5人に1人の「ひといちばい敏感な気質」をもつHSP・HSC(エイチエスピー・エイチエスシー)は、自己理解と自己肯定でもっとラクになる。子育てカウンセラー・心療内科医の明橋大二先生にききました!
目次
「ひといちばい疲れやすい」「他人の反応がいちいち気になる」皆さん、ぜひご一読ください
こんにちは。
mazecoze研究所の平原です。
私は自分のことを生命力のない人間だと感じてきました。
子供の頃から疲れやすくて、いまでも日に数回打ち合わせなど入れようものならもうぐったり。一人になれる時間がないと心身ともに回復できず、抜け殻みたいになってしまうんです。
ほかにも、人の感情に影響を受け過ぎたり、些細なことに感じ入り過ぎたり、何かにつけて恐怖心や羞恥心や罪悪感が強すぎたり。外からの刺激に反応「し過ぎ」てしまうんです。
友人にその話をすると、「え、図太く我が道を生きてるように見えるよ!」と言われますし、たしかに図太いところもあるし、年を重ねるごとにいろいろ心得てきてもいるのですが、自分の根っこにある気質みたいなものはずっと変わらないんですよね。親はいまも私のことを「内向的で人見知りで疲れやすい子」と感じていると思います。
こうした繊細さや自分に感じるふがいなさが、自己肯定感の低さとなって表れていることに気づいたのはつい最近のことでした。それは、「HSP(エイチエスピー)」という言葉と出会ってから。
HSPとは「Highly Sensitive Person」の略で、日本では「ひといちばい敏感な人」と訳されます。アメリカの心理学者エレイン・アーロン氏が1991年から研究をはじめ提唱する、ある特定の気質を持って生まれた人のことを言います。
共感力が高く過剰に刺激を受けやすいその気質は生涯変わることはなく、子ども時代のHSPのことをHSC(エイチエスシー/Highly Sensitive Child)とも言います。
「HSP」にピンときて、貪るようにネットを検索し、本を読み、知れば知るほど自分に当てはまる……かくしてアラフォーにして自分がHSPであると知ったのでした。
ここまで読んで、「自分もHSPかもしれない」「子供がまさにそんな感じ!」など、敏感さや生きにくさを感じている方、おそらくそうかと。だって、世界中の5人に1人はHSP(HSC)だと言われているのですから。
今回、HSPについてもっと知るため、敏感であることから生じる困難さと向き合うコツを探るため、日本におけるHSP・HSC普及の第一人者で、エレイン・アーロン氏の書籍『ひといちばい敏感な子』の翻訳もなさっている、子育てカウンセラー・心療内科医の明橋大二先生のもとへとうかがいました。
「親を恨むか自分を責める」苦しみから抜けて、自分らしく生きるために
明橋先生、改めて、HSP(HSC)ってどんな人のことを言うのでしょうか?
