「ノウフク・プロジェクト」仕掛け人に聞く、人が動力になる社会デザインのつくり方(日本基金 國松繁樹さん)
maze研ひらばるの「自由ぽい人とダイバーシティを語ろう」とは?
つかみどころがなく、だからこそおもしろい人それぞれの多様性の見方を探究するため、ひらばるが敬愛する「自由ぽい人たち」と、それぞれが大事にしている多様性の話をする企画。脱線が多く、ゴールもない。
目次
ゲストはデザイナーの國松繁樹さんです!
こんにちは。mazecoze研究所のひらばるです。
いま、国を挙げて農福連携が推進されています。
農福連携は「障害者等が農業分野で活躍することを通じ、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取組、担い手不足や高齢化が進む農業分野において、新たな働き手の確保につながる可能性(農林水産省webサイトより引用)」として、何十年も前から日本の様々な地域で進められてきました。
その農福連携が、社会に新たなインパクトを与えるようになったのは、6〜7年ほど前のこと。
より広く深くその価値が醸成されてきた背景には、農福連携を「ノウフク」というブランドにして世に発した仕掛け人がいました。そのお一人である一般社団法人 日本基金代表理事の國松繁樹さんが、本日の対談相手です!
國松さんとは、2012年にソーシャルデザインプロジェクト「PRe Nippon」の立ち上げを機に、様々な取り組みをご一緒するようになりました。
2015年頃、旧・ノウフクWEBの編集を國松さんから依頼してもらったのが、私のノウフクとの出会いです。
2019年には日本農福連携協会のイベント「‐SDGs 農福連携を通した地域の再生と持続可能な共生社会の構築‐ノウフクフォーラム」のファシリテーターとして、2020年からは、全国初の官民連携ノウフク応援団である「農福連携等応援コンソーシアム」の運営ファシリテーターとして、「ノウフク・アワード2020/ノウフク・シンポジウム」の企画や、ノウフクWEBリニューアルのディレクションなど、いまではどっぷりとノウフクに浸る日々を送っています。
ノウフクWEB | みんなで耕そう!ノウフク・プロジェクト
ノウフク・アワード2020 表彰式 ノウフク・シンポジウム
(動画配信)
農福連携を全国で実践する方々と出会い対話を重ねていくうちに、農福連携、ノウフク、ノウフク・プロジェクトそれぞれの意味や価値について、時間をかけて理解していきました。そしていまやっと「ノウフク」は自然や人全体を包摂する概念であり、多様性をよろこべる持続可能な社会をデザインするブランドなんだと言葉にできるようになったように思います。
今回は、國松さんにノウフクとノウフク・プロジェクトの起こりについて根掘り葉掘り聞いていきたいと思います!
ノウフクは、多様な人が関わり合うプラットフォーム
ひらばる
國松さん、よろしくお願いします。
國松さんは、ノウフクのことを「インフラ的でなく人的なプラットフォーム」だとおっしゃいます。うん、なんとなくわかる、と感覚で受け止めてきたのですけど、ノウフクWEBでそれについて書くにあたり、言葉にできない、やばいと気がついて(笑)
國松さん
改まって伝えるということをしてこなかったかもしれませんね。周りの人にも「いつも飲み会の席でなんかいろいろ決まってる」というイメージをもたれているかも(笑)だから今日こうした時間をつくってくれてありがたいなと思ってます。なんでも聞いてください。
ひらばる
では、「人的なプラットフォーム」ってどういうものなのかというところからお願いします。
國松さん
言葉にするの、むずかしい(笑)まずは私の話になっちゃうんですけど。
ひらばる
ぜひに。前段からじわじわ教えてもらいたいです。
國松さん
自分はずっと広告宣伝、商業美術といわれたジャンルで働いてきました。たとえばメーカーから仕事を受けたらその商品を消費者に伝えるのが私の仕事。
はじめは電波や紙媒体を使って、その後インターネットが出てきて。商業に関わるコミュニケーションデザインを通してデザインというものを深掘りしてきました。
20年ほど前に、某飲料メーカーの紹興酒のパッケージデザインやPOPをつくる仕事が来て、知人が中国の浙江省の紹興市出身だったから、面白いなと思って受けました。
紹興酒を売ることを考えたときに、まずだれも深く紹興酒を理解していなくて、中華料理を食べに行って、飲むくらいという状況でした。
