飛脚マークの“働き方改革”は予想以上にすごかった!
佐川急便株式会社編 【第2回(全2回)】
【我が社のmaze道〜佐川急便株式会社編〜】
第1回:宅配便に新しい価値をプラスする存在、“佐川女子”の素顔
第2回: 飛脚マークの“働き方改革”は予想以上にすごかった!
街で見かける佐川女子が気になって現場に直撃した前回。そのそのすがすがしい仕事っぷりに感動すら覚えてしまったmaze研の私たちは、「彼女たちがこんなにイキイキと働ける環境を作っているのはどんな人たちなんだろう?」とさらなる興味がわいてきました。 そこで今回は、人事、経営企画などスタッフ部門を有する佐川急便東京本社にもお邪魔することに!
目次
女性活躍推進のカナメ「わくわくウィメンズプロジェクト」
佐川急便を含むすべての事業会社を対象とした女性活躍推進の取り組み「わくわくウィメンズプロジェクト」を推進しているSGホールディンググループ(SGH)。今回お話を伺った佐川急便株式会社人事部の畔柳恵美(くろやなぎ・めぐみ)さんは、その働き方改革を推し進めるために、佐川急便内で設立された「さがわワクワク委員会」を牽引しているリーダーのひとりです。
「わくわくウィメンズプロジェクト」が発足したのは2011年。以来、行ってきたのは
・育児休暇を子どもが3歳になるまで取得可能に
・介護休暇を通算180日までと従来よりほぼ倍増
・フリーダイヤルデスクを設置して職場の問題をなんでも相談できる体制を確立
・妊娠したら1時間以内の時差通勤、時短勤務を可能に
・育休復帰後も子どもの病気やけがで年10日まで休める看護休暇の導入
・婦人科検診費用の補助制度「ウィメンズ検診」導入
・ワーキングマザー、プレワーキングマザー対象の座談会の開催(パートナー込み)
・外部講師を招いた「女性キャリア支援フォーラム」の開催
そして、「さがわワクワク委員会」でも、
・乳がん検診
・ピンクリボン運動
・女性従業員向け社内報『WAKUWAKU』の発行
・情報共有ツール「さがわワクワク掲示板」の運用 などなど……
すごいですよね、この内容。業界のみならず、企業全般で見てもかなりきめ細やかで充実した取り組みだと思います。それに呼応するように、佐川さん初の女性営業所長が誕生したり、セールスドライバー®の3割、4割が女性の営業所でも短時間労働が可能になる集配スキームが構築されたりと、新しいトピックやイノベーションが続々登場。
さらに、女性が主体的に参画し、業務改善や業績アップなどで会社に貢献した取り組みを表彰する制度「わくわくアワード」を2014年にスタートさせたところ、初年度だけで76組ものエントリーがあったとか。この数、すべて自薦だそうで、会社が本気を見せたことによって佐川女子たちも仕事の面白さに目覚めていった過程がうかがえます。
全国行脚で情報収集。佐川さんはプロジェクトも現場主義!
では、その名の通り、女性がわくわくしながら働ける風土作りに取り組むプロジェクトで、畔柳さんはどのように旗振りをなさっているのでしょう。
畔柳:「私が現在のポジションについたのは昨年のことで、プロジェクトがだいぶ軌道に乗った後。以前の当社は本当に男性主体の会社で、それこそ『女性用のトイレがないよね』というところからスタートしていますから、前任のみなさんはここまで必死で頑張ってくれたと思っています」
阿部:「その甲斐あって、世の中的に“佐川女子”がだいぶ浸透してきましたね」
畔柳:「男性従業員も『こんな会社になるなんて思わなかった』と。職場が明るくなっただけじゃなく、お互いに思いやりをもって話ができる環境になってきたと、女性従業員が増えたメリットを喜んでくれる人が増えました」
阿部:「女性が働きやすい職場にすることが、男性の働きやすさにもつながったということですね。現在のプロジェクトはどういった段階なのですか」
畔柳:「そろそろ、女性だけじゃなく“みんなのわくわく”にしたいと思っています。そのために今、私たちがやっているのは拠点を回って様子を聞くこと。良い取り組みをしているところはその内容を聞き、逆に課題を抱えている拠点には私たちが吸い上げた良い事例を紹介しています」
阿部:「拠点周りって全国ですか」
畔柳:「日々、全国ですねぇ(笑)」
若手のメンバーには「それって電話で良くないですか?」と言われたこともあるそう。でも、「プロジェクトが働く環境作りを本気で応援したいと思っている気持ちは、電話では伝わらない」が信条の畔柳さんは、自分の足で情報を集めることにこだわります。
