世界が注目する教育哲学「レッジョ・エミリア・アプローチ」の読み語りイベントが世田谷にやってくる!(3/3)
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まずはちょっと写真をご覧ください。
パフォーマンスをおこなっている3人。
それを真剣に見る人たち。
そこへ「時間でーす!」の声。
見ていた受講生たちが拍手。
講師「はーい、ありがとうございました。みなさんどうでした? 自分たちのグループと何が違いました? 全体的なうねりはどうでした? 強さとか速さとか。どんなことを感じました?
じゃあ3人それぞれ他の受講生たちの中に散って入って、小さい輪で色々意見を言ってあげてください。はい、『いただきタイム』でーす!」
パフォーマンスをおこなった人が他の受講生の輪の中へ。3分間のディスカッション「ご意見いただきタイム」が始まる。
受講生A「言葉からじゃなくて風の音から物語が始まるのが、何も知らない人には場面がイメージできてとてもいいなと思いました。」
受講生B「もっとよっちゃんは踊れるはずだよ!」一同笑い
受講生C「よっちゃんの風の音はとても素敵だったんだけど、静かで透明感のある吹雪に聞こえてきて、嵐だったらもっと『ガタガタ、ぶわーん!』みたいな風の波なのかなって。」
講師「はーいお疲れさまでした!とてもいいディスカッションでした! みなさんの目や耳で感じたことを言葉にしてくれると、それが財産になります。演じた人に言うだけではなく、ブーメランです。自分に返ってくる。
他の人がやっていていいなと思ったことは自分のところでも反映できるかもしれないし、気になったポイントはもしかしたら自分たちも他から気にされるかもしれない。
『循環させる』『人に与えたものを自分でも受け取って活用してみる』ということを提案してみます!」
―――うわー面白い!
これ、何のやりとりだと思いますか?
8月5日におこなわれるレッジョナラ・インスパイア―ドイベント「アルテナラ」の講座の一幕なんです。8月の本番に向けて、5月から全10回の講座が開かれています。
世田谷だけでなく他県からも集まった、多様で熱い22人の受講生たち。彼らは読み語りをベースに『子どもを地域みんなで育てること』『おとなの居場所を創ること』『街が好きになるコミュニティを創ること』、この3つをつくりあげていこうと奮闘しています。
それをまとめるのが講師の山田宏平さん。演劇のみならず教育、地域、異文化理解などの分野で、表現する力やコミュニケーション力向上のワークショップを数多く手掛けています。
山田さんにアルテナラの持つ可能性、イベントとしての楽しみ方を伺いました。
目次
山田 宏平(やまだ こうへい)/演劇家・俳優
1969年東京都生まれ。19歳で演劇を始める。シェイクスピアから平田オリザ、インプロ(即興演劇)、ミュージカル、音楽家との朗読劇など様々なジャンルの作品に出演。ヨーロッパ三大演劇祭のひとつであるシビウ演劇祭をはじめ多くの国際演劇祭に参加、ドイツ、ルーマニア、スイスなどヨーロッパでの上演や海外演出家作品への出演も多い。 20代の後半から演劇ワークショップリーダーとして研鑽を重ねた経験を用いて、保育園から大学まで多くの教育機関で演劇やコミュニケーションのワークショップを手掛ける。2009年からASIASの活動に参加。「セリフを言う、聴く」だけではなく、「受け取る」「反応する」を大事にしたワークショップを行なっている。2007年から洗足学園音楽大学ミュージカルコース講師兼アカデミックアドバイザー。
語りによって「物語」と「場所」がリンクして地域に愛着がわく
編集部:今回アルテナラのプロジェクトに参加したきっかけは何ですか?
山田さん:語りのイベントを竹丸さんが日本でもやりたいと声をかけてくださったのが最初だったんです。
2/24のアルテナラキックオフイベントは出られなかったし現地の見学も出来なかったんですけれど、講座のプログラムデザインの講師をしてくれませんかと言われたのがきっかけです。
編集部:竹丸さんから現地の様子を見させてもらってどうでしたか?
山田さん:いやー、いいなあ!と思いました。普通に街の中で人々が喋っていて、次にその場所を訪れた時に場所と物語が繋がって面白いんじゃないかなと思いました。
編集部:ピンときましたか?
山田さん:ピンときましたね! 語りは好きで、でも開かれた場所でもやりたいなと思っていて。これまで自分もカフェなどでやってきましたが、さらに先の可能性を感じました。
街なかで喋るって面白いですよね。
さらに言うと、その土地の人がやれたらいいなと思いました。
この場所にこういう住人たちがいて、お話をしていたんだなって思うと、ちょっとその場所に愛情を感じるようになりますよね。
編集部:確かに、住人が「語り」をやるようになったら、やるほうももちろんですが、聞くほうも物語性とその場所がリンクして、その地域への愛着が深まりますよね。
大事なのは「正しい読み聞かせの手法」ではなく「その人だからこその面白さ」
編集部:今回日本で初めてレッジョナラ・インスパイア―ドの講師としてやられているわけですが、手応えはありますか?
