感覚過敏・鈍麻から広がるグラデーションな脳の世界|質問1:感覚過敏(かんかくかびん)ってなんですか?
mazecoze研究所: 井手先生、はじめの質問は、ずばり感覚過敏(かんかくかびん)についてです。
「感覚過敏ってなに?」と聞かれたら、先生はどのようにお答えしていますか?
井手先生:そぼくな質問って、答えるのが意外とむずかしいんですよね(笑)
ここでは、小学校高学年くらいの方から読んでもらえるように、お話ししていきたいと思います。
たとえば、校庭で校長先生のお話を聞いているとき。
まわりの子はだいじょうぶなのに、日差しがあまりにもまぶしすぎて、頭が痛くなったり気持ちが悪くなって、その場にいるのがたえられないお子さんがいます。
たえられないような強い反応が身体に起こって、生活の中で苦しさや不便さがあることを「感覚過敏」といいます。
過敏とは、感じ方がとてもはげしい、敏感(びんかん)すぎるといった状態のことをいいます。
感覚過敏は、五感(ごかん)と呼ばれる視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚のすべての感覚で起こります。ほかに、平衡感覚(へいこうかんかく)※や温痛覚(おんつうかく)※でも起こることがあります
※平衡感覚:身体のかたむきや動き、運動の変化を感じる感覚
※温痛覚:痛みや熱い、冷たいを感じる感覚
さきほどは視覚の例でしたが、「となりの教室の声が気になって授業に集中できない」とか、「急に友だちにさわられてびっくりして泣いてしまう」、「ほかの人が気づかないようなにおいで苦しくなる」など、反応があらわれるところはさまざま。そしてあらわれ方は、一人ひとりちがいます。
僕がとても大事にしているのは、感覚過敏を考えるときには、本人が内部(ないぶ)でどう感じるかだけではなく、それが行動としてどうあらわれ、社会的な適応(てきおう)をどうむずかしくしているのか、という見方でとらえていくことです。
では、感覚の反応は、どこから起こっているのでしょうか?
聴覚の過敏があったら、音を感じる耳にある受容器(じゅようき)※がおかしいのかな、と考えるかもしれません。
でも実は、感覚刺激(しげき)を脳がどのように受け取るかのちがいで感覚過敏が起こることが多いのです。
※受容器:刺激を受け取る器官のこと
全身に広がる器官を末梢神経(まっしょうしんけい)※と言い、その中に感覚の神経も含まれます。
※末梢神経:中枢神経系から出て、全身の器官・そしきに分かれて広がる神経
末梢神経をまとめあげているのが、中枢神経(ちゅうすうしんけい)※です。たくさんの神経細胞(しんけいさいぼう)が集まる中枢神経は、人間ではおおまかに脳と脊髄(せきずい)から出ています
※中枢神経:たくさんの神経細胞が集まり大きなまとまりになっている神経
末梢神経から中枢神経に感覚情報(かんかくじょうほう)が送られ、脳がそれに反応しすぎる。それが、感覚過敏を起こしていると考えられています。
僕は、発達障害(はったつしょうがい)※という障害がある人の感覚過敏について、脳科学の研究をしています。
※発達障害:脳機能(のうきのう)の発達に障害があること。またそれにより、社会生活に困難(こんなん)が生じる障害のこと。
「どんなことが脳の中で起こって感覚過敏になっているのか?」をひもとく研究なのですが、感覚過敏について脳科学の分野で研究が増えたのは、15年くらい前、ごく最近なんです。
研究の中でも、まだわからないことだらけです(笑)
ですが、これからここでは、僕が研究を通して知ったことをお伝えしていきたいと思ってます。
「感覚過敏って何?」というご質問、ひとまず僕からは以上です!
mazecoze研究所:井手先生、ありがとうございました!
感覚過敏の、身体に起こる反応と、脳とのつながり。
反応が行動にあらわれ、社会生活のむずかしさにつながっているという全体を見ていく大切さを教えてもらいました。
タイトルにもある感覚鈍麻(かんかくどんま)についても聞いていきたいのですが、次は、井手先生ご自身のことを、教えてもらいたいと思います。
次回もぜひ、お楽しみに^^
井手正和先生
専門:実験心理学、認知神経科学、神経心理学
発達障害者の感覚処理障害(感覚過敏・感覚鈍麻など)の神経生理基盤を明らかにすることを目的とし、心理物理と脳イメージング法を用いた実験を行う。
>研究室webサイト
mazecoze研究所代表
手話通訳士
「ダイバーシティから生まれる価値」をテーマに企画立案からプロジェクト運営、ファシリテーション、コーディネートまで行う。
人材教育の会社で障害者雇用促進、ユニバーサルデザインなどの研修企画・講師・書籍編集に携わった後に独立。現在多様性×芸術文化・食・情報・人材開発・テクノロジーなど様々なプロジェクトに参画&推進中。