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ボラサポが考える、オリパラボランティアが生み出すダイバーシティ&インクルージョンと、その先にある心のレガシーとは?【後編】

ぐろ │ 2020.02.26

2020のオリパラ研修プログラムの要はダイバーシティ&インクルージョン

皆様こんにちは、ぐろです。
前編に引き続き、日本財団ボランティアサポートセンターボラサポ)の事務局長、沢渡一登さんにお話をうかがっていきます。

前編はこちら

前回は主に障害当事者の方々がオリパラボランティアとして活躍するまでの舞台裏を教えていただきました。
多様性のある人がボランティアチームに参加する仕組みづくりの前提として、各ボランティアメンバーのダイバーシティ&インクルージョン(以後D&Iと略)への深い理解抜きに始まりません。後編ではボラサポが携わっている研修の内容からお聞きします。

日本財団ボランティアサポートセンター事務局長 沢渡一登さん

沢渡さん「今回のプログラムの1番大きなポイントはD&Iと、コミュニケーション&ホスピタリティです。多様性の理解と、それを理解した上でどのようなコミュニケーションや具体的な対応が重要になるのかを知ってもらうことに重点をおいています。
当然オリパラの歴史、概要も学びますが、それ以上に今大会において重要なのはD&Iだと考えています」

--研修内容は、過去の大会を参考にされているのでしょうか?

沢渡さん「ボランティア文化のレベル、求められる研修のポイントは国により違いますので、実はあまり過去の大会からは引き継がれないんです。ですから今大会独自のプログラムとなっています」

違いを認め合うところからスタートする学び

当事者として「その通り!」と頷きながらお話に聞き入る私

--今回重点を置かれているD&Iの研修についてもう少し詳しくお聞かせください。
障害以外にも子供や老人、外国人など様々な特性を持つ人々がオリパラに来ることに対して、実際どういう研修を行っているのでしょう。

沢渡さん社会モデルの中で説明することにこだわっています。○○障害など障害でくくるのではなく、今回の教育プログラムで特徴的なのは、社会モデルに基づいた障害理解を先に学ぶというところなんですね。当然正しい応対のテクニックを知ることは必要ですが、入り口をそこに設定していません」

「個人モデル」に対する「社会モデル」ですね。
障害者が直面する困難を「その人に障害があるから」と個人的な問題とするか、「社会が障壁(障害)を作っており、それを取り除くのは社会の責務」と社会的な課題と捉えるかという。
様々な人々が集うオリパラの舞台で、そういう理解は欠かせないと私も思います。

ここで、実際に使われている大会ボランティアの研修テキストを見せていただきました。最初に今大会の概要の章があり、その次にダイバーシティ&インクルージョンの章、そしてコミュニケーション&ホスピタリティへと続く構成になっています。

集合研修の様子(画像提供:日本財団ボランティアサポートセンター)

沢渡さん「D&Iの章では、すべての人がいきいき活躍し、楽しめる大会のために、違いを理解し多様性を尊重することが大切であることを伝えています。それは、ボランティアメンバーの多様性は、観客やアスリートの希望を汲み取る際の強みにできるというエッセンスです。
次に文化の違い、性の違い、世代・ライフステージの違い、心身機能の違いなど様々な違いを例に挙げています。障害は心身機能の違いの一部という位置づけです。それを踏まえた上でコミュニケーション、一般的なサポートの仕方などの実践ポイントへと学びをつなげています」

--D&Iの次のコミュニケーション&ホスピタリティの項目で「障害特性への具体的対応」のレクチャーが出てくるのですね。ダイバーシティを自分ごととして学んだ後の実践ポイントという流れが面白いと思いました。

沢渡さん「ここでこだわっているのは、“正解はない”というところです。勝手に思い込みでやらずに、本人に聞いてそれを実行することが“正しいやり方“でその時の正解なのだと。そのために行動力、気づく力、対応力を磨き、しっかりと相手とコミュニケーションしていきましょうということをテキストで強調しています。
かといってベースの部分がないとサポート側も不安になりますので、アテンド方法等の基本的なスキルの部分は、シチュエーションごとに入れています」

3時間の集合研修では、多様性のある当事者を講師にリアルな声を聞き、テキストとeラーニングを活用して、how toやスキルの部分でD&Iへの理解を深める構成になっているのだそう。点字ユーザーのため点字テキストや、手話話者のための手話で行う研修もあるそうですよ。

テキストには音声読み上げコードが入っています

誰も置き去りにしない社会をつくる先導役に

広報部マネージャー 倉田さんから「ボラサポが手がける独自研修も見にきてください」とお誘いいただきました。いきますともー!

--このような研修を受けた8万人の大会ボランティア(フィールドキャスト)と、都市ボランティアである3万人のシティキャストが大会終了後、学んだ価値観や経験をどう生かしていくのかは注目ですね。

沢渡さん「今回大会ボランティアと都市ボランティアが共通の研修をするのですが、この東京大会が初めてなのです。過去の大会では、それぞれのボランティアで教育のレベルも待遇もバラバラでした。外から見れば同じ大会に関連するボランティアですので、そこに差があってはいけないというのが私たちの思いです」

今まで一緒でなかったことすら知りませんでした(すみません!)。
2つの役割が一体型に運営されているのを体現する1つとして、ユニフォームも大会と都市で一体的な、連続性のあるデザインになっているとのこと。ボランティアのユニフォームについては色々と報道されましたが、実はそこが大きな着目点だったようです。

