組織にいながら社会を変える!まぜこぜな会社員チームが作った「やさしさIoT」
こんにちは!まぜ研保手濱です。よくまぜこぜなネタをタレコミしてくる我らがボス黒井さんから、新たなタレコミがありました。
黒井さん↑
なにやら「マタニティマークがIoT化したみたいだよ」とのこと。
マタニティマークといえば、自治体や産院などで配布されているあのキーホルダーですね。付けていると電車やバスの中で認知されやすく、席を譲ってもらったりできます。
そんなマタニティマークがInternet of Things(モノのインターネット)になったんだって!インターネットにつながったらどうなるのかな?
当研究所にはタイミングよく臨月に突入した研究員ひらばるがいるので、引き連れてあれこれ聞いてきました! (ひらばるは10月終わりに無事女の子を出産いたしました!)
目次
スマート・マタニティマーク、使わせてください!
到着したのは某企業様の会議室。思ったより大人数の方々がお出迎えしてくれました。初めまして!
みなさんのプロフィールなどはおいおい伺っていくとして、まずはそのIoTマタニティマークとやらを拝ませてください!
今年の12月中旬にメトロ銀座線で実証実験を実施予定という、その名も「スマート・マタニティマーク」。今回はそのコンセプトモデルを拝見しました。
おおー!うっすら半透明ピンクでまるっこくて、少し弾力のあるやわらかい素材。この優しい感じが、なんとなく昔大切にしていたおもちゃのようで、ずっとにぎにぎしていたい。愛されボディで素敵です。
電子式のものっていかにもメカっぽいデザインのイメージがありますが、まごチャンネルもしかり、デジタルなものとアナログなものの境目がなくなってきている気がします。
さて、このかわい子ちゃんがインターネットにつながって何をしてくれるのか、シミュレーションしてみましょう!臨月ひらばるの出番です!
せっかくなのでみなさんにも出演していただくことにしました(人使い荒くてすいません)!
〜ここからは小芝居をお楽しみください〜
ある晴れた昼下がり。電車の中はサラリーマンや家族連れでごった返しています。
ガガー(ドアが開いた音)
おや?妊婦さんが一人乗り込んできましたよ。大きなお腹で歩くだけでも大変そうですが、リュックをおろしてなにやらゴソゴソ。
あらっ妊婦さん。キーホルダーのスイッチを入れました。ほんわか光る例のやつ。
すると乗客の一人が・・・
スマホに「妊婦さんが近くにいます」と通知が。「ゆずります」ボタンをタップする乗客。
〜完〜
簡単に言うと、妊婦さんがスマート・マタニティマークをポチっと押すと、アプリを入れている周囲の乗客のスマホに通知が行くという仕組み。
「妊婦さんだっていつも座りたいとは限らないですよね。気分が悪くなったり降車駅までまだしばらくあるときなど、譲ってほしい時にだけ通知を出せるんですよ」
プロジェクトリーダーのタキザワさんは言います。
譲る側としてもスマホに集中していて気付かなかったり、気づいていても声をかけるのに少し勇気がいるところを、必要としているときにだけ通知が来ればアクションを起こしやすいですね。
つまり、「譲ってほしい」という人と「譲ってもいいよ」という人とのミスマッチや不安な気持ちを軽減して、やさしさのやり取りの背中を押してくれるのが、このスマート・マタニティマーク。お互いが持っている想いをピピピッとつなげてくれる、小さな妖精みたいです。優しくてかわいくて、嬉しい気持ちが車内に広がっていくような気がします。
しかもアプリ側には、譲った回数が記録されるのもちょっと嬉しい。
最強メンバーでワークショップしたら、グランプリを取っちゃった!
「マタニティーマークを付けていて嫌がらせを受けたという話が、ネットで話題になったりしていますよね。でもうちの奥さんが妊娠中に席を譲ってもらった時は、本当にありがたくて、その人の顔も覚えているほどです。
きちんと機能すれば良い物なのに、危険な物だと思われてしまっている。それをテクノロジーの力で解決したいと考えました」
タキザワさん夫婦の嬉しい体験が、こうして形になったのですね。ではどうやってここまで開発してきたのでしょうか?
タキザワさん「僕は普段はワークショップデザイナーとして働いていますが、ワークショップの成否は80%は人で決まってしまうと感じていました。では、レベルの高いメンバーだけでワークショップをやったら、どんな共創の場やアウトプットが生まれるのか? 実験してみようと思い、自分の知人で最強打線を組んでワークショップをおこないました」
タキザワさんの言う“共創”。“コ・クリエーション”とも言いますが、近年よく耳にするようになりました。多様な立場の人たちが協働しながら新しい価値を生み出していくという考え方です。
価値観が多様化した現代社会では、一人や一企業単体で出すアイディアよりも、みんなで考えたほうがいいものができる!と言われています。タキザワさんはその“共創”を最高レベルまで引き上げてみようとしたのですね。
タキザワさん「ワークショップは、Google主催のプロジェクトAndroid Experiments OBJECTへの応募を目的にしました。テーマは“AndroidとIoTで未来をつくる”。3回のワークショップで生まれた10個のアイディアを応募して、結果そのうちの2つがグランプリを受賞しました。そのひとつが、このスマート・マタニティマークなんです」
200以上の応募の中から投票でグランプリを受賞したのは4案。なんとその中の2案がタキザワさんチームのもの。信じられない打率です!
