ライター、編集者、プレゼンテーター必見! 会話を「見える化」する次世代アプリ「UDトーク」がすごいんです。【後編】
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前編では、会話がそのまま文字になるアプリ「UDトーク」の誕生秘話を、開発者の青木さんに聞きました。聴覚障がいがある人たちとのコミュニケーションのために開発されたこのアプリ、今ではプレゼンテーターやライターなど、多様な人が多様な方法で活用しています。
青木さんご自身にさらに迫った後編も、前回同様、取材内容をUDトークでまるごと文字起こしして記事にしました。(文章として読みやすいように、15%ほど編集を加えております)
目次
特にビジョンなし!な起業ストーリー
ひらばる:青木さんが起業したきっかけについても教えてください。
青木さん:はい。動機は不純です。フリーランスのプログラマで、音楽もやったんですけども。ちょっとバンド解散しちゃって、どうしようかなーと思ったときに、「そういえば会社作るってのがあったな」と思って。要は暇になったから会社をつくったという。その頃、震災があったわけですよ。バンド解散したのが2011 年の2月、会社を作ったのが2011 年の6月なんですよね。3月に震災があって、「何ができるかな」とも思いました。タイミング的に凄い色んな事が重なって。
会社名は、その前から「Shamrock Records」 を使って活動していて、それをそのまま使ってやろうというふうな感じだし、事業内容もプログラムやアプリケーション開発するというのと、音楽事業も入れてはいるんですけど。行政書士の知り合いがいたので「会社を作りたいんだけど」っていったら、2 週間で出来ましたと。事業としてこういうのをやろうと思ったのはもうそのあとですね。
だから、僕は結構世の中の事業家ってのはすごい尊敬していて、自分で始めに事業をやろうって思って会社をつくるという動機ってすごいなと思うんですよ。だってお金も集めなきゃいけないし、事業計画書とか作らなきゃいけないし。
僕は、申し訳ないけど会社作った時にフリーランスのプログラマだったんでお金もあったし、特に別に事業でこれをやりたいっていうふうなこともなかったし。うん。何も考えないで会社をつくったんですよ。
阿部:フリーのプログラマとしても、そこそこ稼げる基盤というのはその時にはできていたということですね。
青木さん:プログラマとして音声認識の会社で働いたので、もう10 何年、本当に何も困らずお金が月額入ってくるっていうふうだったので。音楽も自由にやっててって生活だったんですけど、実際会社を始めてみるとやっぱり大変ですよね。資金も必要になってくるし、かと言って受注の仕事ばっかりやってると自分のところの開発ができないので、そちらを減らしていく必要もあるし。減らしていくとやっぱりお金が入ってこなくなるんで、融資を受けたりだとか、そういうふうなこともやっていかなきゃいけないと。もちろん補助金とかそういうふうな選択肢もあるけども、それをやっちゃうと手続きがめんどくさかったりとかで、本当の仕事ができないとか。
うん。なので、UDトークは補助金とかも一切使わないで、自社開発だけ、自己資金だけでここまでやって来れて、今事業化もできているという状態です。
もしはじめに会社を立ち上げるときに、「こういう事業でありたい」と思って始めようと思ったら、すごい大変だなと思って、かなり辛くなりますよね。だから、本当に世の中の会社や企業家の人達っていうのはすごいなと思う。自分の場合、たまたまこういうスタイルで起業が出来たっていうケースでしかないかなと。うん。
いわゆる「マーケティング論」に縛られずに
ひらばる:いまはほぼ1人で会社の経営から開発までしているんですよね。どんな体制で毎日働いてるんですか。
青木さん:はい。いまは事務所もなくて、自宅兼でやってるんですけども、実は今ほとんど開発に関しては、空き時間にやっているというか。UDトークを導入したいとおっしゃる会社が多くて、昼間の時間はほとんど外に出て説明に回っています。
ひらばる:あ、今日もですね。mazecoze研究所法人プラン導入とともに取材もずる込ませて。すみません。
青木さん:あ、ですね。ただ、こっちから売り込みは一切してないんですよ。全部問い合わせがあって説明しに行くって感じなので。やっぱり営業からやるのではすごいコストかかっちゃうんで多分もたないんですよ。UDトークはこっちからの売り込み営業はしてないので、だから1人でやれてるってのもあります。
ひらばる:営業しなくても依頼が殺到している理由は?
