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アルテナラ世田谷のもたらした子どもの中の物語を引き出す魔法

mazecoze研究所 │ 2018.09.18

こんにちは、野本です。行ってきました「アルテナラ世田谷」の本番!

世界が注目する教育哲学「レッジョ・エミリア・アプローチ」の読み語りイベントが世田谷にやってくる!
その1 https://mazecoze.jp/cat7/4566
その2 https://mazecoze.jp/cat7/4616
その3 https://mazecoze.jp/cat7/4631

「アルテナラ」とは過去の取材記事にも書きましたが、「レッジョ・エミリア・アプローチ」という世界に注目されている教育哲学での読み語りイベント「レッジョナラ」を、日本初・世田谷でインスパイア―ドしたものです。

今日はそのアルテナラの様子やそこにいる人たちに何が起きたのか!? ということをじっくりレポートしたいと思います。
もうね、来なかった人は後悔するレベル。感動しました。まんまと魔法にかけられました。

会場であるIID世田谷ものづくり学校に入った時から日常とは違う雰囲気。わくわくが漂っている。そう、物語の世界は足を踏み入れた時から始まっているのです。
レッジョ・エミリア・アプローチでは、子どもたちのあらゆる表現を「言葉」と呼び、その表現の一番根っこの部分に「物語性」が存在することは前回までに説明した通りです。
大人たちも子どもたちも、「物語」を共通言語として持ち、「物語」をスタート地点にして頭の中で想像し、空を飛んだり、動物になったり、冒険をする。頭の中に広がっていくわくわくの物語は無限に広がっていく。まるで宇宙のように。

たった一日だけの物語の魔法に包まれる体験ですが、これだけで子どもの考え方や人生すら変えるなと感じました。大人でもこんなに心が躍り、揺さぶられたんですもん。子どもにとっては忘れることのできない、とんでもない体験だったことでしょう。

では具体的に私がアルテナラで目撃したことを書いていきます!

【野本は目撃した!その①】子どもたちが物語の中を冒険していた!

プログラム<14ひきのあさごはん>はまず読み手と聞き手の対話の中、絵本が読まれました。
(『14ひきのあさごはん』作・絵:いわむら かずお、出版社:童心社)

みんな楽しそうに聞いています。野本(青い服)も楽しそうなところを撮られました(笑)

その序章のあと、「バードコール」というおもちゃを作ります。木とネジを用いた「キュキュキュ」「ピピピピ」と鳥の鳴き声そっくりの音が出るものです。

好きなマスキングテープで飾り付けをしたら、世界で一つだけの自分のバードコールのできあがり!

作ったらみんなで鳴らしてみます。元気な鳥。優しく静かな鳥。
さあ、子どもたちの心はもうすっかり森の中にいます。

今度はネズミになってみよう! 元気なネズミ、赤ちゃんネズミ、カエルのネズミ、カエルのおじいちゃん、お友達と目が合ったらタッチ! 子どもたちは次々に姿を変えます。

カエルになりきった子どもたち。目が輝きます!

森の中をさらに進んでいきます。切り株があったらジャンプ! 枝があったらしゃがむ。「クマ」って言ったら固まる。
ジャンプ! しゃがむ。固まる。
子どもたちの目の前には木や草の世界が広がっていて、熊もいる。

パンを作ろうか! パンの材料はなあに? みんなで力を合わせてこねていきます。
さあ美味しそうなパンができあがりました!

パンが焼けたよ! 匂いまで漂ってきそう

子どもたちの心は瞬時に、森へ、空へ、海へ、冒険に出かけます。音も聞こえます、匂いも感じます。子どもたちの想像力は無限であることを目の当たりにしました。

<おはなしの、ちいさなおへや>では白いレースの天蓋の中、ランプの柔らかい光に包まれてお話をきく子どもたちがいました。
ここでもまた、非日常なロマンチックな雰囲気に誘われて、子どもたちの心は世界中を旅していたことでしょう。

幻想的な雰囲気の中、心はお話の世界に飛び立っています

【野本は目撃した!その②】子どもたちが自ら場の空気を変えるという貴重な体験をしていた!