だったら、中国酒のことを学べたらいいなと、NHKカルチャーセンターの知人に頼んで、中国酒の講座を立ち上げました。
それから『新シルクロード』という写真集を出している写真家の稲越功一さんに声をかけました。彼は中国を撮っているし、カメラ好きなファンがたくさんいるから、稲越さんと一緒に紹興市に行って写真を撮るというツアーを用意したんです。
そうしているうちに紹興市の観光局ともつながったので、市のwebサイトをつくって。まだネット創世記に、地方都市にすごいサイトができたって話題になりました。
中国に有限公司を作って、当時は自分でも何をやっているかよくわからなかったんだけど。様々なツールが複合的に関係し合い、文化や旅、情報発信から相互利益を生んでいったんですね。自分には何の利益も残りませんでしたけど(笑)
紹興酒を売るためのパッケージデザインだけだと、マーケットが小さくて。でも、コミュニケーションの頻度を高めれば非常に多角的な効果が生まれる。これらすべては人の関係の上で成り立ったことです。いろいろな人がそれぞれの関わり方で利益を取れたら深いマーケットができるという実証。これが、いまにつながる私の前提です。
ひらばる
あるテーマの中で、人がそれぞれの役割でつながって色々な価値が生み出されるしくみが人的なプラットフォームなのだと。そこでもきっかけはお酒だったとは(笑)
それから、どうやってノウフクへと展開していったのかも聞かせてください。
國松さん
さきほどの話は、人と人のつながりを通じたマーケティングモデルなんです。これは、日本の地域や社会的なことにも応用できると思いました。
当時は地方創生なんて言葉もまだありませんでしたが、だんだんと、アートから複合的につながりを生み出すアートプロジェクトなどをして地域に人を呼び込むようような時流になりました。でも、見に行くと私は正直、地域との関わりの持ち方に違和感というか、何か違うなと思ったんです。
それから群馬の小さな村で農業をしながら日本中の福祉事業所を回っていったのですが、飲み屋である人物と出会いました。「農業と福祉の連携がおもしろい」と教えてもらって、そこで農福連携を知りました。
社会的な事業を動かすのには、公的な力も必要です。その知人にはその知見があって、自分にはコミュニケーションデザインの視点がある。国や行政ともコミットしながら新しい価値を生み出せるな、と思いました。
ひらばる
國松さんの頭の中にノウフクのシナリオが降りてきたんですねー。
現在の話をすると、2019年に内閣官房長官を議長とする「農福連携等推進会議」が設置されて、その方向性を示す「農福連携等推進ビジョン」が出て、そこから「農福連携等応援コンソーシアム」も設立されました。身の回りでもどんどんノウフクの認知が進んでいるのを実感しています。そんな大きなうねりの前の小さな一歩が、飲み屋での出会いだったとは(笑)
國松さん
そうそう(笑)
マーケティングとブランディングで「価値化」すること
ひらばる
さきほども、國松さんから「マーケティング」という言葉がでてきました。ノウフクはマーケティングだよ、とよくおっしゃいますよね。
國松さん
それはとてもシンプル。ノウフクは生産したものを売る取り組みです。作った野菜なり加工品なりモノを売るのが一番の目的で、その農産物が売れると、価値が高まるし広がっていく。売りたいニーズも、買いたいニーズも企業や社会にあって、それが経済の枠の中にはまっているから、ノウフクはマーケティング、という考え方です。
ひらばる
わかりやすいー。知って買って食べてもらうつながりが循環することで、働く場が広がったり、耕作放棄地が活用されるようになったり、技術を次の世代につなぐことができたりと新しい価値が生まれていく。持続可能な共生社会が実現されていくのがすごいところです。
國松さん
ここは結構大事だと思ってるんですが、たとえば「○○運動」と呼ばれるものは、国に保障を求めたり自分たちの権利を認めてほしい、というのが主軸にある場合が多く、これは権利を売っていると思います。でも、ノウフクは農産物を売る取り組みです。人がものを食べることが消費者や企業などと分離せずにぐるぐるまわっている、それがノウフクだと思います。
ひらばる
なるほど。ここで、ブランドという言葉がでましたが、國松さんといえばブランドづくり名人と認識しております。國松さんにとってブランドとは?
