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第1回: 知ってるようで知らない… 発達障害者ってどんな人?

宇樹 義子 │ 2017.04.28
はじめまして! フリーライターの宇樹義子(そらき・よしこ)と申します。 私は現在、30代後半。物心ついたときからなんだか生きづらい生きづらいと思っていました。そこへ30歳になってから突然、発達障害(高機能自閉症※)の診断を受けることに。なんだなんだそうだったのかー! とすべてに納得がいった気持ちになり、以来、自分が最もラクで生き生きできる生き方・働き方を探しつづけてきました。 ※高機能自閉症については記事後半で説明します。 在宅でライティングのお仕事をお受けするようになって数年。発達障害ライター仲間からの紹介を受けて、mazecozeさんとつながりました。そしてこのほど、ひらばるさんから「発達障害について連載してくれませんか?」とのお声がけが。面白すぎる人たちが山ほど集まる、あのシャレオツなmazecozeに私が連載を!? と有頂天になり、思いきり前のめりで「書かせてください!」とお引き受けしたしだいです。 これから、大人の発達障害の当事者として、みなさんにお伝えできることを精一杯お伝えしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします!

いち発達障害者の実例について語っていきます!

ここ数年、発達障害という言葉はずいぶんと世の中に広まった感じがありますね。みなさんテレビなどで耳にしたこともあるでしょう。でも、発達障害というとどちらかというと子どもに関しての話題のほうが多く、働く世代の発達障害についてはまだまだ情報が少ない印象があります。 発達障害者っていったいどんな人なんでしょうか? あなたは具体的にイメージできますか? 医学的に正しい知識や網羅的な情報についてはいろいろ本が出ているのでそちらに譲るとして、私は宇樹という「いち当事者」の実際のケースについて具体的に語っていきたいと思います。

発達障害者は「繊細すぎるレーシングカー」?

私は、発達障害の特徴をもつ自分のことを表現するときに、よく「繊細すぎるレーシングカー」というような言い方をします。走れるときは驚くほどのスピードでギュンギュン走れるけど、各部品の構造が繊細すぎて、まめで超慎重なメンテナンスが必要。そうじゃないとやたらエンストを起こして走れなくなり、「えっ? 車でしょ? なんで走れないの?」ってみんなが思う。そんな面倒くさい(笑) イメージです。 以下、私が持っている発達障害の特徴のうち、代表的なものを簡単に紹介していきます。

過集中・注意散漫

集中するときにはひとつのことに異常に集中し、周囲から驚異的と言われるようなパフォーマンスを発揮します。話しかけられても無視する、またはほんとに聞こえていない。時間も寝食もトイレも忘れます。たとえば、過集中モードで記事を書いているときは、私は1時間に3000字ぐらい書いてしまう。周囲で見ている人からは「超人的」「鬼才」「鬼気迫る勢い」などといったことを言われます。 いっぽうで、マルチタスクは大の苦手。たとえば時間に追われながら複数の品を並行して料理するとか、車を運転するとか。料理中に話しかけられても返事する余裕がないし、どれか焦がしてしまったり、調理が雑になったり。 車はもう本当に苦手で、免許は教官のお情けでとらせてもらったのですがそれはそれは下手くそ。実家の車は四方八方まんべんなくこすったりぶつけたりしていました。 こんな感じなので、周囲からは昔から、おっちょこちょいだのどんくさいだの、気合が足りないだの、過集中時のパフォーマンスを引き合いに出して「やる気を出せばできるはずなのにバカにしているのか!」だの、さんざんな言われようでした(泣) まるで一人の中に天才とのび太が共存しているみたいですが、これは実は理にかなった(?)ことでもあるのです。「集中」と「注意」というのはコインの裏表みたいなもので、ひとつに集中することはイコールほかのことへの注意を捨てるということ。だから、過集中と注意散漫は、実際にはワンセットの傾向・症状なのです。

感覚過敏

五感の過敏を感覚過敏といいます。いわゆる「ふつう」の生活も私にとっては刺激が強すぎるので、とても疲れやすく、すぐに体調を崩してしまいます。 まぶしすぎる(視覚)。
臭すぎる(嗅覚)。
うるさすぎる(聴覚)。
味が濃すぎる(味覚)。
チクチク・ゾワゾワする(触覚)。
などなど。 感覚的に許せるものしか受けつけず、すぐに疲れたとか気持ち悪いとか訴えるため、小さなころはよくわがままだとか甘えているとか贅沢だとか、神経質すぎる、頑張りが足りないとか言われていました。 いつも怒られるので、本気で自分がだらしないからだと思いこんでいて、必要以上に反省していました。いつも元気で楽しそうにしている同年代の子どもを見て、「みんなはこんなに生きづらい世の中を頑張って楽しそうに生きていて本当に偉いなあ」と思っていたのです…

コミュニケーション障害

発達障害といえばこのイメージが強い人は多いかもしれません。いわゆる「空気が読めない」というものです。 発達障害者のうち私のように自閉傾向のある人は、「明文化されていないルール」を理解するのが苦手です。「こんなことわざわざ言わなくても周囲を見ていれば空気でわかるだろう」ということが、はっきり言われないと理解できません。 そんなわけで発達障害者には、人間関係でいろいろと「やらかして」しまう人が多いです。私にも、思い出すだけでうわぁーっとなって消えたくなってしまうようなやらかしエピソードがたくさん… 幼少期には小児科の女性看護師さんに「足太いね!」と言ってしまったり。 中学高校時代には、全校集会の場で「この校則は理屈が通っていない! 先生方は生徒の納得のいく理屈を示せ!」と演説を行ったところ、職員室に呼び出されて数人の先生から部屋の隅に追い詰められて叱責を受け… 就職面接では、「どうしてここに応募したんですか」という質問に「ここは入れば将来安泰だと親に言われたから」とそのまま答えてしまったり。 以上は私がやらかしてきたことのごく一部です。事実であり、理屈が通っていることなら、どんな場でも、どんな相手にも言っていいものと思っていました。「なにをどのように伝えてよいかは場と相手による」ということをはっきり理解したのは、30を過ぎて診断を受けてからでした。

発達障害も実は身体の障害なんじゃない?

