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第6回:30年越しで見えてきた事実。発達障害児の通知表 ー宇樹の場合

宇樹 義子 │ 2017.10.27
第1回:知ってるようで知らない… 発達障害者ってどんな人? 第2回:あるときは鬼才、あるときはうっかりさん。発達障害の過集中・注意散漫って? 第3回:みんなと違う世界に生きている… 発達障害者の感覚過敏・感覚鈍麻って? 第4回:発達障害者が生きる環境は昔と比べてどうなった? 障害と社会の狭間で考える! 第5回:発達障害者が経験する人生上の苦労とは? 宇樹の実録レポート 第6回:30年前の通知表に衝撃 明らかに発達障害児だった宇樹の姿とは
先日、発達障害の診断を受けて以降初めて、自分の小学校時代の通知表を見る機会を得ました。いまの知識で当時の通知表を見てみると、自分が自分で思っていた以上にわかりやすい発達障害児であったことに気づかされました。大きな衝撃を受けたので、感じたことをまとめておきます。

良くも悪くも平均・標準から外れた子

私は良くも悪くも平均や標準から外れた、目立つ子でした。人並み外れて優れた点が、逆の面から見ると弱点になる。または、人よりもずっとよくできることがあるいっぽうで、人と比べてどうしても苦手なことがある。それで周囲から誤解されたり疎んじられたりする。ときに周囲が疲れてしまう。そんな子だったのです。

思考力・論理性が高く、考えがユニーク⇔ 理屈っぽく、頑固で思い込みが激しい

思考力と論理性の高さは「大人顔負けで、唸らされてしまうことがあります」などと書かれているいっぽう、「理屈っぽく、一度何か思い込むとなかなか考えを変えてくれず困った」などという記述があります。 ある年の授業参観のとき、私が突然泣き出し、クラスが騒然となったことがあります。これは実は「キレ泣き」でした。 当時のことは私もよく覚えています。普段、担任は私が手を挙げるたびに当ててくれていたのですが、その日は手を挙げていない子を当てようとする。私は、「いつものシステムが実行されていない! おかしい! アンフェアだ!」と感じたわけです。 今となっては、「授業参観だから、担任はほかの子にも華を持たせようとしたんだな」とわかります。けれど、「授業では手を挙げた者が当てられるべきである」と思い込んだ当時の私には、ほかの理屈が見えなかったのですね。 こういうところ、本当に今も変わっていないなと思います… 確かに私の主張する理屈自体は通っています。しかし、では別の立場には別の理屈があることに、説明されずとも気づけるか? それを受け入れられるか? というと、なかなかそれが難しいんですよね。

語彙力・表現力が高い⇔ 空気を読まずに喋り続ける

語彙力・表現力が高くて、自分の考えをきちんと喋れることが評価されているいっぽう、「授業中に勝手に喋りつづけ、制止しても聞かないことがたびたびあった」「少し自分をおさえることを覚えてほしいものです」などといったことが書かれていました。 これはおそらく、「発達障害者が突然壊れたラジオのようにマシンガントークを繰り出す」という、発達障害あるあるのひとつだと思います。普段口数が少ないのに、興味を持ったことについては相手の反応や場の空気を無視して喋りつづけてしまうんですよね… 「すごく無口なときもあるがものすごく喋るときもある」という、本人の中での傾向のバラつきも、発達障害者の特徴だなーと思います。

手先が器用、おとなしく静か⇔運動が苦手、姿勢が悪い

手先の器用さ、感覚の繊細さや物静かさは評価されていたようです。しかし、運動が苦手なこと、何度注意しても姿勢が崩れることも同時に指摘されています。 今の目で見れば「お前勉強はできるのになんで運動はダメなんだよ、もっとがんばれよ…」という担任の心の声の聞こえてくる評価が、柔らかく遠回しな表現で書かれていました笑 「もうちょっと積極的に取り組めるといいですね」とか、「モチベーションの維持に課題を感じました」とか。 私は発達障害者の中でもわりと珍しく、手先の器用なほうではありましたが、やはり運動の苦手さや、体幹の筋肉の弱さなどは抱えていたようです。

興味を持ったことへの情熱がすごい⇔興味を持てないことには冷淡

好奇心が旺盛で学習欲が強いことは評価されているいっぽうで、算数や暗記系の科目、体育などの苦手科目ではとたんにやる気を失う極端さが指摘されていました。 自分でも、教師から「国語はあんなに頑張れるのにどうして算数や体育はがんばれないのだ、バカにしているのか」などという感じで詰め寄られることが多く、心の中で腹が立っていたことを覚えています。 今でもこの傾向は変わりません。自分の興味のある分野のことは専門家並みに知っているしどんどん追究するのに、政治とか経済とか日本史とか団体スポーツとか、興味を持てないことはどうがんばっても学習のモチベーションを保てないし、人並みの量の情報を頭に定着させることができないのです。

