国会議員が党派を超えて集う夜。レイチェル・ドレッツィン監督と多様性を語る
こんにちは。mazecoze研究所のひらばるです。
先日、お誘いいただき11日17日から上映の映画『いろとりどりの親子』の国会特別試写会&トークイベントにお邪魔してきました!
手乗り国会議事堂!(わかります?)
『いろとりどりの親子』は、セクシュアルマイノリティ、自閉症、ダウン症、低身長症、犯罪を起こした子など、多様な事情を抱える子供とその親の姿を追ったドキュメンタリー映画。
登場人物の一人でもある作家のアンドリュー・ソロモンさんが10年の歳月をかけて、障害やLGBTなどさまざまな“違い”を抱える子を持つ300以上の親子に取材をして執筆した「FAR FROM THE TREE」が原作になっています。
劇場公開を約1週間後に控えたこの日、衆議院議員会館で特別試写会が開催されました。
「映画議員連盟」、「超党派ママパパ議員連盟」、「LGBTに関する課題を考える議員連盟」が後援となり開催する運びとなったのだそうです。
議員さんや一般のお客さんがまじりあい、会場の多目的ホールは満席!
トークショーの様子。右からレイチェル・ドレッツィン監督、野田聖子議員、馳浩議員、高木美智代議員、畑野君枝議員、尾辻かな子議員
試写前のトークイベントでは、レイチェル・ドレッツィン監督の横に呼びかけ人の議員さんたちがずらり。
政策に「個性と多様性の発揮」を掲げる野田聖子議員や、元五輪選手で2020年オリンピック・パラリンピック東京大会実施本部本部長も務めた馳浩議員、社会福祉士・介護福祉士として活動し、自身もセクシュアルマイノリティ当事者としてLGBT政策を推し進める尾辻かな子議員などなど、日本の多様性を牽引する顔ともいえる方々です。
普段から党の枠組みを超えて勉強会を開催しているそうで、皆さん仲が良さそう。
まず、レイチェル監督が、世界の今と日本に来て感じたことを「多様性」という切り口から語ってくれました。
レイチェル・ドレッツィン監督
「アメリカでは大変重要な選挙が行われていることはご存知だと思います。多様性のための戦いです。
今回来日して、多様性の葛藤はまさに世界中で起きているのだと実感しています。今の日本を見て、多様性から遠のいているのではと心配に思う声も多く聞きましたが、それは言い換えれば、変化に対する不安の表れなのかもしれません」
監督が言う重要な選挙とは、アメリカ中間選挙のこと。アメリカ史上最年少の女性下院議員や、イスラム教徒の女性下院議員、ゲイであることを公表した州知事が誕生するなど、世界中から注目を集めた選挙となりました。
日本でも今は「ダイバーシティ」という言葉を聞かない日がないほどですが、監督の目には「日本が多様性への恐怖や不安を持っている」ように映ったのですね。なるほどー!
監督の言葉を受けて、野田聖子議員が「日本の中で一番多様性が見えない場所にようこそ!」と言って、会場は笑いに包まれました。
参加した議員さんのコメントも一部ご紹介しましょう。
野田聖子議員
「日本の政治の中で、一番欠けているのは多様性です。私が国会の仕事を始めたころは、そもそも男でなければならない、子育てにかまけているような世代が入ってきてはならんみたいなムードでした。
でも、最近は若い議員さんも増えていますし、リアル子育て世代のママパパなど、現実の問題がわかる人たちで議論していくことが大事だと、超党派ママパパ議員連盟も立ち上がりました。
(いまの日本の)キーワードは多様性だと思います。
レイチェルさんが言っていたように、この国は多様性がないことで窮屈になっています。でも裏を返せば、多様性を知ることで可能性が広がるのだとも思います。この映画を見て “自分と違う人がいるんだ”ということを見える化し、違いを恐れるのではなく受け入れてもらえたら嬉しいです」

高次脳機能障害がある弟さんを持ち、13年間にわたり障害者政策に取り組んできた高木美智代議員。障害者虐待防止法、障害者差別解消法、障害者による文化芸術活動の推進に関する法律など、成立に寄与した法律の数は約20本!