明橋先生
「まずお伝えしたいのは、HSPやHSCは病気ではなく、持って生まれた“ひといちばい敏感な”性質だということです。人種や性別に違いはなく、5人に1人くらい、15〜20%の割合で世界中に存在していることがわかっています。
判断基準としては、23項目のチェックリストや「DOES」というHSPの根っこにある4つの性質を見る方法があります。特に研究が盛んなアメリカでは、この「DOES」の全てに当てはまるならばHSPである、と説明されています」
HSPを判断する4つの性質「DOES」について、先生の書籍『HSCの子育てハッピーアドバイス HSC=ひといちばい敏感な子』からも一部引用させていただくと、次のようになります。
HSPが持つ4つの性質「DOES」
D=深く考える(Depth of processing)
HSPの脳は、情報を深く処理する部分が活発になっている。
1を聞いて10を知り、人の気持ちや空気を読む能力に長けている。間違ったことをするとどうなるかがよくわかるので、慎重なところがある。
一例として、数人で大皿料理を食べるときに「これを何人で分けるのか、後から来る人の分を取り分けておく必要があるか、遠慮している人はいないか……」などを瞬時に考えてしまい、動作が一歩遅れてしまうこともある。
0=過剰に刺激を受けやすい(being easily Overstimulated)
物事に対して受ける刺激がHSPではない人と比べて強い。
人の感情や雰囲気だけでなく、暑さや寒さの変化に弱く、痛みや刺激を受けやすいなど、体の内外のことに敏感。小さな音でも聞きつける、鼻がきく、チクチクした肌触りが苦手など、感覚的に敏感であることも多い。
刺激が多い時には過敏で動揺しやすくなる。何に対して敏感かはそれぞれに違いがある。
E=共感力が高く、感情の反応が強い(being both Emotionally reactive generally and having high Empathy in particular)
脳科学による研究で、HSPは他の人が何かをしたり感じているのを見ると発火して、あたかも自分が同じことをしたり感じているように感じる神経細胞「ミラ-ニューロン」の活動が活発であることが示された。
共感力が高く、つらい思いをしている他人の気持ちが手に取るようにわかったりする。直感が鋭い、感情移入しやすい、想像力が豊か、正義感が強い、完璧主義などの特徴がある。不公平なことが許せず、些細な間違いに強く反応することも。
S=些細な刺激を察知する(being aware of Subtle Stimuli)
人の髪型や服装、場所の小さな変化や、人が自分を笑ったこと、逆にちょっとした励ましなどにもよく気づく。体内の刺激にも敏感で、薬が効きやすいこともある。少しの刺激で痛みを感じ、何か悪い病気ではないかと不安になったりする。
この「DOES」、4つの指標うち1つでも当てはまらないならばHSPではない、とも言われているのだそう。
明橋先生
「アメリカではHSP・HSCについて相当研究されていますが、日本ではまだほとんど知られていないですよね。親御さんだけでなく学校の先生やカウンセラーなどもほとんど知らない状況の中で、HSCの子供たちがこういう苦労をしているんだということをぜひ知ってもらいたくて、『HSCの子育てハッピーアドバイス HSC=ひといちばい敏感な子』という本を出しました」
私もこの本、苦しかった中学時代に知りたかったです。
書籍は子供であるHSCについて中心に書かれていますが、HSPの入門書として、自分の人生を振り返る機会に、大人にもぜひ読んでもらいたい内容です。
明橋先生
「HSPの大人も、子供時代に親が敏感さをわかってくれなかったという人がほとんどなんですね。皆がやっているからと嫌だと思うことをさせられたとか、親がわかってくれなかったから自分の性格が歪んでしまったんだとか。
そうするとどうなるかと言うと、親を恨むか自分を責めるかのどちらかになってしまうんです。でも、親の育て方でも、自分が悪いのでもない。ただひといちばい敏感な特性だったということなんです。
それに、自分がHSPだとわかって落ち込んだという話はほとんど聞かないんですよ。知ることで自分と向き合えるようになった、わかって良かったという人ばかりです」
たしかに! 私もHSPだと気づくことで自分に優しくなれました。
親の立場からも、子供がHSCだとわかることで、自分の育て方のせいではないことや、その子に合った対応方法がわかって救われる人が多いのではないでしょうか。
HSPは、いまの世の中に必要とされている人材
明橋先生はさらに、自分や子供がHSP・HSCだとわかった後、それを「敏感すぎるもの」だとマイナスに捉える必要はない、と言います。
明橋先生
「敏感すぎる、というのはネガティブでレッテル張りをするような言い方です。HSP・HSCはむしろ、今の世の中にこそ必要な人材で、素晴らしい特性だと感じています」
先生、それは具体的にどのようなことでしょう(もっと褒めて!)
