屋で「Restaurant愛と胃袋」を開業。子連れでも楽しめる珍しいフレンチレストランだと多くの方に愛されるも、家族での働き方・生き方を見直して、2015年9月に閉店し、山梨県北杜市へ移住。2017年4月に八ヶ岳ガストロノミーレストラン「Terroir愛と胃袋」を開業した。7歳と6歳と1歳の3男児のかあちゃんとしても奮闘中!
Restaurant 愛と胃袋


第1回:ハロー!新天地
第2回:熊肉をかみしめながら考えたこと
第3回:エネルギーぐるり
第4回:「もっともっとしたい!」を耕す
第5回:「逃げる」を受容するということ
第6回:生産者巡礼と涅槃(ねはん)修行
第7回:「ファミ農」、はじめました。
第8回:東京から遠い山梨、山梨から近い東京
第9回:土と水と植物と身体と
第10回:自立と成長のこどもたちの夏
第11回:自分らしくあれる大地
第12回(前編):今年は引越・入学・転園・開業・出産!
第12回(後編):今年は引越・入学・転園・開業・出産!
第13回: 素晴らしき八ヶ岳店スタート&出産カウントダウン!
第14回:出産から分断を包み込む
第15回:味噌で、映画で、交わる古民家
第16回:夫、妄想殺人事件!

研究員プロフィール:石田 恵海

つくるめぐみ代表
得意なテーマは自ら実践する「田舎暮らし」「女性の起業」「自由教育」。八ヶ岳ガストロノミーレストラン「Terroir愛と胃袋」女将であり、「自分らしい生き方」などをテーマとした編集・ライターでもあり、三兄弟の母でもあり、こどもたちをオルタナティブスクールに通わせている。「誰もが、オシャレしてメシ食って恋して仕事して、最期まで自分を生きられる、自立した社会づくりに貢献すること」を理念に活動。2020年より古民家一棟貸しの宿、棚田を愛でながらコーヒーを楽しむカフェ・ギャラリーも開業する。
Terroir 愛と胃袋

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