タキザワさん「コンテスト事務局から電話がかかってきて、“2つできますか?”って(笑)」
そこからプロトタイプの開発が始まりました。1枚のアイディアシートしかない状態からのスタートで、期限はたった5ヶ月だったそう。
タキザワさん「当時メンバーは12人いたので、2チームに分かれてプロトタイプの開発に臨みました。スマート・マタニティマークはアイディアを一旦ゼロにし、フィールドワークやユーザーインタビュー、Webアンケートなどのリサーチから始めていき、理想的な席譲りのフローや、席譲りまで至らないパターンを整理していきました」
松尾さん「私と池之上さんは実際にマタニティマークを付けて電車に乗ってみたんですが、ネガティブな情報を聞いていたのですごく怖かったです。妊娠していたらこれを付けるのは本当に怖いだろうなと思います」
池之上「私もはじめは怖かったんですが、意外とすぐに席を譲ってもらえて、その時は感激しました」
タキザワさん「実際はマークを付けることで席を譲ってもらえるケースも多いのに、ネットにはマタニティマークは危険といったネガティブな情報ばかりで、正しくポジティブな情報が伝わっていないということもわかりました。なのでプロトタイプでは、アプリのホーム画面で“近くにサポーターが◯人います”といった表示をする事を想定しています。みんなのやさしさが見える化されるだけでも、妊婦さんは安心して電車に乗れるのかなと」
そしてグランプリ受賞から5ヶ月後の今年2月、ビジョン「やさしさから やさしさが生まれる 社会へ」を掲げたスマート・マタニティマークのプロトタイプが、MEDIA AMBITION TOKYO 2017に展示されました。
すごいスピード感!5ヶ月間みなさんでみっちり開発に関わったんでしょうね!
タキザワさん「メンバーはそれぞれの会社に勤めているので、仕事が終わってから集まって活動していましたね」 なんとここでオドロキの事実が判明。全員が会社員…?
mazecoze研究所ではこれまでに、仕事もプライベートもまぜこぜに楽しく働いている方をたくさんご紹介してきましたが、フリーランスや起業家の方が多かったので、このパターンは初めてかも。
全員がフルコミットしてガシガシ進めてそうなプロジェクトですが、業務時間外だけで進めていたなんて!
会社にいながらまぜこぜに進んでいく、これからの働き方
そもそもタキザワさんは、一体何者なのでしょうか?
タキザワさん「僕は広告代理店で、ワークショップデザイナー・クリエイティブファシリテーターとして働いています。この活動は完全にプライベートです」
ワークショップデザイナーとは、ワークショップの内容のプランニングからファシリテーションまで執り行う、いわばワークショップのプロフェッショナル。共創が重視されてきている昨今、各方面でニーズが高いお仕事です。
先日取材に行った東京工科大の先生たちも、ワークショップデザイナー推進機構(WSD)の理事の方々でしたね(→こちら)。タキザワさんはWSDで講師を務めたりもしているそうです。
それにしても、働き方がまるでフリーランス。会社側はどう思っているのでしょうか?
タキザワさん「この活動を通じて、これまでにないお声がけや相談をいただくようになって、本業にも良い影響が生まれています」
好きでやってる活動が仕事にもつながるって理想的。「公私混同」はmazecoze研究所のテーマのひとつでもあります。他のみなさんはどうでしょう?
松尾さん「私は大日本印刷でサービスデザインを専門に社内外の新規事業開発や商品開発の仕事をしています。このプロジェクトは元々課外活動として参加していたのですが、グランプリ受賞をきっかけに社内に話を持っていき、現在は仕事として関わっています。
会社を動かすために、仲間集めから経営層への説得など様々な活動をやってきました。イントレプレナー(社内起業家)感覚で、大企業での新しい働き方のモデルケースになるといいなと思いながらやっています」
久樂さん「僕は普段広告代理店の人間として、デジタルを中心とした企業のプロモーションからアプリの開発まで幅広くやらせてもらってます。このプロジェクトではアートディレクションとシステム開発ができるメンバーを社内から引っ張ってきました」
なんか……タキザワさんが最初に巻き込んだ最強メンバーが、さらに人やものごとを巻き込んでいき、大きな竜巻が発生している感じですね。その原点にいるタキザワさん、おそるべし。
さらに、このプロジェクトに参加してから運命がガラリと変わったという方も。UI/UXデザイナーの池之上さんはこんなケース。
池之上さん「元々メーカーに勤めていたのですが、この活動のほうが忙しくなってきたので、プライベートの活動にも理解がある会社に転職したんです」
プライベートの活動が忙しくて転職しちゃうとは。企業としても、仕事もプライベートもまぜこぜに巻き込んでいく力のある社員がいることはとても心強いのでしょうね。
竜巻を作り出す!タキザワ流「巻き込み力」
松尾さん「タキザワさんはコミュニケーションのフットワークがとても軽くて、どんどん周りを巻き込んでいくんです」
タキザワさん「スマート・マタニティマークは初期の頃から、いかに企業を巻き込んでいけるかがポイントになると思っていました。そこで、プロジェクトに協力して欲しい企業の方をお誘いして、フューチャーセッションと呼ばれる対話型のワークショップを開催したりしました。」
簡単に言いますが、大きな企業さんに声をかけて来ていただくのって、相当な労力が必要ですよね?どうやって巻き込んでいったのでしょうか?
