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第7回:ぐろ、お笑いに挑戦するの巻

ぐろ │ 2019.05.21

第6回

MAZECOZE研究所をご覧のみなさんこんにちは、ぐろです。
第7回目の今回は、私のプロフィールにある「エログロナンセンス」がどんなお笑いコンビで、どのように誕生したかをお話ししようと思います!
エログロナンセンス(通称エログロ……ってインパクトある!)は顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(以降頭文字をとってFSHDと略)患者の私と相方ナツ2名の女性お笑いコンビで、NHKEテレで放送中の情報バラエティー番組「バリバラ」※に数度出演させていただいています。
年増な2人がド派手な衣装で自らを「セクシーセレブ」と名乗り、病気で顔の筋力が乏しい(FSHDの特徴の1つ)お陰で「目尻にだけは皺が出来ない!」と美貌(笑)を誇る掴み。障害に関するあるあるを盛り込みながら、放送ギリギリの下品なネタを必ずぶち込んでくるのが私たちの芸風です。
バリバラ公式サイト

初テレビ出演のSHOW-1グランプリin大阪大学の楽屋にて。
公開収録のPRポスターを手に記念撮影。

コンビ結成は2014年夏、同じFSHD仲間のお宅で私とナツ(後の相方)の夫婦3組で食事会をした席上での事でした。私とナツはその半年前、サイバーダイン社が開発したロボットスーツHAL※の治験に同時期に参加していた仲で、親しくなっておりました。
HALが難治性筋疾患のリハビリに応用できるという事は筋ジス患者にとっては朗報でしたので、当然卓上の話題も治験の様子などになり。そんな中、ナツと担当PTのおしゃべりがまるでコントのようだったという話にまで来た時に、私がなんの気なく言ったのです。
「ちょうど今、バリバラでSHOW-1の募集をかけているよ。PTさんと2人で出場しちゃえば(笑)!」
サイバーダイン社公式サイト

バリバラは、当時から型破りな障害者向け番組(現在では障害者以外のマイノリティーにも対象が拡大)として話題になっていました。中でもSHOW-1グランプリは名物企画で、日本一面白い障害者を決めるお笑いコンテンストです。私は番組を欠かさず観ていて、募集の告知も知っていたのでこのように発言しましたが、たわいないおしゃべりでしかなく、決して真剣に言っていた訳ではありません。
ところがナツはこの提案を真剣に、かつちょっと勘違いして受け止めていたようで。
翌日、私のところに覚悟を決めた様子のナツから「一緒にSHOW-1に出ませんか!」というお誘いのメッセージが届いたのです。



正直どう勘違いして私が誘えるとなったのよ、と思いましたけど同時に、これは筋ジス、特に私たちの罹っているFSHDがどういう疾患か知ってもらうきっかけにはなるかな、という考えもよぎりまして。
勿論ど素人のにわか結成が本選に進めるなんて露にも思いませんが、オーディション動画をバリバラスタッフに観て貰う事で画一的な筋ジスのイメージを壊せるかも?と至った次第。
そういうことで、2014年8月10日、ナツ&ぐろは筋ジスのお笑いコンビ「エログロナンセンス」としてSHOW-1を目指す事となりました。これが最初のスタートです。

コンビ名エログロナンセンスの由来は、多くの方が私の「ぐろ」に引っかけた名前と思っているようですけど、違います。実はナツが以前別の友人とM1に挑戦したことがあり、その時のコンビ名がこれだったそうです。エログロナンセンスという言葉が流行った大正浪漫のテイストを表現したとかで、ナツ曰く当時の相方からも、お笑いをやるならこの名前を継いで欲しいと言ってくれていたそう。
彼女たちの熱い拘りに対して随分失礼な話ですが、私はこの名前を聞いた時
「おいおい、この名前じゃ下ネタ期待されるんじゃないの……」
と懸念したものの、どうせ通るわけないし、ならばナツの思い入れの強い名前を使う方が気持ちよく出来るハズと深く考えない事にしました。
後になってそこはもう少し慎重に検討すべきだったと思っているか思ってないかは、皆さんの推測に委ねます。

2016年出演時の記念撮影。エログロファミリー集結の一枚!
練習や収録時はお互いの伴侶がいつも一緒で、サポートしてくれています

このようにSHOW-1を目指すと決めた私たちでしたが、この時点で応募締め切りまで1カ月。時間もないのですぐに台本(ネタ)を書き(ナツに言われ私が担当)、稽古場を手配。2,3回の練習だけでオーディション動画を送りました。
そもそも台本の書式も分からないし、読み合わせの段階ではナツから台詞の意味や動きを問われ、「演出も考えなきゃダメだったんだ!」と今更責任の大きさに震えたりと色々大変ではありましたけど、正直この辺の時期がやっていて一番純粋に楽しめた頃でした。
なにせ短期間の急ごしらえが通用すると、端から思ってない故の気楽さもあり。身内だけで盛り上がっている、言うなればナツとお互いの夫たちもひっくるめて学祭準備を楽しんでいるようなものでした。
そんな中、動画撮影係の赤めがね(私の夫)だけがこう言っていたのです。
「どうするの?あんた、これ受かるよ」と。

