異なる視点をかけあわせて生まれた書籍『おしゃべり手話入門』著者・編集者対談|2026年4月18日開催の出版記念イベント情報も!

目次
著者と編集者で本づくりを振り返る

こんにちは。
mazecoze研究所の平原です。
ろう者のサヤボーさんと、聴者のこださんがタッグを組んだ、基礎から身につく手話の入門書「0から学ぶ おしゃべり手話入門 動画で身につく 会話フレーズ370(中央法規出版)」の出版から約1ヶ月が経ちました。
本を手にした方からは、「今どきの言葉がたっぷり使われていて、実用的なフレーズばかり」「QRコードで手話動画が見られて、手話勉強中の人におすすめ」「角度にこだわった写真で動きがわかりやすい」「自分のことばで伝えたい、つながりたい人のための手話の入門書」など、嬉しいコメントをたくさんいただいています。
私も編集者として約1年制作に関わる中で、サヤボーさん、こださん、制作チームの皆が影響しあって本が形になっていく様子から多くの学びを得ました。
そこで今回、著者と編集者の4人で制作時のあれこれを振り返ってみることにしました。
出発点は、ろう者と聴者が共につくること

平原
まずは、書籍制作のきっかけをつくってくれた仁科さんに、発案から制作に至るまでの経緯を伺いたいです。
仁科
中央法規出版は、福祉の専門出版社として、手話通訳士向けのテキストを数多くつくってきました。私もその制作に関わる中で、「手話の書籍に関するノウハウを持ちながらも、気軽に学べる入門書がないのはもったいない」と感じたんです。
そこで本書の企画を立ち上げ、新たな著者を探す中で、手話についての情報発信をしているこださんの存在を知りました。こださんにオファーしたところ、「手話の本をつくるなら聴者だけで作るのではなく、ろう者と一緒に作ることが必要不可欠」と教えていただきました。
こだ
私は本で手話を学んできたわけではないので、はじめ、本づくりのイメージがあまり湧きませんでした。でも、ろう者の存在が必要という考えは持っていたので、Instagramで日本手話の魅力を発信しているサヤボーさんに声をかけました。
サヤボー
こだちゃんから「一緒に本作り、どう?」と誘われてその理由を聞くと、「ろうの当事者と一緒につくることが必要だと思う」と。手話はろう者の言語なので、聴者が手話を教えることに僕は違和感があります。だから、一緒に作りたいと言ってもらって、自分と考え方が同じだと思いましたし、嬉しかったですね。
平原
「ろう者と聴者が一緒に、それぞれの視点をかけ合わせる」というこの本のコンセプトは、企画当初から始まっていたのですね。
異なる見方がまぜこぜになって磨かれた一冊

平原
著者のお二人にとっては初めての本づくりでしたが、制作を通して大変だったことはありますか?

サヤボー
今回の本は手話の入門書なので、初めて学ぶ人に向けて「日本手話とは何か」を伝え、また、ろう者やろう文化といった知識を学びにどうつなげていくかを意識しました。動画とも連携しながら工夫を重ねましたが、そこが難しく大変な点でしたね。

こだ
本をつくることそのものが、とても大変なんだと実感しました。
印象に残っているのは、本づくりの期間が「東京2025デフリンピック」の開催と重なっていたことです。私も観戦に行ったり、全国から集まった手話関係者と会ったりして、貴重な時間を過ごしました。会場周辺の駅やお店には手話があふれ、「手話を見るのが当たり前」という、自分が目指す社会の光景が広がっていて、感動しました。
デフリンピックの期間中は本づくりをいったん脇に置いて熱中していたので、その後の動画制作や原稿チェックは、やはり大変でした(笑)

平原
仁科さんは、制作で大変だったことはありますか?
仁科
私は手話が分からないため、お三方からの原稿の赤字を机に並べながら、たまにそれぞれの表現方法が異なるときに、どれを採用するか判断に迷うこともありました。
平原
仁科さんにとっては手話がわからないことが、今回の本づくりにおけるバリアになったのですね。逆に言うと、本の読者の想定が「初めて手話を学ぶ人」だったので、仁科さんの「わからない視点」が制作の中で大きな助けになっていたとも感じます。
サヤボー
本当にそうでした。僕たちにとって当たり前になっていることでも、仁科さんの見方や意見が気づきになって、そこに合わせて表現を工夫していって。手話話者とそうでない聴者が一緒に作ったことで、初心者の視点を取り入れた本を作ることができたと思います。

