ひといちばい敏感な特性をもつ子供「HSC(エイチエスシー)」を伸び伸び育むためにできること。 子育てカウンセラー・心療内科医の明橋大二先生にききました
mazecoze研究所の平原です。
前回(HSP・HSCシリーズ①)は、明橋大二先生に、ひといちばい敏感な気質を持つ「HSP:Highly Sensitive Person」の特性と、自己理解の大切さ、生きにくさをコントロールする方法についてききました。
今回は、ひといちばい敏感な子供「HSC:Highly Sensitive Child」について一歩踏み込んで教えていただきたいと思います。
原因がはっきりしない不登校の8割以上はHSC?
ひといちばい敏感な子には、子供特有の困難さがある
明橋先生は特に、HSCの理解促進に力を注がれています。HSCには、HSPとはまた違う困難さがあるのでしょうか?
明橋先生
「HSPは生まれ持った気質なので、もちろん子供の時から大人になってもHSPです。子供のHSPのことを、HSCと言います。ひといちばい敏感な子のことです。
子供は自分の感じていることや疲れを言葉にしたり、整理することができなかったり、義務教育の中、自分で特性に合わせた環境を作っていくことが難しいですよね。すると、不登校や心身症となって表れることも多いんです。それが子供であるがゆえの困難さだと思います。HSCには、親や先生や周りの人の理解や協力が必要になってきます」
子供だからこそ自分の状況を客観的に見て、辛さをコントロールしていくことが難しいのですね。不登校や心身症になると、HSCをきっかけとした二次的な困難をかかえることもあります。
明橋先生
「他人の顔色を繊細に察知するHSCの子が学校に行くと、先生の叱り声が怖い、友達が喧嘩している様子にショックを受けるということが起こります。これは不登校のきっかけになります。他の子が叱られている場合でも、その先生のことが怖くなってしまうんです。
見方を変えると、相手の気持ちがわかる優しい感性を持つ子なのですが、気にしなくてもいいところまで気になってしまうので、しんどくなってしまうんですね。敏感な子はとても疲れやすく、それは目に見えない心の疲れです」
HSCという特性を知らないままにそうした様子を見ていると、周囲の人も「気が弱い子だな」とか「体力がないんじゃないか」、「嫌なだけじゃないの」と思ってしまいがちですよね。それがその子をもっと苦しめてしまって。実際、親や学校の先生だけでなく、医者やカウンセラーなどの専門家でも、HSCについて知っている人はまだごくわずかなのだそうです。
明橋先生
「不登校のお子さんをよく見ている中で、特にいじめにあったわけでも、先生との相性が悪いわけでもないのに、学校に行こうとするとお腹が痛い、頭が痛いとなる子がいます。そういう子を見てみると、ほとんどの場合がHSCと思われる気質を持っています。私は原因がはっきりしない不登校の8、9割はHSCではないかと思っています」
私も、中学時代は心身症に苦しみました。それでも学校に行き続けられたのは「一回休むともう二度といけない気がする」というギリギリの精神状態と、友達に恵まれていたから。終わってみると、幼稚園から高校卒業まで皆勤賞だったわけですが(笑)でももう同じ生活を繰り返せと言われたら逃げたくなります。
明橋先生
「HSCに関しては、私が3年前に翻訳した本が日本で初めて出た本なのですが、ほとんど広告を打っていないにもかかわらず、口コミだけで売れていって、講演会などで並べると必ず完売していました。それだけニーズがあり、困っている子供や親御さんがいた、ということなんですね。
それから、ひといちばい敏感な子たちがいてこういう苦労をしているんだ、ということをもっと知ってもらえるわかりやすい本をと、一年がかりで作ったのがこの『HSCの子育てハッピーアドバイス』です」
HSCの子育てハッピーアドバイス HSC=ひといちばい敏感な子
『HSCの子育てハッピーアドバイス』は漫画・イラストが多用されていて、小学生なら子供でも読めてしまえるくらい。それは、HSC当事者であるお子さん自身に読んでもらいたいという明橋先生の強い思いからだったのですね。
明橋先生
