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みんなで考える「保活」その1:保育制度のはざまにめり込む個人事業主の「保活」対談

福留 千晴 │ 2020.10.16

個人事業主=「保活」マイノリティ

2020年10月某日。「保活」について話しだすと止まらない2人。

ひらばる
多様な立場の人が「保活」について考えるきっかけになればという思いから、mazecoze研究所で“みんなで考える「保活」”特集をはじめることになりました。前の記事にもありますが、はじまりは、福留さんが書いたコラムから。

これからの教育と、本当の働き方改革

今日は、コラムに書かれている話にもふれながら、私たちが個人事業主として体験した「保活」について話してみたいと思います。

※「保活」は保育園に入るための活動のこと
※以下に記載する各自治体における情報等は対談当時(2020年10 月時点)のものです

福留
我が家に衝撃が走ったのは、およそ1ヶ月前です。
いま子どもが通っている保育室が、来年3月に閉所することに決まったと連絡を受けました。おのずと転園を余儀なくされるのですが、次の園への優先入園や加点などはなく、「またゼロベースで申請をしてください」ということだったんです。区からの唯一の譲歩は、遠くてビルの中にある希望していない新設園への優先入園(当時)でした。

※保育室:認可保育園へ入れなかった子への救済措置として区が設けている保育施設。現在区では新設の認可保育施設を増設することで、段階的になくしている(杉並区の定義)

ひらばる
通っている保育室が閉所になってもう一度保活しなきゃいけないって、想像しただけで震えるんですけど……。だって福留さん、その保育室に入るのにも大変な思いをしてますよね。

福留
そうなんです。私が個人事業主であることで、希望した認可保育園全てに落ちました。いま住んでいる杉並区では、育休を取得できる会社員の人に付与される育休加点というのが2点あります。それは見方を変えると、育休なく働き続ける個人事業主にとっては実質の減点となるわけで。希望したすべての入園者最低点数に2点届かず、認可保育園に入ることができませんでした。

ひらばる
選考指数を満たす会社員でも待機児童になることがある中で、マイナス2点は絶望的ですね……。

福留
あ、自分っていま社会の隙間に落ちてるんだって実感しました。
いろいろ調べて区長宛に「意見書」を提出したりしましたけど、何かが変わることはありませんでした。なんで普通に仕事を続けるということすらできないんだろうと。

ひらばる
個人事業主は特に、「保活」におけるマイノリティですよね。
私も保活激戦区といわれる世田谷区で長女の保育園を探し、同じような体験をしました。まず、個人事業主で育休復帰ポイントがつかず、認可園は全て落ちて。
認可外の保育施設は見学先着順が多く、私が見学に行った時には「前に100人以上予約しています」みたいなところがほとんどでした。
1園だけ、はやい時期に見学していた保育室があって、電話で頼み込んだら園長先生が「自営の人はね、みんな本当に大変なんだよね。また電話してね」って言ってくれたんです。週に数回電話しました、しつこく(笑)
それでとうとう先生が「うち来る?」って言ってくれて、保育室に入ることができたんです。もうこの話をするといつでも泣けてきちゃうんですけど。

福留
それ、泣いちゃいますね……
私も、どこも入れなくて、仕事が続けられないかもしれないとわかったとき、区役所の窓口で思わず号泣してしまって(笑)
この人やばいって思われたんだと思います。窓口の方が「大丈夫だから、なんとかなるから」って接してくれたんですけど。これまでと同じように働き続けるだけで、ここまで追い詰められるのか、戦わないといけないのかと……。
保育室は杉並も世田谷も満3歳までですよね。ひらばるさんはそこからどうやって認可保育園に入れたんですか?

