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肩書きが増えるたび日本の家族がハッピーになる!? 高祖常子さんのパラレルワークライフ

mazecoze研究所 │ 2016.03.11

「ムリ」と言わない生き方がきっと肯定的な未来につながっていく

(株)ブライト・ウェイ 『miku』編集長

高祖 常子さん

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セミナーを企画運営した地域団体“くれお”の赤池紀子さん(左)とはもう長いおつきあい

「怒鳴らない子育て」を実現させてくれる魔法使い

まだ、春には少し遠いうららかな日曜日、都内のとある公共施設で、こんなタイトルのセミナーが開催されていました。———「たたかない、どならない子育て」。

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子どもが言うことを聞かなくてイライラする。
でも、それって自分の育て方が悪いのかもしれない…。
自己嫌悪でもっとイライラする。さらに、時間もなくて焦る。
イライラ爆発!「いい加減にしなさーい!!」
ああ…、また子どもを怒鳴ってしまった。
あの子だけが悪いわけじゃないのに…。
(で、さらに落ち込み↓↓↓魔のループ)

子育て経験があれば、こんな思いをしたことがある人は少なくないはずです。
だからきっと、このタイトルにまず惹かれる。親だって、本当は怒鳴りたくないんだもの。不肖・阿部志穂(筆者)、告白しますが、親歴も16年になれば、子に手を上げたことが一度もなかったかと言えば、残念ながらウソになります…(懺悔)。

この日、決して狭くはない会議室に、参加者はマックス。特筆すべきは、男性参加者の比率が5割に近かったこと。ご夫婦で参加されていた子育て真っ盛りファミリー、一人で参加されている意識高い系(?)のお父さん、いわゆる“イクジイ”さんなのか、60代、70代とおぼしきジェントルメンetc.…。

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父たちも真剣にワークに参加

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つい怒鳴ってしまう気持ちのずっと向こうにある「どんな人間に育ってほしいか」思いを巡らすワーク

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自分の育児を振り返りつつ心の中で猛反省する筆者

その様子を拝見したmaze研メンバーが、「いろいろ課題もあるけど、ちょっとずつ前進してるじゃないか、ジャパン!」と目頭を熱くする中、「しつけと虐待は違うよー」とか、「スウェーデンでは、子どもへの体罰は法律で禁止されてるんだよー」とか、「課題の解決には多様性を認める社会の実現が大事だよー」といったお話が進みます。

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セミナーに集中できるようスタッフが子どもたちの遊び相手に

合いの手は、「ワキャー!!」とか「ねぇ、ママ、見てー」といった子どもたちの声。子ども同伴可としながらも、“子どもは託児室に預けてね”という措置をとっているセミナーが多い中、ここでは、子どもも親から離れることなく一緒に参加OK。
「今日は、賑やかな声もBGMということで!」という講師のひと声が、「うちの子、うるさくてすいません…」という親たちの罪悪感をグッと和らげてくれます。

すいません、それで結局「何屋さん」なんでしょう?

さて、そんなわけで、今回の主役はこの声の主、高祖常子(ときこ)さんです。

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子育てファミリーのミューズです

現在進行形で育児中なら、SNSやインターネットなどで彼女を見かけたことがある人も少なくないと思います。高祖さんは、maze研メンバーも以前から気になっていた存在でした。
際だって目立つわけではないのだけれど、いつも穏やかな雰囲気でその場にいる人。つらいことや困ったことがあったら真っ先に相談したくなるような、懐の深い笑顔が印象的な女性です。

けれど、「結局、高祖さんって何者?」と聞かれると、実はよくわかってなかったんです、私たち。
この日は、児童虐待防止全国ネットワーク・理事としての側面が強いお仕事だったと思うのですが、夫婦のパートナーシップのお話をしていることもあるし、イクメン養成(?)的な活動をしていることもあるし…。まぁ、「何屋さんかわからない」というのは、マゼコゼスト認定の最重要ポイントなので、maze研的にはむろんウエルカムなのですが。

そんな話からインタビューを始めると、「そう言われてみると、私も“これ”って断言できないところがありますね」と、ご本人。
本当にさまざまな活動をされているので、ふだんはその場にあった肩書きを出すようにしているのだとか。確かに、先に挙げたNPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事をはじめ、NPO法人ファザーリングジャパン理事、NPO法人子どもすこやかサポートネット理事…(まだまだたくさんあります。プロフィール参照)、いつも全部並べていたらいろいろ大変ですものね。