青木さん:口コミですね。さっき(前編をご覧ください)言ったように、アプリの機能に制限をつけていないので、無料のアプリを使った人がそのまま自分の会社の人に提案してくれたりして、「法人契約したらこれができるようになるんですよ」って説明をする必要がないんですよ。もうそのまま月額使用料さえ払えば導入できるので。「体験を売ってる」って考えると、一般のユーザーの皆さんが営業してくれているって感じなんですよね。うん。自分がこういう体験ができてよかったから、それを会社にも提案するっていうふうな感じで動いてくれる人がいて。それで、じゃあ導入するにはどうしたらいいのかっていう問い合わせがホームページ経由でくるというふうな流れです。
ひらばる:これまでのマーケティングの仕組みを根底から覆すような。だけどきっとこれからの主流って、口コミとか、もっと個別の体験から、本当に必要なものだからって広がっていく世の中になっていくんだろうなっていうのが。これまでいろんな人に取材に行く中でも実感しています。
一番のユーザーは自分
阿部:ビジネスの発想って、どこから着想を得るんですか。もう本当に本能のままに今までこうやってきているんですか?
青木さん:このアプリに関しては、一番のユーザーは僕なんですよね。もともとの発想自体が僕が使うために作ってるし、今もそれは変わりないので、多分この世の中にUDトークを僕以上に使ってる人はいないんですよね。だから、僕が使いにくいものは作りたくないし、僕が使いやすければ恐らく世の中の何割かの人は使いやすいだろうって発想です。
実際僕が人にこれを説明するときに、説明に詰まるようなことがあったらそれは使いにくいとこなんですよ。
人に説明をすればするほど、アプリの矛盾点とかが出てくるのでそれをちょくちょく直したりしてます。今でもバージョンアップは3週間に1回はしているので、細かいところを修正して、伝わりやすいかどうかってことも考えながらやってますね。それが判断基準です。
阿部:ってことは、最初に製品を作るときにマーケティング調査をしてというのありきとか、机上の空論じゃなくて、自分が本当に実際使ってみて、使い勝手の悪いものは世に出しませんよっていうポリシーが、すごく強くていらっしゃる。
青木さん:そうですね。大体大きい開発会社だと、開発部と営業が分かれていて、ユーザーとの接点がなかったりというのがあるんですけども。結局、ユーザーとの接点を持ってる人が開発者だったら、すぐに方向転換もできるわけですよ。
やっぱり仕様書があって、それに向かって作るけど、そこまでに進んだ経緯があるとなかなか引き返さないで、別の方向に行けないというとこなんですね。
僕の場合は、結構これがいいかなと思って作ってても、最終的にだめだなと思ったら全部消します。そういう後戻りとか方向転換も、一切躊躇せずにやるので、僕の周りはそれは大変ですよ。やるやるっていった機能が、「いいや、やらない」みたいな話になるので。
青木さん流パートナーシップ
ひらばる:青木さんのまわりって、どんな人がいるんですか。
青木さん:基本的には僕1人で開発はしてますけども、幸いなことに全国とか、身近にも「UDトーク」を売りたいっていう会社さんが増えてきました。例えば補聴器のメーカーさんが、補聴器自体を説明するのに「UDトーク」を使いたいとか。
あと、自分とこのハードウェアを販売したい会社さんが、ソフトとして「UDトーク」を使ってということで、そういうパートナー連携なんかもしています。エプソンさんもそうです。プラネタリウムで使ってみたり。自社製品を人に説明するときに「UDトーク」も使ってもらうことで、全国的に展開できていっているところです。
そういうビジネスパートナーが増えてきたってことは、いいことなのかなと思ってます。
阿部:れなさんが、さっきまぜこぜですねって話してましたけど、新しいモノを創り出すのに、規模感っていうのも変わってきてますね。会社組織の時代じゃないんだなあと。キャリアカウンセリングなんかをやっていると、その中でもよく思うんですけど、青木さんみたいな人に会うと余計感じますね。すぐに決断して良いと思ったものをその場で取り入れられるというふうにしないと、多分これからの仕事って成立しなくなってくっていうのの、まさに一歩先行く見本みたいな感じだなってすごく感じました。
青木さん:うん。やっぱり自分ですべて決断できるってのは責任はいりますけど、面白いですよね。
できることがこれしかないからやるだけ
ひらばる:青木さんが開発する様子をわりと間近に見てきた身としては、青木さんって本当に、みんなが休むような会議でも毎回必ずいて、セッティングして、音声の認識率向上に生かしてて。もちろん自分一人で行動できるっていうベースがありながらも、やっぱ圧倒的に努力してるなと。その地道さを見てて、それが青木さんのすごさだなとも思うわけですが。
青木さん:それよく言われるんですけども、何でしょうかね。でも自分では頑張ってる意識はないんですよね。はい。
阿部:何かに向かってる感みたいなものだけがある感じですか?
