小さなオーベルジュでワーケーション体験! 地域企業が目指す新しい時代の「働く」と「観光」のあり方
“ワーケーションは、「多様な越境の価値創造の場」”
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目次
湖北の風景に佇むオーベルジュでワーケーションツアーを体験
琵琶湖の北部、その立地の通り「湖北地方」と呼ばれるエリアに佇む15室のみの小さなオーベルジュ「ロテル・デュ・ラク」。
目の前には琵琶湖が広がり、背後に山々。敷地面積なんと4万坪と、壮大な自然を感じられるロケーションにあります。
その「ロテル・デュ・ラク」で、ワーケーション体験ツアーが開催されるとのこと。しかも、mazecoze研究所の研究員であり私の前職時代の先輩でもある福留千晴さんが、地域の食における課題解決を行うユニット「H3 FOOD DESIGN 」の活動でブランドリニューアルにも携わっているということで、今回命を受けて私 北が、ツアーに参加してきました。
滞在を通じて体験した湖北地方の魅力や、地域の拠点が切り拓くワーケーションの未来や周辺地域にもたらす価値について感じたことを綴らせていただきます。
「ロテル・デュ・ラク」からの景色は、広くて穏やかな琵琶湖と山々が目の前に広がる絶景。そして、まちなかから離れているので、まわりがとても静か。風の音、山の音、水の音、鳥の声……。自然の音色に耳を傾けて、日常から離れた穏やかな時間を過ごすことができます。
滞在中には、中庭でかわいい猿の親子に遭遇。夜は、琵琶湖の水を飲みに降りて来る鹿にも出会えるそうで、まさしく自然の中にお邪魔しているような気持ちになりました。
施設は、フロントやレストラン、ラウンジ、スパルーム、貸切風呂と6つの客室を含むメインの建物と、別棟のヴィラタイプ客室が9棟。広々とした中庭には、プライベートプールやテニスコートもあります。この中庭、コロナ禍でワーケーションのニーズにも対応されたそうで、屋外でくつろげるウッドデッキが新設されています。
どの空間も美しい湖北の景色を満喫できる開放的なつくりで、贅沢にくつろぐ時間を過ごすごとができます。ヘリコプターや琵琶湖クルーズの他にも、湖岸のサイクリングと周辺のまちめぐり楽しめるe-サイクル(電気自転車)など、ホテルから足を伸ばして湖北を楽めるプランも用意されており、日常や仕事から視界を広げ、新たなインスピレーションを得るのに最良な環境だと思いました。
地域の拠点が切り開くワーケーションの未来とは?
「ワーケーション」というワードが一気に広まりだしたのは、コロナ禍でオンラインツールが急速に一般化し、「働く場所」から解放されことも大きいと思います。自由に場所を選択できるようになり、一層現実味を増した「地方移住」や「多拠点生活」。生活スタイルや地域との関わり方にもさまざまなグラデーションが出てきました。
余暇と仕事を同時に実現する「ワーケーション」もその文脈の中にある新しい旅の形だと、訪れる立場の私からは感じています。
また、旅においては、近年いわゆる観光からもう一歩踏み込んだ「その土地に根付いた暮らしや文化、人と出会うこと」へと求められるものがシフトしてきています。
変化のスピードが早く「安定」なんていう保証はどこにもないこの時代。やる気次第で色々なチャレンジができ、場所に縛られる必要性もなくなり、働き方も生き方も、選択肢は自分次第で無限大で、「自分は何をして生きるのか?」という大きな問いがそれぞれに降りかかってきているように思います。
”Well-being”(ウェルビーイング)という言葉が注目されているように、だからこそ「本当の豊かさや幸せとは何か?」を多くの人が探し求めていて、旅にも、そういう生き方のヒントが求められるようになってきているのではないかなぁと思うのです。だから、観光のために彩られた側面でなく、その土地のありのままの暮らし、生き方に触れることに目が向いてきているのではないかと。
地域にあるホテルは、旅の中にあって自分を受け入れてくれる安心安全な居場所です。
これからは、その時訪れる人にが、観光の一歩先に触れられるための地域拠点の役割もさらに求められるのではないかと感じています。
ロテル・デュ・ラクでは、「旅」に「働く」をプラスした「ワーケーション」のニーズに応えるため、ウッドデッキやwifiの整備など、体験プランをアップデートしたのだそう。私も実際に仕事を持ち込んでみたのですが、中庭のウッドデッキで働いて、ひと休憩に湖畔を眺め、空いた時間には足を伸ばしてまちに出て……。非日常がすぐそばにある滞在は、仕事をしながらもリフレッシュでき、湖北の魅力に触れることができた良い体験になりました。
滞在先に仕事ができる環境さえあれば、頻度や滞在期間は柔軟に旅をすることができるワーケーション。濃度の濃い旅を求める人にとっても、より強い関係人口をつくりたい地域にとっても、有効な手段に思います。「快適に仕事ができる環境を整えておくこと」は、これから地域にとって重要な要素になってくるかもしれません。湖北のように、豊かな暮らしや文化のあるまちにこそ、新しいつながりを生み出す気づきがあると感じます。
豊かな大地に根付く、豊かな食材と食文化
ここでぜひ紹介したいのが、今回湖北に訪れて感動した、豊かな大地が織りなす、豊かな食です。野菜の種類が豊富で美味しい!