ノウハウの細分化が子育てファミリーを追い詰める

「でも、一番のベースにあるのは、やっぱり『miku』かな」

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幼稚園、保育園、産婦人科、小児科のほか、子育てひろばやショッピングモールなどで入手できることも

『miku』とは、高祖さんが編集長を務める育児情報誌。産院や小児科、保育園などで手に入れられるフリーペーパーで、なんと、全国47都道府県すべてに行き渡っています。

社会人3年目の長男を筆頭に、もうだいぶ大きな3人の子育て経験を持つ高祖さんですが、子育ての情報発信を仕事の中心にしたいと思い始めたのは、出産を機に会社員からフリーランスにワークスタイルを切り替えた頃からと、かなり早めです。
「ツテをつたって市販の育児情報誌の仕事をいただいたまでは良かったのですが、ノウハウ寄りな記事が多くなってしまうことが気になり始めました。しかも、同じテーマの記事を繰り返し作っていくうちに、内容がどんどん細かくなっていくんです」
最初の頃は3ステップだったおむつ替えが、いつのまにか10ステップぐらいまでに細分化されるようになった紙面を見て、「これって、初めて育児をする人たちをむしろ追い詰めちゃうのでは?」と疑問を抱くようになったそう。

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2014年、育児先進国ノルウェーで取材をしたときのひとコマ。漁業省副大臣とパチリ

ちょうどその頃に飛び込んできたのが、創刊された『miku』で編集長をしてくれないかというお話。当時は、首都圏一都三県のみに配布されている媒体でしたが、「それはもう、ぜひやりたい!と思いました。自分が編集長になれば、本当に発信したいと思った情報を記事にすることができます。それに、必要な情報が必要な家族に無料で届けることができる。いろいろな経済状況の家庭がありますからね」

『miku』というベースがあるからこそ行き来できる“冷静と情熱のあいだ”

マニュアル的な切り口にせず、誰でも気軽に実践できることを取りあげる。
妊娠中から就学するまでの育児情報を子どもの年齢で区切らずランダムに掲載する。
忙しくてもサッと拾い読みするだけで、必要最低限の情報がインプットできる。
こういった、フリーペーパーならではの良さを活かした誌面作りと、満載のアイディアや視点の新しさが口コミで評判を呼び、『miku』は10年かけて13万3000部(しかも、残部はほとんどナシ!)という驚異の部数を発行するまでになりました。

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つねにニュートラルなスタンスですべての人に接する高祖さん

そこには、「信頼のできる公平な情報を、偏ることなく、誰にでもわかりやすく、より多くの人に届ける」という、高祖さんの育児情報に対する理念が貫かれています。でも、確かに理想的ではあるものの、それをキープし続けるには大変な理性が必要そうですよね。
「私が携わっている他の活動は、そのためにあると言えるかもしれません。パパも子育てしよう、虐待をなくすために体罰をやめよう、ママが笑顔でいられるように。———こういった、ちょっとエッジの効いた分野や情熱が必要な活動はある意味スピンオフ。飛び出してキャッチした情報の中に、『これは、より多くの人に伝えるべき』と思えたものがあれば、『miku』というベースに戻り、冷静でフラットな情報に置き換えるんです。例えば、『虐待防止!』と声高に叫ばない代わりに、誌面で褒め方やしかり方の特集を組むといった具合に」
(取材・文/阿部志穂)


プロフィール:高祖 常子(こうそ ときこ)さん
東京都生まれ。短大卒業後、(株)リクルートで就職情報誌、転職情報誌の編集に携わる。『リクルート進学ブック』の副編集長を務めた後、出産を機に退職。フリーのエディター&ライターとして、新たな働き方を模索しながら2男1女を育てる。夫ともに(株)ブライト・ウェイ設立後、2005年3月よりフリーマガジン『miku』編集長に就任。現在、『miku』の発行と平行して、児童虐待防止全国ネットワーク「オレンジリボン」、タイガーマスク基金、ファザーリングジャパン(いずれもNPO法人)などで理事を務めるほか、ポジティブ子育てや夫の育児参加、夫婦のパートナーシップ、ワークライフバランスなど、幅広いテーマで講演やセミナー、執筆活動も行っている。
>株式会社ブライト・ウェイのホームページはこちら


取材協力「Creo“くれお”」「杉並区男女平等推進センター」

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