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【前編】パーソナルモビリティからソーシャルデザインまで、磯村 歩さんのイノベーションは、デンマーク流「職住近接」から生まれていた。

平原 礼奈 │ 2016.12.14

「職住近接、メリットしかないですね」

株式会社グラディエ代表取締役

磯村歩さん

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大手企業から独立起業。引く手数多のマゼコゼストに!

こんにちは。ひらばるです。 今回のマゼコゼスト、磯村歩さんとは、著書『感じるプレゼン』の編集を担当したときからかれこれ10年以上のお付き合い。その後お互い独立して、いまも機会があるごとにあれこれご一緒する仲です。 元々企業のプロダクトデザイナーだったのに、いまでは「パーソナルモビリティの導入支援」、「地域デザインブランドの創出」など、何やらまぜこぜなテーマで企業や自治体から引っ張りだこな磯村さん。そのすべてが「職住近接」をベースに発信されているとのことで。 「在宅ワークやテレワークなど、日本でも職住近接な暮らし方が広がっているけど、そのトレンドの中に新しいビジネスがどんどん生まれてるんですよ!」と語り始めたイソム(愛称)、事の成り行きをじっくり聞かせてもらおうじゃありませんか!

UD、福祉、大事なことなのに、しっくりこない?

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co-lab二子玉川のシェアオフィスにて、語る磯村さん。
独立前の磯村さんは、富士フイルムで20年間、カメラや医療機器のプロダクトデザイン、インターフェースデザイン、ユーザビリティデザインに関わり、製品のユニバーサルデザイン(以下UD)についての調査・研究にも取り組んできました。 「UDって、“誰もが不自由なく使えるデザイン”という意味なんですが、当時、いろんなUD製品の事例に触れる中で、特定の人たちにとっては確かに使いやすいデザインでも、その他の人たちにとってはかえって使いづらいのでは、とか、この商品、気持ち的に使いたいと感じるかなぁ、と思ってしまうケースが結構あって」 真のUDとは何か。沸き起こった疑問に対し、UD を推進する市民活動に参加したり、モノではなく伝え方のUD に目をむけてプレゼンテーションの本を作ったりと、多様な特性のある人との対話を重ねながら、社外でのつながりを広げていった磯村さん。 2009年には、もっとUDを深く追求するために富士フイルム退職の道を選択し、翌年1月に奥さまの舞さんと一緒にグラディエを創業します。当時42歳。決して早いとは言えない独立起業物語のスタートでした。
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夜なべして一緒に作った本『感じるプレゼン』がイソムの転機になったとか。独立を応援する「イソム追い出し会」とかやったな~。
ところで、起業後すぐの磯村さんに「ねー、この写真みてよ」と渡された写真が忘れられません。名入りゼッケンがバーンと貼られた、パステルグリーンのエプロン姿で微笑む姿……。UDからさらに一歩視野を広げて「福祉」の現場を知るために、ホームヘルパー2級を取得した際の実習写真でした。
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うわさのエプロン。
「パステルグリーンのいけてないエプロンを着て働いていると、なんか気持ちが凹んじゃってねー。今でも思い出すなぁ、これ着た時の屈辱感。福祉って格好良くないっていうか、やっぱそういうイメージあるのよね」 福祉の現場を体験し、日本における福祉の在り方の課題を感じたという磯村さん。意を決してある行動を起こします。

デンマークで、いろんなmazecoze生活を体験

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エグモント・ホイスコーレンでの一幕
福祉先進国であり「世界一幸せな国」として知られるデンマークに、約1年の留学をしたのです。それは、デンマークの先進的な福祉制度やシステムに直に触れ、グラディエの事業展開の方向性を見出すため。起業とほぼ同時に留学ってイソムの勇気もすごいですが、生まれたての会社と夫の留守を1年間守った舞さんがすごいー。 磯村さんのデンマーク生活は、3つの滞在拠点をベースにして繰り広げられました。最初の半年は「エグモント・ホイスコーレン」という障害のある人とない人が寝食を共にする生涯学習施設。デンマーク国内に約80ヶ所ある、成人を対象とした全寮制の生涯学習施設「フォルケホイスコーレ」の1つで、当時、身体障害、知的障害、精神障害など、様々な障害のある人が60 名ほど在籍し、全体で160名ほどの施設でした。 「日常生活にサポートが必要な障害のある生徒の食事、入浴、排泄などの介助は健常者の生徒が行いますが、ボランティアではありません。デンマーク独自の“パーソナルアシスタント制度”というのがあって、障害者自らが介助者を選び、金銭を支払って雇用するという公的なしくみでした」 障害のある人の社会的な自立を支援する制度に加え、印象的だったのは、車いすユーザーが様々な種類の車いすを持っていたことだと言います。 「電動、手動、ビーチ用、シャワー用など、何台も車いすを持っていて、シチェーションに合わせて使い分けるんです。デンマークでは、福祉機器の購入代の公的補助が手厚く、街中でも、段差があるときは周囲の人が気軽に助け合う習慣があります。社会全体で、障害者が精神的に自立して、アクティブに行動できるようになっていたんですね」

