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宇樹とITとの関わり & ITの課題をどう超えていくか?【後編】



発達障害当事者ライター宇樹義子×mazecoze研究所「ほしいもの創出プロジェクト」 
プロジェクトの概要
前編


まだまだ続く、いまの幸せはITのおかげ

最近は活動量計(腕時計のような形で、心拍数などのヘルスケアデータのログをとってくれる)や音声アシスタント(声でデバイスを操作できるシステム)も活用して、セルフケアや日々の生活をどんどん楽で面白いものにしていっています。



宇樹が使っている活動量計は「GARMIN」


発達障害者には自分の疲れを自覚するのが不得手な人も多いですが、活動量計の中には体力の残りやストレスのレベルを表示してくれるものがあり、これが体調管理にめちゃくちゃ役立ちます。アプリと組み合わせて一日の消費カロリーや摂取カロリーを記録するのも簡単なので、ズボラな私がカロリー計算を始めて、数ヶ月で4キロ痩せ、以降キープしています。ジムに行っても痩せなかったのに……。

家事の最中にはスマートスピーカーをもっぱらタイマーとして使っています。「5分のタイマーをかけて」など、手元でなにか作業しながら声だけで操作でき、止めたいときは「ストップ」と一声かけるだけなので、ものすごく便利。これのおかげで、洗濯機をまわしたまま忘れて家事が滞り、自己肯定感も目減りしていく…… みたいな悪循環がなくなりました。


スマートスピーカーにはAmazon Echoを活用

最近は、もともと対面でしなければならなかったことをオンラインで済ませられるようになったことにも本当に助けられています。オンラインでカウンセリングや面接を受けたり、ミーティングすることができる、日々の買い物もほぼ出かけずに済ませられる。そもそも私の場合、仕事ほぼすべてが完全在宅で済ませられる。

AIの発展も目覚ましいですね。私は、AIボットが会話の相手をしてくれる質の高いAI会話アプリや、認知行動療法向けのAIボットも活用しています。

ITのよいところは、身体性の縛りを超えられるところ

ITのいちばんよいところは、「身体性(身体がどこにあるとか、どの程度動くとか、どんな容姿をしているかとか)の縛りを超えられる」ところだと私は思っています。

10年ほど前に「セカンドライフ」という仮想現実オンラインソーシャルゲームが流行りました。仮想現実世界の中で、みなが自分のアバター(分身)を使って行動するゲームです。

当時はセカンドライフ内で採用のための説明会や面接が行われましたし、年をとって身体が動かなくなった老夫婦が、若い姿のアバターを使ってのびのびデートしているという、かなりいい話も聞きました。

今はもっと技術が進みました。カメラとマイク、表情や動きを再現するしくみが備わっていて、本人がどこにいてもまるでそこにいるかのように交流のできる「分身ロボット」も開発されています。障害で寝たきりの人が分身ロボットを使い、店員としてお客にコーヒーを提供したり、会話したりするカフェも誕生しました。

ITは、離れたところを一瞬で容易につなぎます。心身の障害や忙しさ、経済的理由などで外出できない人同士が、オンラインで一堂に会して会議やリモートワークすることが可能ですし、今後分身ロボットが普及していけば、家から出る用事があるのは分身ロボットだけ、みたいな未来だってありえます。

ニッチな趣味や発生率の少ない病気・障害のある人にとっては、数少ない仲間に出会える場を用意してくれるのがITですし、仕事においては、能力さえあれば田舎の山奥に住む人が海外の大都市の企業に採用されることも可能なのがITです。

洗濯機や掃除機、食洗機は人々の家事負担を軽減しましたが、今度はこういった家電はそれぞれがネットワークでつながれるようになり、機能もより充実して、場合によっては家事のほとんどを自動化できるようにもなっています(スマートホームといいます)。

仕事や会合のためにわざわざ交通費と時間と体力を注いで出かけなくていい。身支度の手間も必要ない。世界中の相手とコンタクトをとることができるため、たとえば緊急でカウンセリングを受けたいときに、時差のある地域に住むカウンセラーに連絡をして、その日のうちにカウンセリングを受けることもできます。(ビデオ/電話カウンセリング
ログ(記録)が簡単にとれるので、要らぬトラブル発生のリスクは軽減できますし、蓄積されたデータを分析して、良かった点の維持向上や、今後の改善に役立てることもできます。

こうした利点が積もり積もって、ITは、人々のストレスや疲れ、環境問題を軽減することにも役立つでしょう。さまざまなところでコストカットがかない、事業の立ち上げや維持も容易になるため、多様なサービスをより安価に提供したり受けたりすることができるようになるでしょう。「出かけられる」ことが仕事上で必須のことでなくなるため、障害者や病気の人にも仕事のチャンスが今よりも多く巡ってくるかもしれません。

現在、新型コロナウイルスの流行をきっかけとして、オンラインでの学習サービスやリモートワークが一挙に普及してきています。ネット通販が普及しているため、発熱などの症状がある人が家にこもって自己隔離しながらいつもどおりに生活することも比較的簡単です。
電力が途絶えてしまえば終わりという難点はあるものの、ITは私たちの困りごとの多くを軽くしたり解消したりしてくれます。人よりも多くの困りごとが多く、生きづらさを感じている障害者や病気の人にとっては、ITはもはや生きづらさの多くを吹き飛ばしてくれる救いと言ってもいいでしょうし、非常時には人々のかなり強力なインフラとして活躍してくれるとも言えます。

ITの抱える課題をどう超えていくか?