ひらばる
うちの区では保育室に通っていると「認可外保育園に預けている」という実績のポイントがついて、その加点で新設の認可保育園に移ることができました。
なんていうか、自分はラッキーが重なっていま仕事できているとしか思えなくて。
あのとき保育室に入ることができなかったら、いまのように働き続けることは難しかったです。みんなが長く働き続けることになる「人生100年時代」に、ラッキーじゃないと仕事できないってどういうこと?って。

福留
ただでさえ出産は命がけなのに、キャリアと収入を常に天秤にかけなければならない状況では、産む人は減らざるを得ないと思う。

ひらばる
私のは数年前の体験ですけど、当時とは状況が変わってるんだろうなと思ってました。でも、福留さんの話を聞いて、今も「保活」ってゼロどころかマイナスからのスタートなんだと。特に個人事業主は、地面にめり込んでて歩けないレベル……。

福留
セミ……?(笑)
このままじゃ誰も産まなくなってしまうし、正直、後に続く世代におすすめできない。でも、少しずつ変えていきたいなと。

ひらばる
福留さんが声を上げているのを見て、喉元過ぎればの自分に気づいたんです。私は現状何の問題もなく働けていて、あの時の辛さを忘れていたし、いまその立場にいる人のことを想像することもしてなくて。
それと、現場の園長先生や保育士の先生には、足を向けて寝られないくらい感謝しているからこそ、自分の「保活」体験を発信することに精神的なブレーキがかかっていたというのもあります。

福留
ひらばるさんがあえて声を上げてこなかった理由もすごく染みました。
私も、今の園長先生や先生方には本当に感謝してるので、声をあげることがなんだか後ろめたかったです。でもこの園でよかったなと思うのは、園長先生も直々に「おかしい」と区役所に意見してくださったり、先生方も「もっと怒っていいよ!」と言ってくださったので火がついたのもあるかも。

ひらばる
働きたい人、働かざるを得ない状況の人が、ただ働くという選択肢を掴み取れない状況に、これ以上目をつぶっていてはいけないですよね。mazecoze研究所らしく、多様な視点で「保活」の新しいあり方を探っていけたらいいなと思います。

福留
今回は私たちの実体験をもとに、個人事業主の「保活」について話していますが、“みんなで考える「保活」特集全体では、ママ&個人事業主たちだけで「保活」を語らないというのもテーマな気がしています。
パパたちも超過勤務と戦いながら育児に参戦したり、実際に我が家も夫が育休取得するときはまぁ大変でした。いろんな問題が複合的に絡み合っていると感じます。

ひらばる
ぜんぜん違う活動をしている人からも話を聞いてみたいです。そこから得られる新しい視点が思わぬ形で活かされることがたくさんある気がします。「保活」についてみんなで考えることは、持続可能な社会のあり方を探究することにもつながりますよね。

個人事業主たちのリアルな「保活」

保育園申請資料

ひらばる
ところで冒頭の、保育室の閉所通告と再申請問題は、まだ解決されていないのですよね。今どんな状況ですか?

福留
2020年10月現在、再び保活中です……。
今年4月に保育室に入園して、コロナ休園もあり、やっと最近通い始めてまだ数ヶ月なんですが、ふたたびゼロから「保活」に参戦しなきゃいけないなんて思いもしませんでした。

ひらばる
いろんな方向から類稀なる「保活」体験をされているわけですが……。また点が低いところからですか?

福留
私は基本的に前回と変わらず加点なしで、たまたま夫が育休取得期間外のため加点対象になるかどうかという状況です。
正直、こんな状態で、家庭が崩壊するか、私がキャリアか健康か精神を失うか、壮絶なものと引き換えじゃないと2人目なんて望めないです(笑)

ひらばる
2人目というと、我が家の2人目「保活」もなかなか痺れますよ。うちの区の保活当時の話ですが。

福留
聞く前から泣けてきます……。

ひらばる
2人目って「兄弟ポイントがつくから認可園入れる」っていうのが通説なんですけど、そう簡単にはいきませんでした。
個人事業主には、会社員が利用するような産休・育休制度はありません。労働基準法の母性保護規定(第65条第1項、第2項関係)では、産前6週間と産後8週間は女性を就業させることはできないと規定されていますが、個人事業主は育児休業給付金のような保障もないので、仕事がストップすると収入も止まるし、関わっている仕事を完全にストップさせることは実質難しいので、産後すぐ働く人が多いですよね。私も陣痛の合間に仕事してましたし(笑)
それは仕方ないにせよ、驚いたのは、産後一定期間(私の時は2ヶ月)で仕事に復帰しないと、休業状態と見なされ上の子が保育園退園になることがある、という話でした。いまは変わったみたい、誰かが声を上げてくれたのかな?
さらに、私は産後すぐ子どもを見ながら働いていたのですが、そうすると「保護者が申込児を自宅で保育している場合(産休・育休中は除く)マイナス6点」になると。この6点減点、兄弟ポイントの5点よりも多いんですよ……。