高木美智代議員
「日本には同調圧力という言葉があり、人と同じじゃないとおかしいという圧力を無言のうちに受ける傾向が強いように思います。それではあまりに生き難い、生き苦しい。これを変えていくのは、やはり監督がおっしゃっていたダイバーシティをもっと広めていくこと。人と違う個性を尊重するということです。
障害というのは、その人の側にあるのではなく、支える社会の側にあるのだということに気づいて欲しいというのが私の願いです」

馳浩議員は、ジェンダーアイデンティティーの問題に関心を持ち、超党派のSOGI議連、セクシャルオリエンテーション&ジェンダーアイデンティティーの課題を考える議連などの取り組みを進めています。
馳浩議員
「非常に象徴的なのが、我が党の杉田水脈議員の発言でした。杉田議員が書いたといわれる論文は、はなはだ事実誤認で当事者の尊厳を傷つけるような表現が多く見られました。
2020年に東京オリンピックが開催される以上は、SOGIの問題について立法があればいいですし、国家公務員については人事規則、経済界でいえば経団連、組合でいえば連合のガイドラインなどで指針が示され、社会全体で差別のない状況を作り出していく必要があると思っています。社会、職場、学校、地域において人としての尊厳を尊重し、当事者の立場に立った対応ができるよう、理念法として立法の準備をしています」
※SOGI(ソジ)とは、Sexual Orientation(性的指向)とGender Identity(性自認)の頭文字をとった言葉。「どんな性別を好きになるのか」、「自分自身をどういう性だと認識しているのか」という状態を指すので、誰もが持っている要素として捉えられる。

LGBTの当事者だけではなく、カミングアウトを受けた家族や友人の相談窓口を立ち上げるなど、セクシャルマイノリティーに対する包括的な環境整備を進める尾辻かな子議員。
尾辻かな子議員
「私は日本の国会議員の中でレズビアンであるということを公表している唯一の議員です。公表しているというところがミソですからね(笑)
実はこの社会はすでに多様です。
いろんな方が共に暮らしていますが、映画やテレビなどではどうしても落とされがちです。『いろとりどりの親子』には、そういう当たり前の家族の楽しそうな日常生活が描かれていて、もっとこういうシーンが当たり前に描かれるようになったらいいのになと思いながら見させてもらいました。
国会では、2020年東京オリンピックまでのLGBTに関する差別解消法と、同姓パートナーシップについても議論を進めています。G7の先進主要7カ国の中で同姓パートナー法がないのは日本だけという状況ですので、国会で立法ができるというところでまた皆さんと一緒にがんばっていきたいと思います」

それにしても、日本の名だたる議員さんからこれでもかとダイバーシティについての話を聞ける機会って貴重です。『いろとりどりの親子』パワー、すごい。
各議員のコメントを受けて、レイチェル監督からもふたたびコメントがありました。
「議員の皆さんが、ダイバーシティという言葉を人種やジェンダーだけでなく、“人はそれぞれ色んな形で違う”という意味で捉えていることに感銘を受けました。日本は今とてもエキサイティングな時期で、この先どんな国になっていくのか、まさに岐路に立っているんだなと実感しました」
監督は、映画を製作したときはまさか日本で公開されるなんて思ってもみなかったのだそう。それがいまや文部科学省特別選定、東京都推奨映画にもなっているのですから。
不安も期待もごちゃまぜになった日本の多様性との向き合い方を「エキサイティング」と表現してくれたのかもしれません。
トークショーが終わると会場はなんとなくあたたかい雰囲気になっていて、いざ、映画の試写へ!
