English

世界が注目する教育哲学「レッジョ・エミリア・アプローチ」の読み語りイベントが世田谷にやってくる!(1/3)

mazecoze研究所 │ 2018.07.26

「レッジョ・エミリア・アプローチ」ってご存知ですか? イタリアのレッジョ・エミリアという街でうまれた教育哲学・手法なのですが、私は「たまにフェイスブックの広告でそれを取り入れた幼稚園が出てくるなあ…」というだけで具体的にどんな内容のものなのか全く知りませんでした…。
同じイタリアでうまれた教育法としてモンテッソーリがあり、そっちはよく知っていました。ビル・ゲイツ、藤井聡太七段もモンテッソーリ教育出身だそうで。
実は私自身も「わが子にどうだろう?」と興味があり、モンテッソーリ園に見学に行ったことがあります。

一方レッジョ・エミリア・アプローチは…たまに見る広告の印象ではカラフルな「アート」とか「絵画・造形」を自由にやらせるのかな??くらいの印象。いまいち何なのかわかっていなかった…。
でも調べ始めたら1991年にアメリカのニューズウィーク誌にて「世界で最も優れた10の学校」 に選ばれたという、今世界中で大注目の教育手法・教育哲学なんです!

個人の個性や意見を尊重することで、考える力をつけ、表現することを大切にしている幼児教育であり、地域全体で子どもたちを育てる街づくりと教育が融合した独自のアプローチ。

そんな「レッジョ・エミリア・アプローチ」の文化祭的イベント「レッジョナラ」を輸入したアートイベントが、この夏、世田谷にて日本で初めて開催されるというじゃないですか! その名も「artenarraアルテナラ」。
「arte=芸術」と「narra=narrative・物語り」を通して、『子どもを地域みんなで育てること』『おとなの居場所を創ること』『街が好きになるコミュニティを創ること』を目指しているとのこと。
世田谷区民のわたくし、それは参加するしかないでしょう!

maze研の保手濱からも「芸術と街づくりと教育に興味がある野本さんにぴったりだと思う!」とお墨付きもいただき、取材させていただきました。実際私の大好物な要素ばかり詰まっています。本番まで、いや本番終わっても今後ずっと、どっぷりと密着させていただきます!

申し遅れましたが、わたくし、mazecoze研究所の活動に共感し、今回から記事を書かせていただきます野本と申します。読者のみなさまよろしくお願いいたします。

知れば知るほど面白くてどこまでも深い「レッジョ・エミリア・アプローチ」。
小さな街の住人たちが作った幼児教育哲学? 地域みんなで子育て? そんなことできるの?
子育て・教育・街づくり・建築・芸術・物語・読み聞かせ・言葉…どれかひとつでも気になる方は必見です!

「レッジョ・エミリア・アプローチとレッジョナラを日本に合う形で広めよう!」と、アルテナラを企画・主催している竹丸草子さん(特定非営利活動法人こととふラボ(http://cototofu.org/)理事)に、レッジョ・エミリア・アプローチの生い立ちからその神髄、日本での展開の野望まで、聞き倒しました!

ちなみに竹丸さんは、保手濱が以前取材した記事でアクティブラーニングの講師として紹介されています。
大学の講師に、ワークショップデザイナーに、学びの場を提供するNPO法人「こととふラボ」の運営に…mazecozeの鑑のような生き様を実践している方です!

「新卒は即戦力にならない」は昔の話。鍛え抜かれた学生があなたの会社にも?イマドキ大学生のキャリア教育
https://mazecoze.jp/cat7/3576

写真中央、メガネをかけた素敵な笑顔の女性が竹丸さんです。ちなみにこれはアルテナラの講座の様子。
講座ってなに? それは第3回で詳しくご紹介しますね!

