想像することを楽しむための挑戦。舞台『TRAIN TRAIN TRAIN』のアクセシビリティを語ろう!|イベントレポート

目次
舞台『TRAIN TRAIN TRAIN』のアクセシビリティを語る会

2025年11月30日(日)、東京芸術劇場にて、舞台『TRAIN TRAIN TRAIN』のアクセシビリティをテーマにしたアフタートーク会「アクセシビリティを語ろう!」が開催されました。
本イベントは、舞台を鑑賞した多様な特性のある方々とともに、作品とアクセシビリティが交わる観劇体験について意見を交わすために行われました。公演のアクセシビリティ・ディレクターを務めた栗栖良依さんにもご参加いただきました。
イベント概要
タイトル:舞台「TRAIN TRAIN TRAIN」のアクセシビリティを語ろう!
日時:2025年11月30日(日)15:40~16:20
参加者:25名(ろう・難聴者、アクセシビリティ実践者、見学等含む)
登壇:栗栖良依
ファシリテーション:平原礼奈
手話通訳:小原郁子、清水雅人
想像することを楽しむためのアクセシビリティ

イベントの冒頭でファシリテーターより、舞台『TRAIN TRAIN TRAIN』におけるアクセシビリティの考え方について共有がありました。
本作では、「理解するためのサポート」ではなく、「想像することを楽しむための工夫」を大切にし、創作の初期段階からクリエイティブとアクセシビリティという二つの視点を携えながら制作が進められてきたこと。
具体的には
- 舞台上の言葉が音声と手話の両方で表現され、演者の身体表現や生演奏に溶け込む形で構成
- 舞台演出の一部としての字幕表現
- 視覚表現としての手話、身体で奏でる「サイン・ミュージック」を用いた演出
など、アクセシビリティを舞台表現の一部として取り込む実験的な試みが行われました。

栗栖さんからは、「舞台を見てほしい、そこで楽しめるように演出を作った」というコメントが寄せられ、その言葉が示すように、視覚だけでも、聴覚だけでも、あるいはその両方を用いても楽しめるダンス作品への挑戦でした。
鑑賞サポートの全体像

本公演では、舞台上の表現に加えて多様な鑑賞サポートの用意がありました。
※鑑賞サポートとは、さまざまな特性を持つ人が舞台芸術を楽しめるように提供される情報保障や環境整備、サービスなどの総称
乗車ガイド
『TRAIN TRAIN TRAIN』の世界をより楽しむために、観劇前に世界観や登場人物、美術・音楽・テキストなどについての手がかりを提示する情報提供サイト
「乗車ガイド」https://www.train-train-train.com/ride-guide

音声ガイド
舞台上の視覚情報を音声で各自の端末に配信。劇作家・演出家の三浦直之氏が音声ガイドを手がけた。従来の音声描写ではなく、あらゆる人が物語の世界を深く知り楽しめるストーリーテリングとなっている
字幕
舞台上の音情報と音声ガイドの内容を字幕にし、各自の端末に配信
ニーズに応じたおすすめの座席
字幕・音声ガイドのスマホ配信により、席を固定せず自由な座席選択が可能になった
その他
- ヒアリングループ対応座席
- 補助犬同伴での鑑賞席
- 車いす利用向けスペース
- 字幕・手話表現を楽しみたい方におすすめの座席
- 上演中に出入り可能な座席 など
安心して鑑賞するためのサポート
- 手話・筆談での受付、場内案内
- 開始前に、栗栖さんと手話通訳によるアクセシビリティ情報の説明
- カームダウンスペースの設置
- ロビーのテレビモニターを通したゆったり鑑賞 など
ひとつのガイドを一緒に味わう 参加者の感想

アフタートーク会に集まったのは、実際に『TRAIN TRAIN TRAIN』の鑑賞サポートを体験した方々です。字幕や音声ガイドを通して感じたことを、それぞれの視点から語ってくださいました。一部ご紹介します。
Kさん(聞こえない・聞こえにくい特性がある)
スマホに字幕をダウンロードしました。舞台にも文字が表示されたので、端末の字幕は、舞台上の動きがわからないときだけ補助的に使いました。風の音などの音情報がわかり、文字の大小も設定でき良かったです。演者の動きや意味まで細かく書かれていたので、とてもわかりやすかったです。
Wさん(聞こえない・聞こえにくい特性がある)
自身のスマホでの操作が難しく、タブレットをお借りして、字幕を見ながら観劇しました。困った時に端末を借りられるシステムで助かりました。
舞台に立つ役者の手話がうまく表現されており、舞台手話通訳がつくのとはまた違う一体感がありました。2階席で見ていたので、時折舞台上の手話表現が見えにくい場面があり、後ろのスクリーンに映像として映し出されていたら良かったなと思いました。
MAさん(聞こえない・聞こえにくい特性がある)
スマホの字幕とヒアリングループ席を使用しました。聞こえない私と、見えない友人、見えて聞こえる娘と観劇しました。補助犬も一緒に来ました。
普段から字幕を利用して観劇していますが、課題になるのが「視線移動」です。タブレットと舞台を同時に見ることができず、流れがわからなくなってしまうことにいつも苦労しています。それが今回は、舞台を見ているだけで楽しむことができました。とても嬉しくて、いつもの苦労が吹っ飛んでしまうくらいに良かったです。
娘からは、聞こえていても聞き取れないことがあり、字幕が出ているとそれが助けになってより深く理解できたというコメントがありました。
MOさん(聞こえない・聞こえにくい特性がある)
スマホで字幕を見ました。先ほどの説明で、字幕が音声ガイドの内容と同じだったと聞いて驚きました。初めての経験でしたし、とても良かったことだと思います。
最近は、いろんな形での字幕があり、どんどんアップデートしている一方で、従来の字幕に馴染んでいる人としては、今回のような新しい取り組みの見方がよくわからないこともあります。事前に説明してもらえるといいなと思いました。
劇場職員のAさん
他の劇場に勤めており、アクセシビリティを実践しています。前半は音声ガイドを利用し、後半でスマホの字幕を利用しました。まず驚いたのが、どの席でも字幕や音声ガイドを選べることです。貸出だと台数が限られ、少し聞こえづらい方や、興味をお持ちの方は遠慮される方もいらっしゃるんです。でも、今回のように自由な席で、誰でも使用できるという仕組みがとてもいいなと思いました。
それから演出の中にアクセシビリティが組み込まれているのが本当に素敵でしたし、動きをただ説明するのではなく、想像を支援する音声ガイドにも感動しました。
大学でアクセシビリティに取り組むTさん
後半で音声ガイドを利用しました。聞こえて見える私ですが、これがあることによって、想像を邪魔することなく、いろんな情景を浮かべることができたので、すごく充実した時間になりました。
介助者として観劇したTさん
字幕ガイドを利用しました。乗車ガイドを事前に見ずに行き、ぶっつけ本番で観劇したので、最初は何を表現しているかわからない部分がありました。でも、台詞だけではなく、演者が何のためにその動きをしているのかなども字幕で補われていることによって、物語への理解を深めながら、最後まで楽しむことができました。字幕の面白みが舞台と重なった充実した内容だったなと思いました。
誰もが楽しめる音声ガイドと字幕の挑戦 栗栖良依さん