こだ
単語やフレーズの選択はもちろん、撮影現場でも表現について検討するなど、みんなで相談しながら進めることが多かったですよね。それぞれの経験を踏まえた意見を組み込んでいくのが、自分にとっても学びになりました。
サヤボー
それから本は基本的に書記日本語で構成されますよね。視覚言語である手話は、日本語とは構造が異なります。それを翻訳していく過程で、手話の動作を簡潔に書くとわかりやすいとか、こういう伝え方があるんだという気づきがたくさんありました。
平原
手話の動作説明の執筆は、ライターの飛田恵美子さんにお願いしました。これまで様々なDE&Iのプロジェクトをご一緒してきた方です。執筆の相談をしたときに、飛田さんが「手話話者ではない聴者の私が手話の本を書いてもいいのでしょうか。ろうの方の役割を奪うことにはなりませんか?」と確認してくれたんです。その視点は、サヤボーさんとこださんが先ほどおっしゃった「ろう者と一緒に作る」という考え方に近いものだと思います。そこでサヤボーさんや、ろうのご協力者からも意見を聞き、目的を整理して、改めて「書記日本語で手話を伝える部分なので、ぜひ飛田さんに執筆してもらいたい」とお願いしました。制作過程のいろんな場面でこうした対話がありました。
仁科
本当に、制作の一連の過程全てが学びでした。お三方それぞれからもたくさん学びを得ました。
平原さんからは、手話に対してのさまざまな価値観を踏まえた上で、どう表現したらこの本や著者のお二人にとってもいいかといった視点もいただきました。
こださんは、ご自身が手話を学習してきた、読者と一番近い視点をお持ちなので、つまずきやすい部分もたくさん教えてくださいました。
サヤボーさんにとっては、手話というご自身の言語を、無理やり日本語の文章に変換していただく大変な作業だったと思います。手話での解説もすごく素敵でした。
平原
やっぱり仁科さんが、安心して制作に取り組める環境を作ってくれたと思います。私は本の内容面の編集を担当したのですが、仁科さんは進行管理や環境づくりまで、全体の編集をしてくださって、同じ編集担当でも役割が違いました。著者のお二人も、ろう者と聴者の視点という役割を分担しながら、それぞれの違いを活かした制作の場でした。
あと、撮影が6日くらいあったのですが、仁科さんが準備してくれるお弁当がいつも美味しかったです。

制作チームのコミュニケーション

平原
次に、制作時のコミュニケーションについて振り返りたいと思います。
サヤボーさんは手話で、こださんと私は声で話す日本語と手話を使い分け、仁科さんとカメラマンの小林さんは手話がわからないなど、それぞれ異なる状況でした。
サヤボー
撮影現場でのコミュニケーションは、特に意識することもなく、普段通り自分の手話で進めていきました。こだちゃんと平原さん、手話通訳の阿久津さんが翻訳して伝えてくれたので、安心して話すことができました。
カメラマンの小林さんも、撮影を重ねる中で少しずつ手話を覚えていって。撮影の合図も手で「3、2、1、スタート」と出してくれましたし、休憩中はタバコを吸いながら、スマホを見せ合っていろいろ話しました。撮影を通して「ろう者とは何か」を、みなさんが少しずつ掴んでいったように感じています。