竹丸草子さんプロフィール

特定非営利活動法人こととふラボ 理事
NPO法人芸術家と子どもたち アドバイザー
NPO法人ワークショップデザイナー推進機構 理事
東京工科大学 非常勤講師
デザインユニットつむり 代表
文部科学省所管一般財団法人生涯学習開発財団認定ワークショップデザイナー
セレクトショップの開発・店舗運営会社、雑誌・広告の制作ディレクターとして制作会社勤務を経て、現在はフリーランスの教育コーディネーター、ファシリテーター、コーディネーター。企業や団体、地域行政へ向けてワークショップデザインやファシリテ―ションを行う。高校・大学ではキャリアデザインの授業を担当。保育園から大学・企業まで、かかわる範囲も人々も様々ではあるが、「発見、楽しむ、感じる」のプロセスを大切にした学びの場づくりをしている。

戦争で崩壊した歴史ある街が、教育でよみがえった!

編集部:レッジョ・エミリア(Reggio Emilia)の街というのはどんな場所・地域性なんですか?


竹丸さん:イタリアの人に聞いても「レッジョ・エミリアとベネチアとフィレンツェはすごく重要な街だよ」と答える、その三本の指に入っているくらい歴史的にとても重要で有名な街です。イタリアの国旗が生まれた町でもあり、三色旗博物館というのがあります。
すごく小さいんですよ。立川市くらいの大きさかな。人口も17万人と少ない。でも高速列車(日本でいう新幹線)が止まるんです。
パルミジャーノ・レッジャーノっていうチーズがあるんですけれどレッジョ・エミリアのあるエミリア=ロマーニャ州で作られたものしかそう呼んではいけない、そういう文化的ものを大事にする街でもあります。
広場と旧市街を中心にして古い城壁が囲み、郊外に人が住んでいる、とても穏やかな街です。住人は本当にゆったり過ごしています。

レッジョ・エミリアの街(写真提供:竹丸さん)

編集部:そんなに重要なのに日本人はほとんど知らないですよね。国内では有名だけど海外ではそうではない歴史的な街…日本でいうと奈良みたいな感じですかね。
なぜその小さな街からレッジョ・エミリア・アプローチが生まれたのか、背景を教えてください。

竹丸さん:元々レジスタンス運動の拠点だったことから、第二次世界大戦で街が壊れてしまったんです。そして復興する際に、まずはやっぱり教育が大事だろうということで、みんなで瓦礫の山からレンガを持ってきて学校を作るところから始まったんです。
次にじゃあどうやって教育していこうかっていう時に、ローリス・マラグッツィ(Loris Malaguzzi, 1920~1994)と、ジャンニ・ロダーリ(Gianni Rodari、1920~1980)という有名な絵本作家と、演劇系の人などいろんな人たちが集まって、「個々の個性や表現を大事にしていきたい」と幼児教育を始めたんです。そして1963年に最初の幼児学校ができました。
ローリス・マラグッツィは現在教育学者だと言われていますが、ほぼ文献や執筆物が無い人で、彼が喋ったことをみんなが語り継ぐ、みたいな素晴らしい人でした。

編集部:ブッダかキリストみたいな人ですね!

竹丸さん:日本で有名なモンテッソーリ教育もイタリア発祥なんですけれど、大きく違うのは「地域とのつながり」があるどうか。レッジョ・エミリアの街であるからこそのものであり、誰か偉い人が始めたのではなく「街」から立ち上がっているのです。

編集部:その土地だからこそできた、地域が作り上げたものなんですね。人間を形成する「教育」を中心に街づくりをするという考え方が非常に興味深いですし、とても共感できます。

レッジョ・エミリア・アプローチの精神性「贈り物の循環」ってなあに?

編集部:レッジョ・エミリア・アプローチは教育法と言っていいんですか? それとも教育法ではない?


竹丸さん:アプローチの部分だけで言うと方法かもしれませんが、「街との関わり」とか「精神性」であるとか、そういう部分は違うかな。「学校」だけに収まらないと言うか。


編集部:「精神性」って言うと?


