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第6回:そのお・も・て・な・しを疑え?!その2の巻

ぐろ │ 2019.03.07

第5回

MAZECOZE研究所をご覧のみなさんこんにちは、ぐろです。
今回は第4回目にお送りした、街で見かけた残念なユニバーサルデザイン(UD)・サービスにいちゃもんをつける企画、「そのお・も・て・な・しを疑え?!」第2弾でいきたいと思います。

ワタクシ事ですが、昨年秋に新しい電動車いすがやってきました。リクライニングや座面が上がる機能も!

と、その前に4回目の冒頭に記した、車いす的に困ったUDタクシー「JPNTAXI(ジャパンタクシー)の件で、続報がありましたのでご紹介します。この間、2月4日にメーカー側からスロープを出す工程を簡略化、改良した車両を3月より導入する旨の発表がありました。
JPN TAXIの車いす乗降改善対応について
これにより工程が63(!)から24に削減、報道陣を前にしたデモでは3分で車いすユーザーが乗車できたようです。喜ばしい!(拍手)
手痛い授業料でしたけど、この失敗からメーカー、業界ともに学ぶ事が出来たのは決して悪いことではないと思います。但し!運用面で問題がある車両にUDタクシーの適合マークを与えた某省庁は、本気で反省して欲しく。一体何を審査してたのか……。


このように車いすユーザーが指摘しないと(UDタクシーの改善には、2018年11末時点で車いすユーザーのほかタクシードライバーなど約1万2000人から署名が集まったそうです)、一般の人たちは十分に配慮出来ていると勘違いしているモノという事で、第2弾では鉄道のバリアフリーに特化してお話しさせて下さい。


車いすでの外出というと、丸ごと乗れる自動車や介護タクシーの利用をイメージする方が多いようですが。海外からは驚嘆される程の正確さで運行される鉄道も、車いすの重要な足です。時間が読める上に、2000年施行の交通バリアフリー法(※)をきっかけに、車両の車いすスペース、エレベーターなどの駅舎の整備etc車いすでも利用しやすい環境が急速に整備されてきました。駐車場を探す手間もないですし。駅係員さんたちも親切に介助してくれて、お値段も安いんですから、電車を使わない手はないと言いたいです。
(※平成18年度からは「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」に統合)

特に私の住んでいる東京では1年半後のオリパラ開催に向け、更に整備が進んでいる…と胸を張りたいところですけど。既存の施設との兼ね合いもあるので、エレベーターが設置できない、車いすで出入りできる改札口が限定されるなど、どうしても改善できないまま残っている部分もあります。
例えば有名どころでは5路線が乗り入れる半蔵門線永田町駅。首相官邸のお膝元、まさに日本の中枢ともいえるエリアですが、銀座・丸の内線への乗り換えは階段昇降機やエレベーターを乗り継いでどうにか可能なものの、有楽町、南北線との乗り換えに至ってはエスカレーターのみしかなく不可!がファイナルアンサーになっています。
こういう所からこそ整備しようよ、って話はなかった……んだろうなぁ。
因みに乗り換えできないことを知らずに降りてしまった知人は、係員に前後を囲まれながら、なが~いエスカレーターを車いすがひっくり返りそうになりながら、無理やり乗せられたそうです。スリルをお求めの車いすユーザーさんにはお薦めのコースと思われます(苦笑)。
半蔵門駅ほど極端でなくても、ホームから地上に出るルートが上り下りの一方にしかないなど、車いす利用に制限があるところはまだそれなりに残っています。

最近設置が増えてきたホームドア。表記された車いすマークは車いすスペースがある位置であることを示してます。因みにマーク上のQRコードは車両の位置情報を読み込むためのもの。
乗車介助した乗客がどのドアに乗ったのか、降車駅に正しく伝えるための工夫だそうです。

こういうトラップ(笑)は改善されるに越したことはありませんが、事情があってのことなら仕方ありません。しかし私たち車いすユーザーだって外で仕事したり人と会ったりと、普通に時間に追われる生活を送っていますから、せめて目的地までのスムーズな乗り継ぎ方法や所要時間を外出前に調べられると助かります。
私がよく使うサイトは「らくらくおでかけネット」(交通エコロジーモビリティ財団運営)の路線検索です。アイコンの色分けで乗降駅だけでなく乗り換え駅のバリアフリー程度が分かるようになっていますし、車いすで利用しやすい順に検索結果を表示するのも可能です。シンプルでとても便利なのですが、惜しい事に英語版では駅情報のみで路線検索まで完成してないんですよねぇ。
駅情報なんて駅利用している人に訊けば分かるし、ぶっちゃけ行けばなんとかなる(笑)。でも乗り換え情報は、駅係員や鉄道に関心が強い方々ぐらいしか正しく把握していなく。
2020年に来日するであろう車いすユーザーにおかれましても、きっとアクティブに東京や日本を楽しみたい人が多いでしょう。それまでに東京の網の目のような路線を、バリアフリーでストレスなく移動するルートを、分かり易く情報発信するUDサービスが出てくる事を期待しています。

