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コクヨ株式会社【第1回(全3回)】
リーディングカンパニーが世に送り出す“ソウイク”とは!?

mazecoze研究所 │ 2016.05.23

【我が社のmaze道〜コクヨ株式会社編〜】
第1回:リーディングカンパニーが世に送り出す“ソウイク”とは!?
第2回:「やりたいならやってみなよ!」 
チャレンジ歓迎な社風が切り込む働き方の本質
第3回:文房具LOVER垂涎! 最新&限定商品がズラリの 「コクヨハク2016」潜入レポート


文房具ラブ♡なみなさん、いらっしゃい!

近頃、文房具ブームが静かに熱く再燃している気配がしませんか?
機能性とデザイン性が同居した優れた文房具は、使うたびにちょっとうれしくなる、暮らしの潤滑油的役割も果たしてくれます。そして、ビジネス的には、“ものづくり大国ニッポン”お得意のこだわりや工夫、精密さが存分に活かせる分野でもありますよね。「お土産に買って帰国したら、めっちゃ喜ばれた!」「なんだ、あのミラクルな作りは。神か!」と、日本製文房具は海外の観光客からも絶賛の嵐です。

そんな日本の文房具業界を長きにわたって牽引し続けてきた企業といえば、明治38年創業のコクヨ株式会社(以下、コクヨ)さん。この“キャンパスノート”なんて、「使ったことがない」という人を見つける方が難しいくらいの大ベストセラーです。

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1975年に発売されたキャンパスノートは5代目。デザインだけでなく使いやすさも代々向上しているそう

他にも、細かい部分をいつまでも快適に消すことができるカドがいっぱいの消しゴム「カドケシ」や、ハリのいらないステープラー「ハリナックス」など(ダジャレ成分が濃い目のネーミングは、大阪に本社がある会社さんならでは?)、随所に工夫を凝らした商品を、これまでも数え切れないほどリリースしてきました。

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テープのり「ドットライナー」を初めて使ったときは、あまりの便利さに叫びました、私

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何でも簡単にギフトに変身してしまう「和ごむ」。ネーミングも秀逸です

こんな商品を世に送り出す会社さんで、いったいどんな人がどんな思いで働いているのか、そもそも商品ってどうやって作っているのか、気になりすぎる! ———ということで、今回の「maze道」は研究員のあべ&保手濱が、お話をうかがってきました!

ええと、すいません 文房具はどこですか??

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コクヨの品川オフィスはJR品川駅を出てすぐ!ショールーム、コクヨホールも併設しています

まず、最初に通されたのが、こちらの応接室。ジャジャン!

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パイプ椅子と長机の無機質な会議室に慣れてしまった目にはかなり新鮮

お、応接!? ……というか、おしゃれマンションのショールームでは?
実はその印象、あながちハズレでもなく、コクヨさんは文房具の他にオフィス家具事業も長く続けているんですって。元は和式帳簿の表紙を製造するお店としてスタートし、紙製品メーカーとして成長しているコクヨさんですが、「それを保管する棚も必要だよね?」ってことで、ファイリングキャビネットの製造も開始。以来、小さな文具からオフィス家具、さらには空間構築まで、“働く人”と“学ぶ人”の環境をトータルにサポートしてきた歴史があるのです。
そんなわけで、応接室は細部にまでこだわりが見えて、訪れたゲストやパートナーさんたちと、快適な環境で話ができる空間になっています。確かに、こんな環境で仕事ができたらモチベーションもググンと上がりそう!

そしてさらに、この応接室で私たちを待ち構えていたのが、こんな、ちょっぴりシュールな絵本?とか、

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顔パーツのシールを貼って思い思いに顔を完成するヒット商品「かおノート」

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片桐さんが手がけた創育商品「こいこい花札」「香りのワークブック」「きせかえカーニバル」(左から)。雑貨店、書店、文具店など、商品を取り扱っているお店もマゼコゼ

スーパーポップな色使いのアイテムたち。赤に、金に、黄色とな!
すいません、これって本、文具、それとも、おもちゃ??

「はい。こちらは“創育”商品と申しまして、弊社が企画開発した子ども向けの商品です。maze研のみなさんはすでにコクヨ製文具をご愛用いただいているということでしたので、本日は弊社の違う側面をぜひ知っていただきたくて」
と、私たちの疑問に笑顔で答えてくれたのは、これらの生みの親の一人、コクヨ株式会社アーツ&クラフツ事業部(以下、A&C)の片桐友美さんです。

まず、大人が興奮してしまうオシャレさと意外性

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【片桐友美(かたぎり・ともみ)さん】大学で建築、大学院で人間工学を学んだ後、コクヨに入社。新人時代は大阪本社でファイルの開発を担当し、’14年、現職に異動。結婚を機に東京住まいに。趣味は海外旅行、人と話すこと

ソウイク? 初めて聞く気がする言葉ですが、片桐さんいわく、「創造性を育成する」という意味なのだそう。そしてもうひとつ、コクヨさんが作る創育商品には、「親子のコミュニケーション」というテーマもあるのだとか。

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色を塗っても下絵が透けて見える「透明くれよん」。水彩絵の具のような発色の美しさは化粧品やベビーオイルに使われている原料を練り固めることで実現したそう