集中力が高い⇔ 切り替えが苦手。ケアレスミスや雑さ、落ち着きのなさがある

目を見張るほどの集中力を発揮するけれど、それが高じて気持ちの切り替えがうまくいかないことがある。全体になんでもよくできるのに、ときにケアレスミスや雑さ、落ち着きのなさがみられる、ということも書かれていました。 最近ようやく自覚したのですが、慎重で保守的と言われるASDの私の中にもADHDの人のような衝動性が眠っていて、ときどきそれが爆発することがあるのです。何かが「不完全な状態」なのに耐えられず、つい「ともかく仕上げる」ことを優先してしまって作業が雑になったり、ケアレスミスを出してしまったりすることは今でもあります。 こういったところが、「がんばってまじめにやればきれいにミスなくやりとげられる能力を持っているのに、それを発揮しない→ 教科や教師をナメているのでは?」という印象につながったのではないかと思います。 私は嫌われる先生からはとことん嫌われたのですが、発達障害の知識なしに見るならば確かに「かわいげのない」児童だっただろうなーと思います。

8ミリビデオに写っていた幼い自分の姿に衝撃

先日、通知表を見直すと同時に、私の幼い頃を写した8ミリビデオを見る機会も得ました。 ビデオに写っていた幼い自分の姿は、小学校の通知表からも伝わってきていた「いかにも発達障害児」という印象を強く決定づけるものでした。いまの私が当時の私を街で見かけたら、「この子には何か発達障害があるに違いない」と感じることでしょう。 体幹がくにゃくにゃで動作がのろい、それでいて衝動的。言葉があまり出ない。周囲と世界を共有せず、自分の内面的世界だけで生きている感じ… そして少食のせいもあったのか身体が周囲の同学年より一回り小さい。私はともかく、何か変わっている、異質、という印象を与える子どもだったのです。 どんな理由があっても人をいじめてはいけないこと、いじめ被害者にいじめについての責任を問うてはいけないのはもちろん大前提です。けれど私は今回、小学校当時の自分がいじめられ続けた理由については、思わずなるほどと納得せざるをえませんでした。私は確実に、特別なサポート、特別な環境の必要な、周囲とはどこか違った子どもだったのだろうと思います。

発達障害児者への理解・支援が広がっていきますように

私の中には、周囲と比較した場合の極端さ、自分の中での分野別の能力値のアンバランスがありました。こうした、周囲とのギャップ、自分自身の中でのギャップに、自分でも振り回されて疲れていたように思います。今のように発達障害が認知されている状況ではなかったので、周囲の人もそうとう戸惑ったことでしょう。 私はたまたま極端さが前面に出ていて良くも悪くも目立つタイプでしたが、たとえば、おっとりしていて目立たないけれど、人知れずいろいろな困難を抱えているタイプの発達障害児者もいます。そういう当事者は、今でも特に発見→支援へのアクセス が難しいのではないかと思います。 どんなタイプの当事者にしろ、できるだけ早期に発見して環境調整に努めることが、本人だけでなく周囲の人たちをも楽にし、救っていってくれるでしょう。 発達障害についての認知・理解がさらに広まってくれ、支援体制も整っていってくれることを、心から願っています。

宇樹 義子(そらき よしこ)

フリーライター。成人発達障害(高機能自閉症)の当事者。30代後半。
30を過ぎて発達障害が発覚。その後、自分に合った生き方・働き方を求めて在宅のフリーランスとしてのキャリアをスタート。翻訳者を経てライターへ。
現在打ち込んでいる趣味はフラダンス。動物がヨダレが出るほど好き。
ライターの仕事のかたわら、個人ブログ「decinormal」を運営。自身の経験をもとに、発達障害者や悩みを抱えた人に向けて発信中。 decinormal - 成人発達障害当事者のブログ
●宇樹義子さんの書籍情報 発達系女子 の明るい人生計画 ―ひとりぼっちの発達障害女性、いきなり結婚してみました
研究員プロフィール:宇樹 義子

発達障害当事者ライター
高機能自閉症と複雑性PTSDを抱える。大学入学後、10年ほど実家にひきこもりがちに。30歳で発達障害を自覚するも、心身の調子が悪すぎて支援を求める力も出なかった。追いつめられたところで、幸運にも現在の夫に助け出される。その後発達障害の診断を受け、さまざまな支援を受けながら回復。在宅でライター活動を開始。
著書に『発達系女子 の明るい人生計画 ―ひとりぼっちの発達障害女性、いきなり結婚してみました』がある。その他、発達障害やメンタルヘルスをテーマとした雑誌などに寄稿。精神医学などについての勉強を重ねつつ、LITALICO仕事ナビなどの福祉系メディアでも活動している。
公式サイト
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