サヤボーさんとこださんが演技にも挑戦。
仁科
本の各章の冒頭には、「対話パート」として、ろう者と聴者が出会い、仲良くなっていくストーリー動画を掲載しています。そこではさまざまなコミュニケーション方法を紹介していますが、まさにそのリアル版のような光景が、現場でも繰り広げられていました。
平原
撮影時の手話通訳は、阿久津真美さんと私の2名体制で行い、私は編集者と通訳を兼務する形でした。プロジェクトの専属手話通訳として関わることで、本の目的や進行への理解を積み重ねながら進めることができたのが良かったです。表現については真美さんから意見を聞く場面も多く、本の質の向上につながりました。
こだ
手話通訳については、担当がその都度変わるのではなく、本を通して同じ方に関わってもらいたいと、はじめに仁科さんにお願いしました。通訳者の方も手話を学んできた経験があるので、その視点からの意見もぜひ取り入れたいと考えたんです。今のお話を聞いて、礼奈さんも同じ思いでいてくれたんだとわかり、うれしいです。
サヤボー
LINEグループを作って制作を進めたのもよかったですよね。メールだと硬くなりがちですが、LINEでは気軽に考えを共有しやすく、みんなで意見交換しながら進めることができました。やるべき項目を仁科さんがリスト化してLINEのノートにまとめてくれたので、それを見ながら自分の役割を調整して進めることができて、安心感がありました。
書籍の特徴と見どころ

平原
それぞれが思う『おしゃべり手話入門』の見どころを教えてください。
こだ
やっぱり動画が多いのが大きな特徴ですよね。単語・フレーズの動画はもちろん、解説動画や対話パートまで、ものすごくたくさんの動画が収録されているのが他にはない魅力だと思います。
仁科
全部で70本以上(単語・フレーズは1節のまとまりを1動画として)の動画が掲載されています。動画の編集は、こださんが担ってくださいました。字幕をつける作業もあり、本当に大変だったと思います。

平原
サヤボーさんの「手話解説動画」は、幅広い学習者に学びのある内容だと思います。字幕を隠して読み取り教材としても活用できますし、私も自身の学びのために見返しています。
また「対話パート」の動画では、ろう者同士の自然な速さや流れで交わされる手話を見てもらうために、サヤボーさんのご友人である吉田まりさんに出演していただきました。とても素敵な方でした。

ろうインフルエンサーの吉田まりさんが友情出演
サヤボー
それからこの本は、開いたまま両手で手話を真似できるのが実用的でめちゃくちゃいいですよね。これはどうやって思いついたんですか?

仁科
編集部で判型を相談していたときに、先輩から「閉じにくく開きやすいPUR製本というのがあったから試してみたら?」というアドバイスをもらったんです。デザイナーさんから自社でPUR製本ができる機械がある印刷所を紹介してもらって、この製本が実現しました。
サヤボー
手話の画像を見て真似するから開いたままがいいというのも、手話がわからない仁科さんだからこその見方だと思います。
平原
オールカラーで約240ページあるのに、1320円(税込)と破格で、価格を聞いたときに驚きました。
こだ
そうそう、いろんな人から「安いね!」って言われます。「こんなに安いのなんで?」って聞かれても「私もわからない」としか(笑)
サヤボー
僕も安さの理由を知りたいです(笑)
仁科
まず、新しい印刷会社を開拓したので、これまでよりも印刷のコストダウンができたことがあります。
この本、実は原価率的には他の本よりもかかっているんです。それでも会社としての、「たくさんの人に読んでもらいたい」という判断があり、長く売り続けていきたいという気持ちを込めてこの価格にしました。
何より初心者の人が手に取りやすい価格は大事だなと思っているので、なるべく上げない努力を……したのかな? もしかしたら、みなさんのお弁当のおかずをもうちょっと増やせたかもしれないんですけど(笑)
交流へとつながる「会いにいける本」

こだ
もう一つの特徴として、この本は「著者に会いにいける本」だと思います。
私は「しゅわットホーム」という、ろう者も聴者も手話でつながるオンラインコミュニティを運営していますし、サヤボーさんは、誰もが気軽に立ち寄れる手話交流会「ふらっとタイム」を立ち上げています。
私たちは「交流が大切」という考えを持っているので、この本をきっかけに、ぜひ交流の場に参加してもらえたらうれしいです。