明橋先生
「DOESからもわかるように、人と人との違いを認め、相手の気持ちに気づき、本物を見抜く力をもっています。感覚的に鋭いので、危険予知にも優れていますし、社会が大きく変わる中で、新しい価値観を創造していける感受性豊かな人たちだと思います。
ただ、HSPではない人が多数派の世の中ですから、生きにくさや困難さは確かにあります。そこをどうコントロールしていくかが大切なんです」
HSPという存在自体が必要なものだと……。慎重派、少数派とも言われるHSPが5人に1人という割合で世界中に存在しているのは、ヒトの種の生存戦略として必要だから。アクセルを踏んで突き進むタイプと、慎重に深く考えるタイプがいるからこそ、人類がここまで生き延びることができたとも考えられるのだそう。
ちなみにHSP(HSC)の中でも約3割は外交的で好奇心が強いタイプ「HSS:High-Sensation Seeking・刺激探求型」に分類され、HSP界にも多様性があるのだそう。やりたがり刺激欲しがりなのに、やたら刺激に弱いという。私もばっちりこのタイプでした。
改めて考えると、「この人HSPっぽい」と感じる仲間の多くが、言葉やアートを生み出す仕事、福祉の仕事、生物や植物を育てる仕事など、そのありのままの感性で世の中に価値を発信していて。私がダイバーシティの道に進んだのもこの特性のおかげなのかなと、今はありがたく思えます。
バウンダリーとダウンタイム。HSPこそ境界線を意識して休息を
HSPは、8割の人がそうではないこの社会の中ではやはりマイノリティ。その中で生じる困難さとどう折り合いをつけていけばよいのでしょうか?
ここからは、HSPが社会生活を送る上で身につけたいコントロール術について教えてもらいたいと思います。
明橋先生
「2つあると思います。
1つめは、バウンダリー。境界線を引く、ということ。
2つめは、ダウンタイム。休憩を取る、ということですね」
バウンダリーとダウンタイム。初耳ワードです。
明橋先生
「バウンダリーというのは、人は人、自分は自分という境界線を引くことです。
HSPやHSCは、もともと境界侵入されやすい特性を持っています。というのは、共感力の高さから人の問題を自分のものとして受け取りやすく、そのことで罪悪感や羞恥心を感じやすいために、他者から境界線を侵されてしまいがちなのです。
そういう中で境界線の引き方を学ぶのはすごく大事なことで、アメリカでは専門のワークがあったりするのですが、日本ではまだあまり取り組まれていませんよね」
境界線の引き方は学ぶものだと! そしてHSPこそバウンダリーを学ぶことが必要だと。ではその境界侵入ってどんな時に起こるのでしょうか?
明橋先生
「学校でやんちゃな子が先生に叱られていると、HSCは自分の問題ではないのに、叱られた子の問題を自分のことのように感じてしまうことがあります。これも境界線があいまいになっている状態です。
夫婦間でもありますよ。たとえばアルコール依存症のパートナーに「お前がイライラさせるから自分はアルコールを飲むんだ」と言われると、HSPの人は元々自分を責めているので毅然と対応することができず、共依存に陥ってしまうこともあります。これらは境界線を引けていないということなんです」
境界線にも、物理的な境界から心理的な境界、社会的な境界まで、いろいろな種類があるのですね。
明橋先生
「金銭の境界もありますよ。私のお金は私のもの、私のお金の使い方は私が決める、という境界線の引き方。
身体の境界であれば、自分の身体は自分のもの、自分の身体をどうしたいかは自分が決める。だから人にもっと痩せろとか言われる筋合いは無いわけです。
境界線を引く、バウンダリーを意識することは、HSPにとっては自分を守ることにつながります。人は人、自分は自分、自分の心と体は自分のものだと思えることが大切で、たとえ善意であっても、人の領域に土足で入るのはNGだと知ることです」
バウンダリー、奥深し。とりあえず日本でやっているバウンダリーのワークショップを教えてもらったので次回参加してまたレポートしたいと思います!