私がつねづね思っているのは、「発達障害も実は身体の障害なんじゃないか?」ということです。というか、いわゆる精神障害のすべても、結局は身体の障害なんじゃないかと思っています※。 ※発達障害は、現在の障害の分類上は精神障害に振り分けられています。 詳しくは今後の記事で書いていく予定ですが、いまごく簡単に説明すると以下のような感じです。 近眼の人は、眼鏡がなければ、いくら気合いを入れても努力しても、見えないものは見えないですよね。必死に目を細めれば多少は見えますが、それにも限界はあります。 精神というものは手にとって見ることができないものですから、とかく本人の気合いとか努力の話にされてしまいがちですが、発達障害者やほかの精神障害者の生きづらさも近眼と同じだと私は思っています。たとえていうなら「脳みそが近眼で、眼鏡をかけないかぎり周囲が見えない」。 ところで、いままで発達障害といえばほぼコミュニケーション障害の話しか耳にしなかったのが、2017年に入ってからにわかに発達障害者の感覚過敏の話が注目されるようになっています。 <<子どもの“偏食” 実態明らかに|けさのクローズアップ|NHKニュース おはよう日本>> 上記のNHKの特集では、深刻な感覚過敏が原因で極端な偏食に陥り、やせ細ってしまう子どもの例などが紹介されました。甘えや好き嫌いではなく、本当に感覚的に受け入れられなくて食べられない例です。 私は、世間の発達障害に対する受け止め方が少し進んだように感じて、この動きをとても歓迎しています。

「アスペルガー症候群」と「高機能自閉症」はどう違うの?

ここでちょっと補足説明をさせてください。 「アスペルガー(症候群)」と、宇樹の持っている「高機能自閉症」はどう違うの? という質問を受けることがよくあります。そんなとき私は、「ほとんど同じだと思っていいよ」と返すことにしています。 高機能自閉症は、最近まで「アスペルガー症候群」と呼ばれていたものとほぼ同じ概念と考えてよいようです。実際ほぼ同じなので、多くの人が混乱するのも無理はないと思います。やはりほぼ同じと思われる、または高機能自閉症とアスペルガー症候群を包括すると思われる概念に「自閉症スペクトラム障害(略称ASD)」があります。 あくまで私の理解ですが、高機能自閉症、アスペルガー症候群、自閉症スペクトラム障害は、どちらかというとコミュニケーション障害やこだわり(いわゆる自閉傾向)を持つタイプのことを言うようです(つまり純粋なADHDや学習障害は除かれる模様)。 精神科の診断基準が最近変わった際に「アスペルガー症候群」という概念がリストから削除され、ほぼすべての発達障害が自閉症系のスペクトラム(地続きではっきり切り分けられない概念)に包括されることになりました。このため現在、以前はアスペルガー症候群と診断されていた障害にも、ほかの診断名がつけられるようになっている様子です。 こうした診断名の細かな区別はなかなか理解が難しいですし、専門家の間でも意見が分かれているところです。確実な情報については専門の医師におたずねください。 次回以降、乞うご期待!
次回からは、今回紹介したお話をさらに掘り下げた内容を中心に、いち発達障害者の実態、経験についてお届けしていく予定です。今後ともどうぞよろしくお願いいたします!

宇樹 義子(そらき よしこ)

フリーライター。成人発達障害(高機能自閉症)の当事者。30代後半。
30を過ぎて発達障害が発覚。その後、自分に合った生き方・働き方を求めて在宅のフリーランスとしてのキャリアをスタート。翻訳者を経てライターへ。
現在打ち込んでいる趣味はフラダンス。動物がヨダレが出るほど好き。
ライターの仕事のかたわら、個人ブログ「decinormal」を運営。自身の経験をもとに、発達障害者や悩みを抱えた人に向けて発信中。 decinormal - 成人発達障害当事者のブログ
●宇樹義子さんの書籍情報 発達系女子 の明るい人生計画 ―ひとりぼっちの発達障害女性、いきなり結婚してみました
研究員プロフィール:宇樹 義子

発達障害当事者ライター
高機能自閉症と複雑性PTSDを抱える。大学入学後、10年ほど実家にひきこもりがちに。30歳で発達障害を自覚するも、心身の調子が悪すぎて支援を求める力も出なかった。追いつめられたところで、幸運にも現在の夫に助け出される。その後発達障害の診断を受け、さまざまな支援を受けながら回復。在宅でライター活動を開始。
著書に『発達系女子 の明るい人生計画 ―ひとりぼっちの発達障害女性、いきなり結婚してみました』がある。その他、発達障害やメンタルヘルスをテーマとした雑誌などに寄稿。精神医学などについての勉強を重ねつつ、LITALICO仕事ナビなどの福祉系メディアでも活動している。
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