外国語対応が不十分なもう一例。
ここはエレベーターの専用改札ですが、外国人観光客が間違えて入ってしまう光景が頻繁に見られるところです。日本語とピクトグラムだけでは理解できないのも致し方ないかも。

車いすにとってのトラップは駅の設備だけではありません。最大の、ラスボス的な不確定要素は乗車介助(※)の待ち時間です。
(※駅係員が行う乗車のための介助。車いすの場合、スロープ板を出すなど)
奇しくも先月バリバラに出演した際にネタでも紹介させていただきましたが、乗車駅側から降車駅に連絡がつかないと乗車出来ないので、事前申し込み制の特急、新幹線など以外では、待つことは避けられません。
ここで問題なのは、鉄道会社によって待ち時間が長すぎて読めないケースがある事です。
って、車いすユーザーに訊けば絶対その名を挙げるであろう断トツワーストなところがありまして、収録時のスタジオトークで一番盛り上がったのは実はこの話でした。
(名前まで出しましたので、当然カット)

降車介助の様子。車いすスペースのあるドアのホーム側が少しせり出してスロープ板無しで乗り降りできるケースもありますが(都営大江戸線など)、他社と相互乗り入れをしている、古い車両も運用しているなどで車両を統一できない事情もあるので、まだまだスロープ板が多用され続けるようです。

一般的な鉄道会社だと、駅係員がホームに車いすの利用者を案内する時点でスロープ板と連絡用の無線を持っています。ホームに着いてから連絡が間に合いそうな電車を選び、すぐに無線で降車駅に連絡します(ホームに案内する時点ですでに連絡はとれてる場合も)ので、待つと言えば待つのですが、感覚的にはタイミングが合わなければ1本は見送りぐらいの感覚です。
では件の鉄道会社の場合はというと、手ぶらな駅係員と一緒にホームまで行ってから「連絡取りに行く」としばらく放置されてしまう事が大半でして。都心の本数の多い路線だと、その間に2,3本目の前で行ってしまうのを見ながらなので、ひときわ待たされている感が強くなる次第です。

年末、東海道新幹線の駅に行くために利用した時など、1駅3分行くのに20分以上待たされ、危うく乗り損ねそうになりました。因みにこの話を車いすユーザーにしたところで、驚く人はいないぐらい珍しくないケースなのが困ってしまう所以です。私が知る限りで一番酷かったのは都心を環状に走るアレに乗るのに、連絡がつかないから1時間待てと言われたとか。1周回って戻ってきたのしか乗れないのかい!です。
乗降者数や1駅の乗り入れ路線数が多い少ないという要因もあるので、一概にまとめてはいけないと思うものの。やはり駅係員の配置が足りていないところに連絡方法にも工夫がないののダブルパンチなのかなぁ、と勝手に推察しています。

こんな話をすると、他の乗客よりも手間のかかる車いすのくせに、文句ばかりなんだね!と思われる方もいるでしょう。私も対応してくれている駅係員の方々の努力には大変感謝しています。
しかし乗せてもらえるだけで有難いから時間が読めなくてもいいという事なら、その駅はどんなに立派な設備があろうとも、バリアが残る駅と言わざるをえません。

そこまで鉄道会社が頼りないなら、ヨーロッパの様に周りの乗客がお手伝いするような文化になれば良いんじゃないか?というご意見も伺います。それも大変美しい話なのですが、私なんかが望むのは、普通に気兼ねなく電車を利用したいという事なのです。周囲にお手伝いを頼めばと言っても、車いすには持ち方取り扱い方があって、それを心得てないと思わぬ事故や故障の元になりかねません。折角のお手伝いがアダにならないよう、乗り降りする度に指示出しするとしたら、正直ちょっとしんどくて電車を使わなくなってくると思います。(そもそも私の新しい車いすは100kgを超えますから、人力で担ぐ事自体無理なんですけどね(汗))
まして日本の場合、ヨーロッパの平均よりずっと設備のバリアフリー化は進んでいるのです。だからこそ運用に関して、あともうひと押しの改善を願うところです。