ここまでの話を聞いて、公演のアクセシビリティ・ディレクターの栗栖さんが、今回の音声ガイドと字幕の挑戦を振り返ります。
栗栖良依さん
障害のある人もない人も、ひとつのガイドで一緒に楽しめることを大切にしました。
個別に特化したものを作ることも重要なのですが、同じ体験を共有できることで、より多くの人に届き、また普及率が高まるのではないかと考えたのです。
実際、今回の舞台の内容は、非常に抽象的なダンス作品でしたよね。
普段こうした作品を見慣れてない人は、何を表現しているのかわからない、どうやって見たらいいのだろうという不安を感じる方が、障害のあるなし関係なくいらっしゃるのではないかと思います。
そこで、音声ガイドや字幕でサポートして、誰もが楽しめるようにしました。
端末に配信する字幕に関しては、振り切りました。そもそも舞台上にも字幕がでているので、同じものを出してはもったいないなと思ったんです。そこで、通常はやらないことですが、音声ガイドの情報をそのまま字幕に入れました。
さらにバリアフリー字幕としての、台詞の話者情報や音の解説も入れましたので、ものすごい情報量で、ほぼ画面がずっと字で埋まっていました。
実は、舞台上の字幕を見ると音声情報はわかるので、スマホにダウンロードした手元の字幕はそんなに見ないかなと思っていたんです。でも、こんなにたくさんの方が見てくださっていたんですね、ありがとうございます。
アクセシビリティのほどよいバランスを探究

次のフリートークでも、参加のみなさまから積極的な発言をいただきました。
まず、「座席が自由に選べたことがとても良かった」というコメントです。
「どんなサポートが必要でも、自分の好きな座席を選べることが大切だ」という視点と共に、「その席でないと困る人もいる。劇場として優先順位を検討することも必要では」という意見も寄せられました。
また、乗車ガイドのウェブ制作に携ったSさんからの「改善ポイントを聞かせてほしい」という問いかけに対しては、「一緒に観劇した視覚障害のある友人が、最初にアクセスしたときに内容にアプローチできず投げ出したという話があった。デザインが凝るほど、視覚障害者のWebアクセシビリティが難しくなりがちなので、音声読み上げにどうつなげるかという課題を感じた」という声が挙がりました。
Sさんは、「演出との天秤で、音声読み上げが難しくなったり、読み込みが遅くなるといった課題も見えた。技術的なフォローも必要だが、デザインする際のバランスについても、真摯に受け止めたい」と話しました。
多様な視点を交え変化を味わった尊い時間 森山開次さん

最後に、振付家の森山開次さんが飛び入り参加し、参加者に向けてメッセージを届けてくださいました。
森山開次さん
稽古場では、やっぱり色々な壁があって、それを一つずつ理解し合いながら進めていくことで、みんながそれぞれ発見をして、今回の舞台を作ってきました。
普段思っていたことが、こういう見方があるのだ、彼はこういう見方で見ているのだと、それぞれの常識が変わっていくこと。それが僕にとってとても尊い時間だったのです。
劇場全体としても、アクセシビリティの課題は券売から宣伝、様々なところであり、それぞれのセクションで挑戦していただきました。まだまだ、至らないところがきっとあったかもしれません。
でも、これから皆さんと共に、いろんなことをより良くしていきたいですし、舞台をみんなが愛して通っていただけるように、僕も頑張っていきたいと思います。ありがとうございました。
短時間の対話ではありましたが、アクセシビリティは付け足しのサービスではなく作品そのものを豊かにする存在であり、その可能性は広がり続けていると実感する時間になりました。ご参加くださったみなさま、ありがとうございました。
(画像提供:東京芸術劇場/レポート:ファシリテーター平原)