「本を出して驚いたことがあって。漫画だから子どもにも読めるでしょ。そうすると“お母さんなんでこの先生は僕のことをこんなに知っているの。自分のことを話したの?”と親に言ってくる子がいたんです。 “私のことが書いてある”という子が1人や2人じゃないんですよ。子供にも響いたという話を本当にたくさんいただきました」
HSCの子が自分の状況を知ることができて、読み進めていくと「いまの自分自身でOKなんだよ」というメッセージを受け止れる、大切なメッセージがたくさん込められた本だと感じます。
親や周囲の人ができる、HSCの自己肯定感を育む環境づくり
HSCの子に対して、親や周囲の人ができることはどんなことでしょうか。
明橋先生
「HSCのお子さんを育てる親御さんが、必ずといっていいくらい言われることがあるんです。それは、お母さんが過保護すぎるからこういう風に弱くなるんだとか、子供のいいなりになっているとか、愛情不足が行動に表れているんだというようなこと。もっと叩きつけて育てたらたくましくなるよとか、うちは強く言えば話を聞いたよというアドバイスもあります。要するに、親の育て方が原因で子どもがそういう風になっていると。
私はいろんな人を見てきましたが、決してそうではありません。だって同じように育てられた兄弟はそうではないんだもん。育て方ではなくて、持って生まれたものだから、他の子と同じように育てる必要はありません。嫌だと言っているのに無理やり叩きつけるようなことをしたら、余計に大変なことになりますよ。HSCではない子と同じ育て方を押し通すのは、HSCの子には刺激が強すぎるんです。
どうするかというと、試行錯誤しながらその子のペースを尊重するしかない。そうすると上手くいってくる。それでいいんです。手のかかる子は心配のない子です」
善意からでもいろいろ言ってくる人にこそ「バウンダリー」なのですね(バウンダリーについてはHSP①もご参照ください)
明橋先生
「どんな親でも子育てに悩んで、周囲の言葉に動揺してしまうものです。でも、なんと言われても、うちの子はうちの子、我が家はその子に合った育て方でいい、と境界線を引きましょう。
親としても、他の親とは違う親になる覚悟が必要かもしれません。でもそれは、とても素敵な気づきがたくさんあることでもあります。お子さんがおかしいと思っていることをそうだねと認めることや、その感性の素晴らしさをぜひ本人に伝えてほしいと思います。
その上で、刺激を全部取り払うのではなく、できると思った時には少し背中を押してみることも大切ではないかと思います」
HSCの子は、兄弟と同じように愛情をかけて育てていても、親が気づかない間に自己肯定感が低くなっている場合があるのだそう。では、その子の自己肯定感を育むためにはどうしていけばよいのでしょうか。
明橋先生
「自己肯定感とは、自分のいいところも悪いところも全部受け入れられることで育つものです。HSCはちょっとした否定の言葉を強く受け取り、しつけの影響を受けやすいので、自己肯定感という土台を作る前にルールで縛らないことでしょうか。
いい子でもそうでなくてもあなたはOK、自分もOKと。「〜せねばならない」ではなくて、お子さんの「〜したい」を伸ばしてほしいですね」
しつけの前に自己肯定感の土台づくりをすることが大事なのですね。そのためには具体的にどうすれば。
明橋先生
「いいところを見つけて褒めて伸ばしましょう。手がかからない子になっているときは、失敗すら褒めていくといいと思います。抱きしめたり、共感したり、子供の安全基地を作ることが、自己肯定感の土台になります。
そして親も肩の力を抜きましょう。子どもにどういうお母さんが好き? と聞いたら、トップは“失敗するお母さん”だったそうです。完璧なお母さんよりも突っ込みどころ満載のお母さんのほうが安心できるのでしょう」
でもでも、躾はどうしていけば良いのでしょうか。
明橋先生
「親があれしなきゃこれしなきゃとなっていると、良いことは褒めるけれど、できなかったことは叱りがちでしょう。それによって土台の自己肯定感は傷つけられていきます。HSCの子は特にです。そこまでする躾はしなくていいです。
躾に対して強迫観念をもっているお母さんって結構多いと思うんですが、生活習慣でいえば、睡眠だけでいいです。ちゃんと寝れていればOK。勉強したり生活習慣を身につけたりということは、自己肯定感の上に積みあがっていきます」
親も子ももっとラクなほうを選んでいいんですね。安心していいんですね。肩の力が抜けます!