國松さん
自分の中のブランドの定義は「価値づくり」と「ファンづくり」。価値があってファンがいれば、ブランドであるということです。
農福連携では、いろんな人が農作業にかかわることで良い環境を工夫できたり、コミュニティが育まれたり、手間暇かけられたからものすごくうまいとか、価値がたくさん生まれています。商品以外の部分でもストーリーがあるのが強みだし、それを人と自然にぐっと落として価値化することで、「ノウフク」というブランドを作っていきました。
ひらばる
そこにもともとあった可能性や魅力を「価値化した」のがノウフクだったと。
國松さん
ノウフクのブランドの力を高めるために、ノウフクマークをつくったり「ノウフクJAS」の規格をつくったりしました。JASは定義をつくること。定義ができるといろんな人に知ってもらって、それすごいね、買いたい!という気持ちを後押しできます。そうすると、事業所ごとに頑張ってブランドを作らなくてもノウフクブランドをみんなで共有できるでしょうと。
ひらばる
私もこれまで福祉事業所さんとモノづくりを進めてきた中で、どうしても課題になるのは作ったものを継続的に売っていくことでした。ノウフクはブランドと市場までみんなで共有できるのがとにかくすごいです。
國松さん
社会デザインを構築していくのは私の得意とするところかな(笑)
世界を調和させるデザインの力
ひらばる
社会デザインという言葉がでたところで、次はデザインについて。商業デザインからソーシャルデザインまで、幅広くデザインというものに関わられていますが、國松さんにとってデザインとはなんでしょう。
國松さん
デザインは自分の中ではっきり定義があって「違う要件のものを一つの世界に調和させる」ということです。
たとえばお酒を売るだったら、値段という数字があって、製造やいろんな要件がある。本来ばらばらなものを、お酒というフレームの中で調和させる。それがデザインです。安さを伝えたいときには金額を大きくするし、素材の良さを伝えたいならその部分を。プライオリティをつけて、要件の関係性を調和させるんですね。
レナさんがやっているファシリテーターもデザインですよ。それぞれの人が持っている思いや目的などの要件をまとめあげているでしょう。デザインは形あるものだというのは勘違いで、形は技術を現象化させてるだけなので。
昔はデザイナーは意匠家と言われていたように、意の匠。それは生きてきた中での経験力でしか醸成できないものだと思っています。自分を深く見られることも大事で、そうしたものがあらゆるものに感応していきます。
ひらばる
私もデザインしているのだと言われると単純にうれしい(笑)
國松さん
デザインのコツは、自分をなくすこと。これは誰のために、マーケットはこれを求めている、というような大義を大切にします。自分はこんなふうに売りたいとかは関係なくて。その上であらゆる個別の要件を理解して、そこに自分の技術をどう調和させて目的を達成させるかです。
一方で、デザインはサービスや媒体を認知させるためのものですが、それを価値化するのには自分の怨念みたいなものがあります。
昔はもっとたくさんの評価軸があって、いろんな人が認められる、尊敬しあいながら補完していく社会でした。自分の先輩たちは、パソコンができないだけでみんな失業したし、写植を打つ人も製版する人もいなくなった。10年くらいで起こったことです。
そう考えると、農家がいなくなってきているのも当然で、作り手や人自体の価値をちゃんと高めていかないと、未来は嫌な時代になるなと。農家さんや多様な人がやっていることに価値をもたせなくちゃいけないというのが、自分のノウフクへの思いですね。
ひらばる
デザインするときには自分をなくすけど、自分の信念をもってデザインしていくこともやっぱり必要ということですね。深い……。ところで國松さんって、今話してくれたようなことってみんなにあまり話しませんよね。
國松さん
ノウフクで言うと、それを自分が作ったんです、だれがやってるんです、と言ったらうまいこといかないと思っています。みんな「自分がやった」と言えるようにデザインしているし、それが大事だと。
自分がノウフクのブランドやマーケティングのしくみを設計したとは言えるかもしれないけれど、やってるのはみんなです。それぞれの立場からの関わり方があることを大切にしながら、目に見えないものを価値化しているのが、商業広告とは違うところですね。
ひらばる
たしかに、私自身ここまで深くノウフクに関わることになるとは思っていなかったのですが、いまは、えらそうな言い方かもしれないけれど、プロジェクトを自分も動かし、影響し合う一員だという実感があるんです。だから誰かにああしてこうしてと言われなくても、次はこんなことしたい!っていうのが湧き出てくるのかな。そしてここは、それをみんなでおもしろがって実現できる場だと思います。
國松さん