※世田谷区ではその後制度が変わり、育児・介護休業法に基づく育児休業の適用を受けられない個人事業主でも、子どもが満1歳になる前日までの休みは、世田谷区の入園選考では育児のための休業(みなし育児休業)とみなされるようになった

福留
え!それって、産後体を休めるために仕事を休んでもいけないし、保育しながら働いてもけっこうな減点になるってことですか?では一体どうしたら良いのだろう?

ひらばる
区の窓口で何度か相談したんですが、「それは6点減点になりますね……」という返事でした。担当の人も申し訳なさそうに言ってくれるのですが、ルールだからどうすることもできないんですよね。ちなみにこの減点は現在も変わらないそうです。

福留
私だったらもう泣き叫ぶレベルですが……。それで、どうしたんですか?

ひらばる
偶然にもその時夫が海外に単身赴任していたので、その加点があって、あと兄弟ポイントでなんとか。ここでもまた偶然に助けられるという(笑)

福留
ひらばるさん、単身赴任中のワンオペすごく大変そうでしたよね。倒れてしまうんじゃないかと気が気じゃなかったです。

ひらばる
それが、あんまり記憶がないんですよね。
昔の資料を探していたらメモが出てきて、「平日は思うようにいかない子連れ仕事の後、上の子を保育園に迎えに行ってごはん、お風呂、寝かしつけ、夜間授乳。自分の体を乾かす暇もない。休日は朝から晩まで息をしている感覚がない。子どもたちの命を守れるか、恐怖感がすごい。けどなんとか楽しくやっています!」って最後だけ明るく書かれていて(笑)

福留
やばい、やばい、やばい(笑)

ひらばる
母が何度も上京してフォローしてくれたり、夫もできる限り帰ってきてくれたり、仕事仲間やママ友も心配してくれて、本当に助けられたしありがたかったです。でも、今思うとギリギリだったんだなって。
そんな中で「保活」もして、そしたら子連れ仕事できてるんだから減点になるとか、ほんと、打ちのめされました。

子連れの打ち合わせ。無理め

福留
私もそうだったんですが、ギリギリでやっているとその渦中にいる時ってなかなか事態に気づけないんですよね。特に産前産後で脳も体も急激に変化してるし、気が張っていて。
ひらばるさんが前に言ってくれた、「先生や現場には感謝してもし尽くせないけど制度自体がやさしくない」って言葉が改めて身に染みています。
これはもうこれからの時代の、働く母たちや個人事業主のための闘いだと思ってます。

しくみが優しくないから分断されている

福留さんに「保活中の気持ちを表現する写真あればください」って言ったらくれた曇り空

ひらばる
こういう話をするとどうしても、会社員と個人事業主の対比になりがちですよね。
会社員と比べると個人事業主はこんなに理不尽だと。実際、「保活」当時の自分の中に「なんで会社員はこんなに優遇されるんだろう」と妬むような気持ちがありました。
でも、保育園に入ってみると、働く父母はまさに戦友みたいな存在。仕事で忙しい中、いろんな情報を共有して支え合う仲間になっています。

福留
何が嫌って、本来同志であるはずの仲間までこうやって分断を生んでいくこの制度です。

ひらばる
しくみが優しくないだけなのに、働き方や立場の違いから生まれる意識的な分断っていたるところにありますよね。

福留
分断というと、日本のお母さんって頑張りすぎてると思うんです。
産後の死因の1位が自殺っていう記事を読んでとてもショックでした。
ただでさえ仕事から妊娠出産って、ライフスタイルと思考回路を180度変えざるを得ないし、人間関係も社会との関わりも一旦ゼロにしなくてはいけない部分もあって、すごく孤独で、社会から孤立するのに。
「保活」って、母親が肉体的かつ精神的、そして社会的に分断されている間の出来事だから見落とされているというのがすごくあるなと。自分の中で留めてしまって、情報が外に伝わっていかない。私も産んで育ててみたときに、これめちゃ大変じゃん、なんで誰も教えてくれなかったのって思うことたくさんありました(笑)
「保活」をする主体の多くが父親だったら、そもそもここまで分断されていないとも思うんです。もっと早く声をあげて、仕事の進め方と同じように、ナレッジシェアとか課題解決の効率化が行われてると思うんですけど。
せめて手を差し伸べる、社会と一緒に子育てできるみたいな、機能の改善も必要だし情緒的なケアも必要だと思います。