新しい学びの形、選択肢も着々と
ここまでお話を聴いてきて、HSCが抱える悩みや壁の多くは「学校」にあるのだと感じました。
明橋先生
「HSCにとって学校は、授業中は緊張するし休み時間は人に気を使うしでとても疲れる場所です。家に帰ったら宿題がどうとか、習い事はとか言わずにまずゆっくりさせるというのも大事だと思います。やっぱり週に5日連続で30人ぎっしりの教室に登校するというのはしんどいんですよ」
そうした課題も踏まえ、明橋先生はいま、多様な学びの場づくりにも力を注がれています。
明橋先生
「文部科学省が指針をだしている“義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律”という法律を知っていますか? いままでの不登校の対応を180度くらい変える内容があるんですよ。不登校の子には休養が必要だとか、多様な学び方があることを認めましょうとか。
“多様な学びの場の整備と学校間連携等の推進”という後押しもあり、私も“多様な学び保障法を実現する会”という会の発起人になってます。フリースクールやシュタイナー教育、デモクラティックスクール等、既存の学校に通う以外の、多様な子どもの学びの在り方、育ち方を公的に認め、支援を求めるための活動です。
いまはITを使った教育なども出てきていますし、もっといろんな対話、学びのあり方を育んでいきましょうというね。結果として子どもたちの選択肢が増えて救われることもあるだろうと思っています」
知らないところで法律や、教育というテーマに関わる人たちが動いているのですね。
社会的な適切さを保ちながら、それぞれの特色を活かし、子どもの主体性を尊重する活動を広げるのには様々な課題もあるそうですが、多様な教育の場を創ることが認められるようになったことは大きな進歩で、「とりあえず賽は投げられた」と先生は言います。
明橋先生
「子どももね、学校に行けるなら行くんです。行けなくて悩んでる子たちがどれだけいるか。学校に行けないだけで生きている価値がないと思ってしまう子、自分の人生が終わったと思ってしまう子もいるんですよ。たかが学校ですよ。200年前にはなかったんだから、と」
たかが学校だなんて言ってくれる人、自分が学生だったときにはいなかったなぁ。
いざとなったらこっちもあるよという場所や選択肢がたくさん生まれて、ふんばれる子や自分らしくいられる子が増えていくことを願います。
最後に、明橋先生にHSCのお子さんに向けてメッセージをいただきました。
明橋先生
「あなたは素晴らしい特性を持っているし、世の中に必要とされているんだよと伝えたいです。それぞれに違うお互いの価値を分かち合って生きていければいいなと思います」
明橋先生、具体的な情報と、心に響く言葉の数々をありがとうございました!
今回「HSP・HSCシリーズ」をはじめたのは、自分自身がHSPだと気づくことで救われたからでした。そして知れば知るほど、思い出さないようにしてきたようなことさえも、愛しく感じられるようになりました。
HSPという枠に自分や誰かをカテゴライズをすることが目的なのではなく、これまで気づかれてこなかった、でも社会生活をする上で生きにくさがある「HSP・HSC」という特性に光を当てて、いま苦しんでいる人やその周りにいる人たちと自分らしく、ラクになるコツを共有していけたらという思いで明橋先生に取材しました。
取材では、HSPが持っている不思議な力について、「オレ、超敏感」とは言いにくい場面が多いであろう男性のHSPにはより社会的な生きにくさがあるかもしれないこと、HSPの親がHSCの子を育てるときなどなど、HSP談義があれこれありましたので、いつかまた書けたらと思います。
プロフィール
明橋 大二(あけはしだいじ)先生
昭和34年、大阪府生まれ。 京都大学医学部卒業。 子育てカウンセラー・心療内科医。 国立京都病院内科、名古屋大学医学部付属病院精神科、愛知県立城山病院をへて、真生会富山病院心療内科部長。 児童相談所嘱託医、スクールカウンセラー、NPO法人子どもの権利支援センターぱれっと理事長。 専門は精神病理学、児童思春期精神医療。
●明橋先生の書籍
mazecoze研究所代表
手話通訳士
「ダイバーシティから生まれる価値」をテーマに企画立案からプロジェクト運営、ファシリテーション、コーディネートまで行う。
人材教育の会社で障害者雇用促進、ユニバーサルデザインなどの研修企画・講師・書籍編集に携わった後に独立。現在多様性×芸術文化・食・情報・人材開発・テクノロジーなど様々なプロジェクトに参画&推進中。