「練馬を世界の中心に」UDトーク青木さんもやってるシビックテックって何?【後編】
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前編では練馬の話かと思いきや、市民が街や社会をよりよくする「協働」のお話でした。
テクノロジーの世界での「協働」は、どのような流れで始まったのでしょうか?
目次
オバマ大統領の選挙がきっかけで始まったシビックテック
榎本さん:アメリカでシビックテックの大きな波が始まったのは、2008年の大統領選挙でオバマ元大統領が公約に掲げた医療保険制度改革、いわゆるオバマケア。このサイトが当選後にアクセス過多でダウンしちゃったんですよ。でも「これは肝の政策だからアクセスできないとまずい」ってGoogleとかFacebookとかのエンジニアたちがサイトを改修したんです。
青木さん:これは市民が行政のデータを使ってより良くするという、行政と市民の「協働」ですね。それからオープンデータの流れが世界的になったんです。ベースのデータを公開するからあとは住民のみなさんでやってねっていう。東京都のサイトにもオープンデータのページがありますよ。
東京都が公開しているオープンデータのサイトがコチラ
東京都オープンデータカタログサイト
こんなのあるの知らなかった…
榎本さん:例えば今って地図というとGoogleマップを使うじゃないですか。渋滞情報でもなんでも。でもあれってGoogleが突然「地図のサービスやめます」って言ったら大混乱に陥りますよね。そういうことがないように、みんなで情報を共有してみんなで作っていこうというのがシビックテックの考えなんです。
編集部:ひとつの会社やサービスに頼らず、みんなで作っていくインフラってことですね。
日本での大きな転機は東日本大震災
榎本さん:日本では2011年の東日本大震災。あの時って道路が寸断されちゃって、どこが通れるのかとかガソリンスタンドがどこにあるとか避難所がどことか、情報がめちゃくちゃになっていたじゃないですか。
そこで、現地の人たちからの情報を各地のエンジニアたちがまとめて地図に反映させていたんですよ。それも世界中から協力があったんです。
編集部:そんなことがあったんですか……。被災地支援というと現地でのボランティアか、遠隔だと寄付くらいしか手段はないと思ってました。
榎本さん:インターネットを使えばこんな支援方法もあるんです。現地では行政含めてそれどころじゃないですからね。それから日本でもテクノロジーを使った協働の流れが始まったんです。
編集部:行政のオープンデータって地図以外にはどんなものがあるんですか?
青木さん:統計データもだし、本当に色々なものが公開されていますよ。例えば「食品営業許可台帳」っていう飲食店は必ず出さないといけないものを申請している店のリストなんかは、飲食店の最新リストにできるよね。ネットだと閉店した店の情報もそのまま載ってたりするから、こういうのがあると便利だし。
榎本さん:Code for Tokyoでは、2016年の「保育園落ちた、日本死ね」の社会旋風が起きるちょうど2週間前に23区全域の保育園マップを公開しました。
Tokyo保育園マップβ版 by Code for Tokyo
榎本さん:行政区域関係なく困ってるから、隣の区でも預けられるなら預けたいよねって。今は東京都がだいぶ対応してきましたが、当時はなかったんですよ。
編集部:それ、便利です! 保育園の情報って区ごとに公開されているけど、職場の近くとか自分が住んでる区以外の情報も知りたいケースもありますもんね。いちいちそれぞれの区のサイトで調べるの、面倒なんですよね。
榎本さん:そうそう。特に子育てのタイミングで引っ越しを考える家庭もあるじゃないですか。どこに住もうか考えるときに、知らないエリアのことを調べるのってハードル高いんですよね。Code for Nerimaは練馬に特化するけど、このように区をまたいだ課題に取り組むのはCode for Tokyoがやることなんです。
行政に訴えることしかできなかった住民が、自分たちで街の課題を解決できる時代
榎本さん:当時はまだオープンデータという考えが浸透してなくて、オープンデータに取り組んでいる区や都のものをかき集めて作りました。これを見せて「こういうのができるからオープンデータが必要なんですよ」ってのを区の行政に説得して回ったんです。