<見つける・つなげる・ストーリー>ではストーリーテラーの堀光希さんが、子どもたちから発せられた言葉でどんどん物語を紡いでいきます。 本当に物語を作っているのは子どもたち自身。子どもたちが自ら場の空気を変えて、作っていくのです。
参加している子どもたちから発せられる熱量はすさまじく、喜びや興奮が全身からみなぎっているのを感じました!

「物語はいろんなところに埋まっています。地面、柱の中、みなさんの間。その埋もれている物語をみんなで探していきましょう。」
そうして静かに物語は始まります。
堀さんが「これからこの主人公の絵を描いてくれる人を募集します。」と言うと、パッと子どもたちが手を挙げます。すごい!
二人の子どもたちは主人公の目、鼻、口、輪郭、トナカイの角(!)、体をあっという間に描きました。完成です! 喜びに満ちた子どもたちの笑顔。
「次にこの子の名前をつけてほしい。」とまた堀さんが言うと、またパッと手が挙がる。「ジングル」という素敵な名前に決まりました。名付け親の子も嬉しそうです。

堀さん「これからこのトナカイの物語をお話しします。海のトナカイのジングルは海の上を歩くのが大好きです。今日はジングルの誕生日。なのでジングルはいつにもましてウキウキで海の上を歩いていました。両手を広げて海になってください。
ジングルとクラゲが出合いました。クラゲの名前は……」
聴衆の中から子どもの声「ラクゲ!」 一同笑い。
堀さん「そう、ラクゲ! 『僕たち友達になろうよ!』『いいよ!』 ラクゲとジングルは海の向こう、そのまた向こう、行ったことのない島まで行くことにしました。」
子ども「サメ!」
堀さん「なのに、そう、サメが来てしまいました!」
子ども「大丈夫だよ!」
堀さん「ラクゲくんが『大丈夫だよ』と言いました。」
子ども「島は?」
堀さん「あれ? 二人で競い合っているうちに島を追い越してしまったよ! 海にはどんな素敵なところがありますか?」
子どもたち「サンゴ礁!」「竜宮城!」「マリアナ海溝!」
堀さん「二人は竜宮城目指して行きました! ところがさっきやっつけたはずのサメがいました!」
一同笑い
堀さん「結局竜宮城で、ジングルとラクゲとサメたちは仲良く暮らしました。」
子ども「肺呼吸だ!」
堀さん「しまいには二人は肺呼吸を覚えました!」
一同爆笑

———問うてもいないのに自然に、自発的に、次々と飛び出す子どもたちの言葉。それは問いかけであったり、セリフであったり、気持ちであったり。
その場にいた私は胸が高鳴り、涙が出そうになりました。
子どもたちはこんなに自由で、大人には思いつかないような素晴らしい発想を持っている…。そして表現する能力を持っている……。

また、主催の竹丸さんはキャラクターの名付け親のお子さんと終了後に手を繋いで玄関まで歩いたそうです。子どもの全身から喜びがみなぎっていたとのこと。この子の人生が大きく変わった瞬間だったことでしょう。それに立ち会えた大人の嬉しさもひとしおです。

<見つける・つなげる・ストーリー>二回目では「森の王子様ジータン」の物語が子どもたちによって作られました

【野本は目撃した!その③】一般の大人たちが一生懸命、子どもを物語に巻き込むために考えぬき、そこに自分の存在意義を見つけていた!

レッジョナラでは訓練をした地域(レッジョ・エミリア)の大人たちやプロが読み語りをしますが、アルテナラ一回目は、講座の受講生を世田谷には絞っていません。いろんな地域・他県からも受講生が集まり練習をしてきました。
その志しある一般の大人たちが「どうしたら子どもたちを物語の世界に引きこめるか?」「子どもに主体性を持ってもらえるか?」というのを考え抜いたんだなあというのが、ビシバシ感じられました。(講座の様子はこちら

<ブレーメンの音楽隊>では観客たちに一緒に動物の鳴き声を叫んでもらうことで、主体性を持ってもらうこと・一体感を感じてもらうことに成功していました。
<ゆらゆらばしときつねとうさぎ>では木の棒や、うちわにプラスチックの球をたくさんつけたものや、ひもを回してビュンビュン鳴るものや、傘など、いろいろな音の出る小道具を駆使することで、音によって想像の世界へ入り込める工夫をしていました。

<ブレーメンの音楽隊>の一場面。観客たちを巻き込み、会場を一つにして「コケコッコー!」「ワンワンワワーン!」と動物の鳴き声を響かせます

練習し、考え、発表する過程で、大人たちは自分の存在意義・居場所を見つけることができていたようです。
仕事と家庭だけではない、自分の存在意義や居場所がみつけられることは重要で素晴らしいことです。

【野本は目撃した!その④】年齢性別立場など関係なく、みんなで一緒に楽しむって最高だね!