山田さん:8月5日にやるパフォーマンスがいけるかどうかについては、今日ようやく手応えがありました。アルテナラというまだ未開のものを、どれだけ受講生と分かち合っているかなというところは、まだ探っている状態です。
読み聞かせとか素話っていわれるものは今までもあって、在るべき「型」っていうのがあった。それはそれで美しさがあるんですが、今回は「その人が喋ると面白い」っていう「その人らしさ」が出る機会なので、その面白さを試行錯誤しながら作っています。
今日講座を見ていただいておわかりのように、僕が何か指導するというより、受講者同士で意見をシェアし合いながら作っていくところを大事にしているんですよ。
でもまだ聞いていると「正しい読み聞かせとは」みたいな意見も出ていて、そうじゃなくて「この人の喋りをどうすると面白くなるか」を考えて欲しい。この考えを分かち合えるまでにはもう少し時間がかかるかなと思います。
編集部:その人だからこそ面白い、というのは、いろんな土地で一般住民がやるようになってきたら本当にその部分が魅力になってきますよね。
今回は皆さんで作り上げて行くということですが、一人一人が演者であり演出家であります。どのような方向に導いて行こうとしていますか。
山田さん:見方を合わせると会話が成立しやすい。その点は少しずつやってますね。例えば今日はみんなでしりとりをやったりしたんですけれど、そのしりとりを終わらせないようにするためには、どういう工夫をすればいいのか。リズムを揃えるとか、連想ゲームにするとか。やりながら色々なルールを自分たちで作っていく。
同じように何かを見るときも見る基準のようなものを提案して行こうかなと。例えば演出家になったり演者になったり観客になったりした時、同じことをもとに会話していく。その提案だけとにかく一番大事にしています。
編集部:受講生の皆さんを見ていてどうですか。
山田さん:すごいですよこの人たち! それぞれの立場、職業の人たちが集まっているんですけれど、それを横に置いて一つの目標に向かって夢中になっている。「ああ、素敵な大人たちだなあ!」って思います。 だって難しいじゃないですか、自分の価値観と違うものに出会った時、それから逃げることもせず、かといって押し付けもしない。それができる人たち、恐ろしいです(笑)
編集部:素晴らしい受講生たちですね! ぜひそれぞれの土地にアルテナラの大切にするものを持ち帰ってほしいですね。
水族館みたいなカラフルで多様なイベントにしたい
編集部:山田さんにとってどういうイベントにしたいですか
山田さん:カラフルになるといいな。
「なんか変わった人がいる」「すごい素敵な人がいる」「慣れないけれど一生懸命やってる人がいる」という、いろんな人がいる場になったらすごく面白いんじゃないかなと思います。正しい言い方なのかわからないんですけれど、「人間の水族館」みたいな。
多様な人がいて、一色にならない。そうなりそうな予感がしますね
今日講座をやっていても、僕からはこうすべきだっていうことは一回も言っていなくて、作品をお渡しして皆がそれぞれ考えてやっている。それはすごくいいですね。パワフルなパフォーマンスにもなると思います。
編集部:山田さんがこうすべきと言わず、受講生から出てくる意見をまず受け入れるというスタイルはアルテナラだからこそですか?
山田さん:自分の演劇体験とか普段の演劇の作り方にも通じるところがあります。
自分のアイデアに優劣をつけないようにするとか、他人のやってみたものに一度乗ってみる。例えば「イエス、アンド」という言葉で言ったりしますが。そういうことを少しずつこの講座で彼らに渡していきたい。
編集部:「イエス、アンド」というのは演劇だけではなく日常生活でも大切なことだと思います。否定せず他のものを一度受け入れる精神。コミュニケーションの基本の気がします。
見る人と演じる人の垣根がない場をつくりたい!
編集部:プロじゃない人たちの意見をまとめあげて8月5日に作品として出さなきゃいけないじゃないですか、そこまでの道のりってどうですか? いけそうですか?
山田さん:いやー怖いですよ(笑)
手本とかスタイルを提示する方法だと絶対間に合わないと思っています。
でも僕が山田宏平歴何十年であるように、受講生がそれぞれの人生のプロなので、そのプロたちがやるっていうんだからいけると思います!