ひらばる
当事者研究とか、ナラティヴ・アプローチが、障害のある当事者団体、自助グループなどで広がっていますよね。ナラティヴは物語とか語りと言われていて、当事者が語る物語を通して、課題を研究していくイメージです。子育てや「保活」にもそんな場があれば良いかもしれません。

※当事者研究とは「障害や病気を持った本人が、仲間の力を借りながら、症状や日常生活上の苦労など、自らの困りごとについて研究するユニークな実践である」(東京大学 先端科学技術研究センター准教授 熊谷 晋一郎先生サイトより引用

※ナラティヴ・アプローチとは、病気や障害などの当事者へのケアや援助を「ナラティヴ(語り、物語)」の視点からとらえなおす動きの総称。当事者が語るストーリーに注目して、語り手も聞き手も相互に影響しあいながら、ストーリーが変わっていくことで、考え方や課題を変えていく手法

福留
なるほど! それはすごくいまの「保活」に必要な文脈。「対話」が圧倒的に足りていないと思います。特に自治体と各家庭の対話。障害分野は進んでるんですね。医療とかもそうなってくるんでしょうね。

ひらばる
障害と医療の分野って関わりが深いけど、「保活」は限定的で隔離された印象がありますよね。障害者福祉に携わる人からも、知恵を分けてもらったらおもしろいかも。

福留
やっぱり、いろんな働き方、人がいることを前提に、多様な人の意見を交えてしくみを早急に変えていくことですね。

点から面の「保活」へ

子どもを見ながら「働く」と「遊ばせる」に境界線はない

ひらばる
それでいうと、福留さんは区長宛てに「意見書」を提出するという行動をしてるところがすごいです。

福留
「保活」での戦い方が全然わかってなかったって、いまだったら思うんですよ。誰に言えばいいのか、どう戦えばいいかもわからなかった。正しいことを真っ向から言ってもなかなか動かないし変わらない。
今は地元の議員の方に相談させてもらったり、こうしてみんなで考える特集を立ち上げたり、じわじわと。それで動くのかはわかりませんけど、知見としてシェアできて、「そうだよね、やっぱり大変だよね」とか「変えていきたいよね」って共感してもらえたら良いんじゃないかと思います。なんかこう感情的に死ねっていう気持ちも大事だけど、そうじゃない方法も模索したいなと。

ひらばる
意見書を出す行動をしたから、視野が広がったというのもきっとあると思います。
この特集も私は最初、理不尽な状況に置かれている福留さんのためにはじめたいって思っていました。個人事業主の保活を変えたいと。でも2人で話しあっているうちに“みんなで考える保活”という、保活にイノベーションを起こせたらいいよねみたいなところまで進んできて。

福留
仕事だったら当然のプロセスなんですよね。何か課題があったらそれをシェアして、対処する方法を考えていく。でも「保活」はそれが生きていかない。急に「保活」になると、結果的に対話の余地のない非人道的なプロセスになってしまうのが、びっくりするというか、すごく違和感あって。

ひらばる
ルールの上で無力化される感覚がありました。
「保活」をしている最中って、どっぷり浸かって指数とかすごい調べるから、誰よりも詳しくなるじゃないですか。でも、自分の「保活」が終わると当事者でなくなって、全部忘れちゃう。そもそも情報が蓄積、継承されないしくみなんだなって思います。それでまた次の世代の人がゼロから孤独に戦っていく。

福留
「保活」って、限りなく点の戦いですね。不思議な領域。なんでなんだろう。

ひらばる
「保活」は人生のその時だけだからじゃないですか。障害福祉で考えると、障害がある人は人生を通して自分の特性と付き合っていくし、支援する仕事の人は専門知識を持って時間をかけて当事者の人と関わっていくことが多いですよね。障害特性への知識が蓄積されているところから、さらに、その人に合わせて積み上げていくイメージがあります。「保活」はそういったつながりから分断されていてると思います。