私は赤めがねの嫁バカぶりに呆れつつ、そうなれば面白いだろうなぁ、ぐらいはぼんやり思っていました。しかし私にはその秋、友人とスカイダイビングに挑戦※するというビッグイベントが控えていましたから、すでに心はそちらに移り。SHOW-1という祭りは、動画の郵送と共に終了していたのであります。
ところが現実は赤めがねの予言通り、我らがエログロはオーディションを通過し本選出場(テレビ出演)を果たすことになったのです。
※この件だけでもコラム1回分ぐらいになりそうですが。取りあえず午前3時に、酔ったノリで物事を決めてはいけないとだけ申し上げておきます。

SHOW-1ゲスト審査員のはるな愛さんと。
ネタ中に無断でいじってしまったのに、快く許してくださるどころか一緒に写真まで撮らせていただき。
本当に優しく素敵な人でした

ここからはお笑い地獄のスタートで。
素人なもので合格=オーディションのネタが気に入った=本番も同じでOK!と思い込んでいたのですけど、収録日までわずか3週間の間に新たなネタを作るよう言われたのにまずビックリ。
因みにオーディションは現在のようなセレブ設定ではなく、素の2人が筋力低下のせいで表情に乏しい=ポーカーフェイスが武器になると、カジノで稼ぐ相談をするという話でした。
この時から「目尻に(だけは)皺ができない!」という私たちのイニシャルな掴みはやっていましたが、後は全く異なる雰囲気です。ディレクターからアドバイスされたのは
1.叶姉妹っぽく「お姉さま」という雰囲気にやってみたら。
(これがセクシーセレブ設定のきっかけ。しかし何故叶姉妹…。)
2.観客の興味をひくため、最初のつかみは恋愛ネタにしたらどうか。
3.「目尻に皺ができない!」は面白いので絶対入れて。
まあ、3以外はこの時間のない中、何言っちゃってるのこの人?です(笑)。おまけに相方のナツは私が下ネタ好きという全く(←ここ強調)間違えた情報をディレクターに伝えちゃったから、何も出来上がってない中、先行して撮影された紹介ビデオでは、「ネタ担当ぐろは下ネタが好き」という体になってしまい。
出来上がってみればディレクターのアドバイスはまさに的確でしたが、素人な私にとって、自分たちとかけ離れた形に纏め上げて行くという作業はとても難しく感じました。また合格した最初のネタへの執着も捨てきれなく、変えろといわれているのにしつこくそれを原型に書き直したのを送ったりもしました、時間ないのに(笑)。

コンテストという性質上、先に挙げた3つの提案以外はディレクターがネタ作りに関して一切手伝ってくれる事はなく。私が使えないネタを送っては「お笑いとはなんとや」のレクチャーを下さったり、レスしてくれなかったり(他の出場者もいて、ひと組だけに構っていられなかったのが真相(笑))という感じで、本当に自ら練り上げないと進まないプレッシャーは半端なかったです。
そのようにネタが定まらない中、稽古は先行して進めなければいけない、衣装も考えなきゃいけない、上空4000mから飛ばなきゃいけない(笑)で半ばパニくっていました。

しかし追いつめられると、人はどこかに活路を見出す生き物なんですね。ラスト1週間を切っても良い返事をもらえなかった私は、ディレクターからサジェスションのあった恋愛ネタを、掴みのみでなく全編でいくことにしました。
私たちエログロがラジオDJのように寄せられた恋愛相談に答えていくという内容で、その相談者がSHOW-1のMCやゲスト審査員というオチと、その中で、顔の筋力のない私たちがFSHD流のキスの仕方(口をすぼめられないので思いっきり舌を出したベロチューをするなど)を披露するというところに勝負を掛けてみたのです。

SHOW-1出場者たちと。みな個性的で実力者揃いのコンテストでした。
その末席に加えて貰えて大感謝です。


実は「目尻に皺が出来ない」というのがディレクターに言って貰えた事は、私にとってとても力強かったです。
FSHDが起因する障害はいくつかありますが、筋力低下のせいで表情に乏しいという事は、当事者からすると自分の思い、感情を他者に伝わりにくい為に誤解されるという苦い経験を繰り返す原因になっていています。この本人たちの悩みの深さが、そうでない人たちに果たして伝わるのか? 身体の障害というにはちっぽけな悩みに思われ、理解共感が得られにくのではないかと危惧していました。
「目尻に皺が出来ない」という私なりの自虐も、「ふーん(それで?)」で終わるのではと恐れていたのに、そこを「障害を巧く笑いに転化している」と褒めていただけたのは本当に嬉しかったし、自分の障害をどう見せれば分かって貰えるのかというヒントを与えていただいた気持ちでした。


顔の筋力が弱いくせに顔芸をするのも冒険ですし、ゲストいじりはその日その場でしか成立しない邪道なものですが。これが私の精一杯と腹をくくり、ネタをディレクターに送ったところ、やっとOKが貰えたのです。本番3日前のことでした。
そして2014年11月1日、出場者8組の1組として本選の収録を迎えました。場所は大学祭真っ最中の大阪大学豊中キャンパス。SHOW-1優勝経験者やすでにバリバラでおなじみの実力者たちが揃う中、ニューカマーな「エロい2人」としてそれなりの爪痕を残す事が出来たように思います。
当日の講評
暗中模索しながら辿りついた舞台で、2人ともトチることなく自分たちの力を出し切れただけでも満足でしたし、またそれに対し、プロの方からも愛あるコメントまでいただけて夢のような1日でした。
下積みも経験もなくいきなりテレビ出演! これは人生の栄えある1日として、老後の自慢話ネタにしよう! ディレクターさん、私たちを選んでくれてありがとう!!!と、ここで終っていれば良い話でしたでしょうけど。
それ1回きりとはならず、その後も筋ジスのセクシーセレブコンビとして数回バリバラに呼んでいただき、その度にお笑い地獄を彷徨っています(笑)。最近では1月に放送された生活笑百科とのコラボ企画で、プロの実力派芸人さんたちも出演する中、トリを務めさせていただくという、これぞ人生の最も栄えある1日(さすがにこれは重責過ぎてビビりました)を経験させていただきました。

2019年1月放送のスタジオ収録後の記念撮影。
本家「生活笑百科」のセット、あのキダ・タロー先生のお囃子で漫才できる日がくるとは!

本当はテレビ以外でも芸を磨く機会を積極的に持つべきとは思うのですが、残念ながらエログロは今のところバリバラのみでしか活動実績がありません。
実は相方のナツがエリテマトーシスというもう1つの難病と闘っており、舞台等ライブな場所で活動するのが中々難しいという事情があります。でも元が舞台女優であった彼女にとって、エログロナンセンスとして皆さんの前で演じれる事は、過酷な闘病の励みにもなっているようです。

ネタ作りや力量など、お笑いとしてはまだまだ未熟な部分が多い私たちですけど。ハンディを逆手にとって、自分たちのやりたい事を思いっきりやらせて貰えている姿を見せる事で、誰かの勇気や前向きな気持ちを後押しできる存在になれたらと願っています。
こんなババアになっても、思いがけないチャンスや頑張れる事は見つけられる! もし私たちを見かけましたら、アラフィフの頑張りを応援いただけると大変嬉しいです。

さて、これまで7回にわたりあれこれ書き綴ってきました「まぜこぜだよ人生は」は、今回を以ってしばらくお休みさせていただきます。
初めてのコラム連載で勝手の分からないことばかりな私を支えて下さいました、保手濱さんひらばるさんのお二人に深く感謝申し上げます。そして拙い連載を「楽しみにしているよ」と励まし、読んで下さっていた全ての読者の皆さま、本当にありがとうございました。
また新たな形で、皆さまの前に戻ってきたいと思っていますので、今後ともよろしくお願い致します。

では、またお会いしましょう!

ぐろ

東京生まれ東京育ち。主婦、歯学博士、顔面肩甲骨上腕型筋ジストロフィーのお笑いコンビ「エログロナンセンス」のネタ担当、共用品ネットメンバー等々ジャンルの異なる肩書きが混在する奇跡のマゼコゼスト?趣味飲み歩き。

研究員プロフィール:ぐろ

歯学博士、共用品ネットM&Cプロジェクト元リーダー、お笑い芸人
歯学部最終学年に顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーであることが判明。
大学院を卒業した後、ユニバーサルデザイン系ボランティア団体共用品ネットにて視覚障害者に向けた触覚識別方法を提案するプロジェクトにリーダーを務める。その間、カードの触覚識別方式TIMのISO規格化(ISO/IEC 7811-9)に携わる。
近年は同病の仲間とお笑いコンビ「エログロナンセンス」を結成。ネタ担当。バリバラ(Eテレ)に数度出演。東京生まれ東京育ちの酒をこよなく愛するアラフィフ。

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