パーソナルモビリティとの出会い

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イギリスのショップモビリティ貸し出し拠点
デンマーク滞在中、現地だけでなくドイツ、イギリスなどヨーロッパを中心に世界各国の福祉機器展を見て回ったという磯村さん。欧米では「パーソナルモビリティ」が注目されていることを知ります。パーソナルモビリティとは、自動車などの従来の交通手段に加えて、日常生活での移動を支援する1~2 人用のコンパントな乗り物のことで、日本では近年セグウェイが話題になりましたね。 「パーソナルモビリティは、各国さまざまなブランドや機種がありました。欧米では街中での活用も進んでいて、例えばイギリスでは、大型ショッピングセンターなど200ヶ所以上で広い敷地内を楽に移動できるように電動カートを貸し出すショップモビリティという取り組みが行われています」 環境問題、交通渋滞など、従来の交通インフラが抱える様々な課題の解決や、高齢者や障害者の行動範囲を広げることにつながることから、パーソナルモビリティは、単なるちょっとした乗り物ではなく「人々がより快適に、また、より便利に暮らすためのツール」として捉えられていたのだそう。 「日本でもパーソナルモビリティが普及すれば、人々がより快適に、より便利に暮らせるようになると考え、帰国後のパーソナルモビリティ事業の構想が膨らみました」 いま、他の代理店や団体に先駆けてパーソナルモビリティの導入支援を進めている磯村さん。デンマークでいち早くそのタネを拾ってきていたんですね。

共同生活から垣間見た職住近接

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エコビレッジで運営されている様々な事業
デンマークで次に滞在したのは、「スヴァンホルム」という、滞在者たちが自給自足の共同生活をするエコビレッジでした。そこでは様々な世代の人たち160 人ぐらいが共同生活を行い、広大な敷地内には、住居はもちろん、食堂、農園、保育園、セントラルヒーティング、太陽光・風力発電システム、下水処理施設など、衣食住に必要な施設・インフラが整っていたのだそう。 「滞在者は、農業・建築・調理・事務など、自給自足の共同生活のために必要な役割を担当するチームに所属して、例えば、建築チームの人は、主に敷地内の建物やインフラの整備補修を行っていましたよ。高齢者は、コミュニティの子どもたちの面倒を見たり、育児中のママ同士で悩み事を相談しあったり。多様な世代が職住近接な環境で一緒に暮らせる一つのコミュニティとして成り立っていたわけです」 でも、その160 人で完結しちゃう社会って、ちょっと閉鎖的な感じがするんですけど。すると磯村さん、「自分のような滞在者が世界中から集まるわけです。いろんな職業、価値観の人がいるから、そのまじわりだけでも多様性がすごい。環境がバリューを持つと、自動的に多様性を楽しめるシステムが生まれるんだなぁと」 なるほどー。内に向かって価値をぎゅっと凝縮すると、自然と外からも人が集まる。自然と、多様性のある環境が創出される。その気づきが、日本でいま進めている地域をベースにしたソーシャルデザインの取り組みにもつながっていったのですね!