竹丸さん:私が一番「ああそれだよ!」って思ったのは、街で作り始めた学校の規模が大きくなって市が学校を持つことなった時、日本だったら「よかったよかった!」となるところを、ローリス・マラグッツィは「じゃあ自分達は市に何を返せるか考えよう」とした。そこだと思うんですよね。
お任せしてしまわないで自分たちでどうやって回していこうか考える。自分たちが受け取ったものを返していくし、子供達も返していく。
「贈り物の循環」と呼ばれるその精神が根底にずっとある。
街と一体になっているアプローチで、子どもたちはそこで色々なものを受け取り大事にされるから、子供たちが街のことを大好きになるんですね。だから、数字では出ていないんですけれど、子どもたちが街からあまり離れないし、何かを返していこうとする。強制ではなく自然にそこに留まる流れができているんです。


編集部:なるほどキーワードとしてよく出てくる「循環する」の意味がわかりました!
現代の日本人だと行政に対して「与えて!こういうサービスをして!税金払ってるんだから」と言うだけですよね…自分も含め。
自分たちが率先して住む街に還元していく。素晴らしい考え方だと思います。

これぞレッジョ・エミリアの醍醐味! 街中がステージに変わる読み語りイベント!

編集部:では続いて、レッジョ・エミリア・アプローチの醍醐味ともいえる大イベントのひとつ、「レッジョナラ」について教えてください。
毎年いつ、どんな規模で行われるんですか。

レッジョ・エミリア・アプローチの文化祭的イベント「レッジョナラ」。世界中の教育専門家たちも視察に来るそうです(写真提供:竹丸さん
)

竹丸さん:毎年5月に3日間やります。
旧市街(セントラルシティ)と呼ばれるところで、30か所くらいの会場で時間がぶつかっても気にせず、読み語りのパフォーマンスイベントが行われます。
図書館だったり広場の一角だったり、病院、カフェ、市役所、劇場、公園…本当に色んな所で同時多発的にやります。PAとライティングだけという本当に小さい舞台で、ずっとお話を語っている、みたいな。本も持ちませんし、本の読み聞かせではありません。
さらにレッジョナラは単体のイベントではなく、年間通したプログラムなんです。2月のマラグッツィのお誕生日に図書館で子供向けにもっと小さなイベントをやったり、表現の講座を開いて保育園で保護者がやったり。年間のアプローチなんですよね。

街のいたるところで「お話」やそこから創造された世界が流れていく…(写真提供:竹丸さん)

編集部:竹丸さんはレッジョナラを現地で見られたんですか?


竹丸さん:はい、1ヶ月ちょっと前の5月に見に行きました!
街の豊かさをとても感じましたね。お金的な豊かさではなく、街の中で行われていることに対する市民の受け入れ方とか、「お話を聞く」「アートに触れる」という文化が特別なことではないということ。やるほうも受け取るほうも垣根がないんです。「演劇の博覧会」みたいなことではない。
私がやりたいことの再確認が出来ました!

編集部:竹丸さんの「やりたいこと」やレッジョ・エミリア・アプローチの精神性を、これからアルテナラを通して私たちも見ていけるのですね。とても楽しみです! わくわくします!

──
次回はレッジョ・エミリア・アプローチのいう、子どもたちが持つ「言葉」ってなに? なぜ「物語」や「お話」を大切にするの?
…という部分を掘り下げることで、このアプローチの本質を探っていきます。お楽しみに。
(文:野本 紗紀恵)

次の記事 (2/3)


アルテナラ
http://artenarra.jp/

artenarra 世田谷(アルテナラせたがや)8月5日開催!
きいて、みて、参加して!
おはなしの世界を楽しむ読みがたりフェスティバルを開催します。
子どもも、おとなも、おはなしの世界にみんなで飛びこもう。
IID 世田谷ものづくり学校のスタジオ、プレゼンテーションルーム、エントランスに
8つのパフォーマンスと3つのアートワークショップがやってくるよ。
日時:2018年8月5日(日) 10~17時
場所:世田谷ものづくり学校
参加無料、入退場自由、事前申込み制
peatixにてお申込みください。
https://artenarra-setagaya-2018.peatix.com/view

ページトップへ戻る