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煎り酒悠久物語 其の一 正田醤油の物語

平原 礼奈 │ 2017.05.01
こんにちは! mazecoze研究所の食探求プロジェクト「煎り酒部」部長のひらばるです。 江戸時代に庶民から愛された調味料「煎り酒」を現代の食卓に復活させよう! と、頼まれてもいないのに煎り酒のPR活動を行っている当プロジェクト。 春になったし心機一転、煎り酒の歴史を美味しく紐解く新連載を始めようと、本日より「煎り酒悠久物語」をスタートします!

「煎り酒悠久物語」とは

煎り酒の作り手さん×料理家 奥田ここさんとのコラボレーションで、煎り酒の過去・現在・未来を美味しくつなぐ連載! 全国の煎り酒メーカーを訪ねながら、煎り酒に表れる作り手の思想や、その土地独自の風土・文化を知りそれぞれの味の特性を生かした「煎り酒レシピ」を考案していきます。
今回訪問した煎り酒の作り手は、「未来につながる食卓へ」をコンセプトにした調味料ブランド文右衛門蔵を展開する正田醤油さんです!かつて勢いで開催した煎り酒イベントや、まぜ研の黒井ボスが板前となった「煎り酒薫る江戸涼会」など、煎り酒部もあれこれお世話になっています。それでは早速お話をうかがっていきましょう!

-正田醤油の煎り酒物語-

【語り手】 正田醤油株式会社 通信販売課 文右衛門蔵統括マネージャー 吉川 雅夫さん 通信販売課長代行 平栗 みさきさん

出汁が決め手の煎り酒

私たちの「煎り酒」のこだわりは、出汁です。原料となる出汁を中心にいい味を作ることを軸に、開発を進めました。 使用している函館の真昆布と枕崎の枯れ節は、正田醤油のオリジナルブランドである「文右衛門蔵」の出汁と同じ素材を使って。 ただ、それだけだと味が上品過ぎてしまうので、薄けずりのカツオも入れています。そうすることで、旨味がぐっと凝縮されました。

歴史から紐解き、素材をセレクト

煎り酒の物語は江戸時代から始まったので、ほかの素材も、老舗の調味料メーカーさんものを意識して取り入れています。 お酢は、江戸時代から続く東京都で唯一のお酢やさんである、横井醸造さんの赤酢を。みりんは、みりん発祥の地と言われる愛知県碧南市にある九重味醂さんのもの。どの素材にも素晴らしい歴史とこだわりが詰まっているので、一つひとつについて話し出すと、1日では終わらなくなってしまいます(笑)

創業140年の醤油屋さんが煎り酒を作った理由

正田醤油は、今年で創業150年弱になる醤油メーカーです。売上の8割は業務用なのですが、2012年10月に家庭用の新ブランド「文右衛門蔵」を発表し、煎り酒も、そのラインナップとして展開しています。
醤油醸造を始めた正田文右衛門(三代)
煎り酒を作ろうと決めた理由は、昔からある調味料を現代に食べやすい形でつなぐというのが、文右衛門蔵の「未来につなぐ持続可能な食卓」というコンセプトにぴったり合うと思ったから。例のごとく「金に糸目はつけないから、本当に美味しいものを作ってね」と開発担当者にお願いしました(笑)

レシピがないものを生み出す難しさ

煎り酒って現代の食卓にはほぼ上らない調味料ですよね。醤油の登場とともに一度消えてしまったものだから、味を作るときにも、何が正しいのかわからない。参考になるレシピもなかったんです。だから現在市販されている煎り酒の味は、メーカーによってベースが塩だったり、お酒だったり驚くほど違うんですよ。
昭和初期の景品付き販売の宣伝
煎り酒の開発を担ったのは、20代の理系出身の若手メンバーです。私たちは醤油屋ですが、文右衛門蔵は、あえて醤油メーカー的な色を出さないブランドにしていたので、そのルールは煎り酒にも反映させようと。さらに、煎り酒を歴史から探りながらも、過去を忠実に再現するだけではなく、どんな味で蘇らせたら現代の食生活にも受け入れられやすいかも、試行錯誤しましたね。そこで先ほどの出汁に行き着きました。開発には1年ほどかかったでしょうか。

こんな料理・食材にぴったり!

