English

新たなトイレの語り部「トイレコンシェルジュ」を創出したい。トイレプロジェクト、始動!

mazecoze研究所 │ 2020.09.08
(イラスト:福富優一)

ほしいもの創出プロジェクトとは?
多様性に光を当て、問いを立て、アクションを考えることからテーマオーナー(話題提供者)やプロジェクトメンバーがほしいと思うものを生み出す実験をするプロジェクト。

>第1弾:発達障害当事者ライター宇樹義子×mazecoze研究所
>第2弾:トイレコンシェルジュ プロジェクト

ほしいもの創出プロジェクト 第2弾のテーマはトイレ!

毎日当たり前のように利用するトイレ。
特に公衆トイレは、生きていくために必要不可欠な排泄行為を外出中にも行える場所です。そんなトイレの「課題」と聞いて、みなさんはどんなことを思い浮かべますか?

はじめまして。福富優一と申します。

私はいま、ダイバーシティ&インクルージョンの様々な領域に興味関心を持ち、広く社会への課題意識をもって、解決のためのアクションを創りだす活動をしています。

先日終了した、筑波大学エクステンションプログラム「インクルーシブ・リーダーズ・カレッジ(以下ILC)」にも参加し、毎回、話題提供者から出される多様なテーマの問いに対して、課題設定や解決のためのアクションを考えてきました。

筑波大学インクルーシブ・リーダーズ・カレッジ、講義の様子。ナビゲーターの河野禎之先生と 画像提供:筑波大学インクルーシブ・リーダーズ・カレッジ

先日、ILCで最終課題として提示されたのが、TOTO株式会社でトイレのダイバーシティに取り組まれている冨岡千花子さんからの、「1人でも多くの人が利用しやすいパブリックトイレ空間とは?」という問いでした。

その回のチームは、株式会社NTT東日本サービスでダイバーシティ推進に取り組む須黒さん、企業で障がい者雇用を担当する伊藤さん、mazecoze研究所のひらばるさん、私の4人

画像提供:筑波大学インクルーシブ・リーダーズ・カレッジ
画像提供:筑波大学インクルーシブ・リーダーズ・カレッジ
画像提供:筑波大学インクルーシブ・リーダーズ・カレッジ
 画像提供:筑波大学インクルーシブ・リーダーズ・カレッジ

私たちが出したアクションが、この記事のタイトルにもある、新たなトイレの語り部「トイレコンシェルジュ」を創出したい、というものだったのです。

いま私が記事を書いている理由、それは、私たちのチームが思考したことの言語化(記事化)を通じて、問いに対してのアクションを実際に起こすためです。

ぜひ、みなさんも自分ならどんなことを考えるかな、と想像しながら読み進めていただけたらうれしいです。

筑波大学エクステンションプログラム「インクルーシブ・リーダーズ・カレッジ」

多様化が進む社会に対し、筑波大学が有する学術的知見と先進的な実践に取り組む企業、団体からの最新事例や話題提供をもとに、「人の多様性」を多角的に理解し、ディスカッションを通して、不確実性が増していく次代のリーダーシップについて学ぶ講座。
講座詳細

画像提供:筑波大学インクルーシブ・リーダーズ・カレッジ

公衆トイレの課題、その前に

話を冒頭の公衆トイレの「課題」に戻します。
私がぱっと浮かぶものは、個室トイレの渋滞や、こもった臭い、小便器脇のおこぼれの放置などでしょうか。

もっと改善すべきところがあるよね」と思う方もいらっしゃるでしょう。

ここで注目したいのは、後者の方が抱いたような、異なる視点からの課題に対する私の想像力についてです。

ついつい自分中心に使ってしまう公衆トイレ。
私自身、公衆、つまりパブリックな空間であることを忘れ、その時その場で使えればそれでいいと、自分が不自由なく使えることが当たり前になっていました。

当初抱いたパブリックトイレに対する「課題」も、今現時点で私が不自由なく使えることを前提とした、「それ以上の快適」を求める姿勢でした。

一方で、多様な利用者はそれぞれ多様な目的と方法でトイレを利用しています。
私にとっての快適なトイレが、周りの人にとって快適なトイレとは限りません

「1人でも多くの人」はパブリックトイレに対してどのような「課題」を抱いているのでしょうか。そしてその「解決」のためにできることは?

