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「隣人」が育児を救う!? ──家族も友情も超えた他人との、子連れルームシェア【前編】

mazecoze研究所 │ 2018.08.15

「一緒にいて家族より楽」
「感謝しかない」
「彼らがいた方が私は穏やかでいられる」
「子どもが泣いて煮詰まっている時に一緒に笑ってくれて救われる」
……そんな「どこの楽園ですか?」みたいな幸せで素敵な言葉がたくさん出てきた今回の取材。

こんにちは、野本です。
去年、2歳差で二人目の子どもが生まれてから、当時2歳の上の子がとんでもない赤ちゃん返りをし、毎日戦争、心は煮詰まりを通り越して鍋の焦げのようにこびりつき、「空いてる部屋に誰でもいいから住んでくれ! 家賃とかいらないからただ一緒に夜を過ごしてくれ!」と本気で考えていました。
まだ首も腰もすわらない乳飲み子の世話をしようとすると「わたしもおむつ替えて!わたしもミルク飲むの!赤ちゃん触らないで!わたしをだっこしてえええええ!!!」と泣き叫ぶ2歳女子。
私の心は完全に折れ、闇の中を漂っていました…。思い出しても悲惨。
結局、夜間、在宅ながらベビーシッターを投入して下の子を見てもらうことで徐々に落ち着いてきましたが。

そんな折に「野本さん、子連れでルームシェアしてる人がいるから取材してみませんか?」とmazecoze編集長の平原さんから提案され、「そんなタイムリーで面白そうなの私じゃなくて誰がやるの?!」と鼻息荒く行ってきました。

登場人物は写真のみなさま。

西晃彦さん(左から二番目):モノクロ写真家として活動する傍ら、九州郷土料理飲食店やダイニングカフェ勤務を経て、縁あって2018年5月11に「cafe gharb(カフェガルブ)」をオープン。

西美樹さん(左から三番目):雑誌編集者。大学の写真サークル仲間だった晃彦さん・友人とともにシェア生活約10年。お酒とおしゃべりが好きな2児の母。

もーりーさん(一番左):大森さん。建築家。2010年よりシェア。シェアメイトからはもーりーと呼ばれている。休日も仕事に勉強に忙しい。趣味は漫画とフットサル。

おいたんさん(一番右):高嶋さん。フォトグラファー。フォトグラファーネームはMACH。美樹さんとは大学時代に編集部でのアルバイトで友人に。暗室のある家がマッチして2010年よりシェア開始。長女が「おいたん」と慕っている。2018年5月に他の家に引っ越し。

そして西家の娘さん、4歳と1歳。

見てください、上の写真だけでこの集合体の輝き、幸せレベルが伝わってくるでしょう! 自然体でいてかつ神々しい…!

世田谷区梅丘にある彼らの賃貸マンションにお邪魔して、ついでに野本の3歳娘と保手濱の1歳息子くんも連れて、まぜこぜインタビューのはじまりです!

妊娠出産でも継続されたルームシェア暮らしのおもしろさ

編集部:子育てをめぐる住まい方や家族の在り方に興味があって今日は取材させていただきます。
確認なんですが、シェアハウスではなくルームシェアできる部屋を借りてシェアメイトを募って住んでいるということでよろしいですか?

西美樹さん(以下、美樹さん):はいそうです。ルームシェア可という物件を探しました。

編集部:元々西さん夫妻がカップルの時にこの暮らし方を始めた?

美樹さん:はい。同じ大学の写真サークルで出会い、卒業した頃から付き合いほぼ一緒に住んでいて、そこは暗室のある家だったんですよ。そして友達も一緒に暗室のある家に住みたいということで、それがルームシェアのきっかけでした。でも友達のうち一人が入る前に脱退し、一部屋余ったから人を募集した。それからも誰か抜けてはいろんな人を募集し続けた。今まで友達も含めて5~6人くらいと住みました。

もーりーさん:僕が応募したのは、最初に働いていた建築事務所でお金があまりにもなくてちょっとやばいなって(笑)
元々友達だったわけじゃないです。

美樹さん:シェアメイト募集の掲示板に載せるといつも20人くらい応募があって5人くらいを面接するんですが、もーりーは無難な人、害がなさそうな人だから選びました(笑)
応募者にはパーティーピーポーみたいな人も…とりあえず握手から入るみたいな…(笑)
あと生活の時間帯がバラバラの方がいいんです。みんながみんな7時に帰ってとかだと、キッチンやトイレが人であふれかえってしまう。 私が今時短勤務で、もーりーは月に1~2回しか休みがない、おいたんは平日の昼でもいるみたいなバラバラな感じだったからやりやすかったです。

―――実は私、取材の少し前まで「ルームシェア」と「シェアハウス」がごっちゃになっておりました。美樹さんに指摘されて明確に違いを知りました。
ルームシェア=ルームメイト同士で管理・運営をする
シェアハウス=運営事業者がシェア用の施設として運営する
およよ…ニホンゴムズカシイ…(英語か…)

どちらにせよ、人とシェアして住むことができる人、できない人(潔癖、「内の自分」を他人に見せられない人)に分かれそう。私はできるタイプだと思う。「誰かうちに住んでー!」と切実に思ったくらいだし。
できないタイプの人もどうか「この記事は何の参考にもならない」…と閉じないでください! 人間関係の色んなヒントが含まれています!―――

野本も娘と参加させていただきました。ありがたい……!