ただし、ITにも課題はあります。何もかもログが残ることによる弊害や、個人情報の扱いの難しさ。簡単に人間関係を切ってしまえたり、良くも悪くも情報の拡散が早かったりするため、人間関係の不安定な人には人との距離感の繊細な調整が必要です。人類にいまだかつてなかった大量の情報刺激にさらされることによって、人々が精神衛生を損なうリスクもあります。

ITを通しての交流は、現在のところはどうしても「同じ食卓を囲む」ような距離感は望めませんし、各種サービスのコストが下がっているぶん、悪意での濫用もしやすくなっています。さまざまなサービスのコストが低く見積もられて報酬が目減りしていったり、今まで人間がやっていた職種がAIやロボットにとって代わられていく危険もあります。

これは最近気づいた重要な点なのですが、IT社会には「情報をまとめて個々人向けに最適化することのハードルが高い」面があります。「Aさんだけのための、Bさんだけのための、私だけのための」情報にたどりつきづらい。

この、個人に最適化された情報を得るためのハードルの高さは、「情報の発信が容易な一方で、受け取る側の情報を集めるのには多くの手間がかかる」ところからきている気がします。IT社会では、直接の交流と比べ、提供側の発信する情報と受け手側の開示する情報の量がアンバランスなのです。

提供側と受け手側の情報量がアンバランス、これは書籍や新聞雑誌、Webサイトなどにも似た傾向はあって、マスメディアの宿命でもあります。この宿命を打破するためには、情報提供側が積極的に変わっていくことが必要なのではと思います。

たとえば、情報提供側が受け手側と「相互に情報をやりとりしあう」関係性が作れると、情報の質と精度はより高まっていくでしょう。書籍や新聞雑誌にはなかなか難しいでしょうが、ITを活用した場では人々の関係性を多様に演出できるため、こうした相互的な関係性も作っていけるのではないでしょうか。

宇樹はいま「相互交流的なコミュニティ」がほしい。つくりたい!

少し飛躍した話になりますが、人が自分自身を理解し向上していくにあたって、「他者と比較する」「他者と交流する」「他者とすり合わせる」ことはとても重要なことなように思うのです。

さいきん医療・介護・福祉の分野で重要性が認識されてきているナラティヴやオープンダイアローグといった文脈でのありかたからしても、情報提供側と受け手側の関係性がフラットで相互的であることはもろもろ良い効果を呼びそうです。
つまり、私が感じているIT社会の課題を解決するには、「相互交流的なコミュニティ」が必要だと言える気がしてきました。

自分自身もコストを抑えつつ、より多くの人と多様な交流をしながら情報をやりとりするには、もちろんオンラインのコミュニティがよいでしょう。それも、相手の情報を得るにはかなり個人的な交流が必要ですし、相手の情報が広いネットの海に放流されてしまわないように、このオンラインコミュニティはクローズド(参加者以外には非公開)である必要があります。

運営者には場を運営するためのさまざまなコストが必要なので、質の高いコミュニティを維持していくには多少の運営費があったほうがいい。とするとコミュニティは、会費を払って参加する有料のものである必要がある。

というわけですね、私はいま、めちゃくちゃ、「オンラインの有料コミュニティ」を作りたい気持ちになっています。実はもともとぼんやりと「作りたいなあ」と思っていたのですが、なぜ自分が本でもなくブログでもなく「オンラインの有料コミュニティ」をやりたいのかを、いま考えていて初めてはっきり言語化できて感激しています。

mazecozeさん、宇樹は「オンラインの有料コミュニティ」がほしいです!! ぜひ、この方向でやっていこう!!

●宇樹義子さんの本


宇樹 義子

発達障害当事者ライター。mazecoze研究所研究員
高機能自閉症と複雑性PTSDを抱える。大学入学後、10年ほど実家にひきこもりがちに。30歳で発達障害を自覚するも、心身の調子が悪すぎて支援を求める力も出なかった。追いつめられたところで、幸運にも現在の夫に助け出される。その後発達障害の診断を受け、さまざまな支援を受けながら回復。在宅でライター活動を開始。
著書に『発達系女子 の明るい人生計画 ―ひとりぼっちの発達障害女性、いきなり結婚してみました』がある。その他、発達障害やメンタルヘルスをテーマとした雑誌などに寄稿。精神医学などについての勉強を重ねつつ、LITALICO仕事ナビなどの福祉系メディアでも活動している。
公式サイト
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