TOTO UD(ユニバーサルデザイン)の知の結晶、パブリックトイレ空間とは?

ILCの講義で、TOTOの冨岡さんがしてくださった話題提供があります。

TOTOさんはこれまでずっと、ユニバーサルデザイン視点でものづくりを進め、多様なトイレの利用者はどのような課題を抱き、それをどう解決するかを実践し、パブリックトイレ空間づくりに取り組まれてきました

冨岡さんの承諾をいただき、ここでいくつかの内容をご紹介したいと思います。

  • ジェンダーの観点では、男女によってトイレを利用する目的が若干異なることから、男女それぞれのトイレに求められる機能も変化している

  • 小便器と個室トイレが分かれており、比較的排泄以外の利用目的が少ない男性用トイレに比べ、全て個室トイレで、排泄以外の利用目的(身なりを整えるなど)が多くみられる女性用トイレでは、混雑が大きな課題として挙げられる。この課題の解決に向けた取り組みとして、手を洗う場所と、身なりを整える場所などそれらの目的別でスペースを分け、利用者を分散させるというスムーズな動線づくりがなされている

  • 日本の多くのトイレには便利な機能がたくさんついており、それらを使用するためのボタンがいくつも設置されている。利用者の中には、それらのボタンが何のボタンなのかを示す日本語を理解できない人や、目視で確認することが難しい人もいるため、印字文字の説明だけでなく、ピクトグラムや点字、色や形などを工夫し、それらのボタンの用途の違いが分かるように工夫されている

  • トイレのダイバーシティに関する課題の多くを占める多機能トイレは、車いす利用者や介助等を必要としている人、妊娠中の人や小さいお子様連れの人、オストメイトなど、男女トイレの機能的な不十分さを解決するために設けられたトイレ空間。
    機能だけでなく、様々な理由から男女トイレを利用したくない人や利用が難しい人、外出中に着替えをしたい人などにとっても、男女トイレと分けられた広い空間は必要とされている。一方で、様々な機能が1つの部屋に集まっていることから、新たな課題も生まれている

目に見て分かる表層的なダイバーシティだけでなく、一見しただけではわからない深層的なダイバーシティが人々には存在していることから、多機能トイレを使いたくても使いづらい人がいること。

例えば、オストメイト(人工肛門、人工膀胱保有者)は、スムーズな排泄のために特設のトイレが多機能トイレ内に設置されています。しかし、服を着た状態では本人がオストメイトであることを周りが一見して認知することは困難です。
「なぜ健康そうな人が多機能トイレを利用しているのか」という好奇の視線に晒されたり、時には声をかけられ注意されることがあるそうです。

セクシュアルダイバーシティやニューロダイバーシティ等の領域から多機能トイレを利用したい人にとっても、同様の理由から利用しづらい環境が生まれています。このことから、外出時にトイレに行くことを避け、水分量を減らして脱水症状になってしまったり、我慢しすぎて膀胱炎になったりしてしまう人もいるそうです。

現在これらを解決するために、多機能トイレに集約されてきた機能を分けていくという機能分散に取り組まれているとうかがいました。

このような取り組みは全て、1人でも多くの人が利用しやすいパブリックトイレ空間を提供することを目的に行われているのです。

私は冨岡さんのお話を聞いた時、自分が想像していた以上にトイレに課題があることを初めて知りました。
そして、これらの課題を知っていれば、これまで他の利用者に配慮できたこともあったのではないかと、知ろうとしていなかった自分を悔やみました。

大阪万博万歳なすごいトイレを構想

私たちのチーム名は「大阪万博万歳なすごいトイレを作っちゃおう!」に決定

話題提供の後、冨岡さんから「1人でも多くの人が利用しやすいパブリックトイレ空間とは?」という問いが出されました。プロジェクトが動き出した瞬間でもあります。

須黒さん、伊藤さん、ひらばるさん、私の4人で、問いに対して私たちなりのソリューションを提案する企画型のグループワークに入りました。

発表までに与えられた期間は2週間。まずは、オンラインホワイトボードのmiroを使って、それぞれの感想をもとに、プロジェクト提案に向けて企画をだしました。

はじめは、それぞれが思い浮かべることをすべて出す作業

私たちが想定するトイレの設置場所として、全く新しいトイレのシステムを構想したいという思いから、近い将来開催予定のイベントを探し、5年後開催に向け準備が始まっている大阪万博に注目。