沢渡さん「少なくともこの総勢11万人がこれから、D&Iな社会を作っていく先導役になっていただかないと。そういう意味で一緒に取り組むチームの中に、障害のある方もいるというのは重要だって思うんですね。
お客さんへの対応は一過性のものですが、多様性のあるメンバーでのチームが10日間同じ釜の飯を食う仲間になる。そこでの経験の方が多分意味がある。そういうものこそがレガシーになっていくと思うんです」

“私は輝く” 自己実現の場としてのボランティア

広報部コーディネーター 小久保さんは、蒲郡市から出向されており、ここで学んだことをご自身の場に持ち帰るミッションも持たれているそう。

--日本におけるボランティアというのは、以前は町内会、消防団といった地域に貢献する側面が大きいものでしたが、東日本大震災以降、できる時にできることをといったカジュアルなものに変容してきていると感じます。今回の2020では今後の社会に向けて、どのようなボランティア像を示そうと考えているのでしょうか?

沢渡さん「まさにそこが重要なところだと我々も思っていまして。統計データによると、オリパラのボランティアをするモチベーションって他のボランティアとは違う傾向があるんですね。
今までボランティアというのは災害ボランティア等に見られるような、何か困っている人のためにやる、奉仕であるのが一般的だと思います。一方でオリパラのモチベーションは、人のためじゃなくて自分のためにやるという側面が結構強いんです。人脈作りやスキルの向上に繋がるという。だから僕らにとってもオリパラはボランティアの価値観、ボランティアの価値を広げるすごく良い機会になるんじゃないかと思うんですね」

--ボランティアをしたことで自分の経験値が上がる、そこに価値を見出して欲しいと。

沢渡さん「従来型の困っている人のための活動も尊いことで益々必要になってくると思うのですが、一方で自己実現や成長の為にやる活動もあっていいかなと思うんです。
大会が終わった後も色んな社会課題に先駆的に取り組むのがボランティアだと思いますが、動機の違いはあれど、そこから、ここをきっかけに、社会的な課題にアプローチする担い手として活躍する社会ができてくることが望ましいかなと。
そういう意味では、違いがあるボランティアだからこそ価値も価値観も広がります。今までボランティアに興味のなかった方やこれがきっかけになる方が増えてほしいですね。組織委員会はフィールドキャストに大切にしてほしい想いとして“私は輝く”という言葉を伝えています」

--自己実現というと一見利己的にも聞こえますが、他人と自発的に関わっていくのがボランティアという行為であるのですから、そこには多様な考えに触れて学ぶチャンスが沢山あります。多様な価値観を体感できるだけでも貴重な体験になると思います。

沢渡さん「そうですね。東京大会は多様性と調和と言うスローガンがありますし、まさにD&Iだと理解しています。これから社会もそういう方向に進んでいく中、このオリパラは非常に大きな契機になると思います」

--最後に、みなさまに一言いただきたいと思います。今回参加した人に、経験をその後社会にどのように還元して欲しいといったイメージをお持ちですか?

事務局長の沢渡さん。ボラサポとしてのお立場だけでなく、御自身の信念から出ていると感じられる熱い言葉が印象的でした

沢渡さん「シンプルに、困っている人がいた時に声が掛けられるようになる。ただそれだけでも大きな成果かなと思うんです。研修を受けたボランティアたちが、街でそのように動き始めるだけでも、だいぶ世の中が変わってくると。それが心のレガシーになっていくといいなと思います」


倉田さん「ボランティア研修を受けた方に感想を聞くと、障害ってなんだろう?と改めて考えるいい機会になりましたって、おっしゃってくれるんですよ。色々な方が色んな立場で新しいものを築く機会にこの2020がなれば良いじゃないかなと思います」

小久保さん「障害のある人と健常者の人が同じチームで普通に活動できるという事には価値がある。これからさらに僕らがボラサポのサイトや記事を通じて発信して、見て知ってほしいと思っています」

--みなさま、貴重なお話をありがとうございました!

取材を通じて、各地のボランティアがレガシーの伝達者として各地で活躍し、そこから色んな芽が出るのだろうとワクワクしてきました。
しかしその芽を育てるのはボランティアだけでなく、私たち一人一人の心にもかかっています。
今後街で見かけるであろうボランティアの方々の働きぶりに感謝すると共に、どんな事をしているのか大いに注目し、真似してみるのもレガシーの形成に係る事=オリパラに参加する事になるのかもしれません。

以上、ダイバーシティ&インクルージョン社会に繋がるボランティア研修のお話、いかがだったでしょうか?
mazecoze研究所では今後もボラサポの活動に注視していきたいと思っています。ここまでお読みいただきありがとうございました。

恒例の記念撮影


(取材・執筆 ぐろ)
研究員プロフィール:ぐろ

歯学博士、共用品ネットM&Cプロジェクト元リーダー、お笑い芸人
歯学部最終学年に顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーであることが判明。
大学院を卒業した後、ユニバーサルデザイン系ボランティア団体共用品ネットにて視覚障害者に向けた触覚識別方法を提案するプロジェクトにリーダーを務める。その間、カードの触覚識別方式TIMのISO規格化(ISO/IEC 7811-9)に携わる。
近年は同病の仲間とお笑いコンビ「エログロナンセンス」を結成。ネタ担当。バリバラ(Eテレ)に数度出演。東京生まれ東京育ちの酒をこよなく愛するアラフィフ。

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