ヘリコプターで上空から湖北の大地を眺め、琵琶湖のそばに力強くそびえる山々とその麓に広がる田畑を見たとき、「きっとここには良い循環があって、良い食材が育つんだろうなぁ」と感じました。そして、やはり滞在の中で出会った野菜たちはエネルギー溢れる美味しさ。手のひらほどの大きさもある原木しいたけや白いオクラ、球のように丸くて小さなキウイなど、珍しい野菜にも出会いましたが、どれも驚きがあって元気のでる食体験でした。
お昼にとても美味しい地元食材のお弁当を提供してくださった野菜ソムリエの土井詩子さんは、仕事で長浜に移住した際にお米や野菜の美味しさに感動し、「地元食材の良さをもっと多くの人に知ってほしい!」と野菜ソムリエの資格を取られたそうです。現在は山奥にご自身で家を建てられ(!)、ご自宅での料理教室や、地域からの依頼で食にまつわるお仕事をされているそう。
そしてもうひとつが、滋賀県の湖北地方を語るには欠かせない「発酵文化」。
滋賀県は昔から、福井で獲れた魚介を京都へ運ぶルートなど、主要な街道が交差する場所でした。そのため魚介を腐らせずに運ぶ術として発酵が発達し、さらに限られた食料をいかにおいしく保存するかという知恵としても発酵文化が熟成された背景があるそう。
そしてこの発酵文化、代表的な鮒ずし(鮒を炊いたお米で漬けるもの)も昔は各家庭でつくっていたというほど、滋賀県の「日常」に根付いた文化。家庭や給食でも当たり前に発酵食が出てくるし、酒蔵や醤油、味噌、酢の醸造元も多く存在するようです。滋賀県が全国1位2位を争う長寿県であるのもこの発酵文化ゆえと言われるほど、滋賀県の人々を密接に支えてきた重要な要素です。
「ロテル・デュ・ラク」のディナーは、そんな豊かな食材と発酵文化を融合させた「テロワール発酵フレンチ」。「テロワール」とは大地のこと。県境にとらわれず、周辺の豊かな大地から食材を取り入れ、滋賀県出身の山本卓也料理長がモダンフレンチに仕上げます。お料理はどれも自然の美しい彩りで、食材の美味しさをしっかり体感できるもの。発酵は「へしこ」を使ったソースなどがごく自然に取り入れられていて、意外な組み合わせもとても美味しく頂けます。
アルコールペアリングには滋賀県を代表する名酒、冨田酒造の「七本鎗」も登場。冨田酒造は北国街道の木之本宿にある、創業480年を誇る蔵元。現在の代表は、15代目の冨田泰伸さん。「どういう人が造っているかが、すごく大事」という想いから、日頃から直接お客さんと対話することを大切にされているそう。意思と野心のあるまなざしが印象的な、素敵な方でした。
「ロテル・デュ・ラク」が湖北地方にもたらす価値
私にとって今回の滞在の大きな価値は、ホテルでの優雅な時間はもちろん、それらを通して湖北という地を知ることができたこと。これは、「ロテル・デュ・ラク」という地域の拠点が湖北の大地の美しさ、食文化の素晴らしさ、そしてそこで生きる人々に出会う機会を与えてくれたということに他なりません。
「ロテル・デュ・ラク」の運営母体は、地域に根付いた地元の企業、新木産業株式会社で、1950年に創業し長浜に本社を構えています。倉庫業や製造業への人材派遣・請負業が本業ですが、「地域社会への新たな価値創出」「地域の発展」を掲げ、ホテルという「点」ではなく、地域としての「面」を知ってもらうことに価値を置いて湖北地方の魅力を食・観光・滞在など多岐にわたり発信し続けています。また、地域に長く根付いてきた企業ならではの情報とネットワークがあり、長年築いてきた人脈と信頼があるからこそ、その価値を来訪者に発信できているという側面も。最近はまちを楽しむことをテーマにした大手ホテルもあり、地域にとっては良いことだと思う一方で、提供される情報の幅や深度に限界を感じることもあります。入り口となる場所(拠点)が、どれだけ地域に精通しているかによって、滞在の体験や訪れた人とまちの関係性の深さは全然違ってくるのではないかと思います。これらは「ロテル・デュ・ラク」の強みであると同時に、湖北の地にとっての可能性でもあると感じました。
今後、新木産業さんは自社のリソースとネットワークを生かし、湖北にしかない魅力の発信を、行政や地元企業と連携して進めていくという展望を持たれているようです。来年には冒頭のH3 FOOD DESIGNとともに、施設のリニューアルも含めた大掛かりなブランドリニューアルを行う予定とのこと。「ロテル・デュ・ラク」、そして湖北地方のこれからに、ぜひ注目してみてください。
北 祥子(きた・さちこ)
兵庫県明石市出身。神戸大学及び神戸大学院にて建築を専攻したのち、広告会社に入社。メディア関連や営業の部署を通じて企業の広報活動や編集等に携わる。
2019年に独立し、幅広く地域の魅力を再編集するプロジェクトの企画立案から実施、制作・広報等に携わる。日本各地でリノベーションまちづくりを軸に地域活性化をはかる株式会社リノベリングへの所属を通じて日本各地での持続的なまちづくりのプロデュースに携わり、計画プロセスや運営を含めた公共空間のより良い在り方を設計することにより、まちに豊かな日常を生み出すことを目指している。
記事に提供いただいた画像:©︎Shimpei Fukazawa