English

子連れの旅人 佐藤有美さんが遭遇した、世界中の子どもと母のまわりで起こる、混沌として愛に溢れた生き方のこと【前編】

平原 礼奈 │ 2018.07.19

「母親が、世界を変えていく」

cotoconton ことこんとん

佐藤有美さん

こんにちは。mazecoze研究所のひらばるです。
久しぶりのマゼコゼスト、本日ご紹介するのは佐藤有美さんです。

編集者のナカイユウヘイさんから「学生時代の友人に面白い人がいるんですよー」と紹介してもらったのですが、なんでもちんどん屋さんで、広告業界で働いて、独立して、いまはお子さんと世界中を旅しているという。佐藤さんにお話を聞いてきました!

真ん中:佐藤有美さん 上:ナカイユウヘイさん

子どもとまちをめぐる旅に目覚めたちんどん屋さん

6歳の男の子の母でもある佐藤有美さん。その活動を大学時代からたどると、

「早稲田ちんどん研究会」を立ち上げて、まちをちんどんで練り歩く
→広告業界でプランニング、コミュニケーションデザインなどの仕事に携わる
→子どもを出産し、復職後、独立する
→世界中の幼児教育やまちづくりの事例を視察・研究する
→学びの場やイベント、ワークショップの企画・ファシリテーションを行う
→子どもと一緒に世界中を旅する
→いまでもときどき、まちをちんどんで練り歩く

と、幅広く、これらは一見バラバラなようで、すべてが時空を超えていまもつながっていると佐藤さんは言います。ところで私、ちんどん屋さんをしている人に初めて出会ったのですが、商店街などで仮装して賑やかに楽器を演奏している、あの方々のことですよね?

佐藤さん
「そう、ちんどん屋はこれから開店するお店やイベントに呼ばれて、太鼓や鉦、クラリネットやサックスなどのメロディ楽器を演奏しながら人を集める広告代理楽団です。
ちんどんすると、縁起のいい雰囲気づくりができて盛り上がるし、店が満員になったり行列ができたり、人が集まる手応えがあるんですよ。依頼主はもちろん、お客さまにも価値を感じてもらえる、原始的な宣伝ツールだと思っています」

佐藤さんがかれこれ15年以上続けているちんどん屋としての活動。
今でもイベントや賑やかしなどに呼ばれれば全国へ赴くのだそう。
昨年は人気ブランド「ミナペルホネン」のイベント告知を表参道スパイラルビルで。

なるほど、ちんどん屋は身体性にあふれた広告媒体だったのですね。

佐藤さん
「私は大学でちんどん研究会を立ち上げて、言わば、“自分自身がメディアになる”という体験をしました。だから卒業後は、自然な流れで広告業界に入ったんです」

“自分自身がメディア”という原体験から、自社メディアを運営する企業に就職した佐藤さん。その後は大手広告代理店に転職し、プランニングやコミュニケーションデザイン、営業まで幅広い業務を担当する多忙な毎日を過ごします。当時は、プレゼン前は徹夜して当たり前で、深夜に仕事を終えて焼肉を食べに行くようなハードな生活をしていたのだとか。

そんな佐藤さんに次の転機が訪れたのは、息子さんを妊娠・出産した後のことでした。

佐藤さん
「仕事は面白かったんですけど、とにかく忙しくて。広告業界では、仕事で夢中になるうちに妊活ができなかったり、妊娠中の女性に対するハードな扱いで切迫早産してしまったりという話を聞いたこともあります。私は産後、人事部門へ移ったのですが、そこで女性の働き方や、子育てをしながら働くことについて考えるようになりました」

佐藤さんが会社員時代に女性誌に掲載されたインタビュー。
働きながら子どもを産み、育てることは世の中の大きな関心ごと。

職場復帰の際には厳しい保活も経験し、日本の保育が置かれている状況にも違和感を感じたと言います。

佐藤さん
「待機児童問題に対して、新設の園を作ろうとしたら近所から反対の声が挙がっているとか、騒音を避けるために園庭を半地下に掘る計画があるとか。そういう話を聞いて、なんでこの国は子どもの育ちをみんなで祝えないんだろうって、悲しくなりました。
それに、いまSNSを見ると『子どもにやってはいけない5つのこと』とか『天才に育てるための10の方法』とか、不安をあおる情報ばかりじゃないですか。
メディアが作り出す子育てに対する閉塞感って、知れば知るほどヤバイなって危機感を感じて」

恐怖訴求や問題対処型の発想ではなく、面白い・楽しいを基盤に子育てをめぐる課題に向き合い、それを自分らしい方法で伝えていきたい。佐藤さんは、勤めていた会社を退職して独立することを決意します。