単純にフェスティバル、お祭りって、それだけで楽しいですよね! 年齢も性別も職業も立場も関係なく、同じ空間・同じ時間を共有して人間として共通して楽しめる。
レッジョ・エミリア・アプローチは教育哲学・手法ですが、そんな「教育」なんていう堅苦しいことを忘れてシンプルに楽しかったです!

<おおかみがきたぞー!>ではオオカミから村を守ろう作戦会議の結果、「血だらけ!」と言いながら赤いスカーフを掲げたり、「眼力!」と言いながらオオカミをじーっと見たり。自然に会場が笑いで包まれます。そうしてみんなでオオカミを撃退した時の達成感は爽快。

みんなで「めぢから! じーーー!」 オオカミは恥ずかしがりやなので、見つめて撃退する作戦です

<20ひきの猫>では受講生全員のパワフルな語り劇。演者たちの圧巻の熱量に、次第に会場がひとつになっていくのを感じました。

圧巻のパフォーマンス、<20ひきの猫>

【野本は目撃した!その⑤】子どもは本当に「100の言葉」を持っているんだね!改めてその能力を思い知らされて感動!

レッジョ・エミリア・アプローチの言われる「子どもたちは100の言葉を持っている」。ここでいう「言葉」とは、文字通りの言葉ではなく絵・造形・音楽・身体表現…あらゆる「表現」のこと。

今回、静かに聞かなくても良い場面であると察知すると、読み語りをする読み手に対して積極的に言葉を発する子どもたちを大勢目撃しました。
「〇〇の音だ!」
「すごいね!」
「なんで?」
それらのことから、すべての子どもたちは大人が想像する以上に表現する能力を持ち、表現したがっていることを感じました。そしていろんなことを学んで吸収したがっている。知的好奇心に満ちていることも。
そして自分のしたことによって場の空気が変わると、喜びや自信といった自己肯定感が生まれることも目撃しました。

大人たちは果たして、その子どもたちの表現したい欲求や知的好奇心に応えているでしょうか? 家庭で、保育園・幼稚園で、子どもたちの無限の想像力・創造力を発揮させているでしょうか?
まず私自身ができていません。
「絵の具で描きたい!」と言われれば「今忙しいからあとでね。」
「どろんこ遊びがしたい!」と言われれば「その服は汚されたくないからまた今度ね。」
思い返すと言い訳を探して否定してばかり。どっと押し寄せる後悔。もっと子どもの「やりたい」「表現したい」の羽をのびのびと伸ばしてあげたい。心から思いました。

<カラフルエアドーム>で思い思いに絵を描くこどもたち

最後に、アルテナラのアドバイザーであるイタリア幼児教育実践家の石井希代子さんから、イベント後にお話を伺うことができました。

石井希代子さん

イタリア幼児教育実践&研究家。プロフィール
カラー&イメージコンサルタントとして資生堂の特別講座講師、色彩心理学や発達心理学を学び、子どもの自由な創造表現空間『アトリエ・エンジェル』主催を経て、2002年に単身で渡伊。教育背景となるレッジョ・エミリア市の共同性や教育哲学を4年間かけて滞在研究し帰国。現在、レッジョ教育アプローチに関する講座や講演を大学や自治体、NPO団体等で展開、園内研修やイタリア現地視察のオーガナイズも行なっている。

石井さん
「はじめて竹丸さんが世田谷でレッジョナラをやりたいとおっしゃった時、どういうものになるのか全く想像がつかなかったんですけれど、今日拝見して、日本の世田谷という地域らしいものになったと感じました。レッジョナラというのはもうちょっとアーティスティックな感じで、1年かけてトレーニングしたストーリーテラーが本も持たずに語るというものなんですけれど、それとはまた違ってアットホームで、皆さんの一生懸命さや温かさが伝わってきました。もちろん、地域やお父さんお母さんを巻き込んで、大人も子どもも楽しめるというレッジョナラの「本質」も届きました。

