感覚過敏・鈍麻から広がるグラデーションな脳の世界|質問2:井手先生のことがもっと知りたい!その②
井手先生についてその①はこちら
脳科学へ、かきねをこえて
井手先生:大学院を卒業したあと、僕は国立障害者(こくりつしょうがいしゃ)リハビリテーションセンター研究所※で、脳機能系障害研究部(のうきのうけいしょうがいけんきゅうぶ)のポスドク※として働きはじめました。
※国立障害者リハビリテーションセンター:障害のある人々の自立した生活と社会参加を支援するため、医療・福祉サービスの提供、新しい技術や機器の開発などを実施している国の組織
※ポスドク:ポストドクトラルフェロー。博士学位を取りたての人がつく仕事。井手先生は、学位を取りたてのとき、技術協力員から流動研究員という立場になり、日本学術振興会の特別研究員PDとして国リハに所属。その後、研究員(任期がない正規職員)になり現在にいたる
それまで「障害」について研究したことはありませんでした。
でも、ずっと取り組んできた触覚(しょっかく)や身体イメージの研究から、障害の研究も発展させられるかもしれないと感じて、感覚というテーマを選びました。
就職してからずっと、発達障害や自閉症の方の感覚について研究しています。
前回、自分は実験心理学と脳科学ということなる分野の方法を取り入れた研究スタイルだと話しました。
ここに来て加わった脳科学の方法というのが、脳画像解析(のうがぞうかいせき)の一つである「fMRI※」や「MRS※」の導入です。
刺激(しげき)を出して、それに対する脳の活動を見たり、動作の解析(かいせき)をしています。
※fMRI:機能的脳画像解析(きのうてきのうがぞうかいせき)。脳内処理時の血流の変化から、その処理と関連する脳部位の活動の状態を調べる手法
※MRS:GABAなど中枢神経(ちゅうすうしんけい)の代謝物質(たいしゃぶっしつ)の濃度計測(のうどけいそく)を行う技術
そこに、大学院で学んだ実験心理の手法である、実験のデザインと、その結果から脳のはたらきを推測(すいそく)することをかけ算しています。
研究者って、脳科学なら脳科学の研究のテクニックを突きつめていくことが多いんです。
でも僕の場合は、目的を達成するために、どんな方法でも取り入れます。
「研究をするときに、手段と目的をまちがえるな」。
これは、大学時代の恩師が僕にくれたメッセージです。
いま、僕の研究の目的は、自閉症の人の感覚の過敏の背景(はいけい)にある脳の働きを明らかにすること。そして、自閉症の人の社会的な適応をどう変えていくか、そのために必要な方法は何かを考えていくことです。
それを解き明かすために、さまざまな技術や有力なツール、方法を探究しています。
fMRIもMRSも、導入のためにパラメータを1個変えてみては失敗してをくりかえし、ようやく一つナゾが解けるみたいな。スタイリッシュさのかけらもないやり方ですが、自分たちの研究の特徴だと思います。
研究の成果は、自分の人生や、長い生命の歴史のなかでは、つかの間の夢のようなもの。でも、心だけは一生のものです。
人生の意味を考えながら、自分と周りの人たちの希望がもつ価値を、とても大切に思っています。
その③へ続く
井手正和先生
専門:実験心理学、認知神経科学、神経心理学
発達障害者の感覚処理障害(感覚過敏・感覚鈍麻など)の神経生理基盤を明らかにすることを目的とし、心理物理と脳イメージング法を用いた実験を行う。
>研究室webサイト
mazecoze研究所代表
手話通訳士
「ダイバーシティから生まれる価値」をテーマに企画立案からプロジェクト運営、ファシリテーション、コーディネートまで行う。
人材教育の会社で障害者雇用促進、ユニバーサルデザインなどの研修企画・講師・書籍編集に携わった後に独立。現在多様性×芸術文化・食・情報・人材開発・テクノロジーなど様々なプロジェクトに参画&推進中。