とはいえ、境界線をしっかり引くためにはそもそも「自分は尊厳のある人間だ」と思えていないと難しい気も。「私なんて」とか「周りに価値を提供できないと自分は必要ないんじゃないか」とか日々感じてしまいがちな中で、ビシッと境界線を引くのって意外に難しそうです。
明橋先生
「そう、バウンダリーの前提にあるのが自己肯定感で、最後は自己肯定感に帰着します。
HSP=自己肯定感が低いということでは決してないのですが、社会・集団生活の中でどうしても自己肯定感を低くさせられるようなことが多いので、HSPは自己肯定感が低くなりがちなんですね。
境界線をきちんと引くことは、自分の尊厳を守ることでもあります。そして、自分をいたわり癒せることが、体だけでなく心の回復も助けてくれて、生きる時の基盤となる自己肯定感を育むことにもつながっていきます」
バウンダリーを意識して、自分が自分であることでOKという体験を重ねていくことでも少しずつ自己肯定感は高まっていくものなのですね。自己肯定感の育み方については、次回もふれていきます。
疲れやすいのは、見えない「心の疲れ」があるから
先生のおっしゃる「体と心の回復」というのは、2つ目のポイントのダウンタイムにもつながっていくのでしょうか。
明橋先生「敏感な人は疲れやすいんです。これは、体ではなく心が疲れているんですね。
身体が疲れると筋肉痛とか発熱などわかるかたちで現れますが、心の疲れはなかなか自覚できません。それでついつい無理をしてしまうんですよ。HSPの人は特に、自分のことよりも人のことを優先しやすいですから。心の疲れが蓄積されて、結局、不機嫌や体調不良、あれは嫌だ、あそこには行きたくないなどになって出てきてしまうんです。
ダウンタイムは休憩という意味です。HSPこそ意識して休息を取ることが大切です」
HSPの疲れやすさは、体ではなく心の疲れだったのですね。
私、カフェとかで一人でぼーっとしても全然休まった気がしないんです。周囲の雑念みたいなの胸がざわついてしまい。これは、体はだらんとしていても頭が休まっていない状態だったのですね。家でしばらく一人にならないと落ち着かなくて「だらけてんな自分」と思っていたその時間こそ自分に必要なダウンタイムだったのですね。
意識して休むほかにも、HSPにとってのダウンタイムのコツはあるのでしょうか。
明橋先生
「嫌なこと、疲れることだけではなくて、楽しいことでも刺激が多いので疲れるんだ、ということを知っておくことでしょう。例えばHSCの子がテーマパークに行って一日中遊ぶと、他の子は楽しかったと言っているのに1人だけ不機嫌だったりするんですね。親としてはせっかく連れて行ったのに、なんでいつもそうなのって思ってしまうのですが、楽しかったのは楽しかったんですよ。だけど、あまりにも刺激が多すぎて疲れてしまって、それが不機嫌に表れている。そういうことをHSCであれば親が、HSPなら自分自身で知っておいて、意識して少し休憩の時間をはさむなどしていくことが大切だと思います」
思い当たる節がありすぎて、先生のお話を聞いていると頷きが止まりません。
バウンダリーとダウンタイム、この2つのポイントを知っておくだけで、HSPの生きにくさが軽減されていくことに希望を感じました。
ここまでHSPの特性や自己理解の大切さについて聴いていきました。
次回は、明橋先生も力を注がれている、ひといちばい敏感な子供「HSC」について聴いていきます!
プロフィール
明橋 大二(あけはしだいじ)先生
昭和34年、大阪府生まれ。 京都大学医学部卒業。 子育てカウンセラー・心療内科医。 国立京都病院内科、名古屋大学医学部付属病院精神科、愛知県立城山病院をへて、真生会富山病院心療内科部長。 児童相談所嘱託医、スクールカウンセラー、NPO法人子どもの権利支援センターぱれっと理事長。 専門は精神病理学、児童思春期精神医療。
●明橋先生の書籍
HSCの子育てハッピーアドバイス HSC=ひといちばい敏感な子
mazecoze研究所代表
手話通訳士
「ダイバーシティから生まれる価値」をテーマに企画立案からプロジェクト運営、ファシリテーション、コーディネートまで行う。
人材教育の会社で障害者雇用促進、ユニバーサルデザインなどの研修企画・講師・書籍編集に携わった後に独立。現在多様性×芸術文化・食・情報・人材開発・テクノロジーなど様々なプロジェクトに参画&推進中。