<見つけるつなげるストーリー>は、子どもたちと対話をしながら一緒に物語を作っていくという点でレッジョナラに似ていると思いました。一方、山田宏平さんが講師をされて作った最後の<20匹の猫>は、皆さんの力が合わさったパワフルなものでした。20人集まるというエネルギッシュさはレッジョナラにはありません。演劇的な要素で語る醍醐味を感じました。

物語っていうのは人生を語ることなんです。言葉にすると大げさに聞こえますが、人生をどういう風に生きるのかっていうことは自分で物語を作るということであり、それが生きるエネルギーにもなるのです。日本だとどうしても「読み聞かせ」として、きっちり本の言葉を違えず語りがちですが、そうじゃなくて相手と対話をする新しい「語りかけ」を広めていきたいです。

受講生はいろんな地域から参加されているとのことで、皆さんそれぞれの地域に持ち帰って頂いて、語ることの大切さ、物語ることの大切さを広めていていただけたらいいですね。
さらにレッジョナラのスタートは、まず保護者の方々が語ることを勉強して、とても上手になったので「発表してみよう」と始まったものなんです。ですからまずはご家庭でお子さんと一緒に物語を作りながら語っていただいてほしいです。
小さな単位であるまずはご家庭から始め、友達、地域というようにどんどん巻き込んで広げていってほしいです。」

ありがとうございました。
私もまず家庭で子どもと物語を作りながら語ること、こどもの「やりたい!」に余裕をもって付き合い、自由な発想の表現を見守ることから始めてみようと心に誓いました!
そして今回は第一回目ということで色々と試行錯誤でしたが、石井さんの言葉を受けて、今後こうなっていったらいいなという自分の考えをまとめてみます。

①地域や大人たちをもっと巻き込みたい!
これを近所の八百屋さんのおじさんが、洋品店のおばさんが、会社の社長さんが、自分や友達のお父さんお母さんが、保育園の先生が、計画し練習して演じたら本当に最高だと思います。子どもは街が大好きになるし、物語のある生活がもっと身近になります。

そして良い効果は子どもに対してだけではありません。大人たちのためでもあります。
生涯にわたって大人たちは、自分の子ども他人の子ども関係なく、子どもに関わり、その心身をはぐくむべきで、そうして育った子どもたちは将来お返しをするでしょう。まさにレッジョ・エミリア・アプローチのキーワード、「循環」です。
人生もまた物語であり、何かを受け、与えることの繰り返しです。人生・人間関係は輪。大人も子どももその輪・循環の中に生きていることを感じれば、より豊かなものになると思うのです。

②観客の大人たちがもっと思い思いに自由に過ごせる場になったらいいな
「子どもに付き合うために同行する」のではなく、子どもそっちのけでのめりこんでしまえたり、逆に何もせずぼーっと座って眺めたり。いろんな過ごし方ができる場所になることを期待します。ものづくり学校を離れ、それこそ商店街など街のいろんなところで開かれるようになれば、楽しいですよね!

今後のアルテナラの発展・進化のため、わが子の教育のため、地域のために、私自身関わっていきたいと決心することのできたイベントでした。
いつかはやりたい、地域の人たちだけで! 頑張るぞ。


アルテナラフォーラムを開催します! ~アルテナラってなんだろう? artenarra世田谷からみる みんなのアートイベント


日にち:10月8日(月・祝)
時間:13時30分〜16時30分(13時15分受付開始)
場所:渋谷区文化総合センター大和田 学習室1
参加費:1000円(当日会場でお支払いください)
定員:50名
【内容】
8月5日に行なったartenarra世田谷を振り返りながら、
・どんなことがその場で起こっていたのか?
・[ artenarra ]というアートプロジェクトとは何なのか?を考えていきます。
artenarra世田谷で楽しんだ方も、参加できなかった方も、ぜひ一緒にartenarra世田谷を再発見しませんか?
きっとそこには、みなさんが地域や職場での活動のヒントがたくさん隠されていると思います。
【ゲスト】
石井希代子氏(イタリア幼児教育実践家)
田中れい氏 (美術教育家/artenarra講座受講生)
詳細や申し込み方法はアルテナラ公式サイトをご覧ください。

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