はじめたのは「cotoconton(ことこんとん)」という活動でした。
「子」「こと」と「混沌(こんとん)」が組み合わさったその造語には、子どもとおとなが混ざり合う混沌とした場にこそ、世の中をより”楽しく"する何かがあるのではないか、という想いが込められているのだそう。

佐藤さんは、子どもとの暮らしをテーマに、国内外の視察事例を交えながら、フィールドワークやイベント、ときに海外でのフィールドトリップを実施して、思考と行動の機会づくりを進めていきます。
2015年には、まちぐるみの幼児教育やアート教育で世界的に有名なイタリアのレッジョ・エミリアの研修を現地で受講。まちが子どもを"一人の市民"として扱う姿勢を学びました。

研修終了後、お礼になればと講師たちの前で南京玉すだれを披露し、ちんどん屋について説明する佐藤さん。レッジョ・エミリア・アプローチの総本山でも交流を忘れない!

佐藤さんらしさといえば、世界の潮流を新たに取り入れるだけではなく、ことこんとんの活動にも、ちんどん屋から得た気づきが練りこまれているということ。

佐藤さん
「ちんどん屋って、まちとの関わり方が面白いんです。突然、日常に非日常がやってきて、その瞬間、まちと自分たちの音楽が一体化する。まちの人の心を溶かしたと思ったら、ザーッと去っていき、そこには余韻だけが残って、え〜、なんだったんだろう、今の、みたいな(笑)」

そんな不思議な環境の中で子どもたちを連れ歩くと、いままで見えなかったまちと人との接点が見えてくるのだそう。

佐藤さん
「以前、多摩ニュータウンの団地でちんどんをしたことがあって、団地の中を50人くらいの子どもたちと歩きました。見上げると窓から顔を出してこちらを見てる人がたくさんいて、子どもたちが手を振りながら“こんなにいろんな人が住んでるんだね”って話していて」

大人のまちというイメージがある代々木上原でやったときは、まちの人たちに「こんなに子どもが住んでいるんだ!」というインパクトがあったのだそう。
音が聴こえて来たと思ったらゾロゾロ子どもたちがついてくる、の図。

ぽつぽつと点在していたものが、まちを練り歩くことでつながって。その輪の中に自分も取り込まれることで、まちや人に受け容れられたような感覚になる。
ちんどんは「まちとひとをつなぐ手段」でもあるのだと佐藤さんは言います。

佐藤さん
「祭りの雰囲気が終わって静けさが戻っても、あたたかな気持ちだけはそのまま残っていくんです。後日、商店街のお店に行ってお礼を伝えたら、“あれ、すごく良かったです。ジーンとしちゃいました。またぜひやってください!”と言ってくださったり」

こうした活動を通じて得た気づきをもとに、佐藤さんは、世界中のつながりの手段に出会う旅に出かけるようになりました。
それも、お子さんと一緒に!

旅の先にある暮らし、子どもと一緒だから開けた世界

2017年4月、佐藤さんは息子さんを連れて、3ヶ月という長期の旅に出ます。場所は、3回目となるアメリカ合衆国のオレゴン州にあるポートランド。

佐藤さん
「ポートランドには、初回は家族旅行も兼ねての偵察、2回目はフィールドトリップを企画して色々な人を日本から連れて行き、そして今回は現地に暮らす体験をするために向かいました。
ポートランドは行政主導で魅力的なまちづくりをしていることで有名ですが、そこに暮らす住民たちが積極的にまちに関わることで、日常をより楽しんでしまうパッションやアイディアにあふれています。
このまちに暮らしながら、お母さんたちや子どもと関わる人、まちを楽しくする仕掛け人たちに出会い、コミュニティの一員になってみることが旅の目的でした」

2016年、2回目の訪問の際に企画したフィールドトリップでは、交差点をペインティングし、その周りに人々が集える場を実際につくってしまうなど、ユニークな手法でまちづくりに取り組むNPO「シティ・リペア」の活動にも参加。
ポートランドの住宅地を自転車で走れば、地域の住民たちが描いた交差点をいくつも見つけられるのだとか。

子連れ参加大歓迎、住民と一緒に、超ローカルなまちづくりに参加することも組み込んだプログラムには、日本全国から20人を超える濃いメンバーが集まり、交差点ペインティングにもみんなで参加。

数年前、初来日したシティ・リペアのメンバーと出会い、東京でもトークイベントを実施するなど交流を続けてきた佐藤さん。
3回目のポートランドでは、彼らのお祭り「Village Building Convergence」のプログラムの中で、日本のコミュニティづくりの事例として盆踊りを紹介し、踊りの輪をつくりだしました。