人生は「違い」を受け入れ、本当の自分らしさを見つける旅。そしてそれを愛さずにはいられない家族の物語
(C)2017 FAR FROM THE TREE, LLC
『いろとりどりの親子』、ネタバレにならない程度に少しだけ内容をご紹介します。
映画には、6組の多様な家族が登場します。描かれるのは、障害や特性という“違い”の中で起こる困難や壁と、それに向き合い何かを見出していくプロセス。
親子の葛藤や子の自分探しの様子が淡々と綴られていきます。映像がめちゃくちゃ綺麗です。
©2017 FAR FROM THE TREE, LLC
原作者で登場人物の一人、アンドリューさんはゲイとして生まれました。
彼が子供だったときは、セクシュアルマイノリティは病気や個人の選択だと考えられ、“治す“べきものだとされた時代。そんな環境で、アンドリュー氏もまた親や周りの人と同様に、自分のありのままを受け入れられず、大きな困難の中で育ってきました。
本当の自分を否定して、自分のことを無理やり親や社会が求める姿に変えようとしてきたことを「私はこれまでずっと自分への虐待をしてきた」と語ります。
それから40年経ったいま。社会は大きく変革し、病気だとみなされていた同性愛は個性と認められるように。アンドリューさんも同性のパートナーと結婚し、二人の子供を育てる親になりました。
自身の体験から「治療すべきものと祝福すべきものの境目がどこにあるのか?」 を探るために始めたのが、本のプロジェクトでありこの映画だったのだそう。
©2017 FAR FROM THE TREE, LLC
自閉症で言葉を発することがなかったジャックと、彼のためにあらゆる治療法を試したエイミーとボブ・オルナット夫妻。 試行錯誤しながら独自のコミュニケーション方法を見つけたジャックさんは「僕らは自分の心に閉じこもっていない」と教えてくれます。
その後も彼の言葉にはハッとさせられっぱなし状態に。
©2017 FAR FROM THE TREE, LLC
リア・スミスとジョセフ・ストラモンド夫婦は、「自分たちには治すべきところなんてない」と低身長症と共にある人生をありのままに楽しんでいます。
自分の特性を隠すわけでも、誇示するわけでもないその生き方がとっても素敵。ちなみにジョセフさんはリアさんの大きなお尻が大好き(笑)
身体的、精神的な多様性だけではなく、子供が起こした犯罪をきっかけに社会との関わり方を変えざるを得なかった親子の姿も映し出されます。この重すぎる“違い”に違和感を覚え、躊躇するのですが、「それも多様性」と監督が強いメッセージを放っているようにも感じ。母親の「愛そうと思わなくても愛情がこみ上げてくるの」という言葉に胸が締めつけられます。
©2017 FAR FROM THE TREE, LLC
この映画には「愛」という言葉がたくさん出てきます。違うことに傷つき、傷つけながら「それでも愛さずにいられない」渇望の中、深い愛を拠り所に、やがてありのままの姿を見つけ受け入れていく様子がせつなく、心地よく……。
家政婦は見た的距離から、きれいごとでは済まされない彼らのリアルな人生を見つめていくと、だんだんと感情移入してきて、いつしか自分の人生を重ね合わせてしまうような不思議。
親子という普遍的なテーマが、多様性というものを今より一歩自分に引き寄せて、その延長線上にもれなく自分も“唯一無二の存在”として生きていることを実感させてくれるように感じるのです。
たとえ血を分けた親子であってもそれぞれ違う人間だし、世の中のすべての人が何らかの“違い”の中で生きている。そして誰の人生にも普通なんてなくて、違いがあるからこそ人生はドラマティックなのだと。
自分が今いる場所から、色々な見方や感じ方ができる作品ですので、気負わず深く考えずに、まずはぜひご覧ください!
『いろとりどりの親子』
11月17日(土)新宿武蔵野館ほか全国順次公開
公式HP
longride.jp/irotoridori/
予告編
https://youtu.be/1EbC8AykuCI