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【後編】時代が変わり、すり鉢も変わった。それでも変わらないもの。

平原 礼奈 │ 2016.04.21
今回のヒット商品は「すり鉢」。前編では、愛知県常滑市で活動するすり鉢職人 杉江さんのすり鉢づくりへの思いと挑戦についてうかがいました。後編は、杉江さんとご家族のプライベートについて、そして次につなぐ「ヒット商品」についてうかがいます。 >前編を読む

夫婦でひとつのものづくり

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多種多様なモチーフが素敵!
ひらばる スカイプでお話をうかがっていますが、さきほどから画面横にちらちらと人影が。 杉江 妻の知里が絵付けをしてますね 笑 ひらばる わぁ~、お世話になってます。遅い時間にぺちゃくちゃすみません! 知里さん こんばんは~。 ひらばる いま22時前ですが、いつもこんな時間まで制作されているんですか? 知里さん ちょうど窯出しの時期なので、今日はたまたまです。 ひらばる 一度の窯出しで200個くらい、絵付けのすり鉢を焼くと聞きましたが、知里さんお一人で描いているのでしょうか。 杉江 そう、本当は自分も絵付けしていたんですけど、なぜか売れなかった 笑 ひらばる あらー。知里さんはもともと絵やデザインのお仕事をされていたのでしょうか? 知里さん まったくしていませんでしたね。前職は小中学校で音楽を教えていました。花を描くというようなことはできないけれど、モチーフを考えるのが好きで、それをひたすら描いています。 ひらばる 知里さんの中で次々にモチーフが沸き起こっていく瑞々しさがすり鉢にも投影されて、お客さまに響くのでしょうね。ご夫婦でひとつのすり鉢を作り続けるための、秘訣はなんでしょう? 知里さん 夫は成型、私は絵付けの完全分業だからかな。それに、私は家事の空いた時間を使って自宅で作業していて、夫は工房なので、四六時中一緒でないのも良いのかもしれません。お昼は家に帰ってきて、一緒にご飯を食べています。 ひらばる 一緒と別々の時間の塩梅が絶妙なのですね! 知里さん そうかもしれませんね 笑

すり鉢は食を楽しむ道具

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杉江さんはヤマセ製陶所の4代目。3代目のお父様と5代目(予定?)の息子さんによる、共同すり鉢作業(写真提供:ヤマセ製陶所)
ひらばる ふだん、ご自宅でもすり鉢を使っていますか? 杉江 もちろん! 小さいのはいつも食卓に置いてあって、ゴマをすっておひたしにかけたり。大きいのはとろろをすったりしていますよ。 ひらばる 「すり鉢のある風景」、いいですね。 杉江 その言葉、なんかいいね 笑 ひらばる 意外な使い方もしていそうですが。 杉江 この前、味噌をすったらすごく美味しかったんですよ。マイルドになるっていうか。 ひらばる ジェラート的な。空気を含ませるとおいしくなる感じでしょうか。 杉江 たぶんね。少しの味噌でも味がしっかりして減塩にもなるっていうのをネットで見て「おぉ」って。 ひらばる 前回取材した正田醤油の吉川さんも、すり鉢でニンニクをするとよりクリーミーになって美味しいと力説されていました。 杉江 シンプルな道具だからこそ、いろんな用途があると思います。離乳食はもちろん、お年寄りの介護食用にも。 ひらばる ただ食べやすく潰しただけの介護食は味気ないですが、すり鉢と一緒に食卓に出てくると、見た目も華やぐし、食べる楽しみにもつながりそうですね。 杉江 すり鉢が食べる楽しみや心の癒しにつながるのはすごく嬉しいです。 ひらばる 離乳食から介護職まで。人生を通じてすり鉢大活躍です!

集中とゆるみが肝

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窯詰め完了でガッツポーズの杉江さん(写真提供:ヤマセ製陶所)
ひらばる 最後に、プライベートの趣味や活動が、すり鉢づくりに活かされたというエピソードがありましたらお聞かせください。 杉江 趣味といえば、ダーツかな。ダーツって、投げるときにいかに力を抜くかが大切なんですけど、無駄な力を一切省くという作業は、すり鉢づくりでもすごく大事です。そういう意味では、つながっているかもしれませんね。 ひらばる ベースの反復練習も朝までしていましたが。 杉江 反復オタクですから 笑。ダーツもベースも、すり鉢の櫛目をつけるのには良いトレーニングになったんじゃないかな。同じ作業をずっと続けていると、どうしても力が入ってくるんですけど、いかにリセットしてゆるめるかという。 ひらばる 職人さんって、精神統一して張りつめた中でものづくりをしているイメージがあるのですが、ゆるむことが重要なんでしょうか? 杉江 すっごく大事ですね。集中しながら力を抜くんですよ、呼吸を止めずに。たまに一瞬で一日が終わっちゃうときがあるんですけど、そのときは集中しながらうまく力が 抜けているときなんです。 ひらばる もはや禅とか瞑想とか、精神的な世界に通ずる感じが……。 杉江 うん、それはあると思います!
(スカイプインタビュー終了)

(編集後記) 職人さんというと、格好良い生き方・働き方の代表のようにうたわれる昨今。でも、彼らの日常は、真剣勝負のものづくりを繰り返すことと、時代とともに変わる環境に翻弄されながらも、作り続ける決意を選ぶことの連続なのだなぁと感じました。杉江さんや先代のみなさんの魂が込もったすり鉢、大切に使います! (取材・文:ひらばる れな)

すり鉢職人 杉江匡さんの、私が愛する一品:亀の子束子

IMG_9644 “亀の子束子”を重宝しています。自然の素材同士、すり鉢との相性が良いんです。細かい櫛目までキレイに洗えますよ。釉がけしたあとの道具の手入れも、手を洗う時にも束子を使っています。爪の間まで素早く綺麗になって便利! プライベートでは、野菜やダッチオーブンを洗うときにも活躍してくれます。私のヒット商品として“亀の子束子”を推薦します(杉江さん)
次回は、“亀の子束子”の「作り手」さんにバトンをつなぎます! <商品DATA> すり鉢屋(ヤマセ製陶所) すり鉢屋Facebookページ
研究員プロフィール:平原 礼奈

mazecoze研究所代表
手話通訳士
「ダイバーシティから生まれる価値」をテーマに企画立案からプロジェクト運営、ファシリテーション、コーディネートまで行う。
人材教育の会社で障害者雇用促進、ユニバーサルデザインなどの研修企画・講師・書籍編集に携わった後に独立。現在多様性×芸術文化・食・情報・人材開発・テクノロジーなど様々なプロジェクトに参画&推進中。

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