さて、ここまでは鉄道関係者側に改善を求める話でしたが。
次の話は駅を利用する皆さんに、今一度よく考えていただきたい話です。
こちらの写真をご覧ください。

これは駅のホームと改札をつなぐエレベーターの扉写真です。

私はこういう表示を見る度に「どんだけ殺伐とした駅なのよ!」と暗~い気持ちになり。
日本人はどんな混乱下においても、きちんと並んで順番を待てるという美徳があると言われています。それは素晴らしい事ですが、順番を守るのもマナーなら、状況に応じて必要な人を優先するのもマナーです。ここに頷いてくれる方についてはいいのですけど、そうでない人もいるからこそ、こういう掲示が出てくるのでしょう。

私が知っているこういうモノが貼られている駅では、こちらが降車介助して貰う所に割り入って先に降りた挙句に、エレベーターにも先に乗り込んですぐ扉閉めちゃうなどが常態化されています。皆さんちゃんとした会社員風な方々ですけど、早い者勝ちの徹底にも程があると感心するばかりです(笑)。
こういうのを見ていると、住みよい街かどうかを判断する材料として、最寄駅にこういう掲示があるか否かを目安にするのも、アリなように思えてきますね。

こうした弱者(すみません、そんなガラじゃないのに自分で言っちゃいます)を押しのけても先に行こうという心がどこから生まれてくるのか、私なりに考えたのですが。
駅の自動改札に、通常より幅の広い個所があることはご存じでしょうか。

車いす、ベビーカーを始め大きな荷物を持った人などが通れるように設置されているのですけど。

よくここで経験するのは、私が改札を通ろうと目の前に居るにも関わらず、反対から通る人が次々来てしまい、人の通りが切れるまで待たなければならないという状況です。
多分、反対側から私より先に通ろうとした人たちは、それぞれ自分はサッと通るから、時間がかからないから、という気持ちなのでしょう。しかし現実は誰かがその考えを捨てて譲ってくれないと、この通路を必要な人がスムーズに通れないという事態が引き起こされるのです。

そんなつもりないのでしょうけれど、構造的には先に出したエレベーターを譲らないのと同じ、「どうせ(車いすは)モタモタするから、先に行っちゃえ!」って考えがあったりしませんでしょうか?(実のところ、車いすは下手な歩行者よりもスピード出ますけどね)
当たり前ですがあなたの時間と私の時間、どちらが大事か、どちらが優先されるべきかなんてありません。どちらも等しい価値があります。
これは不要な人がバリアフリー設備を使うな!なんて話じゃなくて、明らかに必要な人がいる時は、優先順位を自発的に判断して下さるとホントに本当に嬉しい、ということなのです。
どうせ褒められるなら、「どんな時でもちゃんと並べる」だけじゃなく「周囲に気を配れる心のゆとりもある」が加われば素晴らしいじゃないですか。

理想は車いすやベビーカー、マタニティ等のピクトグラムがなくても、全ての人が使いやすい環境になることです。色々表示しなきゃいけないうちは、まだまだ…と思うと気が遠くなりますが。
逆に言うと、これは一人ひとりの気持ちの持ちようで社会が成長する伸び代が残っているということでもあります。
皆様、電車をご利用の際はいつもの行動を「意識高い系」な目線で見直してみてはいかがでしょうか?

では、また!

ぐろ

東京生まれ東京育ち。主婦、歯学博士、顔面肩甲骨上腕型筋ジストロフィーのお笑いコンビ「エログロナンセンス」のネタ担当、共用品ネットメンバー等々ジャンルの異なる肩書きが混在する奇跡のマゼコゼスト?趣味飲み歩き。

研究員プロフィール:ぐろ

歯学博士、共用品ネットM&Cプロジェクト元リーダー、お笑い芸人
歯学部最終学年に顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーであることが判明。
大学院を卒業した後、ユニバーサルデザイン系ボランティア団体共用品ネットにて視覚障害者に向けた触覚識別方法を提案するプロジェクトにリーダーを務める。その間、カードの触覚識別方式TIMのISO規格化(ISO/IEC 7811-9)に携わる。
近年は同病の仲間とお笑いコンビ「エログロナンセンス」を結成。ネタ担当。バリバラ(Eテレ)に数度出演。東京生まれ東京育ちの酒をこよなく愛するアラフィフ。

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