編集部:誰か出て行ってもまた探したというのは、その住まい方にこだわりがあったんですか?

美樹さん:家賃を安くするためです(笑)

編集部:経済的な理由が最初にあったんですね。でも結婚や妊娠、出産してもその住み方を続けた理由って何かあるんですか?

美樹さん:理由はないんです。まあ結婚はカップルの延長だから住み方としては変わらなかった。
でも子供ができた時はさすがにどうかなと思って相談しました。それでも住み続けてくれるもーりーやおいたんがすごいですね。

おいたんさん:テレビ番組の「フルハウス」を見ていたせいで、彼らが結婚する前からこういうの面白いよねっていうのはありました。
結婚して子供が生まれて、それはそれで面白いんじゃない? みたいな感じで話していたんです。子供が生まれたからバイバイするっていう選択肢もあったけど、西くんたちがこのままみんなで楽しくやろうよって言ってきたから、いいんじゃないって受け入れて。

―――うんうんフルハウスおもしろいですよね! 私も大好きです! でもあの家庭を実践しようとは考えたこともなかった。 みなさん見た目も濃いですが、中身はもっと濃いです…!―――

男性陣。濃い。中身の濃さもどんどん明らかになっていく

編集部:小さい子供が生まれてからもこの暮らしを続けていてどうですか?

美樹さん私は本当に感謝しかなくて。
例えば夜旦那がいないんですよ。でも子供と二人で息が詰まっている時に一言ふらっと顔を出して「大丈夫?」とか言ってくれたり、お皿がパリンって割れたらパタパタっておいたんが来て「いいよいいよ俺が片付けるから」言ってくれたり。
1ヶ月に何回も会話するわけじゃないんですが、ちょっとした時にいてくれることに救われています。

もーりーさん:おいたんはMVPだよね。

おいたんさんも写っている、長女が赤ちゃんの時の写真。温かい

美樹さん:あとすごいのが、長女が断乳する時に夜泣きが三日間続いたんです。でもふすま一枚隔てて住んでいたもーりーが一切何も言わなかったですよ!

もーりーさん:聞こえなかったんですよね(笑)

美樹さん:おかしいでしょ(笑)
夜泣きしても二人には全く何も言われたことがない。

―――よその子の連日の夜泣きに何も思わない独身男性がいるなんて!
おいたんさんももーりーさんも、ものすごく家庭人として向いてると感じるのです。自分の子どもの夜泣きに文句を言う男性も世の中にいるみたいですし…。そんなのって悲しい。―――

友達でも家族でもない「いい隣人」

編集部:もーりーさんとおいたんさんにとって西さん家族はどんな存在なんですか?

もーりーさんいい隣人であったらいいですよね。

おいたんさん:厄介な存在ですよ。(一同笑う)
一緒に居て家族より楽かもしれない。変なところで気を使わなくていいし、甘えるところは甘えてみたいな。

編集部:西さん夫妻にとって大森さんやおいたんはどんな存在ですか

西晃彦さん(以下、晃彦さん):うん、いい隣人かなあ。他人ではないですよね。

美樹さん:友達でもない。おいたんは元々友達だったけど、でももう「一緒に住んでる人」です。
共同スペースはあるけれど、かといってご飯を一緒に食べるわけでもない。なんかライトな関係。フルハウスの家族じゃないバージョンですね!
やっぱり隣人かな! 家族ではないけれどもはやいなくては困る人です。

「シェアメイト」以外のいい言葉を今回の取材で何か作って欲しいです。
長女が保育園で色々絵を描いてくるんです。そこにとっと、母ちゃん以外に、おいたんやもーりーやいぐ(以前のシェアメイト)がいる。
「いっぱいの存在」が周りにいるのは分かっていて…子供にとってはどんな存在なんだろう?
今後あかねがティーンエイジャーになった時に聞いてみたいですね。

編集部:子供には家賃分担とかも関係ないですもんね。どういう存在なんでしょうね。

もーりーさんと……

おいたんさん(右)。 娘さんたちの目に彼らはどう映っているのか

―――「シェアメイト」以外の言葉かあ…。
ここまで聞いてきて「経験共有体」というのが思い浮かびました。結婚、妊娠、出産…人生の大きなイベントも、日々の些細なできごとも時間も共有する、緩い境界線の他人。
ぜひお子さんが大きくなった時に、取り巻く大人たちのことを何だと思っていたのか聞いていただきたいなあ。興味があります。

他人の子どもとのルームシェア暮らしって、やろうと思えばできるものなんですね。登場人物のみなさんのお人柄がその実現の背景として大きいとは感じましたが、暮らし方の多様性を見せつけられて、衝撃でした。
読者のみなさん(特に独身の方)は「他の家の子ども」と一緒に住むことができますか? 結構なハードルの高さだと思っていましたが、「面白い」とすっと受け入れることのできる人もいるなんて! 器が大きい。大きすぎて、しかも本人たちはそれを当たり前だと思っていて、ま、まぶしい!

後半は「いい隣人」が家族を超える瞬間があることを知り、編集部一同さらに「素敵!」「羨ましい!」の嵐でした。私も猛烈にこんな暮らしをしたくなりましたよ。
お楽しみに…!―――

後編に続く→

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