旬の野菜のおひたしにかけるだけで、素材の風味が生きてとっても美味しいですよ。暑くなるこれからの季節なら、煎り酒をめんつゆにした冷たいうどんも、梅の酸味が爽やかです。煮物の出汁がわりに使っても簡単に奥深く優しい味わいになりますし、出汁にこだわっているので、どんな料理にもバランス良く合うのが、私たちの煎り酒の特長だと思います。 あと、これは販売していないのですが、「煎り酒の出汁ガラ」というのがあって、煎り酒の製造過程で出る、鰹節や昆布の出がらしなんですが、めちゃくちゃ美味しいんです。そういえば以前、イベントの時にmazecozeの皆さんにもおすそ分けしたら、「ぜひ販売してくれ」とせがまれましたね(笑)

-正田醤油の煎り酒オリジナルレシピ- 豚とほうれん草のかてめし

作り手 料理家 奥田ここさん

コンセプト

出汁への思いが込められた煎り酒というコンセプトをうかがい、新たに出汁を用意せず煎り酒そのままで美味しく頂ける献立を考えました。 こだわりの材料で仕上げられた煎り酒の風味を損なうことなく、煎り酒のそれぞれの原材料の旨味に相性よくよりそってくれる食材を合わせてみました。 また、次の世代につなげていきたいという煎り酒を、これからも末永く次の世代につなげていきたいと感じている日本で親しまれてきた「かてめし(※)」というスタイルとともに、起源は奈良時代に遡るともいわれる「油飯」のエッセンスもプラスした、ひとさらで「飯と菜」ともに頂ける献立です。 (※)かてめし 米に、季節の食材を混ぜ込んで増量させためしのこと。米が貴重だった昔こそ、平たくいえばかさまし飯でもありましたが、米と一緒に季節の食材をともに食べられるということは、便利で楽しい米飯スタイルの一つだなと思っています。

レシピ(4〜5人)

<材料> ごはん:1杯/1人 ごま油:適量 生姜:30g 豚肉:180g ※粗く刻む 煎り酒:大さじ3 酒:小さじ2 梅干し:2〜3個 ※刻む ほうれん草:1/2わ ※下茹でし、刻み、しぼる 大葉:6〜8枚 ※刻む 白ごま:大さじ2 細切り玉子(お好みで):適量 <作り方> 1.ボウルに粗く刻んだ豚肉を入れ、煎り酒と酒を入れ10〜15分ほどなじませる 2.フライパンに刻んだ生姜とごま油を入れ、弱火にする 3.生姜が淡いきつね色になり香りが出てきたら、1.の豚肉を入れ、火を強めこんがり焼きつける 4.仕上げに刻んだ梅肉と刻んで余分な水分をしぼったほうれん草を入れよく混ぜ、火を止め、白ごま、大葉を入れ、混ぜ合わせる 5.温かいごはんに4.を切るように混ぜ、茶碗にもり、お好みで細切り玉子をそえたら出来上り 今回は正田醤油さんの発祥の地である群馬県でも飼育が盛んな豚肉と、手に入りやすい野菜の代表選手のひとつほうれん草を、また煎り酒の原材料でも使われている梅でもありますが、さらに叩いた梅肉を調味として重ねづかいにし、アクセントにしました。旨味の宝庫な煎り酒と食材との出逢いを楽しんで頂けたら嬉しいです。

料理家 奥田ここプロフィール

外資系コンサルティング会社に勤めるかたわら懐石料理を学び(2007年講師の許状を取得)、またイタリアでの滞在をとおして家庭料理の手ほどきも受ける。 築地市場を「師」とあおぎ、現在は旬の食材を中心にした「和食」及び「イタリア料理」の料理教室を主宰するほか、国内・海外での出張教室や屋外での青空教室、外国の方の参加など、個別の要望に応じた教室も開催している。 また、各種媒体・広告などへのレシピ提供や食材産地での取材、食に関するさまざまな話題の企画・執筆にも取り組むほか、国内各地や海外に赴いてのホームパーティなどのケータリングも行なっている。 趣味は世界各地の市場めぐり・茶道(裏千家専任講師)・サッカー・大相撲観戦・写真。素材の味を大切にし、無駄なく使い切る献立作りを心掛けている。 Web site: http://chisou.typepad.jp Twitter: http://twitter.com/KokoOkuda Instagram: http://instagram.com/kokookuda/

煎り酒部

江戸時代の庶民にとって欠かせない調味料だった「煎り酒」。さっぱりした味わいとヘルシーさが魅力の煎り酒を再び日本の食卓へ呼び戻すべく活動しています。 Facebookページ instagram
研究員プロフィール:平原 礼奈

mazecoze研究所代表
手話通訳士
「ダイバーシティから生まれる価値」をテーマに企画立案からプロジェクト運営、ファシリテーション、コーディネートまで行う。
人材教育の会社で障害者雇用促進、ユニバーサルデザインなどの研修企画・講師・書籍編集に携わった後に独立。現在多様性×芸術文化・食・情報・人材開発・テクノロジーなど様々なプロジェクトに参画&推進中。

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