大阪万博について調べたこと

2025年大阪万博、日本国際博覧会は4月13日から10月13日までの184日間、大阪の夢洲という場所で開催される予定。
全世界から不特定多数の多様な人々、約2800万人来場するだろうと想定されている。
ここから、万博開場に設置されるトイレも、多様な人々が利用できるユニバーサルデザインと、混雑を緩和できるような動線、システムづくりが重要であることがわかる。
大阪万博が掲げるテーマは、「いのち輝く未来社会のデザイン」。
「-People’s Living Lab-未来社会の実験場」というコンセプトが掲げられている。

これらのテーマとコンセプトを元に、「未来社会の実験場として、SDGs達成への貢献と、Society5.0実現に向け、世界80億人がアイデアを交換し、未来社会を共創する」という万博の指針が打ち出されている。

大阪万博としてSDGs達成への貢献に力を入れており、達成目標である2030年の5年前の開催が予定されていることからも、大阪万博がSDGs達成に向けた1つの指標としての役割を担っていくと想定される。

上記のような、大阪万博の情報も参考にしながら、SDGs達成への貢献を念頭にディスカッションを行ったり、テクノロジーとパブリックトイレの融合について考えながら、「1人でも多くの人が利用しやすいパブリックトイレ空間 ×  大阪万博」について議論を深めていきました。

ILC講義でのプレゼンテーションスライドより

未来のトイレのコンセプト

画像提供:TOTO株式会社 ILC講義でのプレゼンテーションスライドより

そうしていく中で、私たちが大切にしたいコンセプトとして4つの視点と、具体的なアクションが浮き上がってきました。

zoomでふせんを動かしながら対話をし、コンセプトがギュッと凝縮されてきた

1つ目は、多様な利用者、多様な目的からの視点です。

利用者が抱く課題にはそれぞれ、「ここだけはゆずれない」本質的なものがあると考えました。
それは、誰にとっても排泄やプライバシーは人の尊厳の話であること、そしてその尊厳が守られるトイレであるべきだということです。
そのときに、テクノロジーの利便性を活かしながらも任せきりにせず、いまいちど「人間が介在するからこそできること」にも立ち返ってみようと。人が人の尊厳を守れるようなトイレだったらなお良いよねと話しました。

2つ目は、トイレを作る側、設置する側からの視点です。

多様な利用者の多様な利用目的、利用方法など全ての課題を考慮してトイレを設計することはとても困難な作業です。
なぜなら、誰かにとっての100点満点のトイレは、誰かにとっての0点のトイレにもなってしまうかもしれないからです。
一部の人の便利さや要望を追求することは、そのほかの要望を持った人々を無視してしまうことにもなりかねません。
私たちは、すべての人にとって100点満点のトイレはない、むしろなくていい
「1人でも多くの人が利用しやすいパブリックトイレ空間」は、誰にとってもそれなりに使える、50、60点くらいのトイレなのではないかと考えました。
誰でもそこそこ問題なく使えるようにするためには、開発された機能と利用者を繋ぎ応援する役割があっても良いのではと考え、それを実現するアクションとして「多目的」の新たな導線づくりを掲げました。

3つ目は、公共、パブリックという視点です。

この記事で触れてきましたが、私自身、トイレの課題に取り組むまでは、自分中心的な視点でしかトイレを利用してきませんでした。
そのため問いの本質として、利用者全体が「公共」という意識を持つことが大切なのではないかと考え、パブリックトイレの意味(多様な利用者や多様な目的)や、それにまつわる物語(そのトイレを設計した人の想いなど)をシェアするなど、機能だけではない、トイレの付加価値を伝えることをアクションとして掲げたいと考えました。

4つ目は、人間社会と自然の循環からの視点です。

本来排泄は、排泄物が自然に還り、土となり養分となり、植物など食べ物になってまた自分の体に還ってくるという自然との循環を生み出す行為でした。
しかし現在では、自分の排泄したものはすぐに流れていき、その後それがどのように処理されているのか考える必要もありません。
このことから、排泄行為と自然の循環など、地球環境や持続可能性について身近なトイレから知ってもらうことで、人だけでなく自然の尊厳も守れるのではないかと考えました。
また、自然の尊厳も守れるという役割をトイレが担うことで、排泄に対する汚いなどといったネガティブなイメージを払拭できるのではないかとも考えました。
と自然の尊厳を守れるトイレを実現するために、排泄だけではない価値ある時間づくりをアクションとして掲げました。