理解するなんて無理。認め合うだけでいい

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クロゴップ・ホイスコーレンでの講義は対話を基調に進められる。
最後の滞在先は、「クロゴップ・ホイスコーレン」、世界中の国々から生徒たちが集まり、対話を通じて国際情勢と異文化の理解を深める、多様な民族や文化が一つ屋根の下に集ったコミュニティです。ここでの授業や生活を通じ、自分と異なる文化をきちんと理解することの難しさを実感したという磯村さん。 「ある日の講義では、2 チームに分かれた生徒が別々の部屋である状況を割り当てられてゲームを行いました。私がいたチームでやったのは、じゃんけんに勝つとシールが与えられ、その取集状況によりチーム内での階級が決められるというもの。途中、別チームの人が部屋に入ってきたんですが、その人、ひたすら絵を描き続けて周りの反応によってちょっと変なポーズをするんですよ。私は絵を描くことでコミュニケーションを取るルールなのかなと捉えたのですが、実際には、みんなで明るく楽しく過ごすっていう決め事だけだったようで(笑)」 こうした体験学習を通して、「人間はどうしても自文化の価値観に基づき異文化を理解しようとする」ことに気づかされたと話す磯村さん。
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文化も、人種も、価値観も十人十色の中で。
「異なる文化の人間と相互にコミュニケーションを取るには、分かり合おうとするのではなくて、互いの価値観が異なることを認め合う必要があり、それを持って自分がどう変わるか、ということなんですよね。多様性を理解することの本質ってそこだなと思いました」
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お互い年とりましたねぇ。
デンマークでの職住近接生活で大きな気づきを得た磯村さんは、帰国後、二子玉川駅に隣接するシェアオフィス「co-lab 二子玉川」に入会し、ご自宅もオフィスから徒歩15分の場所に引っ越し。リアル職住近接ライフを手に入れ、ビジネスを展開していきます。後編では、そこのところを詳しく聴いていきたいと思います! (text 協力:五十川正紘 取材・編集:ひらばるれな) >>後編に続く
プロフィール:磯村 歩(いそむら あゆむ)さん 株式会社グラディエ代表取締役。1966年生まれ、愛知県出身。1989年、金沢美術工芸大学工業デザイン専攻卒業後、富士フイルム株式会社に入社。同社にて、カメラや医療機器のプロダクトデザイン、インターフェースデザインに従事し、グッドデザイン賞を始め、デザインコンテスト受賞多数。2010 年、株式会社グラディエを起業し、同社取締役を務める妻の舞氏と共に、デザインを通じた「パーソナルモビリティの導入支援」、「地域デザインブランドの創出」、「地域共生の場づくり」に取り組んでいる。また、ユニバーサルデザイン、パーソナルモビリティ、ワークライフバランスなどをテーマとした書籍執筆、講演実績多数。 >>株式会社グラディエのホームページはこちら
<グラディエが運営する「futacolab」のイベント情報> 2016年12月23日(金・祝)~12月28日(水)に開催される次世代アーティスト約100名による大美術展「酉 とりどり展 行く年」(会場:伊藤忠青山アートスクエア)に「futacolab」がジョイン。出展アーティストが酉年をテーマに描き下ろしたアートカードを添えた「futacolab スイーツギフトボックス」を会場にて展示販売いたします。全て一点モノの限定商品となります。 ▼ 「酉 とりどり展」について 会期:2016年12月23日(金・祝)~12月28日(水) 開催時間:11:00~19:00 会期中無休 会場:伊藤忠青山アートスクエア(東京都港区北青山2丁目3-1 シーアイプラザB1F) 入場料:無料 >>詳細はこちら ▼ 「futacolab スイーツギフトボックス」販売価格 2,000円(税込) 焼き菓子「HOROHORO」が全6種類入った限定品。きなこ、抹茶、いちご、ゆず、ショコラ、かぼちゃのアソートは、和洋中のシーンを問わず、全ての年代の方々にお楽しみいただけます。しかも、世界に1枚しかないアーティスト直筆のアートカード付。スイーツとカードは、全て福祉作業所で製造されており、お買い求めいただくことで社会貢献にも なります。 >>詳細はこちら なお「酉 とりどり展」に展示販売する商品をfacebookページにて紹介しています。こちらもぜひご覧ください。
研究員プロフィール:平原 礼奈

mazecoze研究所代表
手話通訳士
「ダイバーシティから生まれる価値」をテーマに企画立案からプロジェクト運営、ファシリテーション、コーディネートまで行う。
人材教育の会社で障害者雇用促進、ユニバーサルデザインなどの研修企画・講師・書籍編集に携わった後に独立。現在多様性×芸術文化・食・情報・人材開発・テクノロジーなど様々なプロジェクトに参画&推進中。

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