以前「デザインは詐欺みたいなものだよね」って言われたことがあります(笑)ないものをあるように見せたりできるから。でも世界ってそういうもので、今の社会も詐欺みたいなもの。「その技術をつかって、人を介してどういう社会を作るのか、だから方法論は一緒だよ」と答えたんですけど。
ひらばる
國松さんが醸し出す雰囲気に、みんなその気になっていく(笑)
自然と人が共生する社会デザイン
ひらばる
いよいよ、ノウフク・プロジェクトとは何なのか? というところにたどり着きたいと思います。これまで聞いてきたこと全部が核心で、もう答えは出ている感じなのですけど。
國松さん
私の中で、ノウフクの「ノウ」は自然、「フク」は人のことです。
農福連携と言うと、農業か福祉どちらかの分野で囲みたくなるけれど、「ノウフク」は、農業界でつくったものでも福祉界でつくったものでもなく、これまでのヒエラルキーのどこにも属さない場所にぽっとできた新しいブランドなのがおもしろいところ。すでにあるフレームの中に作ると、利害関係があって身動きがとれません。どこか一つの法人の中に作るのも違って。
これまでとは違う価値軸の中で、「ノウフク」というブランドをみんなが使えるように、それぞれが利益を生み出していけるようにと公共性を担保してつくりました。カタカナで表現しているのも、農業と福祉だけにならないようにという計算です。
ひらばる
たしかに、だれかが「ノウフクは自分たちだけのもの」って抱え込んだら今のようには広がっていなかったかもしれません。
國松さん
ノウフク・プロジェクトは、立場の違うものがつながっていくのがポイントで、全然関係ないと思っていたのがつながることで力を発揮します。企業や消費者など農業にも福祉にも関係がない人たちもはいって、まぜこぜな動きがつくれてくると、政治、行政、商業という単純な図式ではない、みんなが生きやすい世の中をつくるためのいままでにないしくみができると思います。
ひらばる
自然と人の連携で起こる価値を表現した「ノウフク」と、その価値向上や循環を図るために立場の違う人が主体となって推進する多様な取り組みが「ノウフク・プロジェクト」。メモ!
関わる人の視座や視点の数だけ多様なノウフクの形があっていいということですよね。
國松さん
ノウフク・プロジェクトで最初に描いた図面があって、そこには普及啓発やブランド構築も入っています。作ったものを価値化して売らないと生産者に還元できない。生産者を増やす、育成するためのしかけも必要です。そうするとノウフク・プロジェクトは持続していくので。
ノウフク・プロジェクトが進んでいくと、世界的にもおもしろいと思います。ドネーションの広告モデルとはちがうし、クライアントがいないし、クリエイターがイニシアチブをとっていける。運動や活動ではなく、具体的に社会を作っていくプロジェクトになります。自分の中では技術的にやっている感覚がありますが、一人ではできないから、みんながもっている価値観やイメージを調和させながら。それぞれが思っていることを、それぞれの立場でやれるようなチームをつくって、みんながいろんなことを作り上げている。そんな状態になっています。
ひらばる
それぞれの才覚をつかって、みんなが主体であれる。まさに「インフラ的でなく人的なプラットフォーム」ですね。クライアントがいないというのも納得で、自然に人が引き寄せられ動いていくイメージがあるし、私もそこに吸い寄せられた一人です。
國松さん
中心にあるのは、質量でしかなくて、それはみんなの思いです。大枠はロジックでできてもエンジンは人の意識、熱量。思いが空間を歪めて人を集める。そして大きな変革が起こっていく。
ノウフク・プロジェクトをちゃんと説明できると、それぞれの機能が価値化できると思います。目に見えないものを形作っていけるチームや人材なんだよという。まぜこぜに至る前段階がノウフクです。既存の社会構造からの新しい社会への移行段階の取り組みであり、機能変更と共に価値変革でもあります。
これからさらにおもしろいなと思っています。
ひらばる
國松さんて、おもしろくなってきた頃にさらっとまた次の新しいことをはじめていたりしますよね(笑)まだまだこれからなので、引き続き、ノウフク・プロジェクトであれこれよろしくお願いします! 今日はありがとうございました。
プロフィール:國松 繁樹さん
デザイナー
一般社団法人日本基金 代表理事
グラフィックデザイナー、クリエイティブディレクターとして活躍、企業の利益追求型広告から社会との関わりを重視するソーシャルマーケティングを具現化する活動の一つとして「ノウフク」ブランディングに携わる。
mazecoze研究所代表
手話通訳士
「ダイバーシティから生まれる価値」をテーマに企画立案からプロジェクト運営、ファシリテーション、コーディネートまで行う。
人材教育の会社で障害者雇用促進、ユニバーサルデザインなどの研修企画・講師・書籍編集に携わった後に独立。現在多様性×芸術文化・食・情報・人材開発・テクノロジーなど様々なプロジェクトに参画&推進中。