以上の4つの視点を軸に、次のアクションを掲げました

  • 「多目的」の新たな導線づくりとして、最先端のテクノロジーを駆使した多様な機能や選択肢を的確に伝えること
  • 機能だけでない、トイレの付加価値を伝えるために、トイレ=パブリックな空間であるという認識、公共性の認知促進させること
  • 排泄だけではない価値ある時間を作るために、排泄を通して人も自然の一部であることを実感できるような取り組みを行うこと

アクションを具体化するためのジャンプをどうするか?
そこで出てきたのが、「トイレコンシェルジュ」と名付けた人材の創出
だったのです。

トイレコンシェルジュを創出したい

画像提供:TOTO株式会社 ILC講義でのプレゼンテーションスライドより

私たちの考える「トイレコンシェルジュ」とは、
「多目的の新たな導線を担う、理念に基づいたトイレの語り部」です。
人も自然の一部であることを実感でき、生きていることに喜びと幸せを感じられる、皆が笑顔になれるトイレ空間を、利用者と共に創っていくリーダーだと考えました。

トイレコンシェルジュは、最新テクノロジーを駆使して、多様な機能や選択肢を的確に伝え、誰1人取り残さない楽しむトイレを提供する人。
トイレ=パブリックな空間であるという認識、公共性の認知を促進させ、排泄と自然の循環や多様な用途について伝え、排泄を価値ある時間にする役割……。

実は、これ以上の「トイレコンシェルジュ」の詳細は考えていません。スローガンにもあるとおり、利用者と共に創っていくことを大切にしたいからです。

ダイバーシティとひと言に行っても、その多様さはしばしば自分の理解や想像を簡単に超えてしまいます。多様な利用者や多様な使用目的に対し、よりスマートに素早く的確に対応できるのは、きっとAIやロボットなどのテクノロジーでしょう。

けれど、多様な人の心に寄り添い、その声に耳を傾けることができるのは、唯一同じ人間にできることだと思います。

すべてをテクノロジーで解決するのでなく、そうした最新技術を使いこなし、多様な人に寄り添うことのできる新たな人材を創出することに意義がある、と私たちは考えました。

トイレコンシェルジュが活躍することを想定している2025大阪万博では、きっとたくさんの多様な人々が万博会場に訪れるでしょう。その多様性に圧倒されながらも、その多様性を守り活かして、新たなパブリックトイレ空間から始まる豊かな未来を、利用者と共に創っていくのではないでしょうか。

ここまでが、私たちがこれまで考えてきた話です。
さて、ここからどうするか?
もちろん、このまま終わらせる気はありません(笑)

この記事は、「ほしいもの創出プロジェクト」として、私たちの「ほしいもの」を言語化しながら探究していく企画です。

問いから生まれた、私たちのほしいものは「トイレコンシェルジュ」。
ここからトイレコンシェルジュを生み出すための次なるアクションを、様々な人と連携しながらとっていきたいと思っています。
またご報告します。

トイレコンシェルジュ プロジェクトメンバー

福富優一

ダイバーシティの探究と実践の会「team OVER the RAINBOW」共同代表
ダイバーシティ&インクルージョンの様々な領域にわたる興味関心や、広く社会への課題意識を共有し、探求し、解決のためのアクションを共に創りだす活動をしている。

須黒扶美

株式会社NTT東日本サービス 企画総務部 総務人事部門
総務担当 ダイバーシティ推進室兼務 広報担当課長
NTT東日本のコールセンタ業務を営む会社にてダイバーシティの業務に携わり1年。勉強中!

伊藤香織

通信会社 人事本部勤務 2010年より障がい者雇用を担当
社内のノーマライゼーションの推進に取り組んでいる

ひらばる れな

mazecoze研究所代表
「ダイバーシティから生まれる価値」をテーマにダイバーシティプランニングの企画立案からプロジェクト運営、ファシリテーション、コーディネート等を行う。
記事一覧

●編集協力・画像提供:
TOTO株式会社
筑波大学インクルーシブ・リーダーズ・カレッジ
●執筆・イラスト 福富優一
●編集 プロジェクトメンバー一同

ページトップへ戻る