青木さん:言われて改めて気がついたんすけども、それもないんですよね。何かって言われたら、できることがこれしかないんですよ。やることがこれしかないから、やってるっていうふうなことしかないんですよね。
ひらばる:ただ淡々とやり続けていると。
青木さん:音楽やっていたときは、音楽しかやることがなかったからやっていたんですよ。でも音楽はもうやることじゃなくなったんで、今は一切やってない。興味もないんですよ。僕普段から音楽も聴かないので全く。
今は本当にアプリ開発とかプログラミングとかに興味があるから、これしか今やることがないからやってるって感じなんですよね。
阿部:くどいようですけど、ちょっとこう、ドラマチックにインタビューしたい系のメディアだったら、「それは、音楽はやりきったってことなんですね」みたいな感じになりますけど。それともまた違う感覚なんですよね、きっと。
青木さん:音楽は才能がなかったんですよね。僕の周りにはプロになった人とかもいっぱいいるんですけども。プロになる人はこうなんだなって事もわかっちゃうので。僕がそこで止めたってことはそれで、やめるものだったんだな、みたいな感じのところで別に諦めてもないんですけども。後悔するぐらいなら別に止めないので。単純に本当に興味がなくなったっていうだけで、周りがびっくりするくらいスパッとやめちゃった。
阿部:今UDトークもすごい熱心に頑張ってるように見えますけど。もしかするとある日、熱が冷めてまったく違うものをやってる可能性もあるわけですよね。
青木さん:はい。その可能性は充分あります。突然、「もういいや」みたいな感じで別のことにっていう可能性はありますね。ただこの業界にいると、いろんなパターンがあって、幸いいろんなデバイスも出てくるので、そういうのが与え続けられればですね、全然飽きはこないので。うん。
今は本当にこれしかやることがないからやってるって感じなんで、「難聴者のために作ってくれてありがとうございました」とか言われると、いやなんか僕そんなつもりあんまりないんだけど、みたいな。
やんないとすっきりしないなんすよ。こんなものがあるのに「知らないよ」、みたいに思われてるのもちょっとあれだし、なんかやっぱり客観的な結果をもうやっぱり世の中に出したいってのはありますよね。
うんだから、やっぱ自分のためですかね。
そもそも世の中を良くしようってのは、会社をやってるからちょっとは社会貢献とかって言葉ちらつくんですけども、それでも全然やっぱり初めの動機なんてのは聴覚障がい者に対する興味とか、技術者としての興味の方が先走っているので。
ひらばる:聞こえない友人ともっとコミュニケーションしたいっていうのからのスタートですもんね。
青木さんは、アスペルガー傾向あり?
