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料理は言語を超える! 世界を旅する台所研究家・中村優さんの生きる力。

mazecoze研究所 │ 2017.03.02
ネットの進化やノマドスペースの普及などによって、今までになかったクリエイティブな働き方をする人がどんどん増えていますよね。 mazecoze研究所では、魅力的な生き方をする方々へのインタビューを重ねていますが、今回お話をうかがったのもそんな一人。「台所研究家」という一風変わった肩書を持つ中村優(なかむら・ゆう)さんです。 料理家・編集者として世界中を旅しながら多彩な活躍をする中村さんは、今年1月に、世界中のおばあちゃんたちとの出会いレシピをまとめた『ばあちゃんの幸せレシピ』という書籍を刊行。それがまた素敵な一冊なんです(なんと写真もほぼ中村さんが撮影されたとか!)。 中村さんが料理の道を選んだ理由とは? なぜ世界中を旅するの? 研究員ひらばるが取材で聴き取った内容を、外部研究員の宇樹がお届けいたします。

世界中を転々、「野良猫女子」は料理と出会った

「昔、野良猫って呼ばれてたんですよ。家なしで放浪していたので」 台所研究家として精力的に活動する中村さん、なんと20代半ばに「ホームレス生活」をされていたそうで。 それまで暮らしていた家を出たタイミングで、「次の家が無い! ……ってことは、ひとつの場所に帰らなくていいんだよね。この機会に世界中の人の生活を知る旅に出よう!」と思いつき、約1年半にわたるホームレス生活に突入! キャリーバックひとつで国内外問わず様々な家を転々としたのだそう。ゆえに、野良猫(笑)。 「東京には家が10軒くらいありましたね。お宿のお礼は、ご飯づくり。料理という一芸を、家賃の代わりにしていました」
「あ、僕もですー」。カメラマンの山田さんも元野良猫男子であったことが判明。同い年トークで盛り上がるお二人:ひらばる撮
もともと料理が得意だったわけではないという中村さんが、料理に出会ったのは、大学時代のこと。 「アメリカとスペインに留学して“自分は何がしたいのか”をとことん問い詰めたときがありました。惹かれたのは、社会問題をビジネスで解決していく社会起業家という生き方。でも、知れば知るほど、自分にはなれないと思ったんです。彼らにある強くて深い動機みたいなものが私にはなくて。自分には何もないと思いながら旅を続ける中で、世界のいわゆる貧しい地域を回ったとき、地元の人たちの笑顔がめちゃくちゃきれいだなって感じることがあって。そこで “みんな笑顔なら幸せなんじゃないか”っていうすごくシンプルなことに気づきました」 言語を超えてみんなを笑顔にする「何か」を考えたときに、そのツールとして「料理」を思いついたという中村さん。「おいしいものを食べて笑わない人はいないというか、少なくとも怒りだす人はいないですよね(笑)」 料理と関わるにあたって、中村さんが「料理人」にならなかったのは、「自分が料理人として同じ場所で食べ物を作るより、自分が旅する中で食を通じて出会ったことを、いろんな人に伝えたかった」から。 必然的に、見て食べて感じたことを伝える「編集力」も加わって、料理と編集で社会を笑顔にする「台所研究家」で「野良猫」な中村さんのスタイルが誕生しました。

「おいしいもの」の裏側のストーリーをシェアする。YOU BOXの誕生

中村さんが精力的に取り組む活動のひとつに「YOU BOX」があります。それは、世界中の「とびきりおいしい」ものの背景にある、生産者さんや市井の料理する人たちのなにげないストーリーをシェアしていくプロジェクト。 「パワーのある野菜とか、こういうのって誰が作ってるんだろうと思って。その現場まで行って知り、伝えたい人に伝える実験の場としてスタートしたのがYOU BOXです」。
世界中の生産者さんのもとへ 画像提供:中村さん
中村さんは、世界中の生産者さんに会いにいき、彼らの商品とストーリーを綴った冊子をボックスに詰め合わせて会員に届けるというサービスを開始しました。
箱に詰まった、おいしい素材とストーリー冊子 画像提供:中村さん
活動を続けるうち、徐々に中村さんに共感する人が集い、チームとなり、今ではYOU BOXはイベントやプロダクト作りにも広がりを見せるなど、日々新しい化学反応が発生しているのだそう。 でもなぜ、一人での野良猫生活から、チームの活動にシフトしていったのでしょう? 「みんなで集まると、一人では絶対に持てなかった視点が持てるようになるんです。いままで世界35カ国程度の国を回っていますが、これほど多くの国を回ると、最初のころは大きかった感動も徐々に色あせていってしまうことがあって。自分で持てる感動が薄くなっていくと、せっかくいい体験をしても人に伝えることができない。でも、みんなで行くと、それぞれの視点が交わって、ひとりでは行けなかったところに到達できるんです」 ★YOUBOXチームの全貌は、こちらの記事からもご覧いただけます。