切ったり、貼ったり、色を塗ったりと、既成の絵本や雑貨などにひと手間加えることで、作る楽しさを味わったり、オリジナリティを発揮する醍醐味を感じたりできるのが、創育商品の大きな特徴ですが、 “子ども向け”と謳われるものには、あくまでも子どもが“主”で、親はサポート、見守りといった役回りに終始してしまう商品が少なくありません。

そうではなく、片桐さんの部署が開発する商品は、親自身が楽しめることにも重点をおいています。だから、ちょっと玄人好みのイラストレーターさんやアーティストさんの作品を起用したり、発色にこだわりまくったり、シールなども白いフチをなくして重ね貼りしたときの“ピタッ”とハマる快感が味わえるようになっていたり(←きっとかなりの印刷屋さん泣かせ)と、視点が独特でかなりユニークなのです。

コクヨのえほん

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興味深すぎておとなしく座っていられず、我先に立ち上がって商品を手に取ろうとする保手濱&あべ

育てるのは「創造性=問題解決力」という奥深さ!

しかも、コクヨさんの創育商品に込められた真の願いは、単に絵が上手に描けるようになるとか、アーティスト的人材を育成するといった部分とは違うところにあるそうです。
「これらの商品に使い方や遊び方のルールはありません。何色に塗ってもいいし、作ってから貼っても、貼ってから組み立ててもいい。いろんな方法を試しながら『ああ、こういうのもアリなんだ!』という経験をたくさんすることで、将来、何か困難にぶつかったときにも柔軟に対応できる、いい意味で“逃げ道”を探せる人になってほしい。商品を通して、世の中にいろいろな考え方があることを知ってほしいんです」

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デザイン性の高いものに小さな頃から触れられる機会は貴重です

ひとつひとつの商品に込められた、作り手のみなさんの何やら深い思い。
ああ、“良いもの”って、そういう思いの先に生まれていくんだよなぁ。あべにとっては、漠然とわかっていたつもりになっていたことが、目の前であきらかになった瞬間でした。

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好奇心旺盛な片桐さん。大学院に進んだのはたくさん海外旅行に行きたかったから(笑)

まぜこぜな働き方でそぎ落とされた「なんとなく」な自分

そして、現在までのお仕事を通して、片桐さん自身もさまざまな学びを経験しているといいます。
商品開発のきっかけとなるアイディア自体は、ひとりの人間から生まれてくるものですが、それがふくらんで商品化の芽が出てくると、さまざまな人が関わってきます。特に、A&Cは社内ベンチャーで発足した小さな部署なので、社外の多くの方たちの協力が不可欠。作家さん、原料メーカーさん、印刷屋さんなどなど、価値観も働き方も違う人たちと一緒にひとつのゴールを目指すとき、旗振り役のご自身が「なんとなく」で仕事をしていては上手くいかないということを、身をもって経験しているのです。
「A&Cに異動してから、価値基準が大きく変わりました。“人に自慢できるから”とか“流行っているから”ではない。新しい商品アイディアを探してアンテナを張り巡らせながらも、同時に『本当に必要なものは何か?』を常に考えるようになったんです」

世界初!? 「本になった香り」の出来るまで

そんな片桐さんの現在までの代表作が、化粧品メーカー・資生堂の調香師さん監修(
※)で開発した『香りのワークブック』。7種類の香りペーストを混ぜ合わせ、文香として手紙に入れたり枕元においたりして、楽しく香り体験が出来る……えーと、本? キット? やっぱりカテゴライズが難しいのですが。

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調香師さん直伝のレシピとウッディムスク、ホワイトフローラルなど本格的な7つの香りペーストがセットに。プレゼントにしても喜ばれそう。(※)監修範囲:7種類の香り選定、香りのノートブック

「『透明くれよん』の開発から、香りを色みたいに混ぜられたらおもしろいかも!とひらめいたんです」と片桐さん。「せっかくなら、日本初の国産香水を発売した資生堂さんと仕事がしたい!」と企画書を持って突撃したところ、意外にもノリ気になってくれたのだとか。本当のところ、こんなにトントン拍子に話が進むことはまれ。A&Cのメンバーは、日々、相当な数のトライ&エラーを繰り返しているといいます。
「それが、あれよという間にプロジェクトが大きくなって、資生堂の調香師さんだけじゃなく、広報の方や経営企画の方ともお話できたり、香料会社の方、デザイン会社のみなさん……。ですから、かたちになったときには『みんなでひとつの商品を世に出した!』という達成感が感じられ、本当にうれしい気持ちになりました」

気になるコクヨの社風・風土は……?

組織や業界の境界線をまぜこんで、高いパフォーマンスを発揮する。片桐さんの働き方は、まさにmaze研が推奨するワークスタイルです。けれど、それが実現出来ている会社組織はまだ少数派という印象があるのも事実。
それなのにコクヨさん、どうやらだいぶ以前から、今と変わらぬ社風を貫いているらしいのです。あの数々のロングセラー、ヒット商品は、だからこそ生まれたのか!と納得。

次回は、そのあたりの風土や社風を詳しくうかがいます!
(撮影:吉永和志/取材・文:阿部志穂)

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