サヤボー
出版記念イベントをこだちゃんとオンラインで開催した際、「手話を勉強しているけれどまだまだで、自分のレベルが低くてろう者に申し訳ない。イベントに参加してもいいのか」という声をいただきました。
そのとき僕は、「日本語を話す場に外国の人が来て、“日本語が下手でごめんなさい”と言われたらどう感じますか。むしろ“覚えてくれてありがとう”と思いませんか?」と伝えたんです。手話も同じで、ろう者としては、手話に興味を持ってくれること自体をうれしく思う人が多いはずです。
この本が、手話と出会う入口となって「申し訳ない」ではなく「コミュニケーションしたい」「楽しい」と感じられる次の一歩につながればうれしいです。


こだ
13年ほど前、私も手話のことはまったくわかりませんでした。日本語の単語を並べれば手話になると思い、単語を覚えていたんです。でも実際に学ぶ中で、それは違うと気づきました。
いまも同じように、手話は日本語の単語の並びだと思っている方は少なくないと思います。この本を通して、その認識が変わるきっかけになり、そこからリアルな交流の場へとつながっていけばと願っています。
そしてやっぱり、この本は自分一人では作ることができませんでした。改めてみなさんに感謝の気持ちを伝えたいです。ありがとうございました。
仁科
何か新しいことを始めるとき、「しっかり学ばなければ」と気負ってしまうことも多いと思います。ですが、この本は、手話に少しでも興味を持ったときに気軽に手に取れるよう、さまざまな工夫を散りばめています。対話やフレーズから少しずつ読み進めてもいいですし、動画を中心に見てもいいし、まずは手に取ってこの本に出会っていただけたらうれしいです。
そして少しでも興味が湧いたら、ぜひ著者の二人に会いに行き、おしゃべりを楽しんでほしいと心から思っています。
平原
本を開くと、1ページ目からサヤボーさんとこださんのおしゃべり(対談)が始まるところが好きです。手話でおしゃべりできるようになって、その先につながる本を目指してきましたが、制作の過程もにぎやかで楽しい時間でした。
今日はお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

著者プロフィール・書籍情報・イベント情報
最後にイベントや電子書籍化のお知らせです。
出版記念イベント情報
4月18日に、『0から学ぶ おしゃべり手話入門』の出版を記念し、サヤボーさん、こださんと交流できるトークショー&パーティが開催されます。

おしゃべり手話リアルトークショー|手話でつながるリアルなコミュニケーション体験
日時:2026/4/18 (土)13:15 - 16:00
会場:NaNaiRo 池袋/豊島区池袋2丁目64−11 「平和ビル/3F」
詳細、お申し込みは下記リンクよりご確認ください
https://shuwa-0418.peatix.com
電子書籍化情報
近日中に、『0から学ぶ おしゃべり手話入門』が電子書籍化されます!
詳細がわかりましたら更新します。
書籍情報

書籍名:『0から学ぶ おしゃべり手話入門 動画で身につく 会話フレーズ370』
著者:サヤボー、こだ
判型・頁数:A5版240頁
発行日:2026年03月01日
価格 1,320円(税込)
著者プロフィール
サヤボー @sayabow1009_ japan
耳が聞こえない日本手話インフルエンサー。フォロワー2.5万人のInstagramを中心に発信。日本最大級手話交流会イベント「ふらっとタイム」総合代表。月1回リアルの場での交流イベントを主催。ろう者として、手話やろう文化の魅力を発信しています。よければ、気軽にフォローしていただけると嬉しいです。
こだ @kodachan_en
2020 年に発信活動をスタート。YouTubeチャンネル「こだYouTube手話サークル」は登録者数10 万人を超える。現在は手話交流を楽しむオンラインコミュニティ「しゅわットホーム」を運営し、全国の手話仲間と手話でおしゃべりできる場を提供。そのほか、手話学習や交流のサポートなど、手話のある日常を広げたいという思いで幅広く活動中。
(画像提供:中央法規出版・小林トモヨキ・サヤボー・こだ)
mazecoze研究所代表
編集者・手話通訳士
「ダイバーシティから生まれる価値」をテーマに、企画立案からプロジェクト運営、ファシリテーション、編集・執筆などを行う。
文化芸術、鑑賞サポート、地域、農と食、デフスポーツ、人材開発など様々なテーマのプロジェクトに参画。