福留
端的にいうと魔界ですね。(笑)
各家庭の状況は違っても、効率化はできると思うんですよ。効率化って平等と相反するものではないと思うので、平等にもつながると思いますし。そのときに、コミュニケーターみたいな人が必要だと思うんです。その人が、対話や情報の溝を埋めていくことで多くのことは改善できるんじゃないかと。

ひらばる
「保活」コミュニケーター! めちゃいいですね。「保活」の知見を蓄積して、相手に合わせて情報を引き出して、次の人にも引き継いでいくような存在はすごく心強いし、いろんな無駄も省けそう。

福留
自治体の特性や限界ってあると思っていて。基本的には市民に対して均等にサービスを提供し、社会からはみ出す人を作らないというのが基本的な規範で。個別に状況が違う人の相談に乗ったり、何か行動を起こすと不平等だと言われたりもします。
そういった自治体の特性も理解した上で、各家庭の事情をヒアリングしたり情報共有、調整してくれる人が民間で必要だと思います。わたしが普段ご一緒している自治体の仕事もそうで。例えばブランドづくりや各所と調整しながら最適化していく仕事とか、自治体レベルでは難しいけれど、民間に委託することでできることが広がる。逆になんで「保活」だけが、どこまでも個人戦になっているのかなと思います。

ひらばる
なるほどー。自治体の手が届かない隙間を埋める、水のような風のような存在が必要ですね。民間の力、大いに活用して欲しいなぁ。

福留
いま「保活」している世代って働き盛りで、一番忙しい時で。でも「保活」の現場では「アナログ・デバイド」みたいなことが起こっているんじゃないかと思うんです。造語なんですが。
申請にも相談にも平日の昼間に窓口に行かなくちゃいけない。みんなに等しくするためにということなのかもしれないけれど、区役所から遠い人も仕事中に抜けられない人もいます。
保育園の見学もそうで、情報は「アナログ・デバイド」されてるし、知ったときには見学ってみんな行ってたんだとか、申請終わってるじゃんとか。
効率化の視点で、「保活」自体が「デジタル・デバイド」と「アナログ・デバイド」のどちらもあり、もっと人にやさしくできるんじゃないかと。

ひらばる
アナログ・デバイド! ああー、すでにいろいろ、できることがありそう。もっといろんな人も交えて話してみたいですね。

福祉と選択肢

福留
平等とか公平にって言うわりには、具体的に努力できる余地がないのが今の「保活」。あなたは運が良かったから入れた、あなたは運が悪かったですねとか。子どもの長い人生において大事な社会生活の入り口なはずなのに、その意識が薄いからこういうことになってると思うんです。保活って福祉の話だと思うんですけど、ひらばるさんはどう思いますか?

ひらばる
福祉って広い意味では、幸せに生きられることですよね。そして最低限の生活がちゃんと保障される社会的援助とか。
私は障害福祉の現場にいる人とご一緒する機会が多いのですが、彼らにも福祉って何? って改めて聞いてみたいですね。狭義から広義まで、それぞれに違う福祉観が出てくるんじゃないかなと思います。
私自身は、幸せ生きるためには、いろんな選択肢がある中で、自分のこれだと思う選択ができて、それを自分で決められることが大切だと思っています。「保活」においては足りないものばかりかも(笑)

福留
ひらばるさんの言う、選択肢と決定のプロセスがあるってすごく大事だなと思いました。保育園の問題に限らず、最近特にコロナ禍でも色々な議論が巻き起こる時に、特定の職業や生活環境を選んだ人が悪い、自己責任論が多くて。もちろん最終的に選んだのはその人なんだけど、選択できるプロセスがあったのかなって。そういうことをいろんな背景から考えることが重要だと今年に入ってから特に思う場面が多いです。

ひらばる
選択することやその意識を持つことも、学んで磨いていくことですよね。突然選択肢を与えられてもうまく選び取れなかったり、今がその時なのか気づけなかったりすると思います。たとえ失敗しても他の選択肢があったり、選択という行為自体が安心安全であること。そこからはじめて自責みたいな話になったらいいのにと思います。
「保活」においては自分だけの選択を応援してくれるコミュニケーターがいるといいなぁ。