盆踊りの演奏やパフォーマンスに協力してくれたのは、現地で活躍する和太鼓グループ「Takohachi」の皆さん。リーダーのユミさん(写真・左)も、子育て真っ最中のお母さん。


こちらのリンク
から、みんなで踊る迫力の炭坑節の動画をご覧いただけます。

こうした企画を実行しつつ、お子さんと同年代の子どもがいるアメリカ人ファミリーの家に住み、シティ・リペアのメンバーが立ち上げに関わった森の中で活動する幼稚園を訪ね、自身もそこでボランティアをすることにしたのだそう。

子どもたちもスタッフも親も、全員参加の春のお祭りではメイポールダンス。それぞれが持ち寄った花で花冠をつくることからはじまった。

視察と暮らしと子育て、すべてがごちゃまぜになった旅先では、どんなことを大切にしていたのでしょうか。

佐藤さん
「大事なのは、自分が住むまちでは何ができるか、どう落とし込めるだろうか、という視点。だって、海外に行ってその事例をただ持ち帰っても、あんまり意味がないですよね。そこに行ってみたい !住んでみた い!ってなるだけ。
旅を通じて新しいことを知るだけではなく、自分にできることを探すためにも“世界とどうやってつなげていくか”が大切だと思っています。
だから私は幼児教育の専門家や教育者としてではなく、少し違う視点で子どもの世界のおもしろさを伝え、子どもとまちとの関係性を変えていくヒントを探っています」

あくまで根っこは、自分の暮らしを自分でつくるために、世界の多様な価値観に触れる旅に出ているのですね。
正直なところ、旅に子どもが加わったら格段に大変になるんじゃ……と思ってしまうのですが、その点はどうなのでしょう。

バギー時代、スーツケースを持たずにバックパックを背負い、あとはバギーに全て引っ掛けて出かけたドイツ、チェコの旅。電車やバスの乗り降りは自然と誰かが手伝ってくれ、子連れにとても優しったのだそう。

佐藤さん
「確かに大変なことも多いですよ。思い通りの旅なんてできません。でも、子どもと一緒に旅することで、一人では気づかないようなことにどんどん遭遇するんです。
公園に行けば、言葉が通じなくても子ども同士はすぐに遊びはじめるし、そうすると親同士の会話も生まれます。その国のお父さんの育児参加度も垣間見れますし、社会全体の子どもへの優しさや、子育てする人へのまなざしが見えてきます」

旅先ではなるべく同世代の子どもがいる家庭に滞在。
現地の暮らしを垣間見て、話をして、一緒に過ごすことこそまさにフィールドワーク。

佐藤さん
「子どもがやたらに動物を発見するのもおもしろいし、乗り物に乗るのも楽しい。観光やショッピングなんてほとんどできませんよ! でも、ゆっくり暮らすように滞在する今のスタイルでも、大変なことよりも楽しいことの方が多くて、息子とは既に10カ国以上を旅しています」

いつの間にか、ニワトリを見れば捕まえて抱っこし、ヤギにも友達のように接するようになっていたという息子さん。

10カ国! 旅といっても、親子だけで完結させるのではなく、そこに暮らすという発想でいれば、子どももまちを構成する一人として、たくましく自分とさらには親の世界までも広げていくのですね。

▶▶後編は、旅先での気づいた子どもの本質と、出会った母たちのお話です

佐藤 有美(さとう ゆみ)さん

19 suribachi
主に「こども」をテーマに、国内外を “隙あらば旅” するフィールドワーカー。
リクルートにて新規事業立ち上げなどを担当後、博報堂にてさまざまなクライアントのブランディングやプロモーションを企画・実施。グッドデザイン賞、新聞広告賞などを受賞。
2012年の出産を機に「こども」の世界にシフト。国内外の教育機関や施設・公園・プロジェクト等を体験視察。 「ちんどん おてんきや」としても活動し、こどももおとなも一緒になって町を練り歩くパレード型ワークショップでは、音楽の楽しさと、場に伝播させるワクワクを伝えている。
ことこんとん
http://cotoconton.com

(撮影:荒木理臣 協力:ナカイユウヘイ)

研究員プロフィール:平原 礼奈

mazecoze研究所代表
手話通訳士
「ダイバーシティから生まれる価値」をテーマに企画立案からプロジェクト運営、ファシリテーション、コーディネートまで行う。
人材教育の会社で障害者雇用促進、ユニバーサルデザインなどの研修企画・講師・書籍編集に携わった後に独立。現在多様性×芸術文化・食・情報・人材開発・テクノロジーなど様々なプロジェクトに参画&推進中。

「平原 礼奈」の記事一覧を見る

ページトップへ戻る