タキザワさん「会社のメアドにメールを送ると、会社ごとになってしまって時間がかかりますよね。なので知り合いづてであたって、Facebookのメッセージでご案内しました。テーマも“妊婦が安心して生活できる社会とは?”といった、多くの人が興味をもって対話しやすいものに設定して」
久樂さん「この時は会場がGoogleだったので、『グーグルでやるので』って。それだと参加してみたくなりますよね (笑)」
タキザワさん「まずこちらから問題提起し、ビジョンやアイディアを説明した上で、どういう社会になって欲しいかを、じっくり対話していきました。また、ワークショップの様子を撮影して、1つのムービーを作りました。そのムービーを会社などで見せることで、会社ごととして巻き込んでいくという。結果的にJRさんがご協力いただけることになり、鉄道博物館さんでの実証実験やムービー撮影を実現することができたんです。」
正面突破するよりも、まずは個人間のコミュニケーション。共感してもらえることが人を動かすということですね。SNSが発達した現代ならではのやり方。「組織」よりも「個人」が大切になっていくこれからは、こういった巻き込み方やプロジェクトの進め方が主流になっていくのかもしれません。
妊婦さん以外にも広がっていくやさしさのマッチング
ものすごいスピードで進んで行くスマート・マタニティマークですが、今はもっともっとすごいことになっているんです!
MEDIA AMBITION TOKYO 2017の展示後はこのアイディアを社会実装するべく、&HAND(アンドハンド)というプロジェクトを始動。課題であった「専用アプリをインストールする必要がある」「対象が妊婦さんだけだとマネタイズが厳しい」をクリアするために大きく進化させたアンドハンドがなんと、LINE BOT AWARDSというコンテストでグランプリを受賞してしまったのです!
ちなみに応募総数はGoogleのときよりも多い800以上! その中からまたグランプリ取っちゃうなんて、共創ってすごい!!
まずは対象を妊婦さんのほかに聴覚・視覚障碍者やヘルプマーク使用者、外国人観光客にも広げ、さまざまなケースの「助けて」に対応できるように。もはやマタニティマークの領域を超えてますね!
妊婦さん以外にも広がっていくやさしさのマッチング
Googleのコンテストでグランプリを受賞してから1年あまり、スマート・マタニティマークはこんな進化を遂げています。
妊婦さん向けだったものが、もっと多くの人に使ってもらえるよう様々な形に分身中。たとえば視覚障害がある人が周囲にいることが分かったり、サポートして欲しい時にピッと押すと駅員や警備員さんに通知が行く、白杖に付けられるタイプなど、必要に応じて形状や機能を変えていくプランに。
さらに、内蔵機器にはLINE Beaconというワイヤレス発信機を採用し、LINEのメッセージ上で使えるように仕様を変更。「専用アプリのインストール」というサポーター側のハードルがなくなった上、チャットボットという対話型の自動会話プログラムがやりとりの仲介役をしてくれるようになりました。チャットボットは、「人」対「ロボット(システム)」が一般的ですが、&HANDはさらにその先に「人」がいるのが特徴で、個人のIDが見えないなどプライバシーにも配慮されています。
例えば電車が急停車したとき。車内ではアナウンスしか流れないために、事故が起きたのか、単なる遅延なのかが、聴覚障害のある方にはわかりません。そんなときに通知を出せば、周囲のサポーターがLINEを介して必要な情報を教えてくれます。LINEを通じてのやりとりなので、気軽に手助けすることがきますね。
また、2020年東京オリンピックで日本を訪れる外国人観光客に対しても、運行情報や観光情報をお知らせしたりと、可能性はまだまだ広がりそうです。
現在はこのアイディアの実現に向けて、大日本印刷さんが主体となって、東京メトロさん・LINEさんと協力しながら、スマート・マタニティマークの実証実験を12月中旬からメトロ銀座線で実施予定。
Googleのコンテストでグランプリを受賞してからまだ1年あまり、会社員チームが進めているとは思えないスピード感でさまざまなハードルを乗り越えてきた秘訣は、自分たちだけで背追い込まず、ビジョンやアイディアに共感してくれる人や会社を巻き込んで行くことにあるのでしょう。
タキザワさんたちのチーム名は「PLAYERS」。スローガンは「一緒になってワクワクし 世の中の問題に立ち向かう」
これからの動きも注目したいと思います!
みなさん、ありがとうございました! (撮影:増元幸司 取材・執筆:保手濱歌織)
スマート・マタニティマーク http://www.smart-maternitymark.org/
&HAND / アンドハンド
https://andhand.themedia.jp/
https://www.facebook.com/andhand.project/