福留
選択肢を選ぶ方法を知ることって、それこそが教育だともいえますね。
私は仕事柄、幸いにも外の人の話を聞くことができて気づけることがあるんですけど、課題が何かもわからず、すごくしんどいから自分が働くのを諦めたほうが楽じゃん、自分が手を引こうという人が実はすごくたくさんいると思うんです。この特集を通じて、自分の課題はまさにこれだとか、モヤモヤしてたけどこうなんだよねって思ってくれる人がいたらそれはすごくうれしいなと思います。

ひらばる
私は福留さんの話を聞いて、保活の当事者ってどうしても父母になりがちだけど、本当は子どもなんだって気づかされました。教育や選択肢ある人生にもつながっていくもの。子どもの福祉の話を忘れずに「保活」について考えて、社会全体で応援する取り組みにしていきたいですね。

福留
年初、すべての保育園に落ちた時はすごく孤独で、まだ子どもも保育園に通っていなかったので、区役所の窓口で絶望して、帰り道に子どもを抱えて泣きながら帰ってたんですが(笑)今はこうやって色々話を聞いてくれたり、受け入れてくれる人たちがいることが本当にありがたいです。
奇しくも二人とも「保活」激戦区。この特集で生まれた価値を、お互いに住んでいる区の区長に提言しにいくのをゴールにするのはどうでしょう。

ひらばる
は、はい。隊長の仰せのままに!

この対談のまとめ

  • 個人事業主にとってマジョリティである会社員を標準とする現状の「保活」は理不尽な制度が多く、これまでと同じように働き続けるハードルが高い
  • 個人事業主だけではなく、働きたい、働かざるを得ない状況の人が、保育先がないことで働けない状況が多々起こっている
  • 誰もが長く働き続けることになる「人生100年時代」、保育は社会全体にとって必要なこと
  • ママ&個人事業主たちだけで「保活」を語らないのも大切。いろいろな視点や知見をを交えたい
  • 会社員、個人事業主など業態区分で調整が進む現在の「保活」が、意識的な分断を生んでいる。優しくないのはしくみのほう!
  • 「保活」は母親が肉体的かつ精神的、そして社会的に分断されている間の出来事で、見落とされがち。頑張りすぎている日本のお母さんに手を差し伸べ、社会と一緒に子育てできる機能の改善や情緒的なケアが必要
  • 当事者の物語や対話を通じて「保活」を共有していくような取り組みも必要では?
  • 仕事では当然のプロセスである課題をシェアして対処する方法を考えていくことを、「保活」にも生かされれば
  • 「保活」は点の戦い。物理的に孤立状態にある母親が主体になりがちで、かつ自分の「保活」が終わると当事者でなくなるため、情報が蓄積、継承されにくい。
  • 各家庭の状況は違っても、効率化はでき、平等にもつながると考える。
  • 「保活」のいろんな情報を蓄積して、相手に合わせて共有するコミュニケーターのような人材がいてもいいのでは
  • 自治体の特性や限界を理解した上で、各家庭の事情をヒアリングしたり情報共有、調整してくれる人が民間で必要
  • 「保活」の現場では「アナログ・デバイド」が起こっている。そこにいかないと得られない情報はもっと効率化できるのでは
  • 保活は福祉の話。子どもの長い人生においては、大事な社会生活の入り口
  • 「保活」においても多様な選択肢と決定のプロセスがあることが大切。自己責任論ではなく応援や対話を
  • 「保活」の一番の当事者は子ども。社会全体で応援する取り組みにしていきたい
研究員プロフィール:福留 千晴

「地域と食のしごと」NORTHERN LIGHTS代表/mazecoze研究所広報・新規事業開発
鹿児島県出身、実家は大隅半島で芋焼酎の芋を育てる農家。カナダ・モントリオールでの映画学専攻や10カ国以上へのバックパッカー経験、広告会社勤務を経て、現在は中小企業や自治体においてソーシャル&ローカルデザインのプランニングからプロデュース、クリエイティブ、PRまで一貫して行う。2017年、経産省「BrandLand Japan」にて全国12商材の海外展開プロデューサーに就任。焼酎唎酒師、日本デザイナー学院ソーシャルデザイン科講師。
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