同じブレーメンの音楽隊でも、小さなお子さんを持つお母さんがこうやりたいというのと、幼稚園の先生から見てここはこうやりたいなっていうのが混ざっていく。
そんな風にして「二人で」「四人で」お話をしていけば面白く行けるはず。
まとめのところだけは心配しているので、あえてまとめさせないようにしようかなと思っています。時間で切るっていうのもありかなって。
落語とかそうじゃないですか、続きはまたって。なんかああいうのもありかなって今日の講座を見ていて思いました。
編集部:あえてまとめない面白さ、楽しみです!
完成されたプロフェッショナルの演劇を見に来るのではなく、自分たちに近い人たちがやっている何かを見に来る。
山田さん:そうなってくれたら理想的ですよね。お子さんが見に来て、話の途中でも「お母さん、あの話こうなんじゃない」と広がっていくようになると、アルテナラは成功かなと思います
編集部:演劇マニアが「この表現はどうのこうの」とかいうのとは全く違いますね。
劇場に行ったり、学校に呼ばれたかっちりした演劇を鑑賞する、というのともかなり風合いが違います。
山田さん:きちんとした演劇、あれらは現実と違う世界を見せて価値観を広げるっていう作業ですよね。良い意味でショックを与える方法。
でも僕らも最近は小学校の学芸会の作品を作るお手伝いをしたりとか、一緒に作ることが増えたんです。その時はどちらかというと今回のものに近くて、「人間を楽しむ」っていうもの。
編集部:人間を楽しむ!素敵! レッジョナラは「近所の知っている人」が出ているっていう感じなんですよね?
山田さん:竹丸さんに聞くと、プロの人も入っているらしいです。でも竹丸さんの夢だと、プロじゃない人が多い仕組みを作りたい、作って欲しいみたい(笑)
見る人と演じる人が一緒に場を作るっていうことなんだろうな
ヨーロッパの演劇とかでは増えてきているようです。例えばシェイクスピアなんだけれど、普段着で、お客さんに話しかけながらやったり。今までは「お前は私の娘の心を奪いおったー!」(笑)みたいに演じるところを、お客さんに「ひどいでしょ?こいつ」みたいに話しかけちゃう。お客さんとの垣根がなくなっている。
編集部:演劇体験・アート体験もマゼコゼになってきているんですね! 境界のないそういう体験は、脳や体に焼き付きますね。子どもも大人もどんどんそういう体験をしてほしい、すべきだと感じます。
「あの瞬間好きだったな」という一個を見つけにきてほしい!
編集部:このイベントに、どういう人達に何を期待してきて欲しいですか?
山田さん:それぞれの人の中で「あそこの瞬間好きだったな」というのを見つけていってほしいです。
「あの時のちょっとクスって微笑んだ感じ、個人的にすごく好きなんだよね」とか、「私あのひゃーって落ちてく声が好きだった」とか「カラスが転がり込んでくるの面白かった」とか、その一個を見つけに来てほしい。
帰り道で真似とかしてくれたら最高ですね(笑)
さっき水族館の話をしましたが、もちろん学術的にすごく知っていて見に来る人もいるでしょうけれど、理由はわからないけれど「ただなんか好き」とかあるじゃないですか。クリオネやクラゲがなんとなく好きとか。あの感覚でアートを楽しんで欲しいんですよね。
編集部:なるほど。別に知らなくてもいいんですね。「なんか好きだから見たい」。それが水族館で許されるのになんでアートでは許されないのか。
山田さん:そうなんです。「きちんと知っていなければいけない・評価しなければいけない」ではない。自由なんです。そういうのを知ってもらうにはとても良い仕組みだし、それができそうなメンバーが集まったと思います。
いずれものづくり学校だけじゃなくていろんな場所で出来る気がするし、ぜひやってほしいです!
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全3回にわたるアルテナラプロジェクトのインタビュー、いかがでしたか。これでばっちり予習もできたことですし、8月5日のアルテナラは全身全霊で楽しめることうけあい。
子育て・教育・街づくり・アート・ワークショップ・物語・絵本…どれか一つでも響く単語がある人は、ぜひぜひものづくり学校へ行きましょう!
ひとつでも好きな一瞬をみつけるとともに、教育や地域のありかたについて思いを馳せてみませんか?
(文:野本 紗紀恵)
アルテナラ
http://artenarra.jp/
artenarra 世田谷(アルテナラせたがや)8月5日開催!
きいて、みて、参加して!
おはなしの世界を楽しむ読みがたりフェスティバルを開催します。
子どもも、おとなも、おはなしの世界にみんなで飛びこもう。
IID 世田谷ものづくり学校のスタジオ、プレゼンテーションルーム、エントランスに
8つのパフォーマンスと3つのアートワークショップがやってくるよ。
日時:2018年8月5日(日) 10~17時
場所:世田谷ものづくり学校
参加無料、入退場自由、事前申込み制
peatixにてお申込みください。
https://artenarra-setagaya-2018.peatix.com/view