「実際、そんなメンバーも、何度か出張に行くことで様子が変わってくるんです。だんだん目を輝かせて『あそこの所長がこんな発案をしてこう変わったんですよ!』『やっぱり行かないとわからないものですね!』なんて報告するようになる(笑)。こういった経験則が次の担当者また次の担当者と受け継がれて行くことで、プロジェクトの存在意義も広く認められるようになると思っています」
そんな風に語る表情は、お母さんそのもの。実生活でも男の子を育て上げたお母さんである畔柳さんは、メンバーに対してもプロジェクトに対しても、母のような“育てる”まなざしを向けているようです。
「会社の看板を背負っている女性がアルバイトなんておかしい!」
とはいえ畔柳さん、実はご自宅は愛知県。現在の東京本社へは単身赴任での異動を決断したそう。
「子どもが小さければ躊躇したかもしれないけれど、『結婚するかも』なんて話が出る年齢ですからね(笑)。そういう意味ではタイミングが良かった。夫と息子の二人暮らし、案外家がキレイなんですよ。女手がなければないで、男同士でちゃんとやるものなんだなぁって」
畔柳さんが佐川さんで働き始めたのは、お子さんが幼稚園年中さんのとき。アルバイト職で入社し、お客様からの電話対応を担当していましたが、社員登用される女性が少ないことに疑問を抱き「私も電話応対スキルを磨いてコンクールで優勝しますから、そのときは社員にしてください!」と部長に直談判した武勇伝を持っています。
「男性社員たちはポカンとしていましたね(笑)。女性が正社員になりたがっているなんて、思ってもみなかったみたいなんです。でも、私たちだって会社の看板を背負って電話に出ている、経理の子だって会社のお金を責任持って管理している。『そういう人たちが、女性というだけでアルバイトなのはおかしいです!』って」
その熱意に押されたのか、当時の部長はすぐに本社に掛け合ってくれたとか。佐川さんの女性登用の歴史は20年近く前のこんなシーンの積み重ねから始まっているんですね。
活躍する女性のカゲに理解ある男性上司あり!
「40歳を目前に係長に昇進したときもそうでしたが、振り返ってみると、転機が訪れたときはいつも男性上司が背中を押してくれました。他の女性管理職を見ても思いますが、女性が活躍する影には理解ある男性上司の存在が必ずと言っていいほどありますね」
女性が長く働き続けることが一般的ではなかった時代、道なき道を切り拓いてきた“サバイバー”と呼ばれる世代の畔柳さん。育児と仕事の両立に悩んだり、将来の働き方に不安を抱いている女性たちを全力でサポートしてあげたいと願う母心は、そんなご自身の経験から来ているのかもしれません。
ちなみにその電話応対コンクール、惜しくも優勝は逃したそうですが、審査員をしていたマナー講師に「電話応対だって、極めれば女性が独り立ちするための武器になる。女性が羽ばたく方法はいくらでもあるんだから自信を持ちなさい」と勇気づけられ、さらに仕事に前向きになったのだとか。
「出来ることがまだまだあると思いますね。男性の意識改革だけじゃなく、女性側の仕事観も変えていく必要がある。私のように単身赴任することもそうですし、昇進に対して抱いているハードルも取り除いていかなければなりません。ここからだと思うんですよ」
従業員の家族もファンになってくれる会社にしたい
そして、最終的に目指すのは、「ファンがたくさんいる佐川急便株式会社」。
「佐川女子が登場してから、彼女たちを『かっこいい』と思って入ってくる女性も出てきています。それに、従業員には家族がいます。パートナーや親御さんが、『あの会社はいいよね』とポジティブなイメージを持ってくれたら、従業員だって誇りを持って働けるでしょう?」
そのためにも、女性もイキイキと働ける会社なんだ、いろいろな働き方が出来て時間に制約のある立場になっても大丈夫な会社なんだという認識をもっともっと広めたいきたい。
「50歳ぐらいまで働けたら十分かなと思っていたんですけど」と笑う畔柳さんですが、勇退のタイミングはどうやらまだ先のようです。
昨年からはメンタリングプログラム(※)も取り入れ、「育てる風土」の醸成にも着手。新しい取り組みに次々とチャレンジする佐川さんが今後どのように変化していくのか、そして畔柳さんが目指す組織の姿にはいつ到達するのか、とてもとても興味があります。
期待を込めて、maze研はこれからも佐川急便株式会社さんの改革を追っていきたいと思います。
(取材・文:阿部志穂)
※メンタリングプログラム:先輩社員や上司がメンター役となって、後輩社員あるいは部下の相談に乗ったり指導したりする制度。メンターとは助言を与え、教え導いてくれる人のこと。
佐川急便株式会社<SGホールディングスグループ>