それで去年は品川区と共同事業をやってオープンデータを区民とどういうデータを使ってどういう解決ができるか考えていったんです。
品川区と共催した「地域課題をITで解決するワークショップ」
ワークショップの様子
成果発表会
青木さん:オープンデータを使って何をするかは人それぞれ。たとえば保育園マップなんかは子どもがいない僕には必要性が全然わからないんですよ。でも必要な人にはものすごくありがたい。暮らし方や生き方が多様化してきたから、もう個別のニーズには行政だけでは対応できないんだよね。だからシビックテックはエンジニアだけではできなくて、多様なニーズを抱えてる住民みんなでやっていかないといけないんです。まあでもそんなに難しい話ではなくて、例えば僕なんか練馬のことしか考えてなくて、この地図はホームボタン押すと練馬駅が中心になるんですよ。
編集部:練馬区民しか喜ばない地図ですね。
青木さん:そうそう、それでいいんです。例えば鉄道路線図なんて国が日本のオープンデータ出してるんだけど、それをマッピングするだけじゃあんまり面白くなくて、でもそれを練馬区の固有のデータを組み合わせると面白くなったり、初めて見えてくるものがある。
例えばこないだわかったんですが、練馬区って隣接する朝霞市とバス路線が直接繋がってないんです。どこか別の区を通らないと行けない。こういうのもやってみて発見するんです。
編集部:ふむふむ。テクノロジーって小難しい話をされるのかと思ってましたが、すごくわかりやすいし、必要な理由が納得できます。
欲しいオープンデータを行政にリクエストするケースも
榎本さん:どんなものをオープンデータにしてもらうかというのも、考えることのひとつ。例えばこれ、奈良県生駒市の大学院生が作ったアプリなんですが、学校給食の献立がチェックできるんですよ。
編集部:わーこれもめっちゃ便利! うちの区は文字だけで書かれたプリントが毎月配られてますが、いちいちチェックする気にならなくて。だから給食でカレーが出た日の夕飯にカレーを出したりしちゃうんですよね。このようにアプリで絵が出てくると、チェックする気になります!
榎本さん:それまでは生駒市でもプリント配布のみで、データとしては公開されていなかったんです。その大学生が「こういうのを作りたい」って。ではどういうオープンデータがいいのかを1年かけて話し合って、行政と作っていったんです。
榎本さん:今オープンデータのフォーマットを作っているので、そのうちデータさえ入れ替えたら他の自治体でもこのアプリが使えるようになります。
青木さん:シビックテックではアプリ自体のソースコード(アプリの設計図のようなもの)もオープンにしようよって流れになっているんです。Githubというエンジニア御用達のサイトで「自由に使っていいですよ」って公開してある。
編集部:え、これって公開しないでビジネスにしてもいいんですよね?
青木さん:決まりはないのでもちろん仕事にしてもいい。でも仕事にならない、なりにくい領域ってあるんです。
むしろオープンにすることによって、色んな人が手を入れてより良くする、ブラッシュアップしていくことができるんです。例えば献立だけだったものをアレルゲンもつけてみる、さらに他の人がそれを使って他の機能も追加してみるとか。
編集部:共創が生まれて行くわけですね。
榎本さん:これはシビックテックの「テック」の部分ですね。専門職の人たちがプロボノとして余暇を利用して、何か成果物を作る、仕事のスキルをフルに生かしてもらえるような。私たちもシビックテックはプロボノでやっていることが多いです。仕事ではできない領域に取り組めたり、新しい繋がりが生まれたり、お金とは別のやりがいがあるんです。
青木さん:それによって自分たちの街がより良くなっていくわけだし、僕らにとってもちゃんとリターンがあるんですよ。
お金との交換が「仕事」で、お金を使うのが「遊び」。そんな二元論では語れなくなった多様化した現代。エンジニアやプログラマーといったスキルのある人たちは今、お金とは違うリターンを求めて色々なことに取り組んでいるようです。
シビックテックの団体は今日本各地にあるそう。
「面白そうだな」「参加したいな」と思ったらあなたの街の団体さんを探してみてくださいね!
Code for Nerima http://code4nerima.org/
Code for Tokyo http://codefor.tokyo/
UDトーク http://udtalk.jp/