青木さん:僕、コミュニケーション苦手なんですよ。だからパーティーとかすごい苦手です。今日みたいな場は大丈夫なんですけど。設定があるんで。僕はこういう人で、こういうふうなことをやってる人っていう設定が。
パーティーとかで、どういう設定かもわからないと、隅っこでプルプル震えてるし、本当辛いんですよね。逆に設定があると、100人でも1000 人でも、何人の前でもしゃべれるんです。「こういうことをしてる青木さんです」って場を設けてもらえると。
でも、コミュニケーションは好きなんです。キャッチボールも非常に好きだし、ただ、やっぱりその立場とか目的とかがはっきりしてないとしゃべりづらいんですよね。
ひらばる:青木さんはよく、自分はアスペルガー傾向ありって言ってますけど。
青木さん:別に正式に診断を受けたわけじゃないけれども、後からいろんな症状を見るとやっぱり、間違いないですよね。
僕は小学校時代にノート1冊もなかったんですね。授業を聞きながら書けない。あとやっぱり視覚優先なんで、瞬間記憶的なところがあったり。本とかは「読んで」ないんですよね、「見てる」んです。だから最後から見たりとか。ただ言葉を覚えてるんですよね。物語がどうとか、行間が読めない。本って行間を読む世界じゃないですか。でも、もう何の話かもわからなくて。だから僕、説明書とか大好きなんですよ。感情が入ってないから。
もちろんアスペルガーだっていろんなタイプがあるんでしょうけど。
阿部:「察してちゃん」タイプとか苦手そうですね。
青木さん:はい。だから僕、いまだに嫁さんが何で怒ってるのかわかんないんですよ。
ひらばる:それはまた別の問題じゃないかと。
青木さん:結構後付けで、僕多分アスペルガー傾向強いなって思うとことがありますよねー。
阿部:こうやって自己開示していただけると、いろんなコミュニケーションのスタイルがあるんだってことがすごくよくわかります。
青木さん:でもこういうインタビューを受けるときに、なんか「コミュニケーションが苦手な人がコミュニケーションアプリを作ってるってドラマになるよね」、みたいに言われることはありますね。
まぁ、自分はやっぱりある程度問題児扱いをされてきたので、名前がついただけでも楽にはなりますよ。
名誉より儲けより「ニヤッ」とする瞬間がある
ひらばる:これまで話を聞いて、青木さんはこの目的でこうするみたいなビジョンで進んでいるわけでなくて、日々興味に沿って行動していく中で気づいたことを改善して突き進んでいると思うんですけど。
そんな中で、最後の締め的な感じでこれからどうしていこう、みたいなのがあれば、一応聞いちゃおうっていう。
青木さん:僕は、自分が有名になるとかそういう名誉欲も、社長とかやってる割には少ないかなとは思います。大儲けしたいかって言われるとご飯食べるだけあればいいかなと。
でも、僕が作ったとか全く知らなくて、近くにいる人がこのアプリを使っているところを見ると、ニヤっとしますよね。
さっきの声シャッターも、本当たまたま僕が営業に行った先で使ってる人がいて。「このアプリすごい便利なんですよ」って言われて。ニヤッとしますね。そういう感じは多分ずっと変わんないだろうなと。
今オリンピックで「UDトーク」が使えるんじゃないかとか、オリンピックに向けてこれでビジネスをしたいという話はすごくくるんですけど、それはそれでやってもらっていいと思います。ただ僕自身、そこに対して何かを作るだけではなくて、家族とか友人間でこれが使えてというところがやっぱりメインだなってことを考えて、開発していきたいですよね。
で、今はこれしかやることがないので、多分しばらくは続けていくかなって感じだと思います。またもしかしたら突然音楽の方に目覚めるかもしれないし。
でもせっかく自分で会社作って、好きにやっているので、まあ好きにやりたいかなと。一応家族の理解も得つつ、ですね。
ひらばる:やー、今日は、法人プランの設定から取材まで、ありがとうございました。これから「UDトーク」をたくさん使わせてもらって、気づいたことは青木さんにも伝えて、やることどんどん見つけますので、末長くよろしくお願いします。今日はありがとうございました!
(ライティング:UDトーク/取材・編集:ひらばるれな)
プロフィール:青木 秀仁(あおき ひでひと)さん
Shamrock Records(シャムロック・レコード)株式会社 代表取締役。
作曲家、編曲家、プログラマ。アイリッシュミュージシャン。奥様と二匹のワンコ、さくらさん、もみじさんと暮らしている。ラーメンが好き。
Shamrock Records http://shamrock-records.jp
UDトーク http://udtalk.jp
mazecoze研究所代表
手話通訳士
「ダイバーシティから生まれる価値」をテーマに企画立案からプロジェクト運営、ファシリテーション、コーディネートまで行う。
人材教育の会社で障害者雇用促進、ユニバーサルデザインなどの研修企画・講師・書籍編集に携わった後に独立。現在多様性×芸術文化・食・情報・人材開発・テクノロジーなど様々なプロジェクトに参画&推進中。