中村さんを魅了する世界のおばあちゃんたち

画像提供:中村さん
先日出版された書籍『ばあちゃんの幸せレシピ』は、中村さんの約3年間の「ババハント」の歴史をまとめた一冊。中村さんによれば「ババハント」とは、おばあちゃんに声をかけてお話すること。ガールハントならぬ、ババハントというわけですね。 「ハントするおばあちゃんは80歳以上と決めていました。戦争をくぐり抜けて、何もないところから何かを作り出してきたおばあちゃんたちってすごくクリエイティブだし、ロック!」 中村さんは3年で15か国100人ほどのおばあちゃんと出会い、料理のことだけでなく、恋や結婚の話をしたり、人生の楽しみについて聞いたりと、その人生に寄り添う時間を繰り返したのだそう。
おばあちゃんと台所で:画像提供:中村さん
「“戦争中、爆発して庭に落ちてきた飛行機から部品をとってきてフライパンにして、なんでも焼いて食べてやったわ!”と驚きの体験を話してくれるおばあちゃんや、“生きてて楽しいことなんてひとつもなかったけど、生きてる間に咲かない人生があってもいいじゃない?”と言うおばあちゃんも」 戦争、苦しみ、それでも「生きる」こと。いままでの人生で何があったとしても、全部をまるっと肯定してしまうおばあちゃんたちには「現代人に欠けている力強さがみなぎっていた」、と中村さんは回想します。
書籍を見せてくれる中村さん。おばあちゃんたちの表情も、レシピもストーリーも、とっても魅力的!
「幸せな生き方はどんな時代でもどんな場所でもできるということを教わりました。書籍では“幸せレシピ”と銘打っていますが、厳密な料理のレシピ本というよりも、どうやって生きるのかという普遍的な哲学みたいなものが、詰め込まれてた本になったのではないかと思っています」

タイへ、日本へ、世界へ。みんなの顔に笑顔のシワをつくる

「私、シワが大好きなんです」 おばあちゃんのシワに限らず、みんなのシワが好きだという中村さん。「シワのあり方でどんなふうに笑ってきたのか想像がつくし、放浪生活であまり言葉が通じない中でも顔相・人相で人を判断する癖がついた」といいます。 「40 creations」は、中村さんがライフワークとして進める、食卓に「美味しい」の笑顔を伝えていくプロジェクト。なるほど、4と0で「シワ」ですね! 最近、結婚してタイを拠点とすることになり、さらに多忙な日々を送る中村さんですが、これからも料理というツールを手に世界を飛び回り、多くの人に、そして自分自身にも素敵なシワを作っていくのでしょう。
キッチンを背に、恒例の集合写真!
世界を変える、世界の人々を幸せにする、なんて口で言うのは簡単ですが、実際にはとてもとても難しいこと。でも、中村さんはそのユニークな働き方、生き方の中で、確実に私たちの世界に幸せのタネを撒いていってくれている、と宇樹は感じました。 (撮影:山田憲史 執筆:宇樹義子 取材・構成:ひらばるれな)
中村優さんプロフィール 40creations代表。編集者と料理家に弟子入りしたという異色の経歴をもち、料理は人を笑顔にする! を信念に国内外の家庭などで料理を習いながら世界30カ国以上を放浪。食に関するイベント開催や、執筆活動、スピーチ等講演活動も行う。 YOU BOX 40 creationsばあちゃんの幸せレシピ(木楽舎)
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