English

第5回:私とお酒の巻

ぐろ │ 2018.12.27

第4回

MAZECOZE研究所をご覧のみなさんこんにちは、ぐろです。
前回のアップから3カ月以上のご無沙汰、申し訳ありません。
この間に何があったかというと、1年越しで届いた新しい車いすを色々試していたり、私がネタ担当の筋ジストロフィーのお笑いコンビ「エログロナンセンス」のTV収録があったりと、そこそこ忙しい日々を送っていました。
因みに収録内容は1月27日(日曜)、19時からEテレ「バリバラ」にて放送予定です。登場は後半、ネタ披露はほぼ3年ぶりになります。生ぐろ(?)に興味がある、車いすの難病患者が調子こいている様を見たい(笑)という方は、是非ご覧いただければと思います。

本番直前のオフショット、同じ患者仲間な相方のナツと

この「バリバラ」という番組はNHK大阪局で制作されているので、リハーサルがある場合は収録前日から大阪泊になるのですが。東京と変わらぬ大都市とはいえ、お酒に関して、特に日本酒の揃いについては結構違うので、それを楽しむのが密かな楽しみと化しています。
お料理の味付けの違いもあると思いますけど、昔酒蔵の関係者から聞いた話では、東京で人気になっても、それに合わせて設備投資したころにはブームが去ることもあり怖いと。その点大阪や西日本では、一度気に入ってもらえると長く付き合ってくれる酒販店が多く、小さな蔵でも無理なく商売ができると。
真偽のほどは定かではありませんが、私の脳内ではもう、そう設定されていますので、向こうでお初なラベルに逢う度に、小さな蔵のおじいちゃんおばあちゃんまで総出の出荷作業で、社長(父)が「それは大阪のOO屋さんに出す分だから!丁寧にしてな!!!」と息子に檄を飛ばす様子が瞼に浮かぶこととなっています。
お出汁の効いた温かい料理と、脳内再生される妄想と共に呑むお酒……はぁ、うめぇ。

私らのお気に入りで、もう10年以上通わせていただいているお店で大将と。いつも沢山のお酒と心遣い、ありがとうございます!

ということで、ここまで読まれただけで私の左党っぷりは十二分に察していただけると思います。
このようにお酒を味わうことも勿論重要なのですが、人との和を楽しむのも欠かせないところです。
馴染みの店ではいつもの常連さんたちと。初めての店では隣り合わせた人と。お酒がきっかけで、普段なら出会うチャンスもないような人たちと様々な会話を交わすことこそ、最も私が惹かれる部分なのです。
そういう出会いの中から、思わぬ付き合いに発展する事もあります。現に私のボランティアヘルパー(うちの地域では緊急介護人というボランティアヘルパー制度がある)に登録してくれているお二方は、まさに酒繋がりで仲良くなった人たちです。一人は近所の試飲カウンター、もう一人に至っては出会いが札幌だったりするのが、我ながらすごいなぁと感心しています。
そこまで超越した出会いでなくても、例えば近隣のお店で呑んでいれば、自然とご近所の人たちと顔見知りになれますから、何かの時はよろしくお願いしますと頼ったり。
時に人の手助けが必要な身としては、呑み歩きは私のセーフティネット構築のための重要な作業とも言えます。

一方的に私側のメリットばかり述べましたけど。飲み屋で私と出会っちゃった人たちにとっても、生身の車いす難病患者と呑む機会なんて、そうないでしょうから、話のネタぐらいにはなるんじゃないでしょうか。多くの人にとって、こんな元気そうに呑む障害者がいるのは想定外でしょうし、別に何か身構えなくても楽しい時間を共有できたという体験は、それなりに貴重だと…って私が言っちゃいけないか(笑)。

毎年ボジョレーヌーボ解禁日にうちの夫婦主催の宴会。毎回20人ぐらいでお酒を楽しんでいます。今年で21回目の開催

そういう風に私は一緒に呑めるダイバーシティ教材として、色んなところに出ずっぱる気は満々なのですが。最近とても残念なニュースがありました。
電動車いすユーザーの料理研究家が、とある百貨店の有料試飲コーナーでワインを飲んでいたところ、電動車いすであることを理由に2杯目以降の提供を拒否されたという事件です。
過去に電動車いすユーザーが他の客とぶつかった事故が原因とのことですが、ならばコーナーのレイアウトを見直すではなく、車いすユーザーだけ1杯しか売らないというイージーな考えで解決したということなのでしょう。
飲ませないではなく、取りあえず1杯は売るというという点も突っ込みたいものの。
この考えでいくと、例えば今度そこで試飲したおじさんがふらついて怪我をしたら、次はおじさん(っぽく見える人も含む)には1杯しか売らないという方式で、ついに2杯目に辿りつける人が誰もいなくなる日が来るのか?と思うと、みんな他人事じゃないよ!と駆り立てられる次第です。

ユーザー側がこの行為を障害者差別解消法に抵触すると訴え、百貨店、テナントとの訴訟に発展したことでニュースになりましたけど。
ネットに書き込まれた意見の大半は、「電動車いすが酒を飲めないのは当たり前」「自転車だって飲酒運転になるんだから当然だ」と、法律上は歩行者扱いになるため、電動の走行速度も6km/h未満に制限されている事実を全く知らないと察せられる主張から、「ぶつかると危ない!怪我させられる。」という、同じ歩行者同士なはずなのに、ぶつかったら車いす側が悪いという考えに集約されていました。
脱線しますがついでに言うと。私たち側から見れば、普通に歩いている人が歩きスマホだったり、急に立ち止まったり、車いすぎりぎりのところを無理にすり抜けたり横切ったり、どれだけまっすぐ歩いてくれてないか。どれだけ私たちの方があなたたちを避けてぶつかるのを防いであげているか!普通に歩いていてもこれだけ危なかっしいんだから、そういう人たち基準の注意力では、そりゃ車いすなんて危険前提になっても仕方ないのかも。

まあ、そうやって実情に気付かず、印象で語っている人たちは別としても。
少なくとも百貨店側は障害者差別解消法の趣旨を理解し、和解に持ち込むと思われたら、第1回口頭弁論でも1杯しかださないことを「安全確保のため必要」と主張したというんだから、「このデパート大丈夫なの?」と、私は頭を捻ったのでありました。

しかしここで面倒なのは、実は平成14年度に警察庁が出した「電動車いすの安全利用に関するマニュアル」というのが存在することです。

電動車いすの安全利用に関するマニュアルについて

確かにこのマニュアルの指導者用24ページ目(安全通行基本編)には、飲酒をした上での電動車いすの使用は絶対やめるよう指導しろとあります。上記の事件でも、この項目を飲酒できない根拠とする人もいましたし、実際にこれを酒提供できない理由にするお店や施設もあるようです。電動ならダメだけど、手動に切り替えるなら出せますなど、頓知かよッ!な事態も起こっているとか。

私自身、お酒呑んだ帰りに警官の前を通ったりは何度もありますが、咎められたことは一度もありませんし、そんな無粋なマニュアルが存在する事を知った時は愕然とした思いでした。
でも実際に目を通してみると、あれれ?そんな話じゃないような?と読み取れましたので、簡単に内容紹介をいたします。

マニュアルは最初から、
「電動車いすは身体障害者を中心とした移動手段として利用されてきましたが、最近は歩行に困難を感じる高齢者の社会参加の手段として普及してきています。しかし電動車いすの普及に伴いこれに係る交通事故や、他の交通参加者とのトラブル等も増加し、社会問題の1つとなっております」(出典「電動車いすの安全利用に関するマニュアル」利用者用1ページ目)
と、主に所謂高齢者のシニアカーを念頭においた安全マニュアルと読める記述になっています。
マニュアルには実際の事故の増加率のグラフも記載されていますが、平成24年から最新データの28年は寧ろ減少方向にあり(メーカーの事故防止策などの効果かもしれません)、もっとも事故が多発するシーンは道路横断時。飲食時の事故は全体の1.8%と、頻繁に起こるとは言い難い数字です。(出典「電動車いすの安全利用に関するマニュアル」利用者用、電動車いすの交通事故)

そして一番よく見てほしいのは、マニュアル全体に描かれているイラスト。
……車いすユーザーはシニアカーのおじいちゃんしかいないのかーーーー!!! ってなぐらい、このおじいちゃんが多用されています。

出典「電動車いすの安全利用に関するマニュアル」利用者用16、18ページ。酒呑みの描かれ方がテンプレ過ぎるという点はこの際目をつぶろう。

と、私の読解力では、これを以て全ての電動車いすユーザーに飲酒を禁じると理解するには無理があるように感じます。
マニュアル自体は適時データ等改定をしているようなので、次のタイミングでもう少し指導の対象を絞った書き方に直して貰えると、私のもやもやも晴れるはずです。関係者の方々にはよろしくご検討願います。

勿論飲酒は判断能力に影響を与えますから、外出時は節度ある呑み方を心得た方が良いのは当然です。でもそれは車いすユーザーだけでなく、全ての大人に当てはまります。医者から飲酒を止められているとかも、従うべきと思います。元々呑めないのであれば、それを無理して呑むようなものでもないです。

でも社会にいて、仕事、友人、地域といった繋がりの中で、一緒にお酒を呑むシーンになった時。電動車いすの人だけは呑めないという状態が、座を共にする皆にとって心地いいなんて言える時代でしょうか?とお尋ねしたい。
こうやって個々の良識に委ねればいい嗜好の話を、一律に規制するのを見逃している内に、いつかしっぺ返しがくるかも?と受け止めていただけると幸いです。

ホントに本当。車いすで呑むのがイメージつかないなら、みんな、一度私と呑んだ方がいいって(笑)! そういうご依頼でしたら365日いつでも前のめりでOKだと最後に記して〆させていただきます。

では皆様、よいお年を!!!

ぐろ

東京生まれ東京育ち。主婦、歯学博士、顔面肩甲骨上腕型筋ジストロフィーのお笑いコンビ「エログロナンセンス」のネタ担当、共用品ネットメンバー等々ジャンルの異なる肩書きが混在する奇跡のマゼコゼスト?趣味飲み歩き。

研究員プロフィール:ぐろ

歯学博士、共用品ネットM&Cプロジェクト元リーダー、お笑い芸人
歯学部最終学年に顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーであることが判明。
大学院を卒業した後、ユニバーサルデザイン系ボランティア団体共用品ネットにて視覚障害者に向けた触覚識別方法を提案するプロジェクトにリーダーを務める。その間、カードの触覚識別方式TIMのISO規格化(ISO/IEC 7811-9)に携わる。
近年は同病の仲間とお笑いコンビ「エログロナンセンス」を結成。ネタ担当。バリバラ(Eテレ)に数度出演。東京生まれ東京育ちの酒をこよなく愛するアラフィフ。

